ギィさんの忠告が、頭から離れなかった。
確かに、あの時の私は――蔦に絡まって、情けないくらい身動きひとつ取れなかった。
「……本当に、私でいいのかな……?」
呟きながら、私は巨大な
いつもは無意識に魔素を供給しているけれど、これまで
ただ魔素を供給するだけじゃ足りない。もっとちゃんと、向き合わなきゃ。
「いや、別に義務はないけどさ……また同じことがあっても嫌だし! もしかしたら舐められてるのかもしれないし!」
よし、と私は両手を地面に置き、意識して、魔素の流れを強くする。無意識に任せるのではなく、私の意思で、私の力で、
静かに、ゆっくりと、心を込めて。
《告。
「対話?
《是。精神的強度と安定した魔素の操作が必要となります》
私は深く息を吸い込み、集中を高めた。
私は意識をさらに深く沈め、思念を
(
沈黙が落ちる。
けれど次の瞬間――
『……何を望む』
老若男女、どれとも判別できないような、深く柔らかな声が頭に響いた。
(私は、あなたに認められたい。どうすればいい?)
思いを込めて伝えると、声はゆっくりと、そして重く続いた。
『
(試す……?)
『精神、魔素、魔力――三位一体の強度を。その覚悟を示せ』
言葉と共に、世界がぐにゃりと歪んだ。
気がつけば、私は見知らぬ空間に立っていた。周囲は闇。空も地面もない。全方位が曖昧な混沌に包まれている。
「ここは……」
そして――
その闇から、何かが無数に現れ始めた。
爪、牙、鎧のような外皮を纏った影。感情のない眼差し。敵意だけを燃やして、こちらに向かってくる。
「え……何これ……!」
《解。対象は識別不能。情報は秘匿されているものと推定》
(つまり、未知ってこと……!)
『試練を始める』
覚えたての水の魔法で刃を形成し、迫り来る魔物たちを迎撃する。
次から次へと湧いてくる敵。倒しても倒しても終わらない。
でも、それでも――
「……やるしかないっ!」
私は両手を握りしめ、意識を集中させた。風の魔法で身を守り、水の刃で魔物を次々と斬り伏せていく。
空を飛ぶ以外も練習しておいてよかった。
だが、倒しても倒しても魔物は湧いてくる。試練は終わることなく続いていく。
「これ、終わりがあるのかな……」
それは、きっとこれから、
どれほどの時間が過ぎただろう。
魔素が削れ、集中も薄れていく。
けれど、それでも私は止まらなかった。
「……私は……
そう何度も呟いて、自分を奮い立たせた。
たった一歩でも前へ。たった一撃でも多く。
私は、ただ、ここで試されている。
だから――
「舐められてたまるか! ……私は……認められたいんだ……!」
その瞬間、世界が音もなく、静かに崩れた。
気がつくと、私は
『試練は、終わった。汝を
頭に響く声は、以前よりも、どこか優しげだった。
『
私は、静かに目を閉じた。
疲労はある。魔素も尽きかけている。
でも、その心は、不思議なほど静かだった。
「……ありがとう、
それだけ呟くと、私はその場にそっと身を横たえた。
これでようやく、私は本当の意味で、ここに“存在”できる気がしたのだった。
しばらく眠ったあと、私は、あることを思い出した。
「……ラミリスさんに、報告しなきゃ……!」
名付け親であり、主であり、大切な存在。
あの人には、ちゃんと伝えたい。
意識を集中して、私は彼女へと念を飛ばす。
(ラミリスさん……聞こえる?)
すると――
『おおおお!? リン!? 念話キター! アタシとの初念話ー! やったー!』
(あの……実は、報告があって)
『報告? なになに!?』
(私……
数秒の沈黙のあと――
『えっっっっっ!? はっっっっや!!??』
(えっ、早かった?)
『めちゃくちゃ早いよ!? 普通はね、何年も、十年単位でかかるんだよ! 会話できるだけでもレアなのに、試練受けてクリアとか、なんなの!? アタシのリン、凄すぎでは!?』
私は照れくさくて、ごにょごにょと口を濁してしまった。
(あの……ありがとう?)
『もーーほんと、前の
そこから始まるラミリスさんの愚痴は、長くて濃かった。
『そもそもさぁ、名付けしてあげたのに無表情だし、主従結んでも反応薄いし、試練受けるまでに百年単位だし、しかも途中で寝ようとしたりしてさぁ……!』
(ね、寝ようとした!?)
『そうなんだよ! しかも口癖が「やる気でねぇ」だよ!? 意味わかんないでしょ!?』
私は笑いをこらえながら念を返した。
(……じゃあ、私ってちゃんと……できてる?)
『できてるできてる! リンは最高だよ! アタシの誇り!』
(うん……私、これからもがんばるね)
『うんうん! アタシもちゃんと見てるから! 頼ってよね、リン!』
ふわりと心が温かくなる。
やっと認めてもらえた。
だけど、それはまだスタートライン。
私は、ここからまた一歩――いや、幹を登るように、少しずつ高く、成長していく。
ちょっぴり補足:「念話」は相手が近くにいる、相手を認識してないと行えませんが、ラミリスと主人公は名付けにより主従関係になってるので「念話」が使えるという設定にしています。