(あ……ラミリスさんにも相談しなきゃ)
自然と頭に浮かんだ名前に、リンの表情が少し引き締まる。彼女にとってラミリスは自然や精霊の知識が豊富で、自分の考えを補完してくれる頼もしい存在だった。
「リン、どうしたのだ?」
ミリムが首を傾げながらリンを覗き込む。その無邪気な表情に、リンは少し申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「ちょっと思い出しただけ。
「ラミリス?なんでワタシじゃダメなのだ!」
ミリムはわざと頬を膨らませ、拗ねたような仕草を見せた。その表情にリンは慌てて手を振る。
「いや、その、ミリムにも相談したいけど……ラミリスさんは自然や精霊に詳しいから、そういう視点も欲しいなって思っただけ」
「ふーん……まあ、リンのためなら許してやるのだ!でも、ワタシにも相談するのだぞ!」
ミリムはすぐに満面の笑みを浮かべて力強く頷いた。その快活な姿に、リンは胸の奥が温かくなるのを感じた。
「ありがとう、ミリム!」
リンの感謝の言葉に満足げなミリムは軽やかに跳び上がると、そのままどこかへと去っていった。
(さて、ラミリスさん……)
リンは目を閉じ、意識を集中させる。思念を飛ばし、ラミリスへ語りかけた。
(ラミリスさん、今ちょっといい?)
唐突に響いた声に、迷宮でリラックスしていたラミリスは目を丸くした。
『リンじゃん!どうしたの、何かあったの?』
(いや、相談があってね)
『相談?いいよいいよ!今ヒマだし!で、何?』
軽快な声色に安心しながら、リンは監視網についての考えや悩みを語り始めた。
『ふむふむ、なるほどね~』
ラミリスは軽い調子で相槌を打ちながらも、その表情はどこか真剣だった。
『監視って言葉が問題だよね。誰だって監視されてるって聞いたらイヤだもん』
(うん、だからどう言えばいいか悩んでて……)
リンの言葉に、ラミリスは得意げに笑みを浮かべた。
『だったらさ、『支援』って考えたらどう?自然災害が起こりそうなときに事前に教えてあげるとか、対策を立てられるようにするとか、そういうこと!』
その提案に、リンは目を見開いた。
(支援……確かに、それなら皆が安心できるかも)
『でしょでしょ!リンは自然と繋がってるんだから、それくらい簡単でしょ?それにさ、ちゃんと相手と話し合って情報を共有するのが大事だよ。一方的にやられると、誰だって嫌な気分になるしね!』
ラミリスの言葉に、リンは深く頷いた。
(ありがとう、ラミリスさん。おかげで前向きになれたよ)
『いいってことよ!でも、リン、大変そうだよね~。あんまり無理しないでよ。困ったらアタシが助けてあげるから!』
明るい声に、リンの胸にじんわりと感謝が広がる。
(ありがとう、ラミリスさん。また困ったときは頼るから)
『うんうん、いつでも言ってよ!……でも、忙しいときはダメだからね!』
リンは苦笑しつつ、ラミリスとの念話を終えた。
ラミリスから得た新たな視点に、リンは小さく呟いた。
「監視網じゃなくて支援網……なるほど、確かに皆が受け入れやすくなるかもしれない」
だが、その次に頭をよぎったのは具体的な運用方法と説明の仕方だった。
(これを各国にどうやって説明しよう……?)
天魔大戦の傷跡が癒えぬ各国に、自分の構想を受け入れてもらうには、それぞれの状況や立場を考慮した対応が必要だった。
「ガゼル王やカリオンさん、ルミナス様……ファルムス王国にも直接話さないと……」
一つ一つを挙げるたび、責任の重さが胸にのしかかる。
(サリオン……そうだ、エルメシアさんには監視網のことは説明したけど、支援に使う話はしてないな)
エルメシアとの初めての定期連絡を思い出し、リンは苦笑する。
(そういえば、何かあればすぐに報告しなさいって言われたんだった。隠し事は気づかれるって、怖いくらいに……)
苦笑交じりに息を吐き出し、リンは決意を固めた。
「やっぱり、エルメシアさんに一番に話そう」
彼女の視線が遠くの空を捉え、穏やかな光がその瞳に映り込む。支援網という新たな試み——その一歩を踏み出す準備は整った。
王座の間には重厚な静寂が漂っていた。ダグリュールは、窓の外に広がる無限の荒野をただ見つめていた。不毛の大地——かつて命に満ち溢れていた土地。だが今は、生けるものを拒むように冷たく荒れ果てたまま眠り続けている。
(不毛の大地……あの地を、誰が蘇らせることを望んだか)
長い年月を経てもなお鮮やかに蘇る記憶が、彼の胸を深く刺していた。
(あの時、ワシは……)
苦い記憶が、思考の奥底を重く沈めていく。ダグリュールは何一つできなかった。否、何かをする術すら考えつかなかった。
(見届けるだけでは、救えない。それを理解した時には、既に全てが遅かった)
力尽きた
(希望は……失われる。それが自然の摂理なのかもしれん)
そうした諦めにも似た思考は、何千年もの間、ダグリュールの胸を支配していた。だからこそ、あの時のリンの提案が彼の心を大きく揺るがせたのだ。
「……別の目的で、新たに
その言葉が発せられた瞬間、その場の空気は凍りついた。
「ダグリュールさん。あなたの支配領域である『不毛の大地』に植えさせていただけないでしょうか?」
不毛の大地——それは、ギィとミリムの激闘により荒れ果て、誰もが命が再び宿ることはないと断じた地。あえてその地を選び、植樹を願い出るその姿は、正気とは思えない。しかしリンはなおも強い視線を向け、言葉を紡ぐ。
「そこはかつて、
その声には、揺るぎない決意が込められていた。その瞳がダグリュールをまっすぐ射抜く。
(あの地を蘇らせるだと……?
若き
「もちろん、私の力ではすぐに蘇らせることはできません。でも、小さな布石でもいい。今できることを少しずつでもやっていきたいんです」
その一言に、一切の偽りはなかった。だからこそ、ダグリュールは心の中の葛藤を振り払い、重々しい声で答えた。
「よかろう。貴様がその地に
王座の間に意識を戻したダグリュールは、再び窓の外の荒野を見つめた。沈黙を続けるその地が、何かを語りかけてくるように思えた。
(リン……あの地がどれほどの絶望に満ちているか、貴様は本当に理解しているのか?)
(
彼の胸の奥底に、微かな光が灯るのを感じた。それは、長い沈黙を破る希望の兆しだった。
「リン……貴様が成し遂げるその時、ワシはその瞬間を見届けよう。そして、もしも貴様が挫けるならば……その時こそ、ワシがその意志を引き継ぐ」
その重々しい声は、自らの無力さを希望に変えるための誓いであった。
窓の外、不毛の大地は静寂の中に横たわっている。しかし、ダグリュールの心には、そこに新たな命が芽吹く未来が浮かび上がっていた。
(
目を閉じた彼の表情には、長い沈黙の中では見られなかった微かな安堵が浮かんでいた。
いつか