転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

9 / 97
第九話

大霊樹(ドリュアス)の柔らかな根の上にごろりと横になって、私はただぼーっと天井の葉脈を見つめていた。光がほんのり差し込んで、空気は静かでぬるくて、時間の流れがとろけていくような感覚。

 

「……だらだら最高……」

 

声に出して言ってみたら、ちょっと笑えてきた。

だけど、ふと、頭の奥でひっかかるような違和感が顔を出す。

 

「……そういえば、試練のとき……『未来予測』使えばよかったんじゃない?」

 

私のユニークスキル、先見者(ミトオスモノ)

確か、未来予測って……高確率で次の動きを読める、はず。

あんなに魔物に囲まれて苦労して戦ったけど、未来予測しておけば、無駄な魔素の消耗もなかったかもしれない。

 

「ねえ、先見者(ミトオスモノ)。あのとき、未来予測使ってたら?」

《解。《試練は(マスター)の魔素量と魔力、精神を試す目的で与えられたものであり、未来予測の行使は試練の主旨に反します。使用していた場合、大霊樹(ドリュアス)の評価が得られなかった可能性が高いです》

「……うわ……それ、チート技使ってたら“未達成”扱いってこと……?」

 

たしかに、あの試練のキツさは今でも鮮明に思い出せる。けど、未来予測で回避してたら、その努力すらカウントされなかった可能性があるなんて……。

 

「いやぁ、ズルしなくて良かった……。ねえ、先見者(ミトオスモノ)って意外と空気読むんだね」

《評価:曖昧な概念。ですが否定はしません》

 

ちょっと照れたような、そうでないような返事にくすっと笑う。

 

「……っていうかさ、試練のときも、飛ぶ練習のときもだけど、ぶつかるたびにすっごい痛かったんだよね。私、精神生命体なのに。物理攻撃、効かないんじゃないの?」

《解。(マスター)の身体は魔素によって構成されているため、攻撃の威力による衝撃は発生することがありますが、物理的ダメージは発生しません。痛覚信号は、(マスター)の意識が構築したものです》

 

あまりにサラッとした言い回しに、しばらく口を開けたまま固まってしまった。

 

「……えー……いや、もう、私の感覚どうなってんの……?」

 

まるで全てが無駄だったかのように感じて、私は少し肩を落とした。そんなこと言われたら、今後何が本当に痛いのかわからなくなるじゃないか。

 

「……でも、まあ、そういうものなのか……」

 

自分自身のことが少しずつわかってきて、喜ばしいような、ちょっとしたショックを受けたような複雑な気分だった。

 

「はぁ……今度から、気にしないようにしようかな……」

 

私は自分に少し呆れつつも、心を切り替えることにした。

 

 

 

 

 

その後もごろごろと横になりながら、私は引き続き先見者(ミトオスモノ)に気になったことを尋ねていた。体はだらっとしているけど、頭の中では疑問が次々と浮かんでくる。

 

「この世界には色んなスキルがあるって聞いたけど、他にどんなものがあるの?」

《解。この世界に存在するスキルは多岐にわたります。ユニークスキルや究極能力(アルティメットスキル)が代表的ですが、それ以外にも攻撃系・支援系・補助系・生活系などのスキルが存在します。エクストラスキル「魔力操作」「絶対命中」などは戦闘に特化しています。生活系には「料理」「採集」「錬金」などがあります》

「錬金!? おお……ファンタジー世界って感じ! 私もいつか使えるようになるかな~。ユニークスキルとかって、誰にでも手に入るわけじゃないんだよね?」

《是。ユニークスキルは特定の個体にしか与えられず、他者が同じスキルを得ることはできません。また、究極能力(アルティメットスキル)はさらに稀少で、その能力は桁外れに強力です》

「なるほどね……」

 

そんなことを言いながら、私はいつものように大霊樹(ドリュアス)の枝に実った果実に手を伸ばす。今日のおやつタイム、スタート!

 

「いただきまーす」

 

パクリ。

 

「……あれ?」

 

もぐもぐ……。

 

「なんか酸っぱい」

 

思わず顔をしかめて、実をじっと見つめる。……色がちょっと違う。淡い緑じゃなくて、黄緑に近い感じ?

 

「……って、これ別の種類じゃん!」

 

見渡してみると、どうやら枝によって味や色が違うっぽい。今まで気づかなかったけど、大霊樹(ドリュアス)の実って、かなりバリエーションある……?

 

「へぇ……甘いのと酸っぱいの、あるんだ。これって、もしかして辛いのとか苦いのも……いや、それはちょっとイヤだな」

 

なんてブツブツ言いながら、別の実を試してみる。こっちはやさしい甘さで、ふわっと体が軽くなる。

 

「やっぱこっちの方が好みかな~。……でも、たまに酸っぱいのもアリ。気分転換になるし」

 

新しいおやつの発見に少し得意げになりながら、私はまた横になってごろごろ。

 

「見た目似てるのに、全然違う……これって、種類違うのかな?」

 

私は思わず尋ねた。

 

「ねえ、先見者(ミトオスモノ)。こういう実の種類って、調べてリスト化できたりする?」

《解。現在の演算能力では、詳細なリスト化には時間を要します。サンプル蓄積および順次解析により、将来的な分類は可能です》

「なるほど……今すぐは無理ってことね。でも、地道に集めていけば、いつか“大霊樹(ドリュアス)のおやつ図鑑”が作れるかも?」

 

ふふっと笑いながら、私は酸っぱい実をもう一口。これはこれで癖になる味だった。

 

「……いいね、味の違いを楽しむのも。ちょっとした贅沢って感じ」

 

私はそのまままた横になり、今度は別の実に手を伸ばした。甘いの、すっぱいの、いろいろあるのがなんだか楽しい。

 

「ねえ、先見者(ミトオスモノ)。今度はもっと甘いやつ、見つけようね」

《了。リスト及びマップ生成を開始します》

「マップ!それナイス!!」

 

まるで気ままな食レポのようなこの日々。でも、こうしてだらだら過ごす時間も、悪くない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。