僕こと佐々木優作は小さなかころから友達作りがそこまで得意ではなかった。
小学生の時には二人ほど友人らしきものもいたがそれとも疎遠。
中学時代なんてまともに話したことがある人なんて一人だけだ。
いわゆるぼっちであり、僕が勉強に打ち込むことになった理由もそれだ。
打ち込むといっても学校の暇な時間を勉強に捧げていただけで、家ではそこまでではあったが。
いわゆるコミュ障と呼ばれる人間であったのであろうし、関わりづらい人間であったと思う。
休み時間になるたびに参考書開いてる人間なんてその時点で対話する気のない人間判定されてもおかしくはない。
いじめがなかったのが幸運だっただろう。
子供は異質を弾くのだ。
だから比較的心優しい子が多かったのだろうと今なら思う。
なぜ今、このようなことを言うのか。
それは僕が友達の作り方を知らないということだ。
「ぼっちであることは構わないけど親の目が痛いな」
僕は朝霧高校の非常階段にて、昼休みの間一人うなだれていた。
入学して二月が経過していた。
僕にはいまだ友達といえる存在はいない。
いや、話す程度の子はいるが、なんというか仕事上の付き合いというか、必要なことだけ話す相手というか……。
重度のコミュ障とは言い難いが浅いコミュ障。
話すだけならできるという壁の向こう側にはいけなが壁越しなら話ができる所謂友達の友達と会話しているような決して友達ではない関係の会話ができるのだ。
なにも誇れないけどね。
「友人ってどうやって作るんだろうな」
別に一人でいる分にはどうってことはないが、親から友達一人いないのね、みたいな生暖かい目で見られるのが非常に心に来る。
親を安心させてあげたいという至極まっとうな悩みではあるが、友達ってどうやって作るんだろうね。
はあとため息ををつくと、非常階段の下、正確には校舎裏から声が聞こえてきた。
「僕と付き合ってください!!」
これぞ青春というべきか、学生らしさの固まりである告白イベントである。
少し遠いので見えづらいがイケメン風な男と美女っぽい女の子がそこにはおり、男のほうは手を差し伸べて頭を下げていた。
……君は恋愛系のドラマを見すぎだと思う、そんな風に告白するやつ、まあいないよ。
「よろしくお願いします」
「やったぁあああああ!!!」
「若いなあ……」
どうやら告白は成功したみたいである。
イケメン風の男と、美女風の女はどこか照れた表情で校舎に入っていく。
恋愛か、はたして僕に縁はあるのだろうか。
いや、別に今欲しいというわけではないが、いるほうがいいというのはわかる。
「まあ、その時はその時か……っておわぁ!!! 誰!?」
「…………」
そろそろ教室に戻るかと体を横に向けた瞬間、そこには何故か静かに涙だけ流した女生徒がいた。
しかも非常階段の手すりが嫌な音を立てるくらい力いっぱい握りしめている。
こわい。
「えっと……行くね?」
そう言って触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに僕は横を通り抜けようとし、肩をつかまれた。
おっふ、神に触ってないのに向こうから触られた場合どういうんだろうか、魅入られたとでもいうのだろうか。
「あれね、私の幼馴染なの」
なにか言い始めた。
顔は一切こちらに向けず、男がいたであろう場所を涙を流しながら見ている。
こわい。
普通に怖い。
「私とは生まれた時から一緒にいてね、家も隣同士でカズ君は私をお嫁さんにしてくれるって言ってたの」
「カズ君てだれさ、あーはい幼馴染ってやつだね。残念だったね、じゃあ僕は行くね」
「それでね、一緒の高校に入ろうねって約束して、いつの間にかあんなことになってたの」
ち、力が強い……まったく離れない、肩が痛くないのに、凄まじい力が僕の肩に集約されているのを感じる。
これでも一応そこそこには筋トレをしているのだがそれでもビクともしない。
僕は彼女の手に宿ったとてつもないパワーに慄きながら、彼女の顔を見ると、涙は止まっているがブラックホールのような虚無の目をしている。
色がないどころか黒い。
本当に人間か……こわい……。
「ねえ、私どうしたらいいかな?」
知らないよ?
今日、というか今会ったばかりだよね?
事情も…………今しがた聞いたけど、そんなこと僕に聞くかい?
でもそんなこと言えない。
ブラックホールのような何もかもを闇に吸い込むかのような目が怖いから。
闇に引きずり込まれそうで、僕はどもりながらも答えた。
「え、えと……ほ、放課後喫茶店にいかないかい、その、話したいことも沢山あるだろうし、その、ね?」
問題の先送りである。
というかアドリブに弱いな僕!
言葉がまとまって出なかったよ!
彼女は僕の言葉に一つうなずくと、教室に戻るのか階段を降りて行った。
このまま彼女が僕のことを忘れてくれるように祈りながら僕も教室に帰った。
しかしいったいどこのクラスなのだろうか。
見た目だけで言えば腰までかかる長髪の美人であり、出るところ出てていて、ナイスバディの部類に入る女の子。
僕年上が好きだから高校生って時点でトキメキもくそもないが、中学生の時ならトキメいていたであろう。
「あんなに美人でも振り向いてもらえないとかあるんだな。近すぎると異性とは思われなくなるとはいうけど、本当なんだな」
世の思い通りにならないことばかりだな。
そういえば名前聞いてないし何年生かも知らないや。
放課後になった。
そういえば今日は母がカツカレーを作ると言っていたことを思い出した。
何故カツとかカレーがジョグレス進化しただけだというのにあんなにうまいのだろうか。
やはり油かカツの油が美味いのか。
揚げ物は中身の具もうまいがやはり決め手は油であろう。
おいしいお店の揚げ物は油が完全に別物だからね、やはり油だなのだろう。
もはや具はおまけ――
「待ってたよ」
「ひょぁはぁい!?!? ってビックリした!! ってアンタか!」
「変な声だね」
完全に忘れてた! というかこの子も覚えてた!
てか僕クラス教えてないよね? どうしてここがわかったの!?
というか開けるまで待ってたの!?
開けた瞬間虚無のような顔と砂漠で水を飲めていない遭難者みたいな声が聞こえてくるとか心臓に悪いよ! 誰でもさっきみたいな声出るわ!
「え、えと……き、喫茶店……行く?」
こくりと頷く彼女に、僕は内心大きなため息が出たが、放置するとなにしでかすか分からない不気味さがあったので仕方なしに彼女を連れ立って喫茶店に向かうことにした。
下世話なことに、彼女は美人なのでクラスがどよめき、僕が付き合ってるとかなんとか声が聞こえてくるが、正直彼女の名前すら知らないので大いに間違いである。
「喫茶店って初めて。デザートとかコーヒーとかそんなイメージがあったけど、意外に食事がメインなのね」
「まあ、イメージそんなところだよね」
カズ君とやらと来たことないんだねとは言わない。
男女の仲では喫茶店って割と定番な筈なんだけどね。
本当に脈というか意識すらされてないんだなとは思ったけど絶対に言わない。
面倒そうなことには自ら首を突っ込まないものである。
まあ今首下まで浸かっている気がしないでもないが……。
僕はブラックコーヒーをを頼み、彼女はパフェとフライドポテトとオレンジジュースを頼んだ。
……なかなか食うな。
「で、君の名前すら知らないんだけど自己紹介と行かないかい? 僕は佐々木優作。一年A組……は知ってるね。君は?」
「ああ、そういえば自己紹介してなかったね。私は鯵白響(あじしろひびき)。隣のクラスのB組」
僕は思い切り顔をそらした。
噓でしょ? 流石に入学後二月で振られてる――告白すらしてない――なんて思いもしなかった。
脈どころか心停止してるくらいこの子と彼の間に脈は存在していないことになる。
本当に幼馴染? 実はお互い存在を認識してることを幼馴染と言ってない?
「やっぱりベイブ●ードとか遊●王とかミニ●駆に全力注いでるのがダメだったかな、この前ショップ大会で優勝したのもダメだったかも……男友達としか認識してないのかな……」
「色気のない理由出てきた」
なにこのホビーアニメの申し子。
ホビーアニメだったら君ヒロインだよ。
だが残念ながら現実なのである。
いくら多様性の世の中とはいえ好きな人がその多様性の一つを好きとは限らないのだ。
たぶんというか絶対に君が悪い。
「カズ君もホビーが好きなんだよ! いつも私の調整付き合ってくれるし新しいカードが出たら教えてくれるし! …………最近は音楽とかファッションとかそっち方面ばっかりだけど私に付き合ってくれるし……脈はあったと思うんだ!」
たぶんカズ君年の近い妹か娘くらいの生暖かい目で見てるよ。
このこ放っておいたら孤立しそうとか思われてたよ。
カズ君の優しさだよそれ。
カズ君のことよく知らんけど。
「そっか、僕はホビー系はてんでわからないけど優しい子なんだね彼は」
たぶんもう興味なくなってるけど幼馴染がハマってるものを否定せず付き合ってくれてるあたり本当に優しい。
僕の中でまだ何も知らないカズ君への評価は鰻登りだ。
「わかる!? そうカズ君は優しいの! 私を否定しないし他の女の子が私の趣味を否定しても庇ってくれたし! 私がお母さんにいい加減おもちゃを卒業しなさいって言われた時も『響が好きなものなんです。あまりお子さんの好きなものを否定しないで上げてください』って言って説得もしてくれたんだよ!」
「本当にいい子だね!? もう僕の中でストップ高くらいにはいい子だよカズ君!」
「でしょでしょ! カズ君は天使! カズ君は私の最高の幼馴染! あっ、ポテトきた。うまうま」
店員さんがポテトととコーヒーとオレンジジュースを持ってきたので一旦話を中断する。
見れば来た端からポテトをバキュームカーが如く口の中に放り込んでいく響さん。
そういうとこだと思うよ? 君が異性扱いされてないの。
というかシェア目的じゃなくて君一人で食べるのねポテト。
見る間にポテトが半分になった。
僕はなんとも言えない気持ちになりながらブラックコーヒーを啜る。
ここのコーヒーはとてもうまい。
今まで飲んだコーヒーの中で断トツだ。
だけどもう少し、もう少しましな気分で飲みたかったものだ。
なんだこの蝶になると思って飼ってた芋虫が実は蛾だったみたいな気持ちは。
もう少しこう、彼女を慰める感じになると思ってたのに君実はそんなに落ち込んでないだろ? なんで落ち込んでるのにそんなに爆食できるんだ。
やけ食いか? やけ食いなのか? でも凄い幸せそうな顔だな、じゃあやけ食いと違うか。
あ、ポテトなくなった。
「なのに! カズ君はほかの女の子と付き合っちゃった!! 私なにがダメだったのかな!? 私こんなにもカズ君大好きなのに! あっパフェ来たうまうま」
「そういうとこだぞ」
ポテトを食い終わり、急にスイッチが入ったかと思えばパフェに幸せそうに舌鼓をうっている。
こいつ実はそんなに同情してやる必要性ないな?
ある意味男らしい彼女に、僕はもう真面目に話を聞く気がなくなってしまった。