大陸盗掘大隊   作:森茶民 解夏禾 フドロジェクト 山岸

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逃走

 

 

 パチパチ、ゴウゴウ。

 赤と黄色の熱気がユラユラ放たれて、襤褸切れみたいな粒子が目鼻を掠る。

 

 どうしてこんな事に……

 

 勢い良く燃え盛る我が家を、俺は呆然と見詰めつつ、そう嘆いた。

 

 

 鳥たちの囀り、草木の風に吹かれた囁き。背中の方で丸まるグランブルの温かな体温と寝息。早く磨けとせがむ癖に、次の瞬間には寝ているフォレトス。順番待ちの間、どこからか拾って来た沢山の石を浮かせては磁石にくっ付けたり、お手玉の如くそれぞれの磁石へ移したりして遊んでいるレアコイル。野原を駆け回り、舞い散る草花を叩き落しているレントラー。どこからか採って来た沢山の木の実や茸を両腕一杯に抱えて戻って来て、その中の少しをそれぞれへ分配してくれるドラピオン。

 ああ。ずっとこのまま、のんびり暮らせたら良いのに……

 

 中天の折、木漏れ日が仄かに差す大樹の下で寝転びながら、そう思う。

 ふと目を開けると、木の葉の隙間から見える空には鳥ポケモンが飛んでおり、その鳥ポケモンを追い掛ける様に何かを放っているポケモンとが空中戦を繰り広げていた。

 

 はは…そりゃ自然でも有るわな、バトルは。

 

 なんとなくその戦いを眺めていると、どうにも野性的で無い、先読み、妨害的な動きが多い事に気が付いた。

 

「トレーナー?それにスカイバトル?」

 

 珍しい。何が珍しいって、こんな人里から何キロか離れた場所に人が居るって事自体が珍しいし、そのうえバトル、それもマイナーもマイナー、本場で有る筈のカロスですらマイナーの地位を確立しているドマイナーなスカイバトルと言うのが、それに拍車を掛けている。そのうえ、片方は電撃らしき物を放っているから、タイカイデンか?

 

「ホントに珍しいなぁ」

 

 あんまりにも珍しいから、起き上がってその戦いを眺めていると、それなりに低空まで降りて来て、戦っているポケモンがやっと同定できた。

 片方は(たてがみ)が立派なピジョット。もう片方は黒っぽい色をしたピジョットであった。

 

 てっきりタイカイデンかと思ったんだけど……電撃はこのピジョットが放ったのか?

 

 暫く観察していると、黒ピジョットのトレーナー辺り、つまり黒ピジョットの背中から電撃が放たれ、鬣ピジョットに直撃した。

 鬣ピジョットは地面スレスレまで墜落したが、辛うじてきりもみ回転から態勢を立て直せた様子で、咲き乱れる花々を吹き散らしながら羽搏き、再度上昇する。

 しかし、黒ピジョットはそれを遮る様に暴風を起こし、且つ電撃がその右側を照射する事で、左へと逃げるしか無くなった鬣ピジョットに向けて、黒の方は新たにミミロップを繰り出した。繰り出されたミミロップは既に氷を纏っていて、吹雪の如き冷気の渦を扇ぎ放つ。

 逃げ場の無い鬣ピジョットは、本能的に弱点から逃れようとしたのか暴風へと突っ込んでしまい墜落。鬣ピジョットに乗っていたトレーナーは、ベルトが壊れたのか、それとも緩まったのか、草原へと投げ出された。

 すると、黒ピジョットはすかさず、投げ出された茶髪のトレーナーへと突撃するかの様な軌道でほんのりと錐揉みしながら急降下を始めた。

 

 まずい!まさか、あの動きは“ブレイブバード”!!あんなの人が受けたらひとたまりもないぞ……!!

 

 レアコイルに黒ピジョットへと“でんげきは”を放つよう指示すると、レアコイルはほんの少しキュリキュリジリジリ鳴きながら電気を溜め、黒ピジョットが水平移動に変わろうという瞬間に、軌跡だけしか視認出来ない素速さで放射状に放たれた電撃の一部が黒ピジョットに接触。その瞬間、瞬く間に黒ピジョットの身体へと纏わり付くかの様に電撃が収束して行く。それにより黒ピジョットは、その勢いのまま体勢を崩して転がる様に不時着をしたが、接地の度に光る輪郭が現れて勢いが減じて行く。

 

 電撃波には反応した様子は無かった。リフレクター?それじゃあ、あの電撃もそのポケモンか?

 

「トレーナーへの明確な攻撃は法令違反だぞ!!」

 

 グランブル達を連れて臨戦態勢を取りながら、効果が有るかは微妙な気がするが、一応言っておく。

 すると案の定「邪魔をするな!後もう少しだったってのに……!!部外者は引っ込んでろ!!」そう黒ピジョットのトレーナーが叫ぶと、同じ場所から、同じ様な調子で跳ねる様な鳴き声がしてきた。それを聞いた黒のトレーナーは、ハッとしたかの様に懐を弄って、深呼吸した時の様に肩を降ろした。

 

 おそらくあの声はマネネ、電撃とリフレクターの元。しかもあの感じ、マネネへの愛着が余程有るらしい。なんかイメージと違って梯子を外された気分だ。

 

 黒いピジョットのトレーナーは、チラリとピジョットを伺う様子を見せたが、ピジョットにはもう戦う元気が無い様子で、黒ピジョットのトレーナーは、そのピジョットから飛び降りると同時にヤジロンとオドシシを繰り出して来た。

 すわ戦闘かと身構えると、緩く回転していたヤジロンが、ピジョットとミミロップがボールに戻ると同時に高速回転をし始め、瞬く間に砂が大量に巻き上げられて濃い砂のカーテンが張られて、全く相手の様子が伺えなくなった。

 

 砂嵐の目眩まし?とりあえず、相手のポケモン的に何が来ても耐えられるだろうフォレトスを前に出し、それに控える様にドラピオンとレアコイルを移動させ、レントラーに透視をしてもらい奇襲に備えたが、存外砂嵐のカーテンはすぐに消えて、黒トレーナー達の姿は、少なくともレントラーの感知範囲外に移動した後の様だった。

 

 撤退。鮮やかだ、手慣れてる……。レンジャー達はトレーナー以上に引き際の感覚が重要だと聞くが、レンジャー系の人物なのか?

 

 そんな事を考えながら警察や救急、レンジャーに電話をするが、繋がらない。レアコイルを見るが、もう警戒を解いて太陽を呆け見ており、一応声を掛けるが、やはりレアコイルでは無い。

 

「こんな時に不調か……仕方無い」

 

 仰向けの状態で気絶して動かない、鬣が立派なピジョットに乗っていた茶髪の──女?──トレーナーに近付くと、ピジョットの強い警告音が飛んで来た。そちらを見ると、花畑に這った跡を残しながら此方に近付いて来ており、再度警告音を発して来た。もの凄い信頼関係だな……。もう一度トレーナーを見ると、レンジャー用の確りとしたボールホルダーに付いている4つのボール内、3つ全てが大きく揺れ動いていた。……先ずはポケモンか。

 

 背負鞄からスプレータイプの、一般的な形の傷薬を取り出して、鬣が大きく立派な──本当に艷やかで綺麗だな──ピジョットに近付いて、オボンの実を食べ易そうな、しかし近過ぎない位置に置き、傷薬を掲げながら傷や疲労が大きそうな翼へと近付いて吹き付けた。

 何とかピジョットが歩ける程度に成った所で、レントラーに氷の牙で凍らせてもらっていた草花を布に包んで、とりあえずトレーナーの頭に載せておき、もう一度病院へと電話を掛けるが不通。

 

 困ったな。このまま放置する訳にもいかんだろうし、俺達が連れて行かなきゃならんよなぁ……「ブラウン。頼めるか」

 

 普通のグランブルよりも濃い体色を持つ相棒に頼む。気絶者はあまり動かしちゃいけないらしいからな……

 

 ブラウンがトレーナーを抱えようとすると、ピジョットが妨害して来た。

 

「大丈夫だって。病院に連れてくだけだ」

 

 そう言っても妨害は止まらず、ブラウンはかなり面倒臭そうな顔をしている。

 

「別にお前が診てもらう訳じゃないんだぞ?何がそんなに駄目なんだ。病院が駄目ならポケセンとか……」

 

 首を左右に振られる。お前そういう意思表示出来るんだ……。

 

 「それも駄目なら、置いて行くくらいしか無いんだが……体力回復したら連れて帰るのか?」

 

 そう言うと、ピジョットは自身のトレーナーを暫く見て、また此方を見て、また自身のトレーナーを見て、少し動きを止めてから、未だに揺れている3つのボールの中から1つ抜き取って、トレーナーの指に宛てがいスタンバイモードにしてから開閉ボタンを押下した。中からはポチエナが出て来て、二匹してまた同じ行動をして、アゲハントと雌のケンホロウが出て来た。暫く4匹で話し合いらしき物をした後に、座り込んでいるブラウンにポチエナが近付いて来て、何やら話しかけるとブラウンは立ち上がり、トレーナーを横抱きにして俺を先導した。

 

「俺ん家かよ……」

 

 結局、うろちょろうろちょろ周りを飛び回るピジョットを引き連れながら、俺達の家で診る事となった。

 

 

 

 

 

 「ヴァン!!」

 

 力強いブラウン(グランブル)の鳴き声により覚醒が促され、それにより焚火の臭いが鼻腔を刺激する。

 

 あれ?昨夜は野営だったっけ……?

 

 混乱しながらも目を開ければ、そこはいつも通りの自室の壁と扉が見えた。

 

 「???」

 

 混乱が2ターン目に突入した所で、ブラウンが鼻息を吐くように唸り声を上げて俺の腕を掴み、引き摺るようにベッドから出して廊下へと連行される。

 強く成る燃焼臭。左を見れば、いつも通りの玄関にフォレトスと袋を提げたレアコイルが佇んでおり、右を伺えば、ほんのりと灰色の煙と赤い光が漏れ出しているリビングへの扉が。

 流石に目が覚めて駆け寄れば、向こうからレントラーの警告声が聞こえて来て、扉から十分離れると同時に扉はぶち破られた。

 拉げ倒れた扉を踏み越えて、レントラーと女トレーナーを咥えたピジョットが現れる。レントラーはそのままブラウンへと近寄りウナウナ言うと、ブラウンは俺に付いて来いと示してきた。

 

 よく解らんが、水の波動を使えるブラウンが撤退を判断したなら、もう、手遅れなのだろう。

 

 意気消沈しながらレアコイルに近付いてジャケットと袋を受け取り、即座に離脱できるようにフォレトスたちをボールに納めようとすると、ブラウンはそれに待ったを掛け、玄関扉に向かってシャドウボクシングを少し(おこな)い、レントラーもそれに同意するようにアウアウ鳴いた。

 

 どうやら、この先戦闘が有るらしい。

 

 

 

 

 ボキャン!

 

 暁に至ろうかという時分、鉄が圧し折られる破砕音と伴に燃え盛る家の扉が街路へと吹き飛ばされた。

 その家からは、扉が向かいの壁に激突したのと殆ど同じくらいの速度でグランブルが飛び出してきて、すぐさま大きく胸を反らし、威圧感を感じる大音声の咆哮(ほえる)が放たれた。すると、その周辺の家屋から鳥や猫にしては余りに大きな影が複数滑り落ちて行く。

 

「おいおい人かよ……。まさか、付けられてたのか?」

 

 返答するかのように、レアコイルが光る壁を三角柱じみた形で前面三方に展開し、その光により昼方逃げられた奴と同じ様な黒ずくめの連中が十幾人か佇んでいるのが判った。

 

「多過ぎないか……? グレイプ、すまんが起きてくれ。敵だ」

 

 宙空へと放られたボールからは、丸く縮こまり棘山の如く成っていたドラピオン(グレイプ)がゆったりとした動きでその節榑だった巨体を伸ばしていく。その全身の甲殻は艶やかな竜胆色に赤く照り返していて、チロチロと揺れ動く影によるものか、あるいは棲家を壊された故か、その雰囲気は威圧的であった。

 

 

 

「ジェット!煙幕! シオン!遠吠え!」

 

 その掛け声により、フォレトス(ジェット)の体から灰茶色の煙が噴き出して、唸るようなレントラー(シオン)の咆哮を最後にトレーナー一派(いっぱ)の姿がすっかり覆い隠される。

 しかし、その掛け声により動き出したのは彼らだけでは無い。屋根上に居た者達もまた同時に動き出しており、それぞれワカシャモとエレブーが屋根伝いに先陣をきって駆け出し光壁に向かって跳ね、双方共に自身の全体重を掛けるかのような腰と肩の動きで手刀を光壁へと一文字に叩き付けた。

 これにより、光壁はダイヤモンドダストじみた粒子へと崩れ去り、間髪入れずにその“煙幕”諸共均してしまえば関係無いとばかりに火炎や強風が幾流も殺到し、そのチャフじみたエネルギー粒子域を押し出せれたにも拘らず、地面を抉った事による砂煙が広がった。

 しかし、煙が薄れてきてもその奥にドラピオンやピジョットなどの影が見えて来ず、風により晴れたそこには1つの穴がぽつねんと(ひら)かれていた。

 

 

 

 

「あんな数十人も居そうな相手と真面にやり合う訳ないだろ。アホか」

 

 穴を掘り進めるブラウン(グランブル)を先頭に、未だに気絶している女トレーナーをお負さりながら悪態を吐く。

 

「お前はいつ起きるんだよ……全く、踏んだり蹴ったりだよ」

 

 後ろから窮屈そうに付いてくるピジョットを見ながら呟く。だからと言って、あんな異常な集団の為に今更捨て置くなんて癪な事は出来ない。とりあえず隣町の警察署に向かっているが……公共機関を避けたがる行動が、単純にピジョットの好みなだけだと助かるんだが……

 

「そうはならんだろうな……」

 

 再度溜息を吐きつつ中腰を強いられていれば、「ボコリ」とピジョットの横からジェット(フォレトス)が合流して来た。

 

「よくやった。確り休んでくれ」

 

 ジェットにパワー()ポイント()エイドキットを吹き掛けてボールに入れる。

 

 ジェットには、穴とその出口の複線化に、それぞれの道への不定期な“どくびし”や“ステルスロック”の敷設という難しい事をさせてしまった。状況が落ち着けば、うんと甘くした小豆汁をあげてやらないとな……。

 

 

 そんなこんなで、やっとこさ地上に上がってブラウンをボールへ休ませ、替ってグレイプを出して、ピジョットとその女トレーナーと伴にグレイプに掴まり隣町へと駆け出した。

 

 

 

 

 

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