静寂に包まれた一室で、中庸道化連のメンバーが思い思いのスタイルで時間を潰していた。その中でもラプラスの姿は、一際リラックスして見える。ソファに深く腰掛け、足を組みながら天井を見上げている彼の態度には、肩肘張らない余裕が漂っていた。
しかし、その余裕は表面だけのものだった。心の奥では、カザリームの帰還がどのような話をもたらすのかを計りかねている。彼は知っていた。カザリームが「興味深い」と表現する話ほど、得てして面倒事を伴うものだということを。
そして、ドアが静かに開いた。漆黒のローブをまとったカザリームが姿を現した瞬間、部屋の空気が一変する。彼の一歩一歩が緊張感を生み、待っていた全員の意識をその一挙手一投足へと集中させた。
「待っとったでぇ、会長」
飄々とした声を上げたのはラプラスだった。その口調は軽いが、観察するような鋭い視線が隠されている。
他のメンバーもそれぞれの反応を見せる。フットマンは礼儀正しく挨拶し、ティアは欠伸を交えながら軽口を叩き、クレイマンがそれを冷たく一喝する。彼らのやり取りをよそに、カザリームは一度静かに全員を見渡し、冷ややかな笑みを浮かべた。
「退屈する暇はなかったよ。興味深い話もいくつかあったからな」
その言葉に対して、ラプラスは飄々とした態度を崩さずに答える。
「そいつぁ楽しみやなぁ」
一見、興味本位で応じているようにも見える。しかし、その裏では冷静にカザリームの話に備えていた。期待もあるが、余計な厄介事を抱え込むことへの警戒も少なからず存在している。
「リン——いや、
カザリームがその名前を出すと、部屋の空気が微かに変わる。
「
ラプラスが口元を歪めて呟く。自然を守る役目の存在が、それ以上の行動を取ることには少し意外さを感じていた。
カザリームは満足げに頷きながら、彼女の力について話を続ける。天魔大戦を経て進化を遂げ、
「そらまた、えらい力を手に入れたもんやなぁ」
感心するような口ぶりで答えるラプラスだが、その内心は複雑だった。監視という力がいかに強力で、同時に危険なものかを理解していたからだ。それを知った者が、黙って見過ごすはずもない。
「つまり、こちらの動きも筒抜けの可能性があるということですか?」
フットマンが慎重に尋ねると、カザリームは頷いてみせる。さらに続けて、その力を知った者が必ず彼女を手に入れようと動くと語った。
「ほんなら、今頃リンは狙われまくっとるんやろな」
ラプラスが軽い調子で言うが、その内心は冷静そのものだった。ギィを始めとする最古の魔王たちが守っているとはいえ、その力を奪おうとする者が出ないはずがない。
「せやけど、ギィが睨んどる以上、ウチらが直接手ぇ出すわけにもいかんで?面倒ごとは避けたいんやけどな」
ラプラスの言葉は軽妙だが、そこには確かな計算があった。感情に流されることなく、現状を見極める冷静さ。それこそが彼の強みだった。
カザリームは微かに笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「そうだな。焦る必要はない。彼女を狙う者たちを観察しつつ、必要ならば守り、同時に利用する。それが今後の課題だ」
ラプラスはその言葉を聞き、軽く笑いながら答えた。
「そやな。ウチららしく、上手く泳ぎ回るってことやろ?」
部屋に静かな笑い声が広がる。中庸道化連のやり方——敵にも味方にもならず、己の利益のために最善を尽くす。その在り方を、ラプラスは何より理解していた。
彼の視線の先には、これからの展開を楽しむような光が宿っていた。
(修復作業に使ってた別身体、そろそろ消しても大丈夫かな……)
心の中でそう問いかけると、
『修復作業は完了しております。別身体を消せば、担保していた魔素が戻ります』
リンはその言葉に小さく頷き、別身体を消滅させることを意識した。瞬間、体内にふわりと魔素が戻る感覚が広がる。
(よし、これで少し余裕ができたかな)
体内の安定を感じながら、ふと別の疑問が湧き上がった。自分の魔素の量がどれほどなのか、漠然とした興味が芽生えたのだ。
(ねえ、
少しの間を置いて、
『リン様の保有する魔素量、すなわち存在値は1億です』
「えっ……?」
思わず声を漏らしてしまった。耳にした数字の大きさに、瞬時には理解が追いつかない。
(1億……?それって多いの?っていうか存在値って何?)
さらに尋ねると、
『存在値とは、個体が保有する魔素、精神エネルギー、生命力などの総量を示す数値です。いわば、基礎的なエネルギー容量の目安となります』
(ふーん、そういうものなんだ……)
一応の納得を得たものの、その概念はまだ曖昧だった。
(高いと強いの?)
単純な疑問を投げかけると、
『必ずしも戦闘力に直結するものではありません。存在値が高ければ持久力や魔法の使用頻度が向上しますが、それだけで戦闘に勝てるわけではありません』
(ふーん……でも、1億って……やっぱり多いんじゃない?)
『現代基準で見れば非常に高い水準です。ただし、リン様は世界中に魔素を流し続け、監視網や
(なるほど……)
冷静に説明されても、具体的な比較対象がないと実感が湧かない。そんな中、背後から元気な声が飛び込んできた。
「リンーーー!!」
「きゃっ!?」
突然の声にリンは跳び上がり、振り返った。そこにいたのは、無邪気な笑顔を浮かべるミリムだった。
「驚いたか?」
「もう……ちょっとビックリしたけど……どうしてここに?」
「ヒマだったから来てやったのだ!それで、リンは何をしてたのだ?」
ミリムが勢いよく近づいてくる。リンは内心でため息をつきつつも、これは良い機会だと思い立つ。
「ねえ、ミリム。あなたの存在値って、どのくらい?」
「ワタシのか?」
ミリムは少し考え込み、指を折りながら自信満々に答えた。
「だいたい1億くらいだな!でも、スキルを使ったり戦ったりすると上下するぞ!」
「……1億……」
リンは呆然とミリムを見つめた。自分と同じ数字を聞いて、頭の中が混乱し始める。
(私……ミリムと同じくらい……?)
「で、リンはどのくらいなのだ?」
ワクワクと目を輝かせるミリムに、リンは躊躇しながらも答える。
「ミリムと……同じくらい……かな」
「おおおおーーっ!!」
ミリムは歓喜の声を上げ、その場で飛び跳ねた。
「でも、本当に同じくらいなの?なんか、信じられない……」
リンが首をかしげると、ミリムは得意げに笑う。
「よーし、ならばワタシの
瞳が怪しく輝き、リンをじっと見つめる。数秒後、ミリムは満面の笑みを浮かべた。
「間違いない!リンの存在値はワタシと同じくらいなのだ!さすがワタシが鍛えたリンだな!誇らしいのだ!」
「いやいや……」
リンは照れくさそうに目を逸らしながらも、ふと疑問を口にする。
「でもさ、私がミリムと同じくらいなんて……なんか多すぎる気がするんだけど」
「そうか?リンは世界中に魔素を流してるんだろ?それくらいなきゃすぐ枯れちゃうのだ!」
ミリムの言葉に、リンはしばらく考え込んだ後、ようやく納得するように頷いた。
「……そっか。確かにそうかもね」
「むしろ少ないくらいなのだ!それで、魔素は大丈夫なのか?足りなくなったらワタシが分けてやろうか?」
ミリムが顔を近づけてくる。リンは慌てて手を振った。
「い、今のところ大丈夫だよ。戦ったり無茶をしなければ、
「そうか。でも、必要になったらいつでも言うのだ!いくらでも分けてやるのだ!」
無邪気な申し出に、リンの頬が緩む。
「ありがとう、ミリム。本当に頼りにしてる」
その場には、ほのぼのとした空気が満ちていた。
リンの存在値についてめっちゃくちゃ計算しました。一日中計算やってました。世界中に魔素を流し込んでる以外にも色々あって常に消費してる量がエグいです。無茶しなければ、
ちなみに本編内で書く予定はないのでここに書きますが、リンの1日の総消費魔素量は3250万です。需要あるかは分かりませんが、内訳も書いときます。
【コスト内訳(1日)】
・リン自身、リンが住まう
・存在値の2.5%を消費
・
・一本あたり存在値の1%を消費
|恒常的な魔素放出のコスト: 1500万
・世界中に流し込んでる魔素
・存在値の15%を消費
20240114:再構成しました。