3-①
自分の大好きなものを、心のままに大好きだと叫ぶ。
このご時世において、それは案外難しい。
人間社会は、調和と協調を重んじるコミュニティの集合である。
自我を主張するばかりでは疎まれ、いつしか孤立する。
場もわきまえず叫んでいては、好きなものそのものが白い目で見られるようになる。
その見極めを誤らないことが、現代を生き抜く術の一つと言っても過言じゃない。
だからこそ、それが許される場所を得られるのは望外の幸運なんだろう。
自分の好きなものを否定されず、"もっともっと"と求められる。
そうして求められた分、自分も相手に"もっともっと"と求めるようになる。
求め合う想いは、お互いをより高めあう。
高く、果て無く。もしかしたら、いつか、天すら貫いてしまうかもしれないほどに。
……なんて。彼女を見ていると、あながち夢でもないかと思ってしまう。
だってほら。近くに居るだけなのに、こんなに熱が伝わってくる。
何が起こるんだろうって期待で胸が騒ぎ始める。
解放しちゃいけないものの鍵を開けちゃったんじゃないか。
そんな後悔をしかねないくらいの、心の嘶きが聞こえてくるかのようだ。
彼女はもう自分を見失わない。
傷ついたって突き進む。
あの子がその覚悟をくれたから。
もうどこまでだって、飛び出していけるんだ。
さぁ――叫ぶがいいさ!! 思う存分っ!!
スクールアイドルが、大好きだって!!
*********
「え?もう同好会活動には顔を出さない?」
「うん。ワタシそもそも部員じゃないしねー」
かすみんの決意表明から明けて翌朝。
いつものように集まったところで、ワタシはそう切り出した。
かすみちゃんの一件でかなり懲りた。アホでも学ぶときは学ぶのだ。
付かず離れず、じゃない。
付かず離れて、見守ろう。
都合のいい時だけ居なくなるんじゃなくて、基本的に距離を置いとかないとダメなんだ。そうじゃなきゃいつ"原作"の流れにウッカリ足を突っ込んじゃうか分からないんだから。
「まだ始めたばかりなのに……それに、教えてほしいことだって……」
「あー……それはごめん。ただ改めて一晩考えたんだけど、失敗例ばっかインプットするの良くないと思うのよ。ワタシの時とは全然違う活動になりそうだしさ。変に口出して活動の方向性ブレさせるほうが怖くなっちゃった」
「……そんなに違う?」
「うん。グリーンランドとアイスランドくらい違う」
「例えが分かりづらいよ……」
「歩夢、気にしない方が良いよ。たぶんコイツも分かってないから」
「失敬な。グリーンランドが国でアイスランドが島でしょ?」
「逆ですが」
「あれ?」
しまった。素で間違えた。
まぁワタシのポカはともかく、実際活動内容はぜーんぜん違うものになるだろう。適当に言い訳してるだけじゃないのだ。
まず第一に、同好会として成立するのが強い。同好会じゃないデメリットってかなり多いのよ。
例えば学園の設備も予約はできるけど優先権が無かったり、部費がないから色んなものを工面するのが大変だったりとかね。MV撮るのにも結構苦労したもんだ。同好会になるだけでやれることがめちゃくちゃ幅広くなるんだから、ワタシたちの昔のやり方なんて真似る必要まったく無いんだよねぇ。
それに練習内容も変わるだろう。ワタシが居た頃は一応ユニットだったけど、新しい同好会はソロ主体になるんだから。
基礎練習は一緒にやるとしても、ソロの特訓は自分で試行錯誤することになる。全員で足並み合わせて進めるんじゃなくて、チャートを自ら描く必要がある。
これ、かなり頭使うんじゃないかな。将来像を明確にイメージして、そこに向かってぜーんぶプランニングしないといけないんだよ?しかも1から10まで一人でだ。皆で相談して決めてたワタシたちのやり方は、良くて参考にしかならない。お手本としちゃ不適当と言わざるを得ないですわ。
と、まぁ。こんな感じに他にも色々と。いやほんと、こんなんで先輩面なんてできませんって。
……ワタシ以外の、"あの二人の先輩"ならともかくね。
「ま、それはともかく。こうやって近況聞いて、それに思うところがあったらなんかいう感じがちょうどいいかなーって。だからゴメン!」
「……まぁ、無理強いすることじゃないから、そう決めたんならいいけどさ。たまには顔出しなよ」
「気が向いたらねー」
「いつでも来てね?私達、待ってるから」
「……ヤバい今日にも行っちゃいそう」
「歩夢。もっと言ってみて」
「え?えっと……」
「あーあーあー!聞こえなーい!」
「子供か」
くそう、侑め。なんて卑怯な手を使ってくるんだ。それでも主人公か?
自分だって歩夢ちゃんに誘われたらホイホイついていくだろうに。人の事を棚に上げやがって。
「あ。そうだ。アナタ、かすみちゃんとケンカした?」
「ゆ、侑ちゃん!そんな直接的な……」
「ケンカ?あぁ、したした」
「アナタもそんな気軽に……」
「いやぁ、かすみちゃんのスクールアイドル観についてワタシが色々言っちゃってさぁ。基本ワタシが悪いんだけど」
「それは分かってる」
「信頼が厚くて嬉しいよ」
「……仲直り、しないの?」
「しない。そういう類のケンカじゃないしね。かすみちゃんもそんなに怒ってないだろーし」
「いや、めっちゃ怒ってたよ」
「……え?マジで?」
「マジでおこだった」
「あー……」
うーん……そっか。かすみちゃんにはそんなに嫌われちゃったか。
そりゃそうだよな。ワタシ、かなり酷い事したもんな。まだ謝るチャンスがありそうなだけ有情なくらいだよ。
……ただまぁ。
「……うん。よし。それならそれで」
「怒られるのを良しとするようなケンカなんてある……?」
「あるんだよ、歩夢ちゃん。怒られることを目的としたケンカもね」
「カッコよく言ってるつもりかもしれないけど、今すっごいカッコ悪いよ」
「……ふ」
「うわぁ……」
「やめて歩夢ちゃん。その引く声やめて。落ち込むから」
あー遊ばれるぅ。歩夢ちゃんに感情を揺り動かされるぅ。めっちゃ謝りたくなってくる……
……でもねぇ。今の状況、見方を変えればそう悪いもんでもないのよね。
部長(仮)と仲良くない部外者がホイホイ同好会活動に顔出すのも変じゃろ?距離を置く理由の一つとしてはちょうどいいだろう。
……人に嫌われたり失望されたりってのは、必要ないならしたくもされたくないとはいえね。うん。
「で?結局謝るの?」
「謝らない。伝えたのはワタシの本心だし謝るようなもんじゃないもん」
「……ホントにそうなのかなぁ」
「……歩夢。コイツが頑固になったら面倒だよ。今はそっとしとこ?」
「……侑ちゃん」
「同好会活動一緒に出来ないのは残念かもだけど、寂しくなったら勝手に寄ってくるって。そのかわり、私がいっぱいフォローするから!」
「!」
そんな侑の力強い宣言に、歩夢ちゃんは思いっきり食いついた。
畜生、侑め。ワタシをダシにしやがって。せっかく歩夢ちゃんがワタシを気に掛けてくれてたってのに横からかっさらいおって。いいぞもっとやれ。
「それじゃあダメ、かな?」
「ううん!ダメじゃないよ!……私、頑張るから。ちゃんと見ててね?」
「もちろん!」
あー……良いわぁ。ゆうぽむの間に挟まる気が無くなってくわぁ。元々ないけど。
二人の世界に入ったその後ろで、取り出した一口おにぎりを咀嚼しながらそう思う。
まったく、こいつらときたら熱が冷めねぇなぁ。そのまま同好会でも気にせずいちゃついてくれ。こっそり見に行くからさ。
うんうん、これならせつ菜ちゃんが再加入しても、二人のキズナがそう揺らぐことはないだろう。
あぁ、楽しみだ。今日の"3話"も、その後の皆の触れ合いも。
きっとこのまま終盤まで顔出さなきゃ、きっと何とかなるだろうから。
今日こそは一観客として、物語の外から楽しませてもらうからね!!
……そう、この時はそう思ってたのだ。
それでなんとかなるだろう、って。
今度こそ、"原作"を引っ掻き回さずに済むって。
――なのに。
「ぐぇっぷっ!?ひ、肘が……!」
「あ!?ご、ゴメンね!でもほら!もっと足動かして!間に合わなくなっちゃうよっ!」
なのに。
なんで。
……なんでこんなことになっちゃったのかなぁ……
明けましておめでとうございます。
新年という事で性懲りもなく続きを書きました。
一区切りの章となる予定です。何卒宜しくお願い致します。