さて、放課後である。
授業で使ったタブレットやノートをカバンに片付けながら、この後の事を思案する。教科書という紙資源が無くなって久しい虹ヶ咲において置き勉という日本の伝統は既に廃れている。ショッギョムッジョである。
ともかく、まずは今後の展開をおさらいしようか。
"原作"だと侑達の方は、他の子と逸れて彷徨うあの子とエンカウントするんだよな。
そう、中須かすみ。通称"かすかす"……もとい"かすみん"と。
確か名もなき猫……のちの"はんぺん"を生徒会長室に投入して、その隙に部室のプレートをかっぱらうんだっけ?見た目に似合わずけっこーパンクな事してるよね。
んで一方、他の同好会メンバーは"優木せつ菜"とコンタクトしようと動いているはず。
たぶん時間帯的には、かすみちゃんの騒動に紛れて生徒名簿を拝借してる頃かな。
……まさかあんなにスムーズに正体に近づいて、更には論破してのけるとは。あの人なんで成績悪いの??
(で、取りうる選択肢としては)
かすみちゃん、ひいては侑と歩夢ちゃん側を見に行くか。
旧同好会メンバーを覗きに行くか。
あるいはどっちも見に行かないか、だ。
ワタシの基本的なスタンスは"原作"の遵守にある。だからワタシって異物の存在が及ぼす悪影響の排除、これが最優先になるわけだ。
つまりワタシがその場にいる事自体がよろしくない場合は行かないって選択肢も発生するんだよな……見てぇなぁチクショウ!余すところなくヨォ!
……まぁ、それはその時に考えるとして。
翻って、この日。つまりは1期2話においてワタシが行くべきはどっちよってなるわけなんだけど。
(…………無いんだよなぁ?たぶん。ワタシがなんかしなきゃダメなとこ)
最初こそかなり自惚れたけど、改めて考えたら直接ワタシが面識ある"原作"メンバーって少ないし、影響出そうな場面もそこまで多くない感じなんだよね。正直1話がマジで山だった。
かすみんのお悩みに絡むわけでもない。生徒会長探しに関与してるわけでもない。スクールアイドル同好会の存続に関しては……まぁ関係無くはないけど必須ってわけでもない。
おう、やる事ないぞ?1日にしてお役御免か?
(って事は?思いっきり趣味に走って良いわけだよなぁ?)
よっしゃあ!見たいシーンはいっぱいあるし、原作で描写されてない裏側も気になるんだ!やれる限りデバガメすんぞぉ!
「ねぇ、そろそろ行こ?」
「……え?歩夢ちゃん?どこに?」
ウキウキとカバンを担ぎ上げたところで、そう歩夢ちゃんに呼び止められた。
……あれ?なんか約束してたっけ?いくらワタシがアレでも歩夢ちゃんとの約束を忘れたりはしないはず……なんだけど……
「特に決めてるわけじゃないけど……同好会、なくなっちゃったのには変わりないみたいだし。どう活動するか、アドバイスが欲しいんだ。侑ちゃんとも一緒に考えてくれると嬉しいな」
「……え?なり損ねのワタシに?」
思わず素で答えたワタシに、歩夢ちゃんは少し眉根を下げて。それでも、頷いた。
「なり損ね……でも。私の先輩だよ」
「…………あ、うん」
「ほら、いこ?」
手を引かれるがままに教室を離れ、歩夢ちゃんと共に歩き出す。
たった10秒足らずの言葉で、さっきまでのテンションは別の何かに置き換わってしまった。
……そっか。ワタシは歩夢ちゃんの先輩になるのか。
なんか、うん。そういう考え方もある、のか。
ちょっとでも、スクールアイドルだったんだから。
……参ったな。
そりゃなんか。なんていうのかな。なんていったらいいのかな。
責任、重大。ってやつじゃない?
*********
「スクールアイドル同好会!2代目部長のかすみんこと、中須かすみで~す♪」
そんな感じで強制イベント的に連れて行かれた中庭で、ワタシ達は無事かすみんにエンカウントした。
うーん、リアルで見るかすみんはより一層ちょこまかしてるなぁ。小動物感満載だ。
「あれ?でも今、スクールアイドル同好会って……」
「諦めなければ同好会は永遠に続くのです!お近づきの印にぃ、どうぞっ!」
そう言ってワタシにもコッペパンをくれる。ええ子や……お、美味しい。美味しかった。
「え?な、なんか音もなく食べ終わりませんでした?」
「癖になってんだ。早食い無音食い。気にしないで?ご馳走様、美味しかったよマジで」
「は、はぁ……」
ワタシの終のフルコースのメインは歩夢ちゃんの手料理って決めてるけど、主食としてかすみんのパンが入るかもしれない。それくらい美味しかった。
……改めて考えると、こういうイベント、本当に"原作"通りに今後も起きてくれるのか不安になってくるな……うん、改めて考えないようにしよう。流石に考えても解決策が無さすぎて意味ねーや。
「じゃあ先輩方ぁ。そんな可愛いかすみんとぉ、スクールアイドルになりませんか~?」
「え?」
「……大丈夫かなぁ」
「大丈夫です!信じて下さい!同好会に入って損はさせませんから!」
「えっと、そこじゃなくて……いや、そこもなんだけど……」
やっぱこの感じ、かすみちゃんは同好会の廃部ルール知らないんだな。"原作"だとみんなせつ菜ちゃん関連でアタフタしてたし気が回ってないのか……違うな、他のメンバーせつ菜ちゃん関連の事をもっと整理するのを優先してたからか。
そう考えると同好会関連のルールを現時点で調べる可能性があるのはかすみちゃんだけ……
うーん、確かに未来の頼れるかすみんを知らない歩夢ちゃんからすればこの子が部長?ルールも調べてないのに?って不安になるよなぁ。あはは。
ただ記憶を漁ると別の同好会のプレートが既に掛かってたらしいんだけど……あれぇ?2週間の猶予はどこ行ったんだろ?かすみんだから部屋を間違えてたって可能性もあるけど……
「ってぇ!なんか失礼な事考えてませんでした!?」
「え?ワタシ?別に?」
「いいえ!そのなーんか生暖かい目は覚えがあります!ちょっとバカな子を見る時のやつですぅ!」
「……そんな目を覚えるくらいバカにされてきたの……?」
「そ……そんな事はないですけどぉっ!」
「そっか……ちゅらかったね……?」
「ムッキーッ!なんなんですかこの人ぉ!」
あかん。楽しい。
ダメだわこの子。イジると面白すぎて止まらなくなる。やり過ぎる前に自重しよ。お口ちゃーっく。
「とにかく!いかがですか!?かすみん、最強に可愛いスクールアイドル同好会にしてみせますから!」
「可愛い、同好会?……だったら……やろう、かな?」
「やったぁ!入部決定ですね!」
「あっ、ちなみに私はアイドル志望ってわけじゃないんだけど良い?歩夢を応援したくて」
「へ?それって専属マネージャーってことですか?」
「ん?んー……まぁ、そうなのかなあ」
「ズルイです!それならかすみんのサポートもして下さい!」
「え!?」
うーん、かすみんも歩夢ちゃんも表情豊か。美味しい美味しい。
こうして横で見てるだけでも面白いや。コッペパン、もっとゆっくり食べれば良かった。
ワタシはこういうわちゃわちゃした関係性も全然美味しくイケるのだ。
「部長には絶対服従ですよぅ!そもそも新人なのに2人もマネージャーがいるなんてずっこいです!」
「2人?もう1人ってワタシのこと?」
「え?違うんですか?もしかしてそっちの人はスクールアイドル志望……」
「ワタシは同好会には入らないよ?」
「なんで(↑)ですかぁ!?」
「その気ないから、としか……歩夢ちゃんのファンではあるけど」
「なんでぇ!なんでまだ始めてない人がかすみんより充実してるんですかぁ!」
……やっべーこの子楽しーい。
本人にとっては切実だろうにめっちゃ愉快……
「分かったよ、中須さん。同好会のマネージャーやるなら、みんなのサポートしないとだもんね」
「ワタシもファンになるのはやぶさかじゃないよ。まだよく知らないから色々知ってからにはなるけどさ」
「はぁっ!ありがとうございますぅ!なら手始めに、もっと気軽に呼んで下さい~!」
「だったら……"かすかす"だね」
「かすっ……"かすかす"じゃなくて"かすみん"ですぅ!」
「え?だって『なかすかすみ』だから、"かすかす"かなぁって……」
「二度も言わないでくださいっ!」
「良いじゃん"かすかす"。言いやすいし」
「三度目ぇっ!"かすみん"って言ってんじゃないですか!か・す・み・ん!」
「ご、ごめんね?」
うーん、そんなに嫌なのか。親しみやすくて良いと思うんだけどな、かすかす。
……とはいえちょっと余計な事やりすぎたかな。かすみちゃんからの好感度が下がりすぎてる気がする。ここはひとつ、ご機嫌伺いでもしてみますか。さて、どうするか……
ピロンッ
…………ってオイオイ。
→・怒った顔も可愛いよ!かすかすっ!
・ポリシーがあるスクールアイドルなんだね、かすみちゃんは。凄いや!
……また出やがったよ脳内選択肢。なんなんこれ。どういう条件で出るの?
というか一つ目はなんだよ。真面目にやれよちょっとは。まったくもう。こんなんどっち選ぶかなんて決まってんじゃん。ねぇ?
「怒った顔も可愛いよっ!かすかすぅ!」
「え~?そんな可愛いだなんて……かすかす言うなって言ってんでしょうがぁ!うがーっ!」
ちゃうねん。
歩夢ちゃんへのヘイト引き受けようと思っただけやねん。
ごめんて。