帝国宮殿の一室。リンは
しかし、目の前に山積みなのは役割だけではない。
「……またかぁ……」
別身体からの報告を聞き、リンはぐったりとソファに倒れ込んだ。そこには「三日後に
「ドレス……またドレス……」
その一言に、全身の疲労感が押し寄せる。前回の
それだけではない。今回は天魔大戦の終結について説明するという大役まで抱えている。
「どこから話せばいいんだろう……」
リンは頭を抱えた。天魔大戦の発端から自分の行動、進化の過程、
脳内でシミュレーションを繰り返しながら、彼女は話す内容を整理していく。
「ルドラの魂の回復はさすがに話さないほうがいいよね……」
天魔大戦の終結と、その後の対応に焦点を絞るべきだと判断したリンは、最終的なスタンスを固める。
「帝国が二度と天魔大戦を起こさないよう監視する。他の国も監視して、天魔大戦が原因の争いには干渉するけど、それ以外の戦争は静観する……。うん、これでいこう」
しかし、説明内容が固まったところで、次の不安が襲ってくる。
(ラミリスさんやミリムはきっと支持してくれる。でも、ギィさんや他の魔王たちはどうかな……)
ギィには全てを話しているが、ロイにはルミナスやルイと共に事前説明を済ませた程度。ディーノには結果だけを大雑把に伝えただけだ。ダグリュールやカザリームに至っては、挨拶程度しか交流がない。
「……怖い……」
いよいよ不安が募り、リンは豪奢なソファにぐったりと寝転んだ。別身体が修復作業を進めていることを思い出し、自分をなんとか落ち着かせようとする。
別身体の働きで、天魔大戦の影響を受けた地域の修復は順調に進んでいる。この調子なら1か月足らずで完了するだろう。しかし、リンにはまだ心残りがあった。
「不毛の大地……」
かつてミリムとギィが戦ったことで荒れ果てた広大な土地。その規模と被害の深刻さから、今のリンの力では完全修復は難しい。
「
そんな思案を巡らせていたそのとき、扉がノックされた。リンが返事をすると、静かに扉が開き、現れたのは蒼髪をなびかせたヴェルグリンドだった。
「お茶でもいかがかしら?」
穏やかな微笑みを浮かべたヴェルグリンド。その後ろには、妙齢の女性がティーセットと茶菓子を乗せたワゴンを運んできていた。
(……これは、拒否権ないやつだ)
直感したリンは、ため息をつきつつもヴェルグリンドを部屋に招き入れた。
「では、失礼するわね」
ヴェルグリンドは優雅な動きでソファに腰掛けると、ティーセットからリンの分もお茶を淹れ始める。リンはその様子を眺めながら、再び迫る
「疲れているの?」
「うーん……まあ、そういうわけじゃないんだけど……」
ヴェルグリンドの問いに苦笑いを浮かべつつ、リンは天魔大戦後のことや
ヴェルグリンドはリンの顔をじっと見つめ、何かを察したように静かに微笑むと、淹れたてのお茶を手渡した。
「大変でしょうけれど、あなたならきっと大丈夫よ」
その言葉に、リンは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
「……ありがとう」
小さな声で礼を告げたリンは、お茶を一口飲み、少しだけ気持ちを落ち着ける。
卓上には香り高い紅茶と、美しい陶器の皿に並べられた焼きたてのクッキーが添えられている。
「甘いものは平気かしら?」
ヴェルグリンドが紅茶を一口飲み、お皿に並べられたクッキーを摘まみながら尋ねる。その仕草は上品そのもので、どこか愛らしさを感じさせるものだった。
「うん、好きだよ」
リンが答えると、ヴェルグリンドは摘まんでいたクッキーを持ち上げ、リンに向けて差し出した。
「はい、あーん」
「え?」
リンはきょとんと首を傾げる。ヴェルグリンドの楽しげな笑みを見て、さすがにこれは冗談だろうと思った。
「いや、あの……」
「遠慮しないでいいのよ。はい、食べて」
そう言って、ヴェルグリンドはクッキーをリンの口元に持ってくる。リンは顔を赤らめ、目を逸らしながらも結局、渋々そのクッキーをぱくりと食べた。
「どう? 美味しいかしら?」
満足そうなヴェルグリンドの問いに、リンは口の中の甘さを味わいながら小さく頷く。
「……うん、美味しい」
「ふふ、よかった」
照れくさそうにするリンを微笑ましげに眺めながら、ヴェルグリンドは優雅にもう一口紅茶を飲んだ。
「ヴェルグリンドさん、ルドラのそばにいなくていいの?」
クッキーを飲み込んだ後、リンが思いついたように尋ねると、ヴェルグリンドは穏やかに微笑んだ。
「ルドラのそばにはいたいけれど、あなたと話すことも重要だもの。ルドラのためにもね」
「……ルドラのため?」
ヴェルグリンドの言葉の真意がわからず、リンは首を傾げる。
「そうね、例えば……」
ヴェルグリンドは軽く目を伏せ、少し間を置いてから呟くように続けた。
「あなたがこの間手に入れた『並列存在』。私も持っていれば、ルドラのそばにいながらでも色んなことが出来るのでしょうね」
「色んなこと?」
その言葉に、リンは興味を引かれたように問い返す。ヴェルグリンドはくすりと笑い、「私も色々あるの」と意味深に答えた。
「ねえリン、あなたはどうやって『並列存在』を手に入れたのか、詳しく聞いてもいいかしら?」
ヴェルグリンドの質問に、リンは「詳しく……」と呟き、頬に手を当てて記憶を辿るように語り始めた。
「最初はギィさんからの命令で、『分身体』っていうスキルを覚えたんだ。けど、それじゃ限界があって……」
ヴェルグリンドは「ギィ」の名に微かに反応するが、それを表に出すことはせず、リンの話に耳を傾ける。
「分身体だと本体の能力を全部は使えないし、私がやりたかった『
「ふむ、それで?」
「それで、竜種のヴェルグリンドさんなら使えるかもって思ったんだけど……結局、使えないことがわかって……」
リンは申し訳なさそうに言いながらも、「でも、それなら!」と続ける。
「他の方法でやるしかないって思って、元々持ってた『分身体』を進化させる方法を思いついたんだ。それで、魔素を大量に使って進化させたの」
「魔素を大量に……?」
「うん、だからその魔素をヴェルグリンドさんに分けてもらったんだよ」
「……そういうことだったのね」
ヴェルグリンドは頷きながらも、その規格外の発想力と実行力に驚きを隠せなかった。スキルを進化させる方法を思いつき、それを実行し、さらに望む力を手に入れてしまう。その行動力に呆れつつも感服する。
「……そうなると、まずは私も『分身体』を入手すべきかしらね」
ヴェルグリンドが小さく呟くと、リンはすかさず言葉を挟んだ。
「竜種って精神生命体だよね? なら、きちんと自分をイメージできるなら『分身体』は作れるはずだよ。これ、私も教えてもらったことなんだけど」
「……イメージ、ね」
ヴェルグリンドは考え込むように目を伏せた。
「——ヴェルグリンドさん!」
突然リンが大きな声を上げる。思考を中断されたヴェルグリンドは驚いて目を瞬かせる。
「何かしら?」
「修行しよう! ヴェルグリンドさんが『分身体』とその後『並列存在』を覚えられるように!」
リンの真っ直ぐな目と明るい声。ヴェルグリンドはぽかんと口を開けたまま思考が止まった。竜種である自分に「修行しよう」などと言う者がいるとは思っていなかったのだ。
次の瞬間、ヴェルグリンドは肩を震わせ、笑い声を上げた。
「えっ、どうしたの?」
突然笑われて今度はリンがきょとんとする。
「ふふ……ごめんなさいね。世界の最上位種族に修行を提案するなんて、あなたくらいよ」
笑いながらヴェルグリンドは、どこか楽しげな目でリンを見つめる。
「あなたのおかげで、久しぶりにこんなに楽しい気分になったわ」
「そ、そう? なら良かったけど……」
戸惑いながらも微笑むリンに、ヴェルグリンドはにこやかに言った。
「ねえ、リン。今度、修行に付き合ってもらえるかしら?」
「もちろん! いつでも付き合うよ!」
リンの快諾に、ヴェルグリンドは改めてこの小さな存在の規格外さを実感し、心の底から微笑むのだった。
まずはヴェルグリンドさんと交流。
リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?
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樹界移動を進化させる
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聖域創造を進化させる
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万象再生を進化させる
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深淵樹霊を進化させる
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「神智核」一択
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魔王覇気とか
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特に思いつかない