始まり
紫色の長髪と青色の羽織を風に靡かせながら勘解由小路ユカリは町を散策、もといパトロールしていた。
ユカリは百鬼夜行連合学院の治安維持組織たる百花繚乱紛争調停委員会のメンバーであった。堅苦しく息の詰まる様な実家を飛び出し、中学の頃に自身を助けてくれた先輩達と百鬼夜行の治安を守るために日々活動するーそんな生活をユカリは心から楽しんでいた。
下町の商店街を抜けて河川敷をつらつらと歩きゆく。
少し高い所から見る人々の営みはユカリの心を春の暖かい風の様にぽかぽかとした気分にさせた。
あら?
河川敷の奥から見慣れない姿の男が歩いてくる。
着物に身を包み頭には頭巾をつけ、背中には大きな背負子を背負っている。その姿はまるで外郎売りだ。
男はゆっくりと蜃気楼の様に、されど確かにこちらへと向かってくる。
近づいてきた男の姿は百鬼夜行の中でも変わった出立ちであったが何よりも人間離れしたその美貌が眼を惹いた。
女性ならば誰もが羨む程の白い肌。信じられない程整った顔立ち、更に藍色の派手な化粧がその美しさを際立たせている。その南蛮人を思わせる髪色が顔を僅かに隠しているのが焦ったい様な風情がある様な…
とどのつまり、ユカリは色白の頬を赤く染めて見惚れていた。
「何か御用ですかい?」
いつの間にか、目の前に立っていた男が尋ねた。
「へっ!?あっ、あの用と言う程のものは無いんですけれども、えぇとあの」
「薬が…御入用でしょうか?…」
「へっ?薬…?」
「当方、薬売りを生業としておりまして…」
「薬は入りませんわ…あの…見慣れない方でしたから…」
「あゝ、外から来たんですよ」
「外と言いますと百鬼夜行以外の自治区から来られたのですか?」
「えぇ、まぁ…そんな所です…もう行ってもよろしいですか?」
「もっ、申し訳ありませんわ、用も無いのに引き留めて…」
「いえ、構いませんよ…縁があればまた…」
男を見送りながらユカリは何か忘れている様な気がした。
あっそう言えば…
「お名前…聞きそびれてしまいましたわ…まぁ、薬売りさんと覚えておきましょう。」
ユカリは再び歩き出した。
シャーレの先生とは以前一緒に買い物をした駄菓子屋の前で落ち合った。
「やぁ、ユカリ。久しぶりだね。」
先生は朗らかな人好きのする笑顔を浮かべて言った。
「先生!わざわざご足労いただき有難うございますですわ。」
ユカリは僅かに頬を染めながらはにかんだ。
「先生、お昼はもう済まされましたか?」
「ううん、まだだよ。用が済んだら…」
「でしたらわたくしとご一緒しませんこと?美味しいお店を知ってますの。」
「良いね。それじゃあ案内してくれる?」
「はいっ。身共にお任せください!」
ユカリは先生の手を引いて自治区の奥へとずんずん進んでいった。
「それで相談って言うのは…」
先生が本題を切り出したのは食事を終えて、食後のお茶を出された時であった。
先生はユカリからモモトークで相談があるが、モモトークでは伝えにくいので百鬼夜行に来て直接会ってほしいと頼まれていたのだった。
「実は…相談事と言うのは、身共のお見合いについてですの…」
先生は口に含んだ茶を盛大に噴き出した。
百鬼夜行 つづく