さて。今日は"原作"1期3話の日である。
序盤から衝撃を齎してくれた、あの"優木せつ菜"が合流する、その日である。
自分の大好きを押し付け、同好会メンバーの価値観を蔑ろにしていた。
それを気に病んだ中川菜々は、償いとして"優木せつ菜"を封印しようとする。
その決断に納得がいかない同好会メンバーと高咲侑は彼女を屋上へ呼び出し、思いの丈をぶつけ合う。
その果てに中川菜々は、誰の大好きも否定しないという新たな決意を胸に、"優木せつ菜"をもう一度呼び覚ます。
かくしてスクールアイドル同好会は最大の危機を乗り越え、再起の一歩を踏み出すのであった。
――そんな3話である。
(……しっかし改めて考えるとこの5日間ヤバない?)
1日目 → せつ菜ちゃんライブ
2日目 → 同好会廃部+歩夢ちゃんスクールアイドル化
3日目 → かすみんとの遭遇+新同好会結成(仮)
4日目 → 新同好会所信表明+生徒会長正体バレ
5日目 → イマココ!
濃っ。
ミッチミチやん。
どんだけ濃密な青春過ごしてんだこの子ら。
まぁ華のJKの時間は貴重だしな……華は短し、萌えろよ乙女、っていうしね。
そこは恋だしお前はもう腐ってんだろって?うるせぇ。
じゃあ燃えるでいいよ。青春を糧に情熱滾らせてるんだよ。それならいいでしょ?腐った落ち葉だって燃料くらいにはなるんだし。
……まぁ。
彼女はそんな情熱を、燃やしすぎちゃったわけだけど。
「……良い幕引きだったじゃないですか。せつ菜さんは、あそこでやめて正解だったんです。あのまま続けていたら……彼女は部員の皆さんをもっと傷付けて、同好会は再起不能になっていたはずです」
「え?そんなこと……」
黒髪、三つ編み、飾り気のないメガネ。
憂いを帯びた彼女、中川奈々の言葉に、高咲侑は口籠る。
自身が憧れ、一歩を踏み出すきっかけとなった彼女。その人に対する拒絶にも似た感情に、理解が追いつかない。
「高咲さんは、ラブライブをご存じでしょうか?」
「……スクールアイドルの全国大会みたいなやつ、だよね?」
「そのとおりです。ラブライブは、スクールアイドルとファンにとって最高のステージ。あなたもせつ菜さんのファンなら、そこに出て欲しい……そう思うでしょう?」
高咲侑は、動けない。
ラブライブに出て、そのステージで煌めくこと。それは全スクールアイドルと、そのファンにとっての夢。
その大きさと重要性を、今、この場で初めて知ったから。
まだ何も知らない自分が知ったような口を利くことなど、到底できないと思ったから。
その侑の様子を見て、生徒会長は答えを待たずに先を続ける。
「スクールアイドルが大好きだったせつ菜さんも、同好会を作り、グループを結成し……全国のアイドルグループとの競争に勝ち抜こうとしていました。勝利に必要なのは、メンバーが1つの色にまとまる事……ですが、まとめようとすればするほど、衝突は増えていって……」
「……それ、かすみちゃんも言ってた。大好きな気持ちが、かみ合わなかったって……」
「……えぇ。その通りです。そしてせつ菜さんは、その原因が全部自分にある事に気付きました。せつ菜さんの大好きは、自分本位のワガママに過ぎませんでした。そんな彼女が、スクールアイドルになろうと思った事自体が……間違いだったのです。幻滅、しましたか?」
生徒会長の問いかけに――やっぱり、侑は動けない。
ぐるぐると渦巻く感情に囚われて、手が伸ばせない。
ただの悩みじゃない。強い意志を持った、諦めという決断。
それを吹き飛ばす術を見つけるのは、容易じゃあないようだ。
答えに窮する侑に、生徒会長は力なく笑う。
……今、この場において。高咲侑は、優木せつ菜を救えない。どうやらそれは、正しく"原作"通りだった。
(……知っちゃいたけど、やっぱキツい展開だわなぁ)
それなりにスクールアイドルを知ってるワタシではあるけど、ラブライブにノータッチなスクールアイドルは聞いたことがない。
スクールアイドルといえばラブライブ。
ラブライブといえばスクールアイドル。
スクールアイドルには、その固定観念を覆せない。
多少であっても、スクールアイドルだった、ワタシにも。
だから侑が未来で言い出すことには、マジで驚いたんだよ。
"ラブライブになんて出なくていい!"ってやつ。
そして、スクールアイドルフェスティバル――ラブライブ以外の、スクールアイドルの祭典。
"それを自分たちで作ろう"……だなんてさ。
(あーあ、こればっかりは"原作"知識が恨めしいよ)
こんなの、初見で聞いたらどんだけビックリできたことか。
あとどんくらい待てばいいのかも分からないし。ワクワクしすぎておかしくなりそうだ。あ、もうオカシイだろってツッコミはノーサンキューです。
(……だから侑、頼んだよ)
優木せつ菜を引き留めてくれ。
あの祭典まで、連れて行っておくれよ。
ワガママ気ままありのままにハシャギ倒せるネバーランドにさ。
……ワタシも、もう絶対邪魔しないよう、気を付けるから。
こうして様子自体は伺いに来るけど、介入したりはしないから。
人任せで心苦しいけどさ……お願い。侑。
「……でも、それなら謝れば。かすみちゃん達はきっと……」
……ん?なんだ、侑ってば粘るのか。
いいじゃん。"原作"にはないけど、その諦めの悪さ、嫌いじゃないよ。
まぁ確かにかすみちゃんは"自分も悪い"って反省してたしな。お互いが自分にも責があると思ってるなら、分かり合える希望は十分にある。今この場で完全解決することは無理でも、今後の説得の成功率を上げることは出来るかもしれない。よっしゃイケイケー!
「いいえ。それでも戻らない方が良いんです。だって……きっとせつ菜さんは、また誰かの大好きを取りこぼしてしまいますから」
「え?……"また"?」
けれど。
その言葉を聞いた生徒会長の反応は、にべもなかった。
ワタシも侑と同じ疑問を頭に浮かべる。"また"ってなんぞ?
「――2度目、なんです」
「2度、目?」
「彼女が、やるべきことを間違えたのは」
……なんだ?どういうこと?
まさかかすみちゃんの時みたいに、今度はせつ菜ちゃんのバックボーンが語られるの?
……まぁ、ワタシが聴くよか全然いいか。
流石に今回はワタシがなんかしたわけじゃないだろうから、本来"原作"にあった流れなのかもしれない。流石に1話あたり30分足らずの尺じゃ、どこかがカットされてるってこともあるだろう。
ただ……こんな重要そうなエピソード語る場面をカットするもんかな……?
「せつ菜さんがスクールアイドルになったのは、今年からです」
「う、うん」
「でも、本当はそれよりも前に、スクールアイドルになれていたはずなんです」
それよりも、前……?
その言葉が示す可能性、それに思い至る前に、彼女は答えを口にした。
「……半年前に、あの人たちが、同好会を作ろうとしていた時に。あの人たちの活動に……入ろうとして。結局、足を止めてしまったんです」
――そして。その言葉にワタシの思考は、凍りついた。
「え?あ、アイツが先輩達とやってた活動に!?」
「はい。あの方々がアップされたPVを見て……本当に、心動かされたんです。こんな人たちが、直ぐ近くにいるんだって」
――心が、冷えた。
「……体面を気にして大好きを叫べない自分がもどかしくなりました。虹ヶ咲に生まれつつあるスクールアイドルを応援したいと、そう思いました。けれど……当時、自分を取り巻く環境との折り合いをつける前に。あなたの幼馴染は……活動から身を引いてしまいました。そして、そのまま先輩のお二人も、スクールアイドルとなる活動を止めてしまったのです」
「…………」
「せつ菜さんが加わっていたとしても、何も変わらなかったかもしれません。でも、何かが変わったかもしれません。せつ菜さんが動きさえすれば。自分の心に正直になってさえいれば!」
「…………」
「今回と同じ過ちをしていたとしても……皆さんの夢への切欠、それ自体を捨てさせてしまうことは、なかったかもしれないんです」
「私は――2回も、誰かの"大好き"を、取りこぼしてしまったんです。あの人だって、ラブライブに出たいって、そう思っていたかもしれないのに。その、夢を……」
――その後、侑がどんな反応を返したのかは、正直憶えていない。
ワタシは2人が居なくなってからも、ずっと。身動き一つとれずにその場に留まっていたから。
まぁ、音楽室のカーテン裏に居たから、そもそも声しか聞こえてなかったんだけどさ。
……ははっ。
はははっ。
なんなん、これ?誰得なのさ、この関係性。ワタシ、今回は本当に自重してたのにさ。また過去からスナイプされるなんてさ。あるにしても、せつ菜ちゃんじゃないでしょってタカを括ってたのにさ。結局またなんか変なことになっちゃうのかよ。なんかもう現実ってやつはホントままならねーなぁ。
あっははは。
ははははは。
はっははははははははっ!
「…………あー…………」
そうしていつしかワタシはカーテンの裏で、膝を抱えてしゃがみこんでいた。
「今更そんなこと聞いて……どうしろってのよ」