【旧】地方創生のアステリア   作:金木桂

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1-春先の財政難

 

 

 皇都レーヴェは『シードゥス共和国』の王都である。

 南部のレーヴェ海に面したこの都は年中温暖な気候であり、さざめく潮風は人々の喧騒を濯ぐように柔らかく吹き付ける。

 海沿いということもあり海産物が名産物なのは言わずもがな、地理的にこのアダマース大陸の物流の分岐路、そして大海を挟んでオルプ二ノン大陸への玄関口でもある。

 

 必然的にこのレーヴェには人が集まる。目的は種々様々。旅人、行商人、役人、冒険者。人が集まれば物も集まり、物欲を刺激されて消費も加速し、貨幣社会においては金が循環する。

 

 ついでに経済的に潤っているのでレーヴェの社会保障制度も整っている。名帝とも称される現在の12代皇帝『ルクニクス・シードゥス』はレーヴェの住民にもその好景気を還元した。皇帝が施行した政策は幾つかあるが、代表的なものは銀貨年20枚未満の収入の住民には使用用途を生活費に限定した貧困救済制度、8歳を超えた子供に無償で学校に通わせることを可能とする教育制度辺りだろうか。その他にも住民に寄り添った政策を実施、今のレーヴェは誰しもが人間らしく生きて行ける世界で最も先進的な都市と言える。

 

 人々はレーヴェのことをこう言った。『金海の理想郷(アルム・ゲネシス)』と。

 

 ───そして、そんな夢と希望と公共福祉に満ち足りたレーヴェから遠く遠く離れた麗しき我が故郷。馬を走らせれば約1カ月。具体的にはレーヴェから北東に山を4つ、巨大な湖を1つ超えた先に位置していて、国内の人間からは100人中95人に「え、そこどこ? もっかい地名聞いていい?」とか言われるくらいには辺鄙な地方都市。いや、地方都市と言うのも烏滸がましいほどクソ田舎。その名も『クレスケンス』。

 

「どうしましょうスノウ様、お金と万策が尽きました!!」

「うーん。隠居していいか?」

「駄目ですが!?」

 

 俺はそんな寂れた地方都市で、若干18歳にして領主をしている。

 

 

 

 なんで俺みたいな18歳の若造が領主になったかと言えばそりゃまあ当然事情がある。

 とか思わせぶりなことを言ってみたが、領主を継ぐことになった理由はただの血筋だ。世襲貴族のありきたりな話である。

 

 俺の家系、クレスケンス家はその名の通り代々この地域を統治する貴族である。

 少し前までは長男の俺、領主たる親父の2人で暮らしていた。主に親父が領地経営の指揮を取り、俺ともう一人いる臣下でその補佐(といってもやることなんてほぼ雑用だったが)をする。慎まやかな暮らしだった。

 

 しかし親父兼前領主、バルコット・クレスケンスが病気で死んでしまったことで状況が一変する。この国は基本世襲制だ。その原則に基づき、親父の唯一の子供であり長男坊である俺、スノウ・クレスケンスはその地位は引き継ぐことになってしまった。本意ではない。

 

 なにせ俺はこんな常に素寒貧な地域に囚われるのが嫌だった。今はまあいいとしよう。しかし生涯ずっとここで生活しようだなんて瀟洒な気持ちは俺には欠片も搭載されておらず、ましてや過疎地域の領主だなんて俺は真っ平ごめんだ。そう思った俺は色々と考えた結果、領主としての強権を発動してクレスケンスに選挙制を導入し、政治や経済は当選した政治家に任せて俺自身は早々に隠居でもしちゃうかと画策した。だがそれも唯一無二の臣下であるエウテュ・ミリアムに『前例の無い制度を国家の承認無く勝手に施行するのは愚行かと思います! 況してや仮想敵国の政治制度など取り入れてしまえば私達は聖帝から国賊認定されても……うわわわ辞めましょうスノウ様! このエアテュは嫁入り前に死にたくないです!』と精一杯陳言されて撤回に追いやられることとなる。エウテュの言葉は最後の方こそ私情が山程籠もっていたのの全体的にはご尤もな意見でもあったので、山千海千の葛藤を駆け抜けて、最終的に俺がこのクレスケンス領を引き継ぐことになってしまった。なってしまったわけだ。断じて俺の意志ではない。

 

 ただ、俺も流されるまま無抵抗で領主になったわけじゃない。

 その後も内政だの経済だのの陣頭指揮を嫌がった俺は最後の抵抗として、領主になるのは百歩譲って諦めるとして、じゃあせめて内政は他の奴にやらせようと賢老という形で事実上の領主になりたい候補者を募った。これに関しては前例がある。この国には領主の血筋ではなくとも後継者に問題がある場合などは賢老として外部の人間が領主を補助する慣例があった。つまり宰相みたいなもんだ。上手くやれば内政を則って事実上の権力者になることだって難しくはない。

 俺は18歳の若輩者で、賢老が置かれても不思議とは思われない程度にはガキである。他の貴族からの突っ込みも入らないだろう。

 

 それとは別に、賢老を立てる人材の目星もほどほどにつけていた。

 ご老人たちだって一回り二回りどころか孫くらいのガキが突然地域を治めることになれば絶対に抵抗感があるだろう。俺は老人優遇などするつもりはないし、税金だってガンガン上げてやる。だからそれが嫌なら内政とか予算策定の権限とか丸っと全部渡してやるから俺の代わりに領主やってくれ。権力を存分に振るっていいぞ。俺の平和な生活の為であればちょっとくらいのお目零しもしてやろうじゃないか。だから頼むからやってくれ。

 

 斯くして、俺は自治立法権をやる気のある老人に渡し、俺自身は名目上の領主に成るべく緻密な交渉を複数人と交わした。

 まあ結果だけ言えばそれも失敗に終わったんだが。

 第一候補者として考えていたクレスケンスで賢者として名高いピピル爺からは『ワシは老い耄れ、それにクレスケンスの血も流れてございませぬ故、貴方様だけが領主となるべき御方なのです』と頑なに拒否されて目論見が簡単におじゃん。他も自分には不相応とか言って全滅。全員に断られてから思い出したけど、この町に野心家なんて一人もいないんだよな。野心家は全て皇都に行っている。加えて地方田舎のご老人ってのは大概変化を嫌うから頭も固い。実績があろうが簡単に例外措置を認めるほどの臨機応変さ無いのだ。そんな柔い頭があるならばクレスケンスじゃ生きづらいだろうしそれはそれでやっぱりそいつも皇都とか行ってる。人材の流出エグすぎて涙が出そう。あと普通に誰だってこんな僻地の領地経営とかしたくないってのも多分ある。絶対に苦労する未来が鮮明に見えるもの。

 つまり爺共が俺を推すのは消極的推薦である。

 領主なんて誰でもいいのだ。

 誰でもいいからこそ、最もその役割を押し付ける大義名分が存在する俺にお鉢が回したと。

 うん。ざけんなクソが。理解はするけど恨むぞ爺共。

 

 そうして結局俺がクレスケンスの領主となってしまった。

 なりたくないけどなってしまったのだからしょうがない。

 

 まあ無理もないことだ。

 土地自体に魅力が無さすぎるのが敗因なので、本当にどうしようもない。

 

 今回はクレスケンス在住の老人だけに交渉は持ちかけたが、もし仮に領地を持たない野心的な下級貴族に話を振っていたとしても、少しでも回る頭があればクレスケンスの領主になりたいと思わないだろう。

 何せこのクレスケンスはド田舎ってだけじゃなく、赤字続きの限界自治体という側面も持っている。

 

 立地としても山と湖に囲まれた交通便の悪い町だ。商業道路に向かない細い山道を除けば、他地域に繋がる主要な陸路は東西に2つしかなく、名産物と言えるものも無ければ娯楽も無い。そのため主な産業は湖の魚と林業で、歳入は年白金貨300枚ほど。これはシードゥスに39ある自治体の中でもダントツ最下位。対して歳出は白金貨400枚。そのうち200枚は8年前に頓挫した忌むべき計画『クレスケンス銀山博物館周辺開発計画』の借金だ。内容としては昔あった銀山を中心にしてクレスケンスを盛り上げようという地域復興のため打った渾身の一手だったらしい。最初こそ物珍しさから隣接地域からの小旅行客がクレスケンスに集まった。だが悲しきかな、この開発計画の目玉の博物館は張りぼてだったのだ。この博物館の展示品は既に出涸らしとなった廃銀山から集めたガラクタにどうにかこうにか在りもしない設定を捏造して価値を不当に高く見せたり、銀山自体の歴史に虚構極まりない太古の神話を組み込んだりと、かなり胡散臭い商売をやっていたらしい。加えて銀山なんてこの国でも幾つか他にも存在するし、あまり物珍しさを覚えるものでもない。

 

 結末は誰もが想像できる通りだ。銀などというあり触れた資源が目玉になるはずもなく、一大観光地になる前に人は離れ、博物館は今じゃ当面営業停止中。再開の目途は勿論立っておらず、博物館の目玉だった巨岩のような大きさの銀塊(クレスケンス銀塊とかそれっぽい名付けをされていた。当時は皇国で一番大きな銀塊なんて嘘かホントか分からない触れ込みをしていたらしい)は資金繰りのために当の昔に売却済み。今となっては親世代の負債しか現地にはありません。何でこれでいけると思った親父この野郎。

 

 そんな暴投政策を実施したクレスケンスの将来は言うまでも無くお先真っ暗だ。若者の多くは出稼ぎという名目で15歳を超えると近隣のマシな都市か皇都レーヴェへと出稼ぎに行ってそのまま帰ってこない。こういった皇都一極集中構造の憂き目に遭っているのはクレスケンスだけでないが、それでもここ以上に若者を搾取されている地域は見たことが無い。まあそんな感じでここ10年以上はそんな感じで若者の草刈り場と化している。言ってしまえば地方田舎の宿命だな。おかげでここ最近高齢化率は40%を超え、現状比率が高まることはあれど減じる可能性はただ一片の可能性すら無い。断じて無いのだ。

 

 誰一人としてクレスケンスの自治をしたくない理由なんてもう自明の理だろう。

 この地に愛着がある老人すらもう手の施しようがないと諦めて、せめて自分が生き永らえている間は存続してくれればそれでいいと考えていて、過去の経験からか俺にも無理しなくていいと助言する始末である。穏やかな風が流れているとでも言えば聞こえはいいが、実態はいずれ死する時をじっと地に寝転がり待つだけの仮死状態の町なのだここは。

 

 クレスケンスがいつからこうなってしまったか言われると俺は明確には知らない。一つ言えるならば生まれた頃から全体的に不景気ではあったが。

 少なくとも俺が三か月前、正式に領主となって財務諸表を確認した時には一秒で「あ、これ滅亡します」と確信が持てるくらいもうとんでもなく自治体は終わっていた。

 

 え、何が終わってるかって? ハイここからは講義の時間。

 

 まず単純に借金。垂れ流し続けた赤字総額は五桁に届こうかという額で、白金貨を積めば多分天に届く。でも俺の方が心労で先に天に飛びそう。

 次にこの状況。既に共和国からの財政健全化支援は打ち切られ、皇帝からも見放され、中央に税金を納めることだけはしているものの何処からのテコ入れも望めない。領主として他の領主に資源を売ることも可能だが、銀山最盛期なら採掘権とかあったから良かっただろうが、今じゃ山岳を国境線としたこの地域はあまりにも湖と山間部しかなく、取引を行える周辺地域の領主も似たような土地も沢山持っていて需要が無いので売却交渉も出来ません。ただただつらい。

 追い打ちとばかりに俺の臣下はただ一人、エウテュ・ミリアムのみ。見た目はいいよ。青髪色白巨乳で可愛くて頭が良くて頼りになる自慢の幼馴染だしな。でも流石に頭数が足りてない。ハーレムって意味じゃないぞ? 俺も男の願望を否定する気はないけど普通に領地経営をやる上でもっと臣下が必要だ。たった一人だぞたった一人。商人だって部下何十人も引き連れてるのに仮にも貴族が一人だけとか考えるだけで鬱すぎる。年一の共和国大議会(ポロス・シュノドス)でどんな嫌味を言われるんだか。

 

 まあそんな先のことを考えても突然大金が降ってくるわけでもない。妄想は自由だが実際に降ってくるのは虫と大雨くらいだ。現実は世知辛い。

 

 当座の問題は金だ。莫大な資金だ。金が無ければ復興はならない。復興しなくては俺が結構困る。そこで資金繰りを考えなくてはならない。

 親父が爆死した頃のような貯蓄なんてとっくに無いから金がかからず、それでいて儲けられる方法を考えなばるまい。

 しかしこれがとても難しい。商売においてどうしても種銭というものは必要不可欠だからだ。種銭無ければ金は増えない。かつ、種銭があっても額がショボければ稼げる額もショボくなる。

 

 昨日までの俺はその前提の下、一先ずは無理矢理今年度の予算から浮かせた白金貨2枚で勝負だなと考えていた。でもエウテュは言った。『お金と万策が尽きた』と。もう駄目かもクレスケンス。

 

 いや、待て。俺は確認を怠っていたな。

 

「当座の見通しだと春までは持つくらいの金はあったよな?」

 

 今にも泣きそうな目で「うっうっ……」と漏らしていてるエウテュに確認してみると、俺の座る執務机までやってきてはコーヒーを勝手に飲み干した。おい、それ俺のだぞ。臣下の癖して図々しい。

 

「先日の大雨で冠水やら崖崩れやらで壊れたシュツット山道の復旧工事で消えちゃいましたよそんなお金! 残りは銅貨しかありません! そもそも白金貨2枚で持たそうっていうのが土台無理な話なんです!!」

「無理だろうと持たせなきゃならなかったんだなこれが。あーでもどうしようか」

「知りませんよ! 終わりです終わり! 人類総限界社会です!」

 

 エウテュが頭を抱えて盛大に咽び泣きながら言った。大袈裟な反応だなぁと数秒眺めて気づいたけど現状をちゃんと直視したら大袈裟でもないかもしれない。だってもう金貨1枚、いや銀貨1枚すら自由に使える公的資金は最早クレスケンスには存在しないのである。恐らく銅貨も大した枚数はないだろう。終わってるなクレスケンス。

 

「冷静になれってエウテュ。しょうがないだろ。シュツット山道はウチに2つしか無い基幹道路の1つだ。壊れたまま放置は出来ない」

「せめて復旧工事の費用をケチるとかやっぱりするべきだったんじゃないかなと思いますが!」

「大して節約にならんだろ。それにシュツット山道が使えない打撃の方がデカい。あそこから西側に売ってる物が全部パーになる。それに多少その費用をケチったところで、機会費用の喪失を考えれば結果的にウチの財布事情はトントンくらいにしかならん。てか寧ろ商人からの信頼が"交易路すらマトモに整備できない自治体"として大いに下がるよな。なら頑張って直すしかないだろ」

「分かってますけどひもじいんですよ!」

 

 貧者の渾身の叫びだった。俺もそれに頷いた。100回は心で頷いた。金が無ければ何も出来ない。三食クソ硬い雑穀パンとその辺で取った肉風味に味付けした山菜ステーキで我慢しなくてはならない。厳しい社会経済活動の基本原則だ。

 

「あー金が欲しい。天まで積めるほどの白金貨が欲しい。そうしたら借金なんて1日で返してやるのに」

「スノウ様まで現実逃避しないでください……私の方が現実逃避したいんですよもうぅぅぅぅ。現実を見て借金は気長に返しましょう……」

「いやでも八割方は親父が原因じゃん。親父が銀山を軸にして地域を盛り立てるとかアホなこと企てたのが原因じゃん。俺がそのケツを拭くのおかしくね? 親の負債を子に継承するのはおかしくね?」

「それは私も思いますけど諦めてください! 個人間の借金と違って借主はクレスケンス、貸主はリュンネなんですから無かったことには出来ません」

「だよなー。あ、俺閃いた。どうにかして貨幣価値下げれないか? リュンネから借りてる白金貨約5000枚の実価値を銅貨10枚くらいまでに下げて楽々返済しちゃおうぜ。そうだな、例えば白金貨の純度を下げた悪銭を流通させるとかして信頼を棄損させるのはどうだ?」

「ホントに私達逆賊になっちゃいますよスノウ様の馬鹿! そもそも悪銭を作るにもお金が必要です!」

「ですよねー。因みにエウテュ、魔法で石ころから黄金を錬成できたりは」

「しません!! アホなことを言ってないでちょっとは真面目に考えて下さい!」

 

 しまった、怒らせてしまった。

 一応貨幣純度を下げた悪銭を流通させる件は冗談で言ったわけじゃないとは心の中で釈明をしておく。確かにバレてしまえば犯罪としてしょっ引かれるが、逆説的にバレない犯罪は犯罪じゃない。況してや悪銭の氾濫が起こるケースは大抵の場合、経済が脆弱になった国家による無計画な増産が原因だ。次点で犯罪組織による偽造貨幣か、敵国による経済的侵略か。その辺が目晦ましになって、まさか吹けば飛ぶような地方都市が手綱を握っているとは到底思わないはずだ。無論証拠を握られなければという条件付きではあるし、それ以前に悪銭を作って流通させる金が無いと言われれば口を噤むしかない。貧乏は辛い。

 

 エウテュは朝の湖畔に散らばった光彩陸離を落とし込んだみたいな瞳を俺に向けたまま、暫くはぷんすかと肩を上下に動かしていたが、やがて大きく鉄の塊のような溜息を床に落とした。

 同時に俺も結論が出た。

 

「どちらにしても、借金を増やすしかないか」

「スノウ様、借金嫌ってませんでしたか?」

「あったりまえだろ。好き好んで借金する奴がこの世界のどこにいる。それでも金が無いと選択肢なんて無いに等しいんだ。借りるしかないだろうよ」

「借りれるんですか?」

 

 軽い口調で放たれたエウテュの言葉だったが、すぐに鉛色の沈黙が降りた。

 東で隣接しているリュンネの領主からは去年の時点でこれ以上貸すことは出来ないと通達されている。領主が一度口にした言葉をひっくり返すとは考えづらい。というか貧弱経済体を相手によくここまで貸してくれたなリュンネ凄いというのが正直な感想だ。今後は段階的に返済する契約になっており、今年の末までに白金貨を50枚返さなくてはならないことについては一旦忘れることとする。

 

 皇都レーヴェは論外だ。祖父の代から支援金をたらふく下さいとせがみ倒すだけせがみ倒して、その金で経済状況が改善したことは一度も無く、あまりの限界地域っぷりに何年も前に見限られてしまった。

 

 従って消去法的に新規で何処かから借入できればいいんだが、ウチみたいな滅びゆくだけの自治体に資金提供してくれる所なんてまあないはずだ。他の領主、金貸し共、豪商たち、須らく首を横に振る未来が見える。返済どころか金利すら期待できないと思われているだろうしな、至って合理的な判断だ。

 

「いざとなったらこの領地売っちまうかー。魅力は無いけど最低限の資源あるし、二束三文なら買い手つくだろ」

「駄目ですからね! 先祖代々の土地を何だと思ってるんですかスノウ様!」

「限界集落一歩手前の枯れ葉シティー」

「領主が言ったらダメなやつですよそれ! もっと無いんですか家紋のプライドとかは!」

「それで金が無から湧いてくるなら幾らでも貴族ぶってやるさ。あ、そうだ。エウテュ、お前俺の代わりに領主やるか? 俺は一向に構わないぞ」

「構わないというかスノウ様がやりたくないだけでしょ! 面倒を私に押し付けて婚期を遅らせようとしないでください!」

「でも貴族になれば玉の輿を狙えるぞ?」

 

 エウテュは途端に顔を伏せてもじもじと考え始めた。

 

「ううぅ……ちょっと良さそうとか思った自分の浅ましい欲望が恥ずかしい」

「まあこんな過疎地域の領主と婚姻を結ぶメリットなんて無いから、可能性はそうだな、星が天から降ってくるくらいの確率くらいはあるかもなあ」

「未婚一直線じゃないですか!? 嫌ですよ私! このエウテュは将来、誰でもいいのでお金持ちの男性に嫁入りして毎日メイドさんに雑事を任せながらぐーたらえーたら管を巻いて生きるって目標があるんです!」

「大概だよなぁお前も。なら都会に行きゃいいのに」

「私はこの町の方がいいんですー。人混みは肌に合わないですもん」

 

 不意にエウテュの視線が窓の外へと向かう。つい目で追ってしまった。外は春の風が新緑を揺るがして、木々の隙間を埋めるように赤や青や白や黄色、色とりどりの花弁が宙で散っていく。この町特有の光景で、この地域で自生するテンペルートの樹になる果実の花がこうして景色に彩りを与えるのだ。エウテュはこの景色が好きらしく、毎年この季節になると度々静かに花が成って風に乗っていく様子を眺めている。

 

 因みに俺はこのテンペルートの樹を輸出しようと考えたこともあったりする。領主になった初期の頃だ。ただ調べてみると、不思議なことに他の地域へこの樹を植林すると果実はなれど、白い花が普通に咲くのみだという。なぜクレスケンスではこんな何色もの極彩色の花を作るのか。この町に植生に詳しい学者がいれば解析してもらってあわよくば原因を特定、量産してから大量輸出でウハウハ……なんてシナリオもあったんだろうが、そんな都合の良い現実は手近にあるはずもなく、今日も今日とてクレスケンスの春はこのテンペルートの樹で祭りみたいに華やかである。

 

 これが金になれば話は簡単なんだがなあ。

 卓上にあるテンペルートの樹から取れた果実をしゃくりと齧った。今年の春は甘酸っぱかった。

 

 

 




昔書いたやつです。
取りあえず今日中に四話だけ掲示して反応見て考えます。。
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