転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第八十八話

白氷宮の応接室には、先ほどからリンの不機嫌な雰囲気が漂い続けていた。美しいドレスに包まれた彼女だったが、その険しい表情がせっかくの装いを台無しにしている。

 

「……どうにかしてリンの機嫌を直さないと、魔王たちの宴(ワルプルギス)に出る前に疲れ果ててしまいそうね」

 

ミザリーが苦い表情で隣のレインに囁くと、レインは頷きながらこっそり相談を持ちかけた。

 

「ええ……でもどうやって機嫌を直してもらおうかしら?前に似たような状況になった時は……」

「確か……そう!ギィ様の髪で遊ばせてもらったら機嫌が直ったのよ!」

 

レインの記憶にピンと来たミザリーが目を輝かせる。

 

「それだわ!リン、ギィ様の髪で遊ぶのが好きみたいだものね。でも……直接ギィ様に頼むなんて、私たちには無理よね」

「ええ、無理ね。そんなことを提案したら何されるか分からないし……」

 

2人は顔を見合わせて頭を抱えた。しばし考え込んだ後、レインが小声で呟く。

 

「リン様本人か、ギィ様と対等に話せるヴェルザード様なら……」

 

ミザリーが大きく頷き、視線をヴェルザードへ送る。リンの隣に優雅に立つ彼女にこっそり近づき、思い切って耳元で囁いた。

 

「ヴェルザード様、実はお願いがありまして……」

 

ヴェルザードが冷たい目を少し細めてミザリーを見つめる。

 

「お願い?」

「その……リンの機嫌を直すために、ギィ様の髪で遊ばせてあげるのが最善かと思いますので、ヴェルザード様からギィ様に話していただけないでしょうか……」

 

ヴェルザードは一瞬、耳を疑ったように目を見開いた。

 

「ギィの髪……?そんなことを彼が許すとは思えないけれど」

 

ミザリーは慌てて付け加えた。

 

「ですが以前、実際にそれで機嫌が直ったのです。ギィ様がそれを許されたのを確かに見ました」

 

レインも同調するように頷く。

 

「そうです!ですからきっと今回も!」

 

半信半疑ながらも、ヴェルザードは記憶の中で過去の出来事を辿った。内心、ギィが自分の髪を他人に触らせるなど想像もつかず、そんなことを許されたリンに嫉妬心がよぎる。しかし、その感情を表には出さず、冷静さを保ったまま軽く息を吐いた。

 

「……まあ、リンの機嫌が直るなら、それも一興ね」

 

ヴェルザードはギィの方を向き、静かに言った。

 

「ギィ、このままじゃリンが魔王たちの宴(ワルプルギス)に疲れた顔で出ることになるわよ。あなたの髪でも触らせてあげたら?」

 

その場の空気が一瞬凍りついた。ギィが低い声で短く返す。

 

「……は?」

 

ヴェルザードの申し出にキョトンとするリン。次の瞬間、彼女の視線が期待を込めてギィに向けられた。大きな瞳でじっと見つめられ、ギィは軽く鼻を鳴らした。

 

「相変わらずだな、お前は……」

 

ため息交じりに呟きながら、ギィはソファに深く座り直し、リンに向けて手をひらりと振る。

 

「触りたきゃ好きにしろ。仏頂面で魔王たちの宴(ワルプルギス)に出られても面白くねえからな」

 

リンの顔が一転して明るくなった。

 

「ホント!?やった!」

 

リンは素早くギィの後ろに回り込むと、彼が律儀にソファの背もたれから体を離しているのを見て嬉しそうに微笑む。そして、その美しい深紅の髪にそっと触れた。

 

「やっぱり、ギィさんの髪は最高だなぁ……触り心地が良くて、綺麗で……」

 

ミザリーとレインは、リンの機嫌が直ったことにほっと胸を撫で下ろす。一方、ヴェルザードは内心で複雑な思いを抱えながらも、冷静を装っている。

 

「まさかギィが髪を触らせるなんて……」

 

ヴェルグリンドは驚きを隠せず、小声で呟く。ルドラは信じられないものを見たような表情で、眉をひそめてギィを見つめた。

 

(ギィが……あのギィが髪を触らせているだと……?)

 

しかし、そんな周囲の反応をギィは一切気にしていない。リンが器用に櫛を使いながら髪を整えていく様子を涼しい顔で見守る。

 

「おおー、さすがギィさん似合う。やっぱりシンプルなポニーテールが一番だなぁ」

 

完成したポニーテールを見て満足げに頷くリン。ミザリーとレインも続けて声を上げた。

 

「よくお似合いです、ギィ様」

「素晴らしい髪型です!」

 

その言葉にギィは渋い顔をして返す。

 

「……似合っても嬉しかねーよ」

 

その表情を見たルドラが口元を歪めた笑みを浮かべ、揶揄うように言った。

 

「照れているのか、ギィ」

 

ギィは即座に鼻で笑い、否定する。

 

「誰が照れるかよ」

 

ヴェルザードが微笑を浮かべながら静かに言う。

 

「でも、これは新鮮ね。意外といいじゃない?」

 

ヴェルグリンドも興味深げに観察しながら頷いた。

 

「意外に似合うわね……」

 

リンは満足そうに微笑み、手を止めずに髪を梳きながら語った。

 

「やっぱりギィさんはシンプルな髪型が一番似合うかなって思ったの。前に三つ編みも試したけどね」

 

その言葉に、一同は目を丸くする。

 

「……三つ編み?」

 

ギィは思い出したように呟く。

 

「ああ、そういやそんなこともあったな」

 

それを聞いたルドラは吹き出して笑い出した。

 

「三つ編みのギィだって?くくっ……想像しただけで……ははっ!」

 

ギィは不機嫌そうにルドラを睨むが、ルドラは笑いを堪えきれず、手で口元を押さえながら肩を震わせている。

 

「笑ってんじゃねーよ」

 

ギィが低く睨むと、ルドラは片手を挙げて降参の意を示しながら言った。

 

「失礼……だが、あのギィが三つ編みとは、ふふっ……」

 

笑われるのは不愉快だったが、友人が楽しそうな表情を浮かべるのを見て、ギィも内心では悪い気はしていなかった。

 

リンはそんな周囲の反応を意に介さず、引き続きギィの髪を触りながら、その滑らかな手触りを堪能していた。

 

 

 

 

 

白氷宮の応接室。ギィの後ろに立つリンは、完成したポニーテールを崩さないように気を配りながらも、手を止めることなくその髪を弄っていた。美しく結われた髪を触りながら、楽しそうな表情を浮かべるリンに、ギィがやれやれとばかりに声をかける。

 

「で、リン。魔王たちの宴(ワルプルギス)で話す内容、ちゃんと考えたか?」

 

その言葉に、リンの手が一瞬止まる。表情が強張り、瞳が泳ぐ。

 

「……まあ、一通りは考えたよ」

 

ぎこちない返答に、ギィはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そりゃあ楽しみだ。他の魔王たちをどう説き伏せるつもりなのか、見ものだな」

「見世物扱いかよ……」

 

その不満げな態度を見て、ギィの笑みはますます深くなる。

 

リンは少しむっとした表情で意趣返しを思いついた。ギィのポニーテールを崩さないように注意しながらも、その中に細い三つ編みをいくつか作り始める。

 

「……おい、何やってんだ?」

 

ギィが不審そうに眉を上げるが、リンは楽しそうに笑うだけで手を止める気配はない。

 

「気にしないで!ポニーテールをちょっと可愛くするだけだから!」

 

数本の三つ編みが完成すると、リンは満足そうに頷きながら宣言する。

 

「これでよし!うん、可愛い!」

 

その言葉に、一同は目を見開いた。

 

「……何がかしら?」

 

まず最初に口を開いたのはヴェルザードだった。彼女はリンの隣に立つと、ギィの髪型をじっと見つめる。そして、フッと息を漏らした後、クスクスと笑い始めた。

 

「本当に、何をしているのかしら。けれど……ふふっ、確かに可愛いわね」

 

ヴェルザードの反応に興味を惹かれたヴェルグリンドも近づき、ギィの三つ編み混じりのポニーテールを眺める。

 

「あら、本当に。可愛いわ」

 

彼女は愉快そうに笑い、隣にいるルドラを手招きした。

 

「ルドラ、見てご覧なさいよ。これ、どう思う?」

 

ルドラは呼ばれるままに近づくと、ギィの髪型を一瞥し、「……ふっ」と短く笑い声を漏らした。そのまま肩を揺らし、笑いを堪えようとするが、ついに耐えきれず吹き出してしまう。

 

「はははっ!ギィ、お前がこんな髪型を……!」

 

その笑い声に、ギィが不機嫌そうに顔を顰めた。

 

「お前ら、人の後ろに群がるんじゃねーよ」

 

鬱陶しそうに手で追い払われ、ルドラたちはようやくギィの後ろから退散する。しかし、リンだけは相変わらず楽しそうに髪を弄り続けていた。

 

「……まだやんのか?」

 

ギィが呆れた声でため息を吐くと、リンは悪びれる様子もなく笑顔で答える。

 

「もうちょっとだけ!やってみたいことがあるから!」

 

リンはふとミザリーとレインにこっそり耳打ちをした。

 

「深海色の紐を用意してくれない?」

 

ミザリーとレインは一瞬目を丸くしたが、すぐに理解し、無言で頷いて立ち去る。

 

(ヴェルザード姉様、さっき少し嫉妬してたかもしれない。これで少しでも喜んでくれたらいいな)

 

戻ってきたミザリーとレインが差し出した深海色の紐を受け取ると、リンはギィの髪にその紐を編み込むように三つ編みを作り出した。深紅と深海色が絡み合うように仕上がった三つ編みを眺め、満足げに頷く

 

「うん、これも可愛い!」

 

その声に、ミザリーとレインがそっとギィの後ろを覗き込む。

 

「さすがリン、遠慮がないわね……」

「でも、これはこれで素敵……!」

 

驚きと感心の声が漏れる中、リンがヴェルザードを呼び寄せた。

 

「ヴェルザード姉様、来て来て!」

 

ヴェルザードは首を傾げながら近づき、リンに促されるままギィの髪型を見て、思わず目を瞬かせる。ギィの深紅の髪に混ざる、自身の瞳と同じ深海色の紐——その美しい組み合わせに、ヴェルザードの表情がわずかに緩む。

 

「どう?可愛い?可愛いよね?」

 

キラキラと輝く瞳で見上げてくるリンに、ヴェルザードは微笑みを浮かべた。

 

「ええ、可愛いわ。さすがリンね」

 

その言葉に、リンは誇らしげな笑顔を浮かべた。一方、ギィは疲れたように肩をすくめながら、呆れた口調で言った。

 

「……おい、もう充分だろ」

 

リンは一瞬焦ったように目を瞬かせたが、すぐに笑顔で答える。

 

「あっ、うん!ありがとうギィさん!」

「好き放題触りやがって……」

 

ギィがぼやくように呟くと、ルドラが揶揄うように笑みを浮かべた。

 

「お前がこうも振り回されてるとはな。面白いものを見せてもらった」

「うるせーよ。お前もそのうちこうなんだよ」

「ほう、それは楽しみだな」

 

皮肉げに笑いながら肩をすくめるルドラ。その横ではヴェルザードが微かに微笑みを浮かべ、ヴェルグリンドが腕を組みながら苦笑している。そして、ミザリーとレインはリンが作り上げたギィの髪型を再び眺め、感心しきった表情を見せていた。

 

「楽しかった!本当にありがとう!」

 

と、ギィに向かって屈託のない笑顔を見せるリンに、ギィはため息をつきながら、再び深くソファに腰を下ろした。

 

「まあ、機嫌が直ったならそれでいいけどな。頼むから魔王たちの宴(ワルプルギス)では、もう少し大人しくしろよ」

「分かってるよ!さすがにギィさんの髪を触りながら話はしないってば」

 

リンの茶化したような返答に、ギィは思わず吹き出しかけるが、すぐに顔を引き締めた。

 

「当たり前だ。それで魔王どもに突っ込まれるのはオレもごめんだからな」

 

リンは微笑みながら頷き、次の瞬間には深海色の紐が編み込まれた三つ編みを指で整え始める。その動作をそっと見守るヴェルザードの表情はどこか優しく、ギィの後ろで再び髪を弄り出したリンを眺める彼女の瞳には、嫉妬と満足が入り混じっていた。

 

こうして一時の喧騒はようやく静まり、白氷宮の応接室には、魔王たちの宴(ワルプルギス)への期待と少しの安堵が漂っていた。




これを書きたくて散々リンにギィさんの髪を弄らせました。正確にはリンがギィさんの髪を弄ってるところを見た各々の反応(特にルドラ)について書きたかったのです。楽しかった…。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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