転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第九十一話

魔王たちの宴(ワルプルギス)が終わり数日が過ぎた頃。リンは自身が住まう大霊樹(ドリュアス)の中心部で静かに目を閉じていた。その瞳は赤い光を湛え、大霊樹(ドリュアス)の魔素が脈動するたびに穏やかに輝いている。

 

「さて……エルメシアさんに連絡、だよね」

 

リンは少し緊張しながら、エルメシアのいるサリオンの大霊樹(ドリュアス)を意識した。思念を集中させると、彼女の声がそっと届くはずだ。

 

(エルメシアさん、聞こえますか?)

 

心の中でそう呼びかけると、しばらくしてリンの意識に軽やかな声が返ってきた。

 

『リン?あら、本当に大霊樹(ドリュアス)を通じて会話できるのね。私の声も届いているかしら?』

 

リンはその声を聞いてほっとした表情を浮かべる。

 

(はい!初めての定期連絡ですから、上手くいくかちょっと心配でした。でも聞こえて良かった!)

 

エルメシアは小さく笑いながら続ける。

 

『それで?早速だけど、何を話しに来たのかしら?』

 

リンはエルメシアとの約束通り、今回の魔王たちの宴(ワルプルギス)での話を報告し始めた。

 

(……——それで、大霊樹(ドリュアス)を通じた監視体制をどう活用するかを議論しました。それから、天魔大戦の影響を少しでも減らすための方針も確認しました)

 

エルメシアは真剣に聞いているようで、すぐに返答が返ってきた。

 

『ふむ、それで?他には何か?』

(実は……ダグリュールさんの支配領域である『不毛の大地』に新しい大霊樹(ドリュアス)を植えることを提案しました。それも、監視目的ではなく、荒れ果てた大地を少しずつ蘇らせるための布石としてです)

 

その言葉に、エルメシアは驚き混じりの声を上げる。

 

『不毛の大地……?それを蘇らせるために大霊樹(ドリュアス)を?随分と大きな挑戦をするのね』

(すぐには難しいかもしれませんが、少しずつでもやっていこうと思っています。星霊樹(セレスティア)が成し得なかったことを、私が受け継ぎたいんです)

 

しばらく沈黙していたエルメシアが静かに問いかける。

 

『……リン。話を聞いて一つ気になったのだけれど。このサリオンにある大霊樹(ドリュアス)も、監視機能を持っているのよね?』

 

リンはその言葉に一瞬ためらったが、正直に答えた。

 

(はい。サリオンの大霊樹(ドリュアス)も、監視網の一部です。でも、それは天魔大戦の混乱を少しでも防ぐためのもので、エルメシアさんを監視するためではありません)

『そう言われてもね……こちらの情報が筒抜けというのは落ち着かないわ。それにリン、あなたはこちらの様子を見ることができるけれど、私があなたを覗き見ることはできない。それって、公平じゃないと思わない?』

 

その言葉に、リンは少し息を飲む。確かにエルメシアの言葉には一理ある。それでも彼女は、真摯な声で返答した。

 

(……確かに不公平だと思われても仕方ありません。でも、私はそんなつもりでこの監視網を作ったわけじゃないんです)

 

リンは気持ちを落ち着かせるように深く息を吸い、続けた。

 

(私は、天魔大戦で守れなかった命や土地を二度と失いたくない。そのためにできる限りの手段を講じているだけなんです。情報を乱用することは絶対にありませんし、必要なら監視機能を制限することだってできます)

 

エルメシアはリンの言葉をしばらくの間静かに受け止めていたが、やがて淡々とした口調で問いかけた。

 

『本当に信じてもいいのかしら、リン?私たちはまだそこまで深く関わり合ってきたわけではないのに』

(そうですね。でも、信じてもらえるように努力します。だから、どうかもう少しだけ見守ってください!)

 

エルメシアは小さく笑い声を漏らし、やや柔らかな調子で話を続ける。

 

『ふふ、いいわ。その誠実さを信じてあげる。ただし、条件があるわ』

(条件……ですか?)

『ええ。あなたの行動についても情報を共有してもらう形にしましょう。対等な関係を築くには、それが必要だと思うのだけれど、どうかしら?』

 

その提案にリンは驚きつつも、すぐに笑顔を浮かべて了承した。

 

(はい!できる限り努力します!)

『ふふ、いい子ね。何か決めたことや動きがあれば、すぐに報告しなさいよ。私たちの関係はまだ手探りなんだから。私に隠し事なんてしてみなさい、すぐに気づいて問い詰めるわよ』

(は、はい!)

 

リンの明るい返事に、エルメシアは満足げに笑い声を漏らした。

 

こうして、リンとエルメシアの初めての定期連絡は無事に終わった。信頼関係を築くにはまだ時間が必要だが、この一歩は確実に二人の絆を深めるきっかけとなった。

 

 

 

 

 

リンからの定期連絡が終わり、エルメシアは玉座の間に戻っていた。周囲の空間は静まり返り、深い夜の帳が覆っている。だが、彼女の表情にはどこか冴えた光が宿っていた。

 

「ふむ……リン、ね。やはり興味深い存在だわ」

 

その言葉を聞き、エルメシアの側近であるエラルド・グリムワルトが静かに前に進み出た。彼は金髪をなびかせ、冷静かつ端正な顔立ちでエルメシアを見つめる。

 

「リン殿からの連絡、いかがでしたか?」

 

エラルドの丁寧な問いかけに、エルメシアは軽く笑みを浮かべながら答えた。

 

「思った以上に真っ直ぐで誠実ね。ただ、その誠実さがどこまで本物かは、まだ判断できないわ」

「……まだ見極める必要がある、ということでしょうか?」

 

エルメシアはゆったりと玉座に腰を下ろし、優雅な所作で顎に手を当てた。

 

「ええ。でも、あの子が語る言葉には嘘はなかったと思うわ。監視網を通じて私たちを見ているという事実も、隠さずに説明してきた。その点は評価できるわね」

「しかし、リン殿が誠実であろうと、情報が一方的に筒抜けであることは、我がサリオンにとってはリスクとなり得ます。陛下もその点に懸念を抱かれていたのでは?」

 

エルメシアはエラルドの冷静な指摘に頷き、椅子の肘掛けに軽く指を這わせた。

 

「その通りよ。彼女は『必要があれば監視機能を制限する』と言っていたけれど、それがどれほど信頼に足るものか……現段階では判断しきれないわね」

 

エラルドは少し考え込むように沈黙した後、穏やかな声で続けた。

 

「では、いかがなさいますか?リン殿を引き続き信用する方向で様子を見るべきでしょうか?」

「ええ。信じるにはまだ早いけれど、完全に疑って距離を取るのも得策ではないわ。彼女は少なくとも、天魔大戦の混乱を抑えるために本気で動いているように見えるもの」

 

エラルドはその言葉に深く頷いた。

 

「なるほど……陛下のご判断に従います。ですが、万が一に備えて、我々も対策を講じておく必要がありますね」

「そうね。彼女が聖魔樹帝(ルフレス)として持つ力は、私たちの想像を超えるかもしれない。少なくとも、彼女の意識や感情の変化には注意を払うべきだわ」

 

エラルドは思案深い表情を浮かべたまま、さらに問いかける。

 

「陛下。リン殿の行動から感じたことは?たとえば、彼女の本質や目指す理想など……」

 

エルメシアは短く息をつき、少し柔らかな笑みを浮かべた。

 

「理想……彼女の言葉の端々から、それが垣間見えたわ。たとえ愚直に見える方法でも、何かを守ろうと必死になっている。その強さは感じられる。でも同時に、無理をし過ぎて自分を削っているようにも見えたわね」

「……その点が懸念材料、と?」

「ええ。何かを守るというのは美しい理想よ。でも、それは時に自分自身を犠牲にする覚悟を伴うもの。彼女がその重さに耐えられるかどうか……そこが気になるわね」

 

エラルドはその意見に静かに耳を傾けた後、少しだけ眉間に皺を寄せた。

 

「陛下は……彼女をどのように導こうと?」

 

エルメシアは視線を天井に向け、どこか遠くを見るような表情を浮かべた。

 

「導くというより、彼女が何を選ぶのか見届けたいわね。リンという存在が、どのような未来を描いていくのか。……そして、その未来がサリオンにとって有益であるかどうか」

 

その言葉に、エラルドは慎重に頷き、低く静かな声で答えた。

 

「承知しました。では、私も引き続き、リン殿との連絡が円滑に行われるよう支援いたします」

「お願いするわ、エラルド。彼女がどんな道を歩むにせよ、それを見守るのが私たちの役目かもしれないわね」

 

玉座の間に静寂が戻り、エルメシアはその場で思索を深めていった。

 

彼女の胸には、リンという存在への期待と懸念が交錯していた。

それでも、彼女はその小さな芽を、軽々しく切り捨てることはしなかった。

 

 

 

 

 

エルメシアとの初めての定期連絡を終えたリンは、大霊樹(ドリュアス)の中で一息ついた。

天井の高い、木漏れ日が差し込むような柔らかな空間。木の幹がゆるやかな曲線を描き、自然の温もりを感じさせる。そこが彼女にとっての家であり、居場所だった。

 

「ふう……」

 

リンはそっと目を閉じ、深呼吸をした。

魔王たちの宴(ワルプルギス)、エルメシアとの連絡、それぞれが一区切りついたことで、張り詰めていた気が少し緩む。

 

けれど、その余韻に浸る間もなく、考えが巡り始めた。

 

(これから帝国や各国を監視して、自然や世界を守る……それが私の役目。それは分かってる。でも……)

 

リンは自然と両手を見つめていた。その手は以前の自分とは違い、聖魔樹帝(ルフレス)としての力を宿している。けれど、彼女にとってその手はまだ「普通の人間の手」に思える。

 

(私は……どうしてこんなにも「守らなければ」と思うんだろう?)

 

聖魔樹帝(ルフレス)だから、自然を守る存在だから、そう思わされているのかもしれない。そう考えると、心が少しだけ重くなる。

 

(もしそうだとしたら、これは私の意志じゃないのかも……)

 

自分が本当に望んでいるのか、それとも「役割」を押し付けられているだけなのか。

 

胸の中に小さな疑念が芽生えた。

けれど、それはほんの一瞬のことだった。

 

「違う……そんなわけない」

 

リンは首を振り、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「これは私が決めたこと。誰に命じられたわけでもない、私がやりたいことなんだ」

 

彼女はかすかな笑みを浮かべながら、胸ではなく自分の中心、精神の核に意識を集中させた。そこにあるのは彼女の存在そのもの。生きる意思を支える輝きだった。

 

その輝きが、微かに、けれど確かに暖かく広がっていくのを感じた。

 

(私はここにいる。これが私自身……だから、誰に命じられるわけでもなく、私が選んだ道なんだ)

 

「前世の私は……何も成せなかった。ただ普通の人間で、何も特別なことをしなかった。だからこそ、今度は……」

 

不意に、前世の記憶が蘇る。事故の瞬間、命が尽きる直前に脳裏をよぎった願い。

 

——次の人生があるなら……特別な存在になりたいな。守れる力があって、見守れる力もあるような……そんな特別な存在に……。

 

——強くなりたい……次は失敗しないように、もっとちゃんと見ていきたい……。

 

その思いが彼女を突き動かしている。それは転生しても消えることなく、むしろ樹妖精王(ドリュアス・ロード)に、そして聖魔樹帝(ルフレス)へと進化するたびに強くなっていった。

 

「これは私が選んだ道。私が守りたいって思ったんだ」

 

リンはそう自分に言い聞かせながら、空を見上げた。

青々と茂る葉の隙間から光が差し込む。その光を見つめながら、彼女はそっと呟いた。

 

「前世では何もできなかったけど、今は違う。何かを成したい。守りたい。それが私にできることなら……全力でやるだけだよね」

 

そう思うと、胸の中の迷いが消えていった。いや、今の彼女にとって迷いが消えたのは「精神の核」が輝きを増したからだ。

 

自分が歩むべき道は、もう決まっている。

 

「さあ、これからも頑張らなきゃ」

 

リンはそっと手を握り締める。新たな決意を胸に、彼女は前を向いた。

 

彼女の役割は、ただ与えられたものではない。自ら選び取った道であり、自分自身の存在意義そのものだった。

 

そして、その道を全力で進む覚悟が、彼女を突き動かしていた。




リンの所有スキルとかたまに書いときましょう。
抜けがあったらごめんなさい。

究極能力(アルティメットスキル)千視ノ神(プロフェティア)
権能無限視界(むげんしかい)未来映写(みらいえいしゃ)運命収束(うんめいしゅうそく)・思考加速・森羅万象・解析鑑定・並列演算

ユニークスキル風精(アネモネ)
権能風刃(かぜば)風盾(ふうじゅん)風走(ふうそう)気流操作(きりゅうそうさ)

固有スキル
聖域創造(せいいきそうぞう)
万象再生(ばんしょうさいせい)
深淵樹霊(しんえんじゅれい)
魂鎖崩壊(こんさほうかい)

エクストラスキル
並列存在
魔力感知
樹界移動(じゅかいいどう)

コモンスキル
念話

耐性
自然影響無効
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