転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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メリークリスマス!


第八十三話

リンとヴェルグリンドは向かい合って紅茶を飲みながら談笑を続けていた。リンがカップを置き、話題が一段落すると、ヴェルグリンドは少し寂しげに呟いた。

 

「この間、あなたがドレスを着るのを楽しみにしていたのよ。本当に残念だったわ……」

「いや、やっぱドレスは遠慮したいかな……」

 

リンは苦笑しながら応じる。しかし、ふと何かを思い出したように顔を曇らせた。

 

「ああでも……明日着るんだった……」

 

途端に絶望感を漂わせるリンに、ヴェルグリンドが興味深そうに身を乗り出してきた。

 

「明日? 何かあるの?」

魔王たちの宴(ワルプルギス)があるんだよ」

 

リンは溜息を吐きつつ説明を始めた。

 

「天魔大戦終結についての説明をするために私も呼ばれてるの。で、その時に何故かドレスを着なきゃいけないのね。ギィさんの命令だけど」

「……ふうん。命令って言うけど、あなたはギィに従属しているわけではないのでしょう?」

 

ヴェルグリンドが首を傾げて問うと、リンはすぐに首を振った。

 

「違うよ。ギィさんは友達」

「友達……そうなのね。なら命令なんて聞かなくていいんじゃない?」

 

ヴェルグリンドの至極当然な指摘に、リンは困ったように肩をすくめた。

 

「そうかもしれないけど、ギィさん怖いからなあ。嫌だって言っても聞いてくれないし。私の意思なんて丸無視で着飾ろうとしてくるんだよ」

「ふふ……よほどあなたがお気に入りなのね。彼がそこまで目をかけるなんて」

 

ヴェルグリンドがくすくすと笑い、冗談めかして言うと、リンは苦笑を浮かべた。

 

「そうなのかなあ……。って、ヴェルグリンドさんもギィさん知ってるんだね。ルドラの友達だから?」

 

ヴェルグリンドは頷き、昔を懐かしむように言葉を続けた。

 

「そうね。存在自体は知っていたのだけれど、きちんと関わったのはルドラがギィの住む白氷宮に攻め込んだ時かしら」

「何それ聞きたい!」

 

リンが身を乗り出し、目を輝かせる。

ヴェルグリンドはくすりと笑い、「いいわ、話してあげる」と答えた。

 

「あれは、数万年以上も前のこと……」

 

ヴェルグリンドは思い出すようにゆっくりと語り出した。

 

当時、勇者ルドラはルシア、そしてヴェルグリンドを連れて、世界を巡っていた。彼の目的は一つ、世界の安定と平和のため、あらゆる脅威を排除することだった。そしてその標的の一つが、当時魔王として君臨していたギィ・クリムゾン——いや、当時はまだ「ギィ」としか名乗っていなかった。

 

「ギィの白氷宮にたどり着いた時、私たちは準備万端だったわ。ルドラは絶対にギィを倒すつもりでいたし、私もそれをサポートするつもりでいたのだけれど……」

 

ヴェルグリンドはそこで苦笑した。

 

「何がどうしてこうなったのか、今でも少し不思議なのよね……」

「どういうこと?」

 

リンが首を傾げると、ヴェルグリンドはくすくすと笑いながら続けた。

 

「まず、戦いが始まったのはいいのだけれど……途中でルドラが唐突にギィの名前を考えるって言い出したの」

「……名前を?」

 

リンは驚きつつも先を促すように頷く。

 

「ええ。『ギィ』という名前では、ギィを倒しても恰好が付かないって言ってね。それで、私とルシアとも相談して、ギィに『クリムゾン』という名を与えたのよ。結果としてそれが今の『ギィ・クリムゾン』に繋がっているわけだけれど……」

「でも、それって……!」

 

リンが何かを言いかけるのを遮るように、ヴェルグリンドは頷いた。

 

「そう、魔物に名付けるのは禁忌。なのにルドラは相手が魔王だから大丈夫だと、自分勝手に判断して……結果として、意識を失ったわ」

「ええええっ!」

 

リンが思わず声を上げる。ヴェルグリンドは苦笑を浮かべた。

 

「魔素ではなく神聖力を大きく消耗して、危うく命を落としかけたわ。私とルシアで懸命に回復させたけれど……あの時は本当に呆れてしまったわね」

 

その後、ルドラが回復してから戦いは再開された。ギィとルドラは互いに一歩も引かず、一進一退の攻防を繰り広げる。しかし、その激しい戦いの中、次第に互いを認め合うようになっていった。

 

「結局、ルドラは直接対決を避ける形で、ギィにゲームを持ちかけたの」

「ゲーム?」

「そう。どちらの勢力が世界を支配するかで勝負しよう、と。全ては彼の友であり師であった私の兄、星王竜ヴェルダナーヴァを安心させるためにね」

 

ギィはその提案を受け入れ、ここから二人は友人となった。

 

「それからは……まあ、いろいろあったけれど、二人の間には奇妙な信頼関係が築かれたわ」

 

ヴェルグリンドは微笑みながら話を締めくくった。

ヴェルグリンドの話を聞き終えたリンは、目を輝かせていた。

 

「ルドラ、すごい人なんだね……でもちょっとおバカ?」

「……否定はしないわ」

 

ヴェルグリンドが苦笑すると、リンは声を上げて笑った。その無邪気な笑顔を見て、ヴェルグリンドもまた微笑んだ。

 

「でも、あなたも似たところがあるのよね」

「えっ、私も?」

「ええ。自分の信じた道を突き進むところとか、周りを振り回すところとか」

「それって褒めてる……?」

 

リンが眉を寄せて尋ねると、ヴェルグリンドはくすりと笑った。

 

「さあ、どうかしらね」

 

そのやり取りに笑い声が響く。そして、部屋の中は穏やかな空気に包まれていた。

 

 

 

 

 

リンとヴェルグリンドは、和やかな空気の中で紅茶を飲みながら話を続けていた。ふと、ヴェルグリンドがリンをじっと見つめながら問いかける。

 

「リン、ルドラの理想は知ってる?」

 

唐突な質問に、リンは一瞬戸惑ったものの、頷いてみせた。

 

「うん。世界を統一して、皆が笑顔で安心して暮らせる理想的な世界を築くことだよね」

 

ヴェルグリンドは微笑みながら同意する。

 

「そうよ。その通り」

「素敵な理想だと思うよ。でも……」

 

リンは考え込むように少し視線を彷徨わせた。

 

「実現は難しいだろうなとも思う」

「どうして?」

「幸せとか不幸せって、その人自身の心の問題だったりするからさ。たとえ世界を統一したとしても、絶対にどこかで綻びが出る。誰かが不満を抱えたり、犠牲が出たりするのは避けられないと思う」

 

リンはそう言いながら微笑みを浮かべる。

 

「それでも、同じ思いを抱いている人たちと手を取り合っていけば、理想に近づくことはできるんじゃないかな」

 

ヴェルグリンドはその言葉に目を細める。

 

「ルドラ一人で背負うことじゃない。きっと、多くの人が同じ理想を描いているはずだから、そういう人たちと力を合わせれば道は開けると思う」

 

そう語るリンの姿を、ヴェルグリンドは柔らかい表情で見つめていた。やがてリンが少し肩をすくめる。

 

「でも、ルドラはそうやって人と協力するっていうより、一人で抱え込むタイプに見えるんだよね。それがちょっと心配かな」

 

ヴェルグリンドは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ねえリン、ルドラが心配なら、ずっと一緒にいればいいわ」

 

その一言に、リンは勢いよく椅子から身を乗り出した。

 

「はあっ!?」

 

ヴェルグリンドは涼しげな笑顔のまま、まるで当然のことのように言い放つ。

 

「あなたがルドラのそばにいて、彼の魂を回復してくれるなら、私もルドラも安心できるもの。ルドラも喜ぶわよ?」

「いやいや、ずっと一緒にいるのは無理だよ!」

 

リンは慌てて手を振る。

 

「魂の回復はできるだけやるけど、さすがにそれは無理!」

 

ヴェルグリンドは怪訝そうに首を傾げた。

 

「どうして? 『並列存在』を使えるなら、ずっと一緒にいられるでしょう?」

 

そう言いながら、ヴェルグリンドはぐいぐいと話を進める。

 

「私もいずれは『並列存在』を手に入れて、常にルドラのそばにいるつもりだけれど、あなたもやればいいと思うの」

「いやー……さすがに恋人のいる人のそばにずっといるのは良くないよ……。気まずいし」

 

リンが何とか言い訳を絞り出すと、ヴェルグリンドは目を丸くしてから、楽しげに笑った。

 

「あら、何も気にすることないわよ。私もルドラも気にしないし、むしろあなたが一緒にいてくれれば嬉しいもの」

 

そう言いながらヴェルグリンドはリンの手を軽く取った。その動作に、リンはたじろぎながら視線を逸らす。

 

「そこは気にしようよ……。なんかもう二股推してるみたいだよ、ヴェルグリンドさん……」

 

小声で呟いたリンの言葉に、ヴェルグリンドは首を傾げる。

 

「二股……つまりリンもルドラを……?」

「違うから!」

 

リンは即座に否定し、全力で手を振った。だが、ヴェルグリンドはリンの手をさらにしっかりと握りしめ、真剣な表情を浮かべる。

 

「ルドラが愛されることに私は何の不満もないわ。あなたがルドラを愛するならば止めないし、ルドラがあなたを望んだときはもちろん私もあなたを歓迎するわよ」

「待った待った! ルドラを愛してるとか言ってないから!」

 

真っ赤になりながら否定するリンの姿に、ヴェルグリンドは微笑みながらさらに詰め寄る。

 

「素直になっていいのよ。ルドラは頼りがいがあるし、素敵な人よ?」

(……誰かヴェルグリンドさん止めてぇぇぇ!)

 

内心で叫びながらも、リンは全力で否定を繰り返し続けた。

 

ようやくヴェルグリンドが引き下がる気配を見せたのは、しばらく経ってからだった。ヴェルグリンドは肩をすくめながら笑みを浮かべる。

 

「……まあ、今はいいわ。いずれはずっとそばにいて欲しいけれど」

「……勘弁してよ……」

 

ぐったりと椅子に沈み込むリンの姿を見て、ヴェルグリンドは楽しげにくすくすと笑った。リンは気を取り直すように息を吐きながら、慌てて話題を変えようと考えを巡らせた。

 

(もうこの話題は二度とごめんだ……!)

 

しかし、ヴェルグリンドの明るい笑顔を見て、リンも微かに微笑む。それだけ彼女がルドラを想っていることが伝わってきたのも確かだった。




書きたかったの…ヴェルグリンドさんがルドラを想うあまりリンをルドラのそばにおこうとぐいぐいくるシーン…。嫉妬より「ルドラのため」という想いがくるのがうちのヴェルグリンドさん。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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