転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第七十三話

ファルムス王国の空は清々しい青さを取り戻していた。街並みには活気が戻り、人々の表情もどこか晴れやかだ。その変化を作り出したのは、紛れもなくあの少女──聖魔樹帝(ルフレス)、リンだった。

 

「救世主様……!」

 

広場に立つリンを見て、一人の少年が小声でつぶやく。それを聞きつけた周囲の人々が次々に集まり、感謝と敬意の眼差しを送る。

 

「……救世主なんて柄じゃないんだけどなぁ」

 

苦笑するリンの顔には、どこか照れ臭そうな色が浮かんでいる。その頃、ファルムス国王もまた新たな道を模索し始めていた。これまでの行いを悔い、リンの庇護を得るための方策を練る日々だ。

 

ファルムスは変わりつつある。その姿を見届けたリンは、ひとまず安心し、次の行動へ移ることにした。

 

 

 

 

 

「さて、次はサリオンかな……」

 

ラミリスと共に迷宮に戻ってきたリンは、天魔大戦終結についてサリオンへ説明する段取りを考える。

 

今更ながら、アポなしでその国の統治者に会いに行くなど失礼にも程がある。ファルムスはさておき、今まで説明のために訪れた国で問題にならなかったことが奇跡だ。しかしサリオンは大霊樹(ドリュアス)がない土地であるため土地の強化も行なっておらず、接点はほぼ皆無だ。ミリムと分身体に天使族(エンジェル)の迎撃を任せたとは言え、それはこちらが勝手にやったことなので、これを理由に統治者に会うなど出来るはずもない。

 

「ねぇ、ラミリスさん。サリオンにも説明しに行きたいんだけど、どうやってアポ取ればいいと思う?」

 

迷宮内でくつろぐラミリスに向けて呟く。

リンの率直な疑問に、ラミリスはけらけらと笑った。

 

「あそこの天帝エルメシアなら知ってるから、すぐ会わせてあげるわ!」

「え、知り合いなの?」

「まあね!」

 

得意げに胸を張るラミリスを前に、リンは少し不安そうな顔をする。

 

「でも、それって勝手に押しかける感じじゃ……失礼にならない?」

「大丈夫だって! アタシに任せなさい!」

 

その勢いに押され、リンはため息をつきながらもラミリスの言葉を信じることにした。

 

 

 

 

 

風を切る感覚が心地いい。リンは風精(アネモネ)を発動し、ラミリスを伴ってサリオンを目指していた。サリオンはリンが住まう大霊樹(ドリュアス)の近くに位置する国であり、距離的にはそれほど離れていない。

 

「……そういえば、サリオンってどんな国なんだろう?」

 

以前千視ノ神(プロフェティア)から、神樹の内部に街が作られているとは聞いたが、いまいちイメージがわかない。

ラミリスに尋ねようとした矢先、広がる光景に目を奪われた。

 

「これが……神樹……?」

 

リンの目の前に広がっていたのは、荘厳な巨木。その根元から枝葉の先端に至るまで、すべてが神々しい光を放っている。その内部には無数の建物が整然と並び、多くの生命の気配が感じられた。

 

「すごい……大霊樹(ドリュアス)とは全然違う……」

 

感嘆するリンの横で、ラミリスは得意げに言った。

 

「でしょ! ここがサリオンの誇る神樹の街よ!」

 

リンは圧倒されつつも、ラミリスに手を引かれるまま街の奥へと進んでいった。

 

ラミリスの案内で、人々の目を避けながら進むこと数分。やがてリンは一室へと通された。そこには、風精人(ハイエルフ)の女性が立っていた。流れるような銀髪に、冷静な光を宿した翠眼。

 

「……聖魔樹帝(ルフレス)、リンと申します。あなたがエルメシアさんですか?」

 

緊張しながら問いかけるリン。女性はリンをじっと見つめ、やがてふっと微笑んだ。

 

「ええ、私がエルメシア・エル・リュ・サリオンよ。で、ラミリス、急に来たのは何の用かしら?」

「リンの話を聞いてあげて! すっごく大事なことなの!」

 

ラミリスが言葉を続ける。エルメシアは一瞬考え込んだ後、リンに視線を移した。

 

「ふむ……。それで、あなたが話したいこととは?」

「天魔大戦は、すでに終結しました」

 

リンはエルメシアの前に立ち、できるだけ落ち着いた声で語り始めた。その声には、緊張を押し殺した毅然とした響きが宿っている。

 

「天魔大戦を引き起こしていたのは東の帝国、その皇帝ルドラです。私は彼と直接会い、話をしました。そして、彼に協力する代わりに、二度と天魔大戦を起こさないよう約束させました」

 

エルメシアはその言葉を静かに聞きながら、鋭い眼差しでリンの動きや表情を観察している。その圧倒的な存在感に呑まれそうになりながらも、リンは話を続けた。

 

「帝国には私が直接目を光らせ、約束を守らせます。ですから、サリオンから帝国に手出しをすることは、どうか控えてください」

 

一呼吸置き、リンはさらに言葉を重ねる。

 

「もし、サリオンが帝国に攻め込むようなことがあれば、戦争を止めるために、私は両国を制圧することになります。ほかの国々にもこの件を説明し、受け入れてもらっています」

 

そう語るリンの瞳は真っ直ぐで、揺るぎない決意が込められていた。しかし、その瞳を受けたエルメシアは、何の感情も読み取れない表情を浮かべている。

 

「……あなたが言うことは分かった。でもね、リンさん」

 

彼女の声は柔らかく、それでいて芯がある。エルメシアは椅子から立ち上がり、ゆっくりとリンに歩み寄った。

 

「私は、初めて会ったあなたの話をすべて信じるほど、お人好しではないの」

 

リンは息を呑んだ。確かに、言葉だけで相手に信頼を得るのは難しい。相手はサリオンの統治者であり、これまで幾多の危機を乗り越えてきた知恵者だ。

 

「帝国に攻め込むつもりはないけれど、あなたを信じてすべてを委ねるにはリスクが大きいわ」

 

その冷静な判断に、リンは焦ることなく答えた。

 

「ならば……どうすればいいですか?」

「定期的に連絡を寄越してちょうだい。それで帝国の動向を完全に知らせろとは言わないけれど、最低限の報告は必要よ」

「分かりました」

 

リンはすぐに頷き、さらに言葉を続けた。

 

「ただし、連絡内容や頻度についてはこちらに任せてください。サリオンに帝国の動向を知らせることは、向こうとの関係にヒビを入れる可能性があります。もし、ルドラ側からこの件について聞かれた場合、隠すことはしませんが、どう対応するかはこちらの判断にお任せいただきたいです」

 

エルメシアはその提案に眉を寄せ、しばらくの間、考え込むような仕草を見せた。そして、やがて小さく笑みを浮かべた。

 

「なるほど……。まあまあ賢い子なのね。いいわ、あなたの条件を受け入れましょう」

 

その答えに、リンは内心ホッと胸を撫で下ろした。

 

エルメシアとの交渉がまとまったところで、リンはふと思いついた。

大霊樹(ドリュアス)を介して監視ができるならば、会話も出来るのではなかろうか。

リンはさっそく千視ノ神(プロフェティア)の思考加速を使いながらエリオンに確認する。

 

(エリオン、大霊樹(ドリュアス)を介して会話ってできる?)

『可能だ。相手が大霊樹(ドリュアス)に触れて思念を込めれば、リン様に伝わる。リン様の場合は対象の大霊樹(ドリュアス)を意識して思念を飛ばせば、声となって相手に届けられる』

(ふむふむ。ちなみに、大霊樹(ドリュアス)って新しく植えられるかな?サリオンって大霊樹(ドリュアス)ないし……)

『リン様の魔素を結晶化し、それ核として土に埋め、万象再生(ばんしょうさいせい)を使用することである程度の大きさまで成長する。以後は各地の大霊樹(ドリュアス)と同様にリン様の魔素で成長を続けるが、大霊樹(ドリュアス)への万象再生(ばんしょうさいせい)の使用は通常よりも多くの魔素を消費する。無理はするな』

(……なるほど。一本くらいなら大丈夫かな)

 

リンは思考加速を切り、エルメシアに提案する。

 

「連絡方法についてですが……私の力で、新たに大霊樹(ドリュアス)を植えさせてもらえないでしょうか?」

大霊樹(ドリュアス)?」

「はい。それを介して連絡を取ることができます。大霊樹(ドリュアス)同士は繋がっていて、それを使って会話が可能なんです。エルメシアさんが私に連絡したいときは、大霊樹(ドリュアス)に触れて思念を込めれば、私に伝わります」

「面白いわね。構わないわ。どうせなら、私が使いやすい場所に植えてちょうだい」

 

エルメシアは部屋の一角を指さした。リンはその場所を確認し、頷く。

 

「では、ここに植えます」

 

リンは魔素を手のひらに集め始めた。結晶化の作業に少し手間取ったものの、やがて小さな青白い光の結晶が現れる。

 

「よし……これを土に埋めて……」

 

リンは魔素の結晶を慎重に埋め、両手を地面に当てた。そして、万象再生(ばんしょうさいせい)を発動する。

 

「っ……!」

 

魔素が一気に消費される感覚に、思わず足元がふらつく。しかし、そのとき──

 

「ほら、しっかりしなさい!」

 

ラミリスがすかさずリンの肩を支えてくれる。そのおかげで、リンはスキルの発動を続けることができた。

 

やがて、地面から力強い幹が伸び、枝葉が広がり始める。その成長スピードは驚異的で、あっという間にリンが見上げるほどの高さに達した。

 

「これが……新しい大霊樹(ドリュアス)……」

 

エルメシアは目の前の光景に目を見張り、しばらく言葉を失っていた。そして、やがて小さく微笑んだ。

 

「立派ね。これで連絡が取れるのね?」

「はい。この大霊樹(ドリュアス)を通じて、すぐにでもご連絡できます」

 

エルメシアは頷き、満足げに言った。

 

「いいわ。期待してるわよ、リンさん」

 

 

 

 

 

新たな大霊樹(ドリュアス)の完成を確認し、エルメシアとの会話も一段落したリンは、ラミリスと共にサリオンの街の外に出る。そこでようやく緊張の糸がほぐれるのを感じた。

 

「ふぅ……ラミリスさん、今日はありがとう。いなかったら絶対にここまでうまくいかなかったよ」

「当然でしょ! だってアタシはリンの親友だもん! 何でも任せておいてよ!」

 

胸を張るラミリスの言葉に、リンは自然と笑みを浮かべた。ふとした瞬間、ラミリスの左手に嵌められた魔王の指輪(デモンズリング)が淡い光を放ち始めた。

 

「えっ?」

 

リンが驚きの声を漏らすよりも早く、ラミリスがその光に気づき、指輪を見下ろす。

 

「あー、ギィからだ」

「ギィさん……?」

 

ラミリスが指輪を触れると、そこから低く響くような男性の声が流れた。

 

『ラミリス、魔王たちの宴(ワルプルギス)を開く。賛同しろ』

「えー、また? まあ別にいいけど。で、今回の議題は何?」

『天魔大戦終結に関する説明だ。それを成した張本人を当然連れて行く』

 

ギィの返答に、リンは一瞬時が止まったような感覚に襲われた。

 

「……えっ?」

「張本人って……リンのことだよね?隣で固まってるわよ」

 

ラミリスがあっさりと口にした言葉に、リンは絶望的な表情を浮かべた。ギィの声が続く。

 

『そこにいるならちょうどいい。リン、当日になったら迎えに行くからな。ドレスも用意しておく』

「ちょ、ちょっと待って! またドレス着るの? 嫌だってば!」

 

リンが慌てて声を張り上げるが、ギィは冷たく言い放った。

 

『嫌でも着てもらう。覚悟しておけ』

 

そして通信はそこで途切れた。

 

「うわあ……最悪……」

 

うなだれるリンに、ラミリスが苦笑を浮かべた。

 

「まあまあ、せっかくだから楽しくやればいいじゃん。魔王たちの宴(ワルプルギス)なんてお茶会みたいなもんだし!」

「ラミリスさん、楽しいのは魔王だけでしょ……」

 

魔王たちの宴(ワルプルギス)の参加が決まってしまい、気分が沈むリンを見かねて、ラミリスが声を掛けた。

 

「そんなに落ち込むことないって! ほら、気分転換にアタシの迷宮で遊ぼうよ!」

「……迷宮?」

「妖精たちと遊べば、元気になるってば!」

 

その提案に、リンは少し考えた後、頷いた。

 

「……そうだね。少しでも気分を変えないとやってられないかも」

「よし決まり! じゃあ行くよー!」

 

ラミリスがリンの手を掴むよりも早く、リンがラミリスの手を握り返し、風精(アネモネ)を発動する。

 

「ちょ、ちょっとリン! 早い! 速すぎるってばー!」

 

ラミリスの悲鳴が風に乗りながら響く。あっという間に二人は迷宮の入り口へと到着した。

 

「着いた!」

「着いたじゃないよ! もうちょっと優しく運んでよー!」

 

ぷんすか怒るラミリスを見て、リンはようやく笑みを取り戻した。

 

「ごめんごめん。でも、ラミリスさんの反応が可愛くてつい」

「うぅ……全然反省してない!」

 

そんな二人のやり取りを耳にして、迷宮の中から妖精たちが次々と顔を覗かせる。

 

「ラミリス様、リン様、お帰りなさい!」

「遊ぼー!」

 

妖精たちの無邪気な声に誘われ、リンは少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。

 

「よし、今日は思いっきり遊ぶぞ!」

 

リンのその言葉に、妖精たちの歓声が響き渡る。迷宮内はすぐに笑い声と楽しげな騒ぎで溢れていった。




エルメシアは手強そう。ラミリスとエルメシアの関係は本作品では唐突に会いに行っても大丈夫なくらいの仲良しという設定でいきます。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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