転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第七十七話

エクストラスキル『並列存在』を手に入れたリンは、さっそくその活用方法を考え始めた。頭の中で響く千視ノ神(プロフェティア)の助言が、彼女の思考を整理する。

 

『並列存在により生み出せる別身体の数は最大で10体です。ただし、10体全てを同時に運用すれば魔素が枯渇し、リン様は極度の弱体化を免れません。効率的な運用としては、3〜4体程度が最適です』

「なるほどね……。でも私の場合、世界中に魔素を流し続けてるから、2〜3体が限界ってとこかな」

 

リンは顎に手を当てて考え込む。

 

「それなら1体は大霊樹(ドリュアス)に残して樹妖精(ドライアド)の魂の成長と保護に。もう1体は修復作業で各地を回ってもらおう。本体の私は……帝国に行くべきかな?」

 

そう呟いたところで、リンの中からエリオンがため息交じりに口を挟んできた。

 

『本体が大霊樹(ドリュアス)に留まるべきだろう』

「いやいや、良い関係を築くには本体で行動しないと!」

『その“謎理論”は何なのだ……?』

 

リンの返答に呆れつつも、エリオンはリンの性格を理解していた。彼女が動き回るのは、もはや彼女自身の性質だ。そしてその無鉄砲さが、彼女の行動の原動力でもある。

 

リンはさっそく並列存在で2体の別身体を生み出した。彼女と瓜二つの姿を持つ別身体たちに、それぞれ役割を与える。

 

「1体はここ、大霊樹(ドリュアス)で待機。大霊樹(ドリュアス)の実を食べながら樹妖精(ドライアド)の魂を見守ってね」

 

もう1体は『聖域創造』を発動させた状態で各地の修復に向かわせることにする。そして、本体のリンは各地の情報を千視ノ神(プロフェティア)に共有させるよう指示した。

 

『監視体制を構築完了しました。各地の大霊樹(ドリュアス)を介した無限視界(むげんしかい)を常に発動し、異変があれば即座に報告します』

「頼りになるね、千視ノ神(プロフェティア)!」

 

そう言いながら、リンは別身体を見送る。

 

「じゃ、外回り組の私、いってらっしゃい!」

 

元気よく送り出したリンだが、ふと次の行動に悩み始めた。

 

「さて、私は何をしようかな。帝国に行ってもいいけど、頻繁に行くのも気が引けるし……。修行でもしようかな?」

 

そんなことを呟いたその時。

樹妖精(ドライアド)の魂の見守り役である別身体が「あ」と声を上げた。

 

リンが振り返ると、そこには見覚えのある姿があった。黒髪に漆黒のスーツを纏い、威圧的な雰囲気を漂わせる男——原初の黒(ノワール)

 

「あ……久しぶりだね」

 

リンは思わず声をかけた。その言葉に、原初の黒(ノワール)はじっとリンを見つめたまま、一瞬口元を緩ませた。

 

「……進化したのだな」

「うん! 聖魔樹帝(ルフレス)になったよ。大霊樹(ドリュアス)に名付けて完全に融合したから、あの運命からは解放されたの」

 

運命から解放された。その言葉を聞いて、ノワールの瞳が微かに揺れる。

 

(解放された……? いや、むしろさらに過酷な運命を背負っただけだろう)

 

そう思いながらも、それを彼女に伝えるつもりはなかった。彼女が理解していようといまいと、彼女の行動に変化はないだろうと感じていたからだ。

 

「そうだ!」

 

リンが突然手を叩き、何かを思いついたように笑みを浮かべた。

 

原初の黒(ノワール)、ちょっと修行に付き合ってくれない?」

「……修行?」

 

意外な申し出に原初の黒(ノワール)は目を瞬かせた。

 

「うん! 今特にやることないし、少しでも強くなりたくて。もしもの時は国相手に戦わなきゃいけないし……」

(国を相手取るつもりか……無鉄砲にもほどがあるな)

 

それでも、そんな彼女を面白いと思う気持ちが勝った。

 

「……いいだろう」

 

 

 

 

 

エリオンに頼んで異空間への道を開き、リンと原初の黒(ノワール)は広大な空間に立った。二人が向き合うと、リンは元気よく宣言する。

 

「いくよ!」

 

リンは風精(アネモネ)を駆使し、攻撃を繰り出す。

だが、原初の黒(ノワール)は特にスキルを使うことなく、それらを軽々といなしていく。

 

「遅い」

 

原初の黒(ノワール)が一言呟き、指先でリンの攻撃を弾き返す。たまに反撃を織り交ぜるが、リンの張った『聖域創造』の結界によって全て無効化される。が、リンの攻撃は原初の黒(ノワール)にまるで通じなかった。

 

「まだまだだな」

「むぅ……強すぎる!」

 

リンは悔しそうに叫びながらも、何度も攻撃を仕掛ける。その様子に原初の黒(ノワール)はどこか楽しそうに目を細めた。

 

しばらく続いた戦闘の最中、千視ノ神(プロフェティア)から報告が入る。

 

『リン様、魔素の残量が限界に近づいています』

(え……早すぎない?いつもの眠気も来てないのに)

『現在、世界中に魔素を流し込んでいる状態に加え、ここ大霊樹(ドリュアス)および別身体とリン様ご自身、そして個体名ルドラの魂へ展開している『聖域創造』の維持に魔素を消費し続けており、また、並列存在の使用によって約2割の魔素が消費されているため、消費量を考慮して早めにお伝えさせていただきました』

 

千視ノ神(プロフェティア)の報告に驚きつつも、リンは魔素の消費の激しさに納得した。ラミリスの言っていた通り、魔素の消費が以前の比ではない。そして機転を利かせて早めに警告してくれた千視ノ神(プロフェティア)はさすがである。

 

原初の黒(ノワール)、魔素が少なくなってきたから、修行はここで終わりにしよう!」

 

リンが宣言すると、原初の黒(ノワール)は淡々と頷いた。

 

異空間から戻ると、リンは大霊樹(ドリュアス)の実を齧って魔素の回復を図っていた。その時、原初の黒(ノワール)がじっと彼女を見つめてきた。

 

「ん? どうしたの?」

 

首を傾げるリンに、原初の黒(ノワール)はそっと手を伸ばし、彼女の手を握った。そして、じわじわと濃密な魔素が流れ込んでくる。

 

「え、魔素分けてくれるの?」

「お前に消えられては困るからな」

「ありがとう、原初の黒(ノワール)

 

魔素を分け終えると、原初の黒(ノワール)は静かに立ち上がった。

 

「私は行く。あまり無茶はするな、聖魔樹帝(ルフレス)

 

そう言い残して姿を消す原初の黒(ノワール)を見送りながら、リンは呟いた。

 

「意外と面倒見がいいんだね、原初の黒(ノワール)って……」

 

彼女の胸には、少し申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが同時に宿っていた。

 

 

 

 

 

リンが原初の黒(ノワール)を見送った後、大霊樹(ドリュアス)の実を齧りながら休息していた時だった。大霊樹(ドリュアス)の中に一人の男性──だらしない態度と半分眠たそうな顔が特徴的なディーノが、どこからともなく現れた。

 

「……よう。相変わらずここ、居心地よさそうだな」

「あ、ディーノさん。どうしたんですか?」

「いや、特に何もないけど……昼寝しにきた」

 

さらりと言い放つディーノに、リンは思わず苦笑いを浮かべた。

 

「昼寝しに……?」

「そう。なんか気が向いたんだよ。静かだし、気持ちよさそうだしな」

 

そう言ってディーノはその場に腰を下ろし、寝そべる準備を始める。リンは呆れつつも、彼ののんびりした態度が嫌いではなかった。

 

「そういえばね、さっき原初の黒(ノワール)が来たんですよ」

 

リンの言葉に、ディーノは「ん?」と首を傾げながら半身を起こした。

 

原初の黒(ノワール)って……あの原初の黒(ノワール)か?ギィと同じ原初の……」

「はい。その原初の黒(ノワール)です」

「あの原初の黒(ノワール)……?」

 

ディーノの目が見開かれる。世界に七柱しか存在しない原初の悪魔。その一柱である原初の黒(ノワール)がこの大霊樹(ドリュアス)に現れたという話に、明らかに驚いている。

 

「……マジかよ。原初の黒(ノワール)が……。変わり者って話だけど、マジで変わってんなぁ……」

 

ディーノが呆然と呟くと、リンは嬉しそうに微笑んだ。

 

原初の黒(ノワール)優しいですよ。前に励まして……あれ励ましてくれたのかな? でも私は元気出ましたし!」

 

そう言って原初の黒(ノワール)との思い出を懐かしむリン。だが、その様子を見たディーノは目を細め、信じられないという顔で首を振った。

 

「いやいや、悪魔族(デーモン)に優しいなんてないだろ。油断してるとエライ目に遭うぞ?」

「そりゃ悪魔族(デーモン)は怖いですけど、ギィさんとか原初の黒(ノワール)は優しいから大丈夫ですよ!」

 

リンの屈託のない笑顔に、ディーノは口を開けたまましばし黙り込む。そして、やがて小さく息を吐き、肩をすくめた。

 

「……その2人を優しいって言えるのお前くらいだよ」

「えー、でも優しいですよ?」

 

リンは納得がいかない様子で首を傾げるが、ディーノは呆れた表情を浮かべたまま、再び木陰に身を預けた。

 

「……やっぱ、変わってんなお前」

「そうですかねぇ?」

「そうだよ。ギィと原初の黒(ノワール)が優しいとか……頭大丈夫かってレベルだぞ」

 

ディーノの率直な言葉に、リンは眉をしかめる。

 

「だって優しいんですもん。ギィさんだって、何かと助けてくれるし、原初の黒(ノワール)だって魔素を分けてくれたんですよ?あ、ギィさんも前に魔素分けてくれました」

「……魔素?」

 

ディーノが再び起き上がり、訝しげにリンを見た。

 

「修行に付き合ってくれた後で、手を握って魔素を分けてくれたんです。助かりましたよ~。ちなみにギィさんは黄金卿(エルドラド)で私が魔素切れ起こしたときに分けてくれました」

「……マジかよ……」

 

ディーノは今度こそ本気で驚いた表情を浮かべた。

 

「変わり者ってレベルじゃねえな……。原初の黒(ノワール)が魔素を分けるなんて……。いやギィが魔素を分けたってのも信じられねえ……」

 

ディーノの呟きに、リンはニコニコと笑顔を浮かべる。

 

「ディーノさんも、原初の黒(ノワール)やギィさんみたいに魔素分けてくれます?」

「おいおい、勘弁してくれよ。俺はそんな気前よくないし、寝るために来たんだっての」

 

ディーノは手を振って拒否すると、そのまま木陰に横たわった。リンはその姿を見て小さく笑い、再び大霊樹(ドリュアス)の実を齧った。

 

「……まあ、変わってる奴がいるのも面白いけどな」

「でしょ?」

「でも、ホントお前も油断すんなよ。あの2人、いつ裏切ってもおかしくない奴らだからな」

「それでも、信じてますもん」

 

リンの言葉に、ディーノは再び呆れたように目を閉じた。

 

(まあ……こいつはこういう奴なんだろうな)

 

そんなことを思いながら、ディーノはゆっくりと眠りにつく。大霊樹(ドリュアス)の中には、相変わらず穏やかな空気が漂っていた。




久しぶりですね原初の黒(ノワール)さん。受肉されてない状態で戦えるのかは知りませんが戦えるってことにしましょう。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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