白氷宮の一室。
リンは純白のドレスを身にまとい、髪を巻いてティアラを載せた姿で立っている。慣れない装いにそわそわした様子を見せながらも、ギィの髪を弄ったことで機嫌はすっかり直っていた。
「さて、そろそろ行くぞ」
ギィが立ち上がり、軽く伸びをすると、自身のポニーテールに手を伸ばした。
「この髪型、さすがに外すぞ。こんなんで
その言葉に、リンが即座に反応した。
「待った!ギィさん、そのままで行くべきだよ!」
「はあ?」
ギィが眉をひそめると、リンは胸を張って続けた。
「私だってギィさんの命令でこのドレスを着てるんだよ?それなのにギィさんだけ元に戻るなんておかしい!ギィさんもその髪型で行くのが筋だよ!」
「……何が筋だよ。オレがこんな格好で魔王どもの前に立つなんてあり得ねえだろ」
「いやいや、すっごく似合ってるし、ヴェルザード姉様もグリンド姉様も可愛いって言ってたじゃない!」
「それはオレを説得する材料にはならねえんだよ……」
ギィはため息をつきながらも、リンの必死な様子に根負けしたのか、手を髪から離した。
「……分かった。どうなっても知らねえからな」
「やった!」
リンは小さくガッツポーズをして、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
ミザリーとレインはそのやり取りを苦笑しながら見守っている。ミザリーが控えめに声をかけた。
「ギィ様、リン。そろそろ時間です」
ギィは広間の中央に佇む荘厳な扉に目を向けた。その扉は、ギィが空間移動のために作り出したものだ。冷たい空気を纏い、重厚な装飾が施されている。
「行くぞ。リン、準備はいいか?」
「うん、大丈夫……たぶん」
リンは小さく頷いたが、その声には緊張が滲んでいた。
少し離れた位置で、東の帝国に戻る準備をしていたルドラとヴェルグリンドは静かに見守っていた。
「リン、大変そうね」
ヴェルグリンドが呟くと、ルドラは微笑みながら答える。
「だが、彼女ならやり遂げるだろう。ギィが認めた存在だ」
「そうね。では、戻りましょうか」
ルドラとヴェルグリンドはリンに軽く手を振り、姿を消した。
ヴェルザードが一歩前に出て、リンに声をかけた。
「リン、しっかりね。何かあればいつでも戻ってくればいいわ」
その冷たいが優しい言葉に、リンはほっとしたように微笑む。
「うん、ありがとう!」
ヴェルザードは小さく頷くと、白氷宮に留まるべくその場に残った。
ギィが扉に手をかざすと、音もなく開かれる。
「行くぞ。後ろに隠れるなよ?」
「隠れないよ!……たぶん」
リンは軽く冗談交じりに返しながら深呼吸を一つし、ギィの後に続いて扉を潜った。
会場は広大で神秘的な空間だった。暗闇の中に浮かぶ巨大な円卓が中央に据えられ、無数の星々が天井に瞬いている。各席は魔王たちの個性を反映した装飾が施され、会場全体が荘厳な雰囲気を漂わせていた。
ギィたちは扉を通じ、一番乗りで会場に到着した。
「よし、オレたちが先だな」
ギィが満足そうに呟きながら中央の席に向かう。リンもギィの隣の席に腰を下ろしたが、ソワソワと落ち着かない様子でティアラを直しながら小声で呟いた。
「なんで私ここにいるんだろ……おかしいよ……魔王じゃないのに……」
その声にギィが呆れたようにため息をつく。
「自分で蒔いた種だろうが。今さら何言ってんだ」
「それを言わないでよ……」
リンは頭を抱えて項垂れるが、ギィはニヤリと笑いながら彼女の背を軽く叩いた。
リンがソワソワしながらギィの隣に座っていると、扉が音もなく開き、成長したラミリスが颯爽と入ってきた。
「おっ、もう来てるじゃん!ギィ、さすがね!……あ、リン!」
ラミリスの目がリンを捉えると、瞳を輝かせて駆け寄ってくる。
「ちょ、ラミリスさん!待っ——!」
リンが慌てる間もなく、ラミリスは勢いよく抱きついた。
「リン、めっちゃ綺麗じゃん!そのドレスすっごく似合ってるよ!」
「ありがとう……でも、ちょっと恥ずかしいから離れて……!」
しかし、ラミリスは満面の笑みで離れる気配を見せない。ギィの方をチラリと見て、悪戯っぽく尋ねた。
「ねえ、これギィの趣味なの?」
「ちげーよ」
ギィは即座に否定し、後ろに控えるミザリーとレインを指さした。
「選んだのはそこの二人とヴェルザード、それにヴェルグリンドだ」
「へー、そうなんだ。でもまあいいわ!ホント綺麗!さすがアタシのリン!」
ラミリスは満面の笑顔で褒めちぎる。その言葉にリンは照れ臭そうに頬を染めながら小さく微笑んだ。
「ありがとう、ラミリスさん……」
その姿を見て、ギィが小さく呟いた。
「……オレのときと反応が違うじゃねえか」
リンは聞こえないふりをしつつ、微かに笑みを浮かべる。
談笑が続く中、再び扉が開き、今度はミリムが勢いよく入ってきた。
「リンー!!」
まるで弾丸のように飛びついてきたミリムに、リンは慌ててたたらを踏むが何とか堪える。
「ミリム!いきなり飛びつかないで……!」
「すごいのだ!すごく綺麗だな!」
無邪気な声で騒ぐミリムに、リンは困惑しながらも微笑みを返す。
「ありがとう、ミリム」
ミリムは満足げに頷くと、ギィに目を向け、興味深そうに口を開いた。
「ギィ、今日はリンと一緒に何か仕掛けるのか?」
「……そんなわけねえだろ」
ギィはため息をつきながら答えた。
扉が次々と開き、他の魔王たちも会場に姿を現した。巨躯のダグリュールが静かに歩を進め、優雅なロイ・ヴァレンタイン、飄々とした態度のディーノ、そして妖しげな雰囲気を纏うカザリームがそれぞれ自分の席についた。
ディーノが怠そうな声で口を開く。
「すげー恰好だなぁ、リン」
「着たくて着てるわけじゃないですよ。ギィさんの命令です」
「へー、大変だな」
ディーノは気のない返事をしつつギィに視線を移す。すると、ギィの髪型に気づき、少し驚いたように言った。
「あれ、ギィの頭どうしたんだ?珍しいじゃん」
「そこのじゃじゃ馬の仕業だ。まあ気にすんな」
ギィが肩をすくめて答えると、ラミリスが今気づいたように呟いた。
「ホントだ。ギィが髪結んでる」
「ほおー、リンがやったのか?」
ミリムが興味津々の表情で覗き込み、リンは胸を張って答えた。
「可愛いでしょ?」
その言葉にディーノが吹き出し、肩を揺らして笑い出した。
「いや、ギィの髪を……っつーか、可愛いって……一番似合わねえ言葉だろ」
ラミリスも苦笑しながら同意する。
「まあ、似合うけどさ……ギィの髪を弄れるなんてアンタくらいよ」
ミリムは無邪気に頷き、少しズレたコメントをした。
「いいと思うぞ!面白いのだ!」
ギィは溜め息をつきながら、不機嫌そうに席を促した。
「ほっとけ。さっさと座れ。始めるぞ」
全員が席につくと、会場の雰囲気が一気に引き締まった。ギィが席に肘をつきながら低く口を開いた。
「さて、今回の議題だが——天魔大戦が終わった理由についてだ。既に知っているやつもいるだろうが、終わらせた張本人から直接説明してもらう。……リン」
その一言で全員の視線がリンに集中した。リンは一瞬たじろぎながらも、深呼吸をして立ち上がった。
「えっと……」
緊張した様子で口を開いたが、魔王たちを前にして言葉が詰まりそうになる。それでも、隣に座るギィが視線で促すのを感じて、少しずつ声に力を込めた。
「今回の天魔大戦で、私はいくつかの行動を取りました」
リンの声は徐々に安定し、全員がその言葉に耳を傾け始めた。
「……まず、天魔大戦が始まる前に、私は各地の
彼女は視線を巡らせながら続ける。
「この仕組みによって、私が魔素を流し込んだ各地の
リンの声には徐々に自信が宿り、場の雰囲気も彼女の言葉に引き込まれていく。
「次に、
一瞬言葉を切ったリンは、少し俯きながらも続けた。
「でも、それでも完全には防ぎきれませんでした……」
彼女の声が一瞬だけ小さくなると、静寂が場を支配した。しかし、その空気を振り払うようにリンは話を続ける。
「私が住む
リンの声には次第に力が込められ、魔王たちもその言葉を真剣に聞き入っている。
「その後、ファルムス軍が
少し間を置き、リンは全員を見渡してから続けた。
「そこで皇帝ルドラと灼熱竜ヴェルグリンドに出会いました。ルドラから帝国の強化のために力を貸して欲しいと言われ、私はその条件としてルドラに『二度と天魔大戦を起こさない』と約束させました。その代わり、私は帝国に可能な限り協力することを誓いました」
リンの声には次第に覚悟が滲み出ていく。
「これから私は、ルドラに約束を守らせるため、そして各国が帝国と戦争にならないように、帝国や各国の様子を監視します。必要があれば行動しますが、それは天魔大戦が原因の争いに限ります。それ以外の戦争には干渉せず、静観するつもりです」
彼女は静かに言葉を締めくくった。
「全てに手を出すことはできませんし、するべきではないと考えています。でも、私は自分が選んだ道を全力で進むつもりです」
リンの説明が終わると、場には一瞬の静寂が訪れた。しかし、その沈黙を最初に破ったのは、飄々とした態度を崩さないカザリームだった。彼は椅子に体を預け、軽く指先を揺らしながら皮肉げに笑う。
「なるほど……天魔大戦を終わらせた方法もさることながら、監視役を買って出るとはな。なかなか面白いことをする」
カザリームは興味深そうにリンを見つめながら、声にどこか挑発的な響きを混ぜた。
「だが、帝国を監視するということは、下手をすればルドラに反発されるかもしれないだろう?彼は簡単におとなしくなるような男ではない」
その指摘に、リンは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに冷静さを取り戻して答えた。
「分かっています。でも、彼には私と約束した責任があります。もしその約束を破るようなことがあれば、私は全力でそれを正します」
「全力か……。まあ、期待はしておくとしよう」
カザリームは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、話を終わらせた。
カザリームの発言に続くように、ロイが冷静な声で口を開いた。
「事前に話を聞いていたが、こうしてお前の口から直接聞くと、覚悟の重さが伝わってくるな。ただ、それだけの責任を背負うなら、周囲に頼ることも忘れるな」
その言葉にリンは一瞬驚きながらも、すぐに真剣な表情で答えた。
「ありがとうございます。確かに、一人ではできないこともあります。その時は、皆さんの力を借りることがあるかもしれません」
ロイは微かに目を細め、満足げに小さく頷いた。
ロイの真剣な態度とは対照的に、ディーノは気だるげな調子で欠伸をしながら口を開いた。
「んでさ、リンが帝国とか他の国を監視するとか、それはいいんだけどさ。正直、めんどくせえ話だよなあ。俺はそのへん、ギィとかお前に任せるからさ、勝手にやってくれりゃいいや」
その言葉に、ギィが眉をひそめる。
「おい、ディーノ。お前は一応魔王なんだ。少しは真面目に考えろ」
「考えてるって。だからこそ、リンがやるってんならそれでいいじゃん?どうせ俺が口出ししたところで大した意味ないだろ」
ディーノは肩をすくめて答えたが、リンに向けられたその目はどこか柔らかい。
「ま、無理すんなよ、リン。お前が倒れるようなことがあったら、それこそめんどくせえからさ」
「ありがとうございます、ディーノさん」
リンは苦笑しながら感謝の意を述べた。
そこでミリムが勢いよく手を叩き、元気いっぱいの声を上げた。
「リン!やっぱりお前はすごいのだ!そんなに頑張ってたなんて知らなかった!これからも応援してやるのだ!」
「ありがとう、ミリム」
リンはミリムの素直な言葉に少しほっとしたように微笑んだ。
ラミリスは腕を組み、少し複雑そうな表情を浮かべる。
「……ホント、無茶ばかりするのも大概にして欲しいもんだわ。まあ、今更だけど。リン、アタシを頼るのを忘れちゃダメだからね!困ったらすぐに言うんだよ?危ない時もちゃんと知らせること!約束よ?」
「……うん、分かったよ」
リンが苦笑しながら答えると、ラミリスは満足そうに頷いた。
ダグリュールは静かにリンを見つめ、重々しい声で語る。
「お前の覚悟は立派だ。だが、覚悟だけでは守れるものも守れない。力を磨き続けることを忘れるな」
その言葉にリンは真剣な表情で頷き、深く礼をした。
「ありがとうございます。その言葉を胸に刻みます」
全員の反応を確認したギィが、円卓を軽く叩きながら場を締めくくった。
「よし、これで決まりだな。リンの監視体制と今後の方針について、異論はねえな?」
魔王たちは誰一人として反対せず、静かな同意の空気が広がる。
ギィは満足そうに微笑みながらリンを見やった。
「上出来だ、リン。ま、これからもその覚悟を忘れずにやってみせろ」
ギィが隣のリンを見て笑うと、リンは少し照れたように微笑みながら強く頷いた。
これだから
今年最後の投稿です。まさか原作開始前でこんな話数まで書くとは思ってなかったんですが、まだ書きたいことの半分も書けてないので、リムルに会うまで先は長いです。基本愛され系主人公なのでご都合主義な展開もありますが、今後はもうちょっと波瀾万丈な感じになります。最後までお付き合いいただけたら幸いです。ここまでご覧いただきありがとうございました!よいお年を!
リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?
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樹界移動を進化させる
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聖域創造を進化させる
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万象再生を進化させる
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深淵樹霊を進化させる
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「神智核」一択
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魔王覇気とか
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特に思いつかない