転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第八十五話

朝日が大霊樹(ドリュアス)の幹を照らし、光が葉を通して幻想的な影を地面に映し出していた。その美しい光景を一瞥しながら、リンは大霊樹(ドリュアス)の根元でヴェルグリンドとルドラと共にギィの迎えを待っていた。

 

「皇帝が国を空けていいの?」

 

リンが心配そうにルドラを見上げて問いかけると、彼は淡々と首を振った。

 

「問題ない。必要があればすぐ戻れるよう手は打ってある」

 

その言葉に、ヴェルグリンドが微笑を浮かべる。

 

「ルドラは時々お忍びで街の様子を見に行ったりするのよ。案外、宮殿を抜け出すのが好きなの」

(自由人かよ……)

 

リンは内心でツッコミを入れながら、まあ自分の目で確認するのは必要だよねと納得した様子で頷く。

 

しかし、ルドラとギィが直接顔を合わせることについては、リンの中にどうしても一抹の不安が残った。

 

(いきなりガチバトルに発展したらどうしよう……)

 

ギィとルドラは「ゲーム」という形で世界の覇権を巡って争っている。一応は敵対関係にあるはずだが、直接戦闘を避けるルールがある以上、大丈夫だろうとリンは自分を安心させる。

 

「ねえリン、この大霊樹(ドリュアス)の中にも今度入ってみてもいいかしら?」

 

ヴェルグリンドが上を見上げながら問いかけてきた。

 

「もちろんいいよ!」

 

リンは驚きながらも即答する。ヴェルグリンドは満足そうに微笑んだ。

その会話に続いて、ルドラが思い出したように口を開く。

 

「そういえば、各地の大霊樹(ドリュアス)の大元であるこの大霊樹(ドリュアス)は、世界の理から外れた部分があるらしいな」

「ギィさんもそんなこと言ってたなあ」

 

リンは思い出しながら頷く。

 

「見た目より中はすごく広いし、確かに不思議な存在かも」

 

ルドラは少し考え込むように目を細めた。

 

「“不思議な存在”か……お前はこの大霊樹(ドリュアス)を一つの生命体として見ているのだな」

「え?だって生きてるでしょ?喋るし。まあ今は大霊樹(ドリュアス)の中にあった意思は私と融合してるから、これは抜け殻みたいなものだけど、生きてる気配はするよ」

 

その答えにルドラは感慨深げに頷く。この大霊樹(ドリュアス)を生命体として認識する者はほとんどいない。

星霊樹(セレスティア)の力の名残であり、樹妖精王(ドリュアス・ロード)にとっては過酷な運命の象徴でもある大霊樹(ドリュアス)と意思の疎通が可能なのは樹妖精王(ドリュアス・ロード)——今で言う聖魔樹帝(ルフレス)のリンのみだ。

大霊樹(ドリュアス)は自然を守るために存在するものの一つでしかなく、それを「道具」と捉え、利用する者は多い。しかしリンは大霊樹(ドリュアス)を一つの命ある存在として扱い、心を通わせ、だからこそ融合に至ったのだろう。

 

「……面白いものだな」

 

ルドラは小さく呟いた。

 

「うん?」

「いや、なんでもない」

 

そのとき、空気が一変した。前回の魔王たちの宴(ワルプルギス)のときと同じように、荘厳な扉が現れる。空間そのものが重みを増したような感覚に、リンは一気に緊張を走らせた。

 

「これはギィの……」

 

ルドラが扉を見上げながら呟き、ヴェルグリンドも少し懐かしげな表情を浮かべている。

 

扉が静かに開き、そこから現れたのは深紅の髪を靡かせたギィ・クリムゾンだった。鋭い目つきで辺りを見回し、最初にリンに視線を止める。そして、その後ろに立つルドラとヴェルグリンドを見て、口元に愉快そうな笑みを浮かべた。

 

「……マジで来やがったのか」

 

その声に、ルドラが微かに笑いながら答える。

 

「ヴェルグリンドに誘われたからな。邪魔なら帰るが」

 

ギィは肩をすくめて、冗談めかした口調で言い放った。

 

「別にかまわねえよ。妙な真似をしやがったら放り出すけどな」

 

そう言いながらギィはリンの手を取る。

 

「行くぞ、リン」

「う、うん」

 

緊張した声で答えるリンを引き連れ、ギィは颯爽と扉をくぐる。その後、ルドラとヴェルグリンドもそれに続いていった。

 

扉が閉じ、空間が静寂を取り戻す中、大霊樹(ドリュアス)の周囲にはリンたちの気配だけが消えていった。

 

 

 

 

 

荘厳な扉をくぐったリンたちは、白氷宮の中でも特に豪華な一室に通された。天井の高い広間には、豪華な装飾が施された家具が並び、純白のカーテンが風に揺れている。すでに待機していたヴェルザード、ミザリー、レインの三人が一行を出迎えた。

 

最初に動いたのはヴェルザードだった。彼女は静かにリンに歩み寄ると、柔らかな手でリンの手を取り、そっと握った。

 

「いらっしゃい、リン。待っていたわ」

 

優美な笑顔がその美しい顔に浮かぶ。

リンは少し戸惑いながらも微笑み返す。

 

「こんにちは、ヴェルザードさん」

 

その挨拶に、ヴェルザードはクスリと笑うと、柔らかく首を振った。

 

「呼び捨てでいいのよ?なんなら、姉様でも」

「えっ……姉様は……」

 

リンはぎょっとして、言葉を詰まらせる。もごもごと口ごもるリンに、後ろからヴェルグリンドの朗らかな声が飛んできた。

 

「いいわね。それなら私もグリンド姉様と呼ばれたいわ」

「ええっ!?」

 

リンは振り返りながら、目を丸くした。ヴェルグリンドは微笑みを浮かべながら、リンに一歩近づき、顔を少し寄せてきた。

 

「だって、あなたと仲良くなりたいもの。ほら、呼んでみて?」

「いや、あの……」

 

リンは吃りながら、微妙に後ずさる。それでもヴェルグリンドはぐいぐいと距離を詰めてくる。

 

そんな二人の様子を冷ややかに見つめていたヴェルザードが、視線をヴェルグリンドに向けた。

 

「……久しぶりね、ヴェルグリンドちゃん。あなたがリンと仲良くしたいだなんて、何を企んでいるのかしら?」

 

その冷たい微笑みを受けて、ヴェルグリンドは穏やかに微笑み返す。

 

「企むだなんて人聞きが悪いわよ、お姉様。リンと仲良くしてはいけないの?」

 

ヴェルザードは静かに肩をすくめると、冷笑を浮かべた。

 

「だってあなた、ルドラ以外に興味ないでしょう?」

 

ヴェルグリンドは表情を崩さないまま、柔らかく答える。

 

「リンは可愛い子だもの。一緒に楽しく過ごしたいだけよ」

「ふうん、珍しいこともあるものね」

 

ヴェルザードは冷たく言い放ったが、ヴェルグリンドは意に介さない様子でリンに向き直る。

 

「リン、私のことはグリンド姉様と呼んでね」

 

にっこりと微笑みかけるヴェルグリンドに、リンは困惑を隠せない。

 

(えっ、この話まだ続くの……?)

 

リンは竜種の距離感が独特すぎて、正直どうすればいいのかわからなくなっていた。しかし、本人が呼んでほしいなら別にいいかと、心の中で折り合いをつける。

 

「……じゃあ、グリンド姉様」

 

小さな声で呟いたリンに、ヴェルグリンドは満足そうに笑った。その瞬間、ヴェルザードがじっとリンを見つめ、手をぎゅっと握りしめてくる。

 

「ねえリン、私は?」

「えっ……」

 

困惑するリン。しかし逃げ場がないことを悟り、観念したように呟いた。

 

「……ヴェルザード姉様」

 

ヴェルザードの顔に、満足げな笑みが広がる。

 

「これからはそう呼んでちょうだいね」

(なんか妙なことになったな……)

 

リンはそう思いながらも頷く。その背後ではヴェルグリンドの視線が刺さるように感じられるが、リンは怖くて振り返れない。

 

ギィが呆れたようにため息をつき、ぼそりと漏らす。

 

「……何やってんだか」

 

ルドラはそんな二人を見て苦笑した。ヴェルグリンドがリンの信頼を得るために「グリンド姉様」などと呼ばせるとは思わず、内心で彼女らしい策だと感心していた。

 

一旦その場が落ち着くかと思いきや、ミザリーとレインが突然リンの両脇に回り込む。

 

「さあ、リン。準備の時間よ」

「今日は特別な日だからね」

「え、えええ!?」

 

リンが驚く間もなく、二人はリンを別室へと連行する。

 

「待って待って、まだ心の準備が……!」

 

必死に抵抗するリンの悲鳴のような声が広間に響く。

 

それを見たヴェルザードとヴェルグリンドも、揃ってミザリーとレインに続くように部屋へ向かう。

 

「リンのドレス、楽しみね」

「どんなふうに着飾るか、相談しなきゃ」

 

リンは内心で「誰か助けてええええ!」と叫びながらも、完全に四人に包囲されてしまった。

 

ギィはそんな光景を見つめながら、苦笑いを浮かべて呟く。

 

「……ホント、あいつは愛されてるな」

 

そして、白氷宮の一室から、リンの遠慮がちな抵抗と、女性陣の楽しげな笑い声が混じった喧騒が続いていった。




うっかり予約じゃなくて即時投稿してしまった。危ない危ない。
さて、ギィさんとルドラ、竜種姉妹にミザリーとレインというカオスなお時間がちょっと続きます。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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