転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第八十一話

天魔大戦の影響で荒れてしまった土地を、リンの別身体は一つずつ修復していた。聖魔樹帝(ルフレス)としての力を活かし、荒廃した大地を再び生命力溢れる姿に変えていく。それはまるで奇跡のようであり、修復作業を目の当たりにした人々の間で瞬く間に噂となった。

 

「本当にありがとう……!」

「これで村の皆も助かる!」

 

感謝の言葉が絶え間なく降り注ぐ。それに応えるように、リンの別身体は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「困ったことがあれば教えてくださいね。すぐに力になりますから」

 

しかし、感謝の言葉だけでは済まないこともあった。作業中に人々が群がり、次第に修復どころではなくなってしまうこともあったのだ。

 

(やっぱり日中にやると目立つよね……)

 

そんな状況に苦笑しながら、リンの別身体は夜間に修復作業を行うことを決めた。

 

夜の帳が降りる中、リンの別身体は静かに動いていた。人々の目を避けるようにしながら、天魔大戦で荒廃した土地に生命の息吹を吹き込んでいく。その静けさは、昼間の喧騒とは対照的だった。

 

そんな折、不意に闇の中から声がした。

 

「ふむ、随分と熱心に働いておるようじゃな」

 

リンの別身体は驚いて振り返った。そこには、銀髪の美しい女性——ルミナス・バレンタインが立っていた。

 

「ルミナス様……! どうしてここに?」

「そなたが世界中を飛び回っていると聞いて、少々気になってのう。それにしても、相変わらず忙しそうじゃな」

 

ルミナスは淡々とした口調で言いながら、彼女をじっと見つめた。その瞳には、どこか優しさが宿っているように思えた。

 

「あまり無理をするでないぞ」

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。こうしてできることをしているだけですから」

 

再び作業に戻るリンの別身体を、ルミナスは少し離れた位置から見守っていた。しばらくして、彼女は小さく首を傾げる。

 

「……この気配、本体ではないな?」

 

その言葉に、リンの別身体は作業の手を止め、振り返った。

 

「ええ、『並列存在』を使っていますから」

「並列存在……?」

 

ルミナスの表情に驚きが浮かんだ。リンの別身体は続けて説明する。

 

「実は先日、スキルを進化させて『並列存在』を手に入れたんです。それで修復作業をするのと大霊樹(ドリュアス)に待機するのと、帝国で活動するのを分担しています」

 

その説明を聞いたルミナスは、目を見開いた。

 

「並列存在を……そなた、本当に規格外じゃな」

 

その言葉に、リンの別身体は少し照れくさそうに笑った。

 

ルミナスは、彼女をじっと見つめたまま、少し間を置いてから口を開いた。

 

「じゃがな、リン。『並列存在』には弱点もある」

「弱点……ですか?」

「そうじゃ。『並列存在』で生み出された別身体は、本体と魔素を共有しておる。通常、別身体が攻撃されても、消せばダメージは無かったことにできるが……そなたの場合は違う」

 

ルミナスの淡々とした説明に、リンの別身体は自然と顔を引き締めた。

 

「精神生命体は攻撃を受けると肉体的なダメージこそないが、エネルギー、つまり魔素を削られる。精神生命体にとってはエネルギーの消耗こそがダメージであり、これは別身体も同じじゃ。魔素が尽きれば、精神生命体であるそなたの存在維持にも支障が出るのじゃ」

 

その言葉に、リンの別身体は息を飲んだ。

ミリムとの修行などで確かに攻撃を受けるたびに魔素を削られていた。本体となり得る別身体も同じ弱点であることは納得がいくが、改めて説明されると、その弱点は聖魔樹帝(ルフレス)であるリンにとって致命的であることを自覚せざるを得ない。

 

「魔素を……削られる……」

「うむ。特にそなたの場合、聖魔樹帝(ルフレス)として世界中に魔素を流し込んでいる故、ただでさえ消費が激しいはずじゃ。それにスキルや魔法での消耗が重なれば……最悪、そなたは存在を維持できなくなるぞ」

 

ルミナスの声には、心配の色が滲んでいた。リンの別身体はすぐさま本体へ念話で忠告を伝え、同時に千視ノ神(プロフェティア)に魔素の残量管理をより徹底するよう指示を出した。

 

『了解しました。今後の魔素消費を厳重に監視し、報告いたします』

 

その返答に、リンの別身体は安堵の息を吐いた。そして、ルミナスに向かって頭を下げる。

 

「忠告ありがとうございます。もっと気をつけるようにしますね」

 

その姿を見て、ルミナスは少し安心したように頷いた。

 

ルミナスはふと、友人——クロエとの会話を思い出した。

 

「リンを守ってほしい」と頼まれたときの、クロエの真剣な表情。そして「帝国には近づいてほしくない」ともらした言葉。その理由は教えられなかったが、クロエがその言葉を口にしたときの憂いを帯びた様子から、帝国がリンにとって危険であることは間違いないと理解していた。

 

(じゃが……リンはすでに帝国に関わっておる)

 

ルミナスはそう考えながら目の前のリンを見つめた。

 

(ここで止めるのは簡単じゃが、それはリンの努力と信念を踏みにじることじゃ。そのようなことはしたくないのう……)

 

ルミナスは短い付き合いながらも、リンの頑固なまでの優しさを理解していた。それが彼女を時に危険にさらすとしても。

 

「……次の場所に行くのか?」

「はい。この辺りの修復は終わりましたから」

 

リンの別身体が微笑む。ルミナスはそっと微笑みを返し、彼女の後を静かに見送った。

 

(次に何をするのか……楽しみにしておるぞ)

 

ルミナスの瞳には、彼女を守りたいという決意と、リンへの信頼が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

樹界移動(じゅかいいどう)——それは、リンが持つスキルの一つであり、大霊樹(ドリュアス)を通じて空間を移動する技術だった。リンの別身体は、天魔大戦の影響で荒れた土地を修復するために、かつて訪れたジュラの大森林を目的地に設定していた。

 

転移先は、トレイニーの本体である大霊樹(ドリュアス)の幹の中。リンの別身体は、スッと幹から姿を現した。

 

「リン様……!?」

 

そこにいたトレイニーが驚いたように声を上げた。リンの別身体は申し訳なさそうに笑いながら頭を下げる。

 

「いきなり来てごめんなさい、トレイニーさん」

「いえ、とんでもございません!」

 

恐縮しきりのトレイニーに対し、リンの別身体は苦笑した。樹妖精(ドライアド)にとって樹妖精王(ドリュアス・ロード)——今は聖魔樹帝(ルフレス)となったリンは神に等しい存在だ。彼女が来訪を拒む理由などあるはずもない。

 

しかし、次の瞬間、トレイニーの顔に驚きと喜びが混じった表情が浮かんだ。

 

「リン様……その気配、まさか……進化なさったのですか?」

「うん、聖魔樹帝(ルフレス)になったんだ。完全に大霊樹(ドリュアス)と融合できたおかげだよ」

「それはなんと素晴らしい……! おめでとうございます、リン様!」

 

両手を胸の前で合わせて祝福するトレイニーの姿に、リンの別身体は少し照れながらも笑みを浮かべた。

 

「それで、ジュラの大森林は天魔大戦の被害はどうだった?」

 

リンの別身体は真剣な表情でトレイニーに尋ねた。千視ノ神(プロフェティア)無限視界(むげんしかい)を使って全体の様子は把握できていたが、実際に現場の声を聞くべきだと判断しての質問だった。

 

トレイニーは少し考えた後、静かに答えた。

 

「幸いなことに、天使族(エンジェル)による被害はございません。ただ、天魔大戦の余波で、森の中の魔素が若干乱れております」

「魔素が乱れてる……」

「はい。しかし、暴風竜ヴェルドラ様の加護と、我々樹妖精(ドライアド)の管理により、秩序は保たれております。ただ……やはり天魔大戦という大きな戦いがあれば、多少の影響が出るのも仕方ありません」

 

トレイニーの言葉を聞き、リンの別身体は静かに頷いた。

 

「わかった。じゃあ、ちょっと大霊樹(ドリュアス)に魔素を流し込むね」

「ありがとうございます! どうか、無理だけはなさらぬよう……」

 

トレイニーは深々と頭を下げた。リンの別身体は、そっと手を大霊樹(ドリュアス)の幹に当て、魔素を流し込んでいく。

 

その瞬間、大霊樹(ドリュアス)全体がほのかな光に包まれた。リンの魔素が森林全体に広がり、魔素の流れを正し、乱れを整えていく。幹を通じて自身に流れ込んでくる魔素の力強さに、トレイニーは感動すら覚えていた。

 

「これが……星霊樹(セレスティア)——いえ、聖魔樹帝(ルフレス)の力……」

 

リンの別身体は、大霊樹(ドリュアス)への魔素の流し込みを終えると、息を整えながら手を離した。

 

「ありがとうございます、リン様。本当に感謝の言葉もございません」

 

トレイニーは深々と頭を下げ、丁寧に礼を述べた。その姿に、リンの別身体は少し気恥ずかしそうに笑った。

 

「そんな大層なことしてないよ。ただ、ちょっと整えただけだし」

「いいえ! リン様ほど尊い存在はおりません。どうか、御身を大切にしてくださいますよう……」

「えっ……?」

 

真剣な表情でそう言われ、リンの別身体は戸惑った。だが、トレイニーの真摯な思いが伝わり、彼女も真面目な顔で頷いた。

 

「ありがとう、トレイニーさん。気をつけるね」

「もしもリン様が我々を頼ってくださる時があれば、何をおいてもお力添えをいたします。どうか、そのことをお忘れなく」

 

リンの別身体は一瞬だけ「そんな大袈裟な……」と思ったが、トレイニーの誠実な気持ちは嬉しく、感謝の言葉を返した。

 

「本当にありがとう。その時は、頼らせてもらうね」

 

トレイニーは微笑み、リンの別身体もにっこり笑い返した。そして、再び樹界移動(じゅかいいどう)のスキルを発動させ、別の場所へと転移していった。

 

転移の光が消え、静けさを取り戻した大霊樹(ドリュアス)の下で、トレイニーはそっと目を閉じた。自身の本体に流れ込んだ魔素の力強さを感じながら、彼女は心の中で固く誓った。

 

(いつか、リン様が私たちを頼ってくださったその時……必ずお力になってみせます)

 

トレイニーはそう心に誓い、リンが残した魔素の恩恵を胸に、再び森林の管理へと戻っていった。




並列存在の弱点については書籍版からの情報をもとに書きましたが、若干の違いはあるかもしれません。
こうして書いてみると魔素をゴリゴリ使ってるリンって本当に危なっかしいですね。
ブレーキ役として千視ノ神(プロフェティア)とエリオンがいるので今のところは大丈夫ですが、リンが突っ走っていくので書いてる側もたまに止められないことがあります。いやホントに。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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