転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第七十六話

大霊樹(ドリュアス)のあった地下から出ると、ヴェルグリンドが立っていた。彼女はルドラの姿を目に留めるとすぐに近づいてきて、ルドラに手を引かれた状態のリンに視線を向ける。

 

「あら、リン。来てくれたのね」

「ヴェルグリンドさん……」

 

微笑みを向けてくるヴェルグリンドに対して、リンはルドラと手を繋いでいるという状況に冷や汗をかいた。ヴェルグリンドはルドラの恋人である。恋人が他の女と手を繋いでいるなんて面白いわけがない。

リンは瞬時にルドラから手を離そうとしたが、ルドラの方が何故かしっかりとリンの手を握っているためそれは叶わなかった。焦るリンの気持ちを見抜いてか、ヴェルグリンドがクスクスと笑う。

 

「ふふっ…そのままでいいわよ、リン」

「えっ」

「あなたがルドラと仲良くしてくれたら嬉しいわ」

 

その言葉にぽかーんとするリン。ヴェルグリンドは気にすることなくルドラの隣に立ち、地下に入る前よりも顔色が良くなっている彼の姿に安心した。

 

やはりリンが何かしたのだろう。そしてそれはルドラにとって悪いことではなく、むしろルドラ自身が望んでいること。そう当たりをつけたヴェルグリンドは、リンを帝国に留まらせる――ルドラが望むならばリンが彼の傍にいるように働きかけようとひっそりと決めた。

 

 

 

 

 

リンは引き続きルドラに手を引かれたまま、宮殿内を歩いていた。ルドラを挟んで反対側にはヴェルグリンドがいて、リンは内心でカオスな状況に緊張していた。

恋人がいる男性とそのお相手の目の前で手を繋いで歩くなど、人によっては友情と浮気のボーダーラインを超える行為である。前世含めて恋愛経験のないリンであっても、気にせざるを得ない。

 

しかし二人が気にしていない以上、自分がいつまでも気にしていても体力の無駄というものだ。リンは無理やりこの件については考えないようにして、思考をこれから会わせてもらえるルドラの配下たちのことに切り替えた。

 

「ルドラ、これから会う配下ってどんな人たちなの?」

「まずは二人紹介しよう。一人は、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)の序列10位であるフェルドウェイ。もう一人は、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)の団長を務めるダムラダだ」

帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)……?」

帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)とは、余が直々に任命した精鋭部隊だ」

 

ルドラは歩みを止め、静かに説明を始めた。その声音には確固たる自信が滲んでいる。

 

帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)は、皇帝たる余の命令のもと、どのような任務でも遂行するために存在している。序列は1位から100位まであり、その全員が一騎当千の力を持つ選りすぐりの者たちだ」

「……へえ、すごい……」

 

リンは素直に感嘆したが、すぐに疑問を口にした。

 

「でも、そんなすごい人たちが100人もいるのに、なんで10位と団長だけなの?」

 

その問いに、ルドラは苦笑を漏らした。

 

「全員を一度に紹介したら、お前が混乱するだろうと思ってな。まずは重要な者から順に顔を合わせてもらうことにした」

「……なるほど」

 

リンは頷きながら、少しホッとしたような表情を浮かべた。

 

一室に案内されると、そこにはすでに一人の男性が立っていた。整った顔立ちに鋭い眼差し、気品のある佇まい——彼こそがフェルドウェイだった。

 

「フェルドウェイ、彼女がリンだ」

 

ルドラが紹介すると、フェルドウェイは一礼し、冷静な声で挨拶を交わした。

 

「私はフェルドウェイ、帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)序列10位に位置する者です」

「はじめまして、フェルドウェイさん」

 

リンは少し緊張した面持ちで頭を下げた。フェルドウェイの威圧感が、自然と彼女を萎縮させているのだろう。

 

(……この少女が聖魔樹帝(ルフレス)か)

 

フェルドウェイは表情には出さず、冷静な目でリンを観察していた。小柄で無邪気そうに見えるその姿のどこに、天魔大戦を終結させるほどの力があるのか。その答えを探るべく、鋭い思考を巡らせていた。

 

「以後、よろしくお願いします」

「こちらこそ……」

 

簡素な挨拶を交わした後、フェルドウェイは控えの位置に戻り、ルドラが次の人物を呼び込む合図を送った。

 

続いて現れたのは、がっしりとした体格の男性──ダムラダだった。精悍な顔立ちと落ち着いた雰囲気を纏う彼の姿は、一目でただ者ではないと分かるものだった。

 

「私はダムラダと申します。帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)の団長を務めています」

 

ダムラダは丁寧に頭を下げる。その落ち着いた態度に、リンも少し緊張を和らげた。

 

「はじめまして、ダムラダさん。あの……団長ってことは、騎士団全体をまとめてる人なんですよね?」

「ええ、そうです。団員たちはそれぞれ優れた能力を持つ者ばかりで、私のような者がまとめるのも骨が折れますが……」

 

そう言って微笑むダムラダの姿には、確かな実力者の風格が滲んでいた。

 

(……この人たち、やっぱり普通じゃない。強い人ばっかりだなあ……)

 

リンは二人を交互に見ながら内心でそう思っていた。

 

「これが余の信頼する配下たちだ」

 

ルドラがそう告げると、ダムラダはリンに優しい視線を向けながら言葉を続けた。

 

「リン殿。私たちはルドラ様の命令のもと行動しますが、これからはあなたとも協力していくことになるでしょう。何か困ったことがあれば、どうぞ遠慮なくおっしゃってください」

「え……あ、ありがとうございます」

 

思わぬ気遣いに、リンは少し戸惑いながらも頭を下げた。その横でフェルドウェイは無表情を保ちながらも、内心では異なる思いを抱いていた。

 

(……なるほど。この少女がルドラ様の力になるとすれば、厄介な存在であることは間違いない)

 

しかし表には出さず、静かに様子を伺い続けるフェルドウェイ。その視線の先で、リンは緊張しながらも二人と挨拶を交わし、なんとか初対面を終えたのだった。

 

 

 

 

 

フェルドウェイとダムラダとの対面を終えた後も、リンはルドラに手を引かれたまま広大な宮殿内を歩いていた。並ぶヴェルグリンドもその様子に何の違和感も覚えていないようで、自然な振る舞いのルドラはリンの手を握り続けている。

 

(いつまで手を繋いでるんだろう……でも、まあ拒否する理由もないし……いいか)

 

少し前なら気にしていたはずの状況も、リンにとっては今や些細な問題だった。そんな折、リンはふと思い出す。

 

(そうだ、『並列存在』のことを聞くの忘れてた)

 

歩きながら、リンは口を開いた。

 

「ヴェルグリンドさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何かしら?」

 

ヴェルグリンドが足を止め、リンを振り返る。ルドラも一緒に立ち止まり、リンに視線を向けた。

 

「ヴェルグリンドさんって、『並列存在』ってスキルを持ってたりする?」

 

その言葉にヴェルグリンドは目を細め、しばらく考え込むようにしてから首を横に振った。

 

「いいえ、聞いたこともないわ。どういうスキルなの?」

「並列存在っていうのは、本体となり得る別身体を生み出せるスキルなんだ。一体でも残ってたらそれを本体にして復活できるし、別身体は本体と同じスペックだから、私が覚えられたら帝国への協力と私が住む大霊樹(ドリュアス)の管理とかを並行できるから、覚えたくて」

 

リンの説明を聞いたヴェルグリンドは、少し驚いた様子を見せた。

 

「それほど便利なスキルなら、私も使えればいいのだけれど……」

 

ルドラが小さく唸りながら、横から口を挟む。

 

「ヴェルグリンドが持っていないなら、少なくとも竜種が生得的に得るスキルではなさそうだな」

「そうだね……どうしようかな」

 

一瞬困惑するリンだったが、すぐに頭の中で千視ノ神(プロフェティア)に問いかけた。

 

(ねえ、私が『並列存在』を手に入れる方法って他にある?)

『他の手段を検討します。…………リン様の所持スキル「分身体」を進化させることで、同等の機能を実現可能です。ただし、膨大な魔素が必要です。絶えず魔素の消費がされているリン様の体質を考慮しますと、この方法は危険を伴うため、他者に魔素を譲渡してもらうことを提案いたします』

(膨大な魔素……か)

 

リンは内心で溜息をつきながら、目の前のヴェルグリンドを見上げた。

 

「ヴェルグリンドさん、お願いがあるんだけど……私に魔素を分けてくれない?」

「魔素を?」

「うん。並列存在を手に入れるために使いたくって」

 

リンは他の魔素の影響を受けやすい。それをギィに忠告されていたはずだが、リンの頭からはそのことがすっぽ抜けていた。

リンの内部で静観していたエリオンは一瞬止めようとしたが、それでリンが止まるはずもないと考えて何も言わないことにした。

 

ヴェルグリンドが眉をひそめ、隣のルドラを見やる。ルドラは笑みを浮かべながら、軽く肩をすくめた。

 

「分けてやれ。リンの成長は、帝国にとっても大きな利益になるからな」

 

その言葉を聞いたヴェルグリンドは、一つ頷いた。

 

「……わかったわ。必要なら好きなだけ持って行きなさい」

 

ヴェルグリンドは腕を伸ばし、リンの肩に軽く手を置くと、濃密な魔素がリンの中に流れ込んできた。竜種の魔素の圧倒的なエネルギーに、リンは一瞬身を震わせたが、すぐにそれを受け止めた。

 

「ありがとう! じゃあ、さっそくやってみるね!」

 

リンは目を閉じ、体内で魔素を操作しながら、千視ノ神(プロフェティア)に指示を出す。

 

(『分身体』を進化させて、『並列存在』を作り出して)

『承知しました。必要なエネルギーを消費し、進化を開始します』

 

リンの中に満ちた魔素が渦を巻き、徐々に新たな力として形を成していく。しばらくすると、頭の中に響く声が聞こえた。

 

『告。エクストラスキル「並列存在」を獲得しました』

 

千視ノ神(プロフェティア)と同じ声色であるが、これは世界の言葉だ。

目を開けたリンは、明るい笑顔を浮かべた。

 

「やった! 無事に並列存在を覚えられたよ!」

 

その報告に、ルドラは驚いた顔を見せ、ヴェルグリンドも一瞬目を見開いた。

 

「こんな短時間で……さすがというべきか」

「規格外ね」

 

ヴェルグリンドのぽつりと漏らした言葉に、リンはふと思い出した。

 

(そういえば、これルミナス様にも言われたな……。これって褒められてるんだよね?)

 

そう思うと、リンは少し嬉しそうに笑みを浮かべた。その姿を見て、ルドラは内心で小さく息を吐いた。

 

――これでリンがこれからも傍にいてくれるようになるのかもしれない。

 

そう思うと、不思議と安堵が胸に広がっていくのを感じた。

 

「でも、ヴェルグリンドさんも『並列存在』を覚えられるかもしれないよ!」

「そうね。リンがこれほどあっさり獲得できたなら、私も目指してみる価値があるわ」

 

ヴェルグリンドはリンの提案に前向きな返事を返し、何かを考え込むように目を伏せた。

 

(並列存在を覚えられたなら、もっと効率よくルドラのそばにいられるかもしれない)

 

その考えが彼女の中に浮かぶが、それ以上の感情は自覚せず、淡々とした表情を浮かべていた。

 

「ヴェルグリンドさんが並列存在を覚えたら、教えてね! 何かあったら力になるから」

 

リンの明るい声に、ヴェルグリンドは小さく微笑み、静かに頷いた。

 

この日、リンはついに「並列存在」を獲得し、新たな一歩を踏み出した。そして、ヴェルグリンドもまた、彼女の姿に新たな目標を見出すのだった。




帝国皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)についてのこの頃の構成メンバーがよくわからないですが、とりあえずダムラダとフェルドウェイは外せません。そして無事に「並列存在」をゲットしました。

20241207:ヴェルグリンドさんが「並列存在」を手に入れるのはヴェルドラが封印された後だと書籍版に書いてあったので、修正しました。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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