【旧】地方創生のアステリア   作:金木桂

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4-春先の財政難

 

 元から奢る予定だったので『ルーナの酒場』の代金はテトアの分まで全て俺が支払った。幾ら領地が金欠とはいえ貴族としての俺の個人的な財産はそこそこある。見栄とかじゃなく一人分くらいの酒代くらいは俺でも払えるのだ。

 金勘定ということもあってオリオおばさんが出てきて銅貨を渡すと、酩酊状態のまま机に突っ伏すエルフに俺は視線を向ける。

 

 さて、このエルフを運ばなくてはならない。

 てか冷静に考えたら何でこんなことを俺がしなきゃならないんだ。

 クソ、しかもエルフの癖に全然知的でも無ければチンピラみたいな奴だし……! 俺の幻想壊しやがって……!

 

 段々とムカついてきたのでテトアを俵持ち運ぶことにした。テトアは何も言わなかった。まあ寝てるし。涎が垂れていないことだけが救いだ。

 

 クレスケンスの夜道は灯りが少ない。数年前に設備更新をした際に維持コストをケチって街灯の間隔を広くした為である。おかげで街灯同士の中間地点は目を凝らして見ないと何があるかは確認できないレベルで暗い。お陰で石畳が歪んだ箇所に足を引っかけて、一瞬だけ体勢を崩しかけた。

 しょうがない、魔法使うか。

 

「地から天へ捧ぐ祝詞を以って捧げる、火の神に願うは罪を焼べる業火、踊り子舞い舞い足跡灼けて火を点せ───ファイア」

 

 左手に先程テトアがぼんぼん出していたのと同じような火球が発現した。これで視界が確保出来た。

 テトアは一句詠唱というか無詠唱だったのに対して、俺は通常詠唱。つまり一節詠唱だ。炎魔法は得意って訳じゃないし、それに一句詠唱なんて使える人間は早々いない。エルフであれば精霊魔法で容易に使えるが、人間が同じことをしようと思えば緻密な魔力操作が要求される。それを熟せるのは一部の宮廷魔法使いだけだ。

 因みにこれは灯り程度の炎を出すだけの簡単な魔法だから一節で済むが、複雑な魔法やより強力な魔法を行使しようと思えば二節、三節と詠唱が長くなる傾向がある。さっきテトアが出していたものはプロミネンス……これは通常であれば三節詠唱の魔法だったはずだ。発現するものはファイアと似た形ではあるがファイアの何十倍も火力が高いガチガチの攻撃魔法だ。人に向ければ忽ち炭化するくらいには取扱注意な魔法である。そう言った点を加味すればエルフってのは本当に魔法に秀でた種族なのだと否が応でも実感してしまう。

 

 仮にもこの地域の領主な訳で、家はメイン通りの途中にある。

 家の中に入って、照明器具を付ける。魔力を帯びた淡い水色の光が床を照らす。エウテュが魔力補充したんだろう。魔力灯は魔力を補填さえすれば無限に使えるって言うコンセプトは良いけど、照明の色が使用者の魔力光に依存してしまうのだけは頂けない。ラブホかっての。この為だけに白とか橙色の魔力光を持った奴を雇用したいが、そんな金は流石に無いしなあ。当分は我慢するしかない。

 

 玄関から最も近い二階の客室に寝かせる。自分が寝かされたことには全く気付かないようで、羨ましいくらいすやすやと眠っている。この時期でも夜は冷えるので布団を掛けてやった。

 寝かせてから気付いたが、テトアの顔をちゃんと見たことなかったな。

 好奇心を刺激された俺はテトアの頭をすっぽりと覆っていたフードを取って、顔を確認してみる。

 

 フードを退けた瞬間、絹みたいな長い銀髪がサラサラとベッドへ流れ落ちた。

 顔面に乗ったパーツは左右対称で、高い化粧水や美容液をどれだけバシャバシャと付けまくってもここまで漂白されないだろうって程に肌は透明感がある。毛穴とかは全く見えない。世の女性からすれば羨望の眼差しを送られそうなほど醜さ1つない肌環境だ。

 今は安心しきった様子で瞼を落としているが、きっと起きていたら相手を剃り落とすような鋭利な瞳をしているんだろう。

 何と表現すべきか、全体的にもう文句の付けようも無いくらいに美少女だ。流石エルフ。あんだけ口が悪かろうが容姿には恵まれているらしい。何日か風呂に入っていない野生っぽい臭いを除けば高貴さを感じさせる出で立ちだ。

 まさにThe エルフって見た目をしている。

 

 そんなことを考えたのが良くなかったのが、不意に脳内で記憶が弾けた。

 妹と昔、エルフがどんな種族かという議論を交わしたことがある。妹が典型的な美男美女しかいない種族と主張するのに対して、俺は現実的に考えれば人間と容姿は変わりないと答えた。目の前を見る限りではその解答は妹が正しかったようで。

 これを妹にも見せてやりたいな……。

 

 俺はテトアに一瞥すると、そのまま部屋を出た。

 

 翌日は朝早くに起きて身体を動かした。

 毎朝こうして剣を振り、魔法を行使して身体が鈍らないようにしている。領主にそんな訓練が必要かと問われれば、クレスケンスだからと言えよう。

 クレスケンスは北部にあるモピュタ山脈を隔ててスワエリ六協王国との国境を抱えている。30年ほど前にスワエリとは戦争をしていた頃はこの付近が最前線で、当時の領主も戦線に出ていた。現在は戦闘こそ起きていないがその頃結んだ停戦条約が生きており、あちらさんの出方次第ではいつ戦争が再開してもおかしくない状況下だ。戦争を間近で見た親父から、いざという時に先頭で戦えるよう厳しく躾けられたもんで、親父が死んだ今でもこうやって身体を磨くことは継続している。

 

 日課の運動を済ませ、井戸水で身体を拭き終えてゆっくりと朝飯を食べているとエウテュが通勤してくる。エウテュは住み込みではなく実家から通っている。俺の家はエウテュの実家から然程遠くなく、またエウテュ自身も基本的に毎日実家に帰りたいと考えるタイプの臣下なので無理に住み込みにさせる気は今のところは無かった。それにこんな思春期の男と暮らしたいとは思わないだろうしな。俺は雇い主だからそういう時代に沿った配慮だってするのだ。

 

「エウテュ。そうだ、頼みたいことがあるんだが───」

 

 黒パンを野菜スープに浸しながらエウテュを見れば、何故か大いに驚いていた。

 

「ま、まさか金策が思いついたんですか!?」

「いや、それはまだ」

「なんだぁ……てっきりこのエウテュ遂に難題が解き明かされたのかと。でもそう簡単じゃないですよね……」

 

 エウテュは明らかにガッカリとした様子を見せて景気の悪いため息を吐き出した。それも早急に考えなきゃならないことではあるが。

 

「二階の小部屋に耳尖(じせん)の民を寝かせてるんだ。ちょっと様子を見て来てくれないか?」

「…………女性ですか?」

 

 今度は刺々しい視線。何で性別なんて聞くんだろうか。別に関係ないだろうに。

 

「女だけど」

「ふ~ん! ふ~~~~~ん! 女性を連れ込まれたのですかスノウ様!」

「いや言い方悪いって。何もしてないって」

「耳尖の民と言えばどの方も容姿端麗とお聞きしますしね! スノウ様も色をお知りになる年齢ですからね!」

「どの目線から言ってんの? お前、俺の2個下じゃん」

「性に年齢など関係ありませんから!」

「本格的に何言ってんのか分かんねえんだけど……」

 

 暴走し始めたエウテュを抑えつけながら、昨日の説明をする。全て話終えると、まだ疑懼の色を瞳に宿しながらも一応は信じることにしたみたいで、不承不承と言った様子で口を尖らせる。

 

「ではスノウ様は無謀な山越えに挑もうとしたテトア様を介抱するため、屋敷へ連れ込んだと」

「だから連れ込んではねえっての! ともかく女のほうがあっちも都合良いだろうし、頼むぞエウテュ」

「承知しました。色ボケスノウ様」

「給料下げんぞコラ」

 

 エウテュはベッと長い舌を出して一睨を飛ばすと、早足で執務室から出て行った。俺はあの青髪がホントに臣下か偶に疑問に思うことがある。

 

 余り美味くない手作りの朝飯を胃に詰め込んだあと、溜まった書類仕事に埋もれていれば、ノックも無く部屋のドアが開いてテトアが現れた。今日は黒い外套は着ておらず、銀みたいに輝く長髪が靡いており、格式良さげな紫の目が俺を捉えていた。

 

 それにしても、どうも狩人のような服を着てるがエンドリッケの民族衣装だろうか? 肌色が少し多いように見える。森林で動きやすいように機能性を重視した結果か、取り敢えずエロいのであんまり公衆の面前では見せてほしくない格好だ。

 

 加えて昨日は外套で分からなかったが、今の服装だと身体のラインがはっきりと出ていて、似合わないことにこいつはグラマー体型だった。それもまた俺が別の服を着てほしいと強く思案するのに拍車を掛けていた。目に毒すぎる。こちとら思春期真っ只中なんですが

 

 部屋に入ったテトアは俺の姿を認めると、第一声を発する前に頭を下げた。

 

「昨日は大変失礼をした」

「よくも僕を酒で酔わせて剰え家まで連れ込んだな殺してやる───とかじゃないんだな」

「エンドリッケの民を愚弄する気か? 殺すぞ人間」

 

 あ、はい平常運転ですね。ちょっと安心した。いや罵倒に安心するのも変なんだが、こいつからしおらしく謝罪されると違和感が酷い。

 

「まあいい。僕たちは恩知らずじゃなければ、そのくらいの物言いで一々目くじらを立てるほど狭量な器でもない」

 

 その割には何度も魔法使おうとしてきたよな……と言う言葉は話を面倒にしそうなので喉の奥底で呑み込んだ。

 

「それで何の話をしていただろうか僕とお前は。途中から全く覚えていないんだが」

「途中までと言うと具体的にどこまで記憶あるんだ?」

「お前が領主の権限で北に抜ける山道を封鎖するとかどうとか言ってたのは記憶にある」

「ああ、言ったな。じゃあお前の仕事を見繕ってやるみたいな話は?」

「なんだそれは。記憶にないぞ。何故人間の下で僕が働かなくてはならない」

 

 テトアは眼を白黒とさせて本当に不思議そうな口ぶりで言った。

 なるほど。そこら辺りで記憶が蒸発してるって感じか。確かに話し方も怪しかったしな。

 ともかくだ。

 幾ら人間を見下そうがテトアには山越えの装備が無く、それを整える金もない。

 

「金が無いんだろ?」

「それは……認めるが」

「なら働けよ。簡単だろ。お前には魔法だってあんだし金稼ぎくらいは楽勝だろうに」

 

 金が無いなら働く。

 これ以上ない正論にテトアは表情一つ変えなかった。懐疑心を抱いているのだろう。その抜身のナイフみたいな瞳で俺をじっと捉えて離さない。

 やがて、ぽつりと小さく唇を戦慄かせると、明確な響きを伴って空気が震えた

 

「……スノウ・クレスケンス。お前のことは一生恨むぞ」

「はあ? 何でだよ、ってお前ちょっと待てよ!」

「世話になったな」

 

 俺の静止する声も空しく、テトアは颯爽と翻して部屋を出て行ってしまう。

 何だってんだ本当に。プライド高すぎだろこの暴力エルフ。あーもう俺知らんからな。

 

 ひっそりと背後に控えていたエウテュが大きく丸い目をぱちくりとさせた。すれ違ったテトアの後ろ姿をキョトンと見送った後、入れ替わりでおずおずと部屋へ入ってくる。

 

「あのあのあの、どうされたんですかあのお方は? 凄い怖いというか、雰囲気が普通じゃないんですが!」

「耳尖の民で、故郷に帰る旅をしてるらしい」

「故郷ですか?」

「エンドリッケだってよ。スワエリにある」

 

 そう言うと、少し引っ掛かりを覚えたようにエウテュが唸る。

 

「エンドリッケ……エンドリッケ……」

「スワエリ南西の森林だよ。耳尖の民が暮らすっていう」

 

 地理的に捕捉をすると、エウテュは首を横に振った。場所が分からないわけじゃないらしい。

 

「いえそうではなくてですね。なんかエンドリッケと言う言葉をどこかで聞いたことがあるような気がして……なんでだったかなあと」

「あー多分俺が子供の頃によく話題に出してたかもな」

「……あ、思い出しました! エンドリッケはスノウ様とアステリア様が良くお話しされていた地域です!」

 

 苦悶から解放されたかのようにエウテュはパッと笑顔を輝かせた。

 

「あったな、そんなことも」

「良く"えるふ"のお話を二人でされてましたよね。懐かしいです」

「よく覚えてんなエウテュ」

「忘れられるわけがないですよ……。アステリア様……」

 

 もう何年も前だというのによくもまあそんな細く覚えてるもんだ。

 そう思って見ていれば、エウテュは浮かべた微笑みを引っ込めて、悲哀そうな表情へと変化させる。

 今にも雨が降り出しそうな曇天を滲ませた瞳を下に向けて、感情を抑える風にしてエウテュが右手を胸に当てた。

 

「アステリア様は……アステリア様は帰られませんね」

 

 若葉から滴る朝露みたいに零れ落ちた言葉に、心が僅かに軋んだ。

 

 アステリア、本名はアステリア・クレスケンス。俺の2個下の妹。

 黒髪だった俺と違い、母親の血が濃かったアステリアは夕陽のような髪色をしていて、常に元気で動き回る喧しい妹だった。不思議なものを見つけると俺の裾を引っ張りながら野を駆けずり回っては動物を追って、地を這いつくばりながら植物を観察する。記憶の中のアステリアは動いてないと死んでしまうマグロみたいな妹だった。

 俺とアステリアは生まれた頃から仲が良かった。性格がぴったりと嵌っていた俺たちは、常にくっついてはお互いを横に置いて日々を過ごしたもんだった。何せ血統さえ許すなら将来的に俺は妹と結婚していたかもしれない───なんてインモラルな考えに想いを馳せるのは決して俺がシスコンだからって理由だけじゃない。

 あれは俺が14歳でアステリアが12歳の頃で、冬の寒さに震える暖炉の前だった。

 アステリアは毛布にくるまりながら、それでも寒かったのか抱き着き虫みたいに俺に引っ付きながらこんなことを言った。

 

『お兄様。もしもだよ、もし私がどっかの貴族に政略結婚の道具として嫁ぐことになったら絶っっっ対に私を攫って国外脱出してね!』

『いやいや妹よ、突然どうした? 寒すぎて頭バグったか?』

『バグってない! 私、お兄様以外と結婚する気が無いから。お兄様以外は向こうの話が通じなくて、つい口にする度に愛想笑いで誤魔化すのつまんないし……』

『調教すりゃいいだろ。別にお前の将来の旦那が大人じゃなくて子供って可能性もあるだろ。光源氏計画とかすりゃいいじゃん』

『ヤダよ! 言葉だけ学習させたって中身知らないんだから低性能のAIみたいな反応しか返ってこないのが目に見えてるじゃん! あと普通に好きだし、ラブの方で』

『はいはいはい。俺もラブだよラブライブ』

『もーーーー! 照れてるからって雑に誤魔化すの禁止です!』

 

 思えば思うほど懐かしい。

 今となってはアステリアの本意は分からない。

 本気だったのか、冗談だったのか。

 俺の心にデカい爪痕を残すだけ残して逝きやがって……。

 

「そろそろ三年が経ちますね」

 

 エウテュの言葉に引き戻された。

 そうだ。どれだけ懐かしんでもアステリアはもういない。

 3年前、当時13歳だったアステリアは死んだんだ。

 捜索隊に参加していた俺が第一発見者だった。アステリアは見つかる三日前、俺の風邪を治すための薬草を取りに冬山へと赴いた。火魔法が得意なのもあって普段から冬山自体には遊びに行っていたアステリアだが、その日は帰らず、次の日には捜索隊が出された。二日後には俺も回復し捜索隊に参加、三日目に俺はアステリアだった遺体を見つけた。

 クレスケンスの町から北部に大体20分ほど山間に進んだ何もない場所で、雪に埋もれてアステリアは冷たく眠っていた。

 

 遺体は綺麗なもんだった。傷は無かった。刺し傷も打撲も何一つ。だから俺は寝ていると思った。しかし目を覚まさない。冷え切った肌に、息一つ吐き出されない唇。目は閉じ切っていて、自分が死んでいる事にすら気づいていない風貌に涙すら浮かばない。

 

 後から考えてみると不可解な状況であった。妹は火魔法が得意だ。だから例えば雪崩に巻き込まれていたとしても、子供とはいえ早々死に倒れることなどありゃしないのに。

 

 だがその時の俺はそれを見て死の原因なんかよりも、妹が理不尽に死ぬのは認められないと思った。別に世界の理不尽さに妹の死の理由を責任転嫁したいわけじゃない。ただ、俺は妹には絶対に死んでほしくなかった。生きて、人生をしっかりと完結させて欲しかった。それだけなんだ。

 

「そうだな、三年だな……」

「申しにくいことですが、そろそろアステリア様の墓石を作ってはいかがでしょう。スノウ様のお気持ちはお察ししますが、それでも未来永劫行方不明(・・・・)のままというのはアステリア様も浮かばれません」

「分かってるよエウテュ」

「スノウ様………………」

 

 エウテュは俺を見て、痛ましげな面持ちになる。そんなに哀れな表情に見えるのだろうか。……見えるんだろうな、きっと。4歳の頃から俺を見ているエウテュのことだ。俺以上に俺を知っていてもおかしくない。

 

「悪いな。でもまだ無理みたいだ。気持ちを整理するのにもう少し時間をくれ。いつかは絶対にこの気持ちに区切りをつけるから」

「……承知しました、スノウ様」

 

 慇懃にエウテュは一礼する。

 エウテュには騙しているようで申し訳ない。

 けどな、俺にだって譲れないもんがある。

 クレスケンスの復興なんか正直どうでもいい。過酷な地域だ、どうせ何をやっても問題の先送りにしかならず近い未来には滅びる。本気で地域復興だなんて俺は考えてないさ。

 俺がクレスケンスを復興させる理由なんてたった一つ。

 妹のためだ。

 俺はアステリアを蘇生させようとしている。これはファンタジーや妄想じゃない。本気だ。

 遺体だってそのために闇魔法で作った空間に秘かに保管している。

 

 妹を蘇生させるのにクレスケンスという田舎はちょうどいいのだ。

 死者の蘇生は当然ながら公然の禁忌だ。この世界のどの宗教でも、法律でも、大概は死者を蘇らせてはならないと書かれている。そういった意味で如何なる組織の監視も無いこのクレスケンスは絶好の場所だ。俺が領主と言うのもあり金以外であれば都合も付きやすい。

 

「では話を戻しましょう! ええと、テトア様でしたね。どうされるおつもりなんですかスノウ様」

 

 務めて明るい声を出すエウテュにまた罪悪感を覚えたが、一旦感情に蓋を置く。

 

「どうされるって言われてもな。どうもこうもねえよ。本当なら適当な仕事を斡旋しようと思ってたがその矢先に出てったし」

「でも初めて異性を連れ込みましたよねスノウ様。本当に何もないんですか?」

「だからねえっての。酔った相手を介抱しただけだ」

「でも"えるふ"なんですよねあの方。何か特別な感情とか抱いてらっしゃるとかは無いんですか? 本当に?」

 

 じとりと粘着質な視線をエウテュは向けて、いや何でだよと俺は思った。

 確かにエルフは貴重だし俺とアステリアがいつか一目見たいと思っていた人種ではある。

 だが実物はどうだ?

 殺す殺すと嘯く様はさまがら汚言症の小学生男児で、学術的な興味ならまだしも好意的に見れる理由があのエルフには一つもない。

 

「しつこいぞエウテュ。それともまさかお前、俺が特別な感情を抱くと困るのか?」

「別に困りませんけど? 何故そこでこのエウテュが困るという発想につながるのか分かりませんけど? 私はもっとお金持ちの方と婚姻を結び、ゆくゆくは一日の大半を食っちゃ寝を繰り返してのほほんと生きたいのですよ? そんな財力も権力も有していないスノウ様に特別な感情を抱く理由など論理的に私には存在しませんから!」

 

 必死で否定するようにやたらと早口でエウテュは言った。

 

「いや……そこまで聞いてねえし。それ本気なら都会行けよもう」

「何度も言ってますが、私はクレスケンスで生涯を過ごしたいんです!」

「じゃあ無理だっつーの。何度も言うようにクレスケンスに金持ちはいない」

「それは……そうですけど……」

 

 クレスケンスに金持ちはいないという現実を理解してるのはまあいいとして。伏目がちにチラチラと見られる理由が分からない。

 もしかして俺の手腕に期待してんのか? 

 いやいや、出来るわけないから。優位性が何もないこの土地で金持ち商人や貴族を誘致することなど100%無理だから。

 ───それに、俺個人の事情としてもクレスケンスは過疎っていた方が好ましい。

 

「諦めろ。もうちょっとしたら結婚適齢期なんだから適当に良さそうな男と結婚すりゃいいだろ」

「私に生涯不労で不自由なく暮らす夢を諦めろと?」

「そんなゴミみたいな夢さっさと捨てちまえ!」

「あー! 私の夢を今下に見て笑いましたね!? 幾らスノウ様でも許せません! 斯くなる上はスノウ様の」

 

 と、その時『ドガァァァァン!』と地と空気を大きく揺さぶる音が遠くから伝搬されてきて、俺もエウテュも間抜けた顔をした。

 大地の震動に一瞬は地震かと思ったがそれも違う。経験で分かる。揺れる前兆があまりにもなさ過ぎた。それに音も派手すぎる。今のは地上で何か大きなものが崩れたような種類の音だ。

 

「な、なんですか!?」

「……地滑りかも。前の大雨で地盤が緩んでたしな、どっか崩れたのかもしれん」

 

 推測しつつも、エウテゥを伴って足早に俺は現場へ急行することにしと、

 

 

 

 





取りあえずここまで昔の書きだめです。
続きを書くかは気分次第とさせてください。
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