「前の繰り返しになるのは嫌ですけど、きっと、そうじゃないやり方もあるはずで……それを見つけるには、かすみんと全然違うせつ菜先輩がいてくれないと、ダメなんだと思うんです!」
「大きくなったねぇ、かすみちゃぁん」
「馬鹿にしてませんかぁ!?」
「本気で褒めてるよぉ」
どうにか気力を引っ張り出して向かった海沿いの公園。そこで行われてたメンバー達の話し合いは、もう終盤に差し掛かっていた。
……関わるつもりがないのに現場に来る必要なんてない。必要以上に、価値も無い。
でも、ワタシが居ないところでワタシのせいで何かがねじ曲がっていないか。それは知らなきゃいけないから。
もう、選択を間違えないために。"原作"をこれ以上、歪めないために。
(……なんもしなくたって、変わっちゃうらしいけどさ)
……"優木せつ菜"の件は、一旦保留する。
ワタシと彼女にちょっとした関係性がある事は理解した。
でも、あれが"原作"展開に影響を与えるかというと……正直、微妙だ。だってあれ、向こうが考えすぎてるだけだし。
確かにラブライブを意識しなかったといえば嘘になる。
でもワタシ自身は、それを明確な第一目標として定めたつもりはない。
ワタシのその時の夢は――もっと違うものだった。
酷い言い方をすれば、彼女のそれはただの自己嫌悪だ。
ワタシに直接何かしたわけじゃないし、ワタシがしたわけでもない。一方通行の悔恨なんて、持たれる方からしてみれば『あ、はい……』以外の感想なんて浮かばないんだよ。
……うん。浮かばない。浮かばないってば。
「それで?結局どうするの?」
……あ。ぼーっとしてたらまた展開飛んじゃったみたい。危ない危ない。
お前は何のためにここにいる?
――はい!同好会が滞りなく結成された後のイチャイチャパラダイスを見るためです!
ならば滞りなく任務を遂行せよ!
――サー!イエッサー!
はい。茶番終了。メンタルリセット完了。ちゃんと集中しないとね。
まぁとはいえ、この後は侑が「私に任せてくれないかな?」って言いだして終わりだったはず。
そんでその後は各々の準備のために解散するんだろう。それに合わせてワタシもこの場を離れないと……顔知られ過ぎてるからね、見つからないように気を付けてね。
すーはーすーはー……
よし、準備万端。侑!いつでもいいよ!カモン!
「…………」
『…………』
…………あ、あれ?侑さん?侑さーん?
「…………」
『…………』
…………え。
あの。ちょっと待ってよ。侑?なんで何も言わずに俯いてんの?いやそうじゃなくない?この後怒涛の"ゆうせつ"展開が待ってるんでしょ?そのスタートダッシュ決めようよここで!さぁ!ハリーハリー!
「…………」
『…………』
…………あ?
(あ……あれぇぇぇぇぇっ!?う、動かねぇぇぇぇぇっ!?)
なんで!?なんでさ!?おぉーいっ!?主人公!お前、ちょ、何やってんだよ!?
なんなんだ!?いったいどこでチャート分岐した!?何が原因でそうなってるの!?ここまで発揮してたイケメン具合はどこ行った!?
歩夢ちゃんの時もなんだかんだちゃんと傍にいるって宣言してたじゃん!
かすみちゃんのお悩みにもキッチリアドバイス出来てたじゃん!
なのに!?なんで!?
何でよりにもよってこの3話で口ごもるんだよぉっ!?ここからがお前にとっての前半の山場で見せ場じゃないかよぉっ!
あぁもうマズイ!でもどうすりゃいいんだこれ!?くっそ、理由が分かんなさ過ぎて干渉しようもない!いやでも……あぁもう!こ、こうなったら一か八か突っ込んで臨機応変かつ柔軟な対応をなんちゃらかんちゃら……!
「……あの」
(……って、え?)
「私が、話してみても……いいかな?」
(あ……歩夢ちゃん!?ここで、歩夢ちゃんだとぉ!?)
「……歩夢?」
「歩夢先輩が……?」
「うん。今までちゃんと会話したことがない私じゃ、せつ菜ちゃんの心に何かを響かせるのは、難しいかもしれない。もしかしたら、お互いに傷つくことになっちゃうかもしれない……でも、それでも。このまま終わりが嫌なのは、私も同じだから。それだけは、本当に嫌だから。だから、私……話してみたい、です」
「…………」
「それに……たぶんこの中で、今の私にしか言えない事があるから」
「……歩夢にしか、言えない事?」
「うん。さっきまでの侑ちゃんの話を聞いて……思ったことがあるの」
え……えっと……?
え?侑じゃなくて歩夢ちゃんが説得に行くの?
わ、分かんない……これどうなんだ?成功するの?しないの?いやでもここまで歩夢ちゃんって"優木せつ菜"と全然絡んでなくない?流石にフラグなさすぎじゃない?え……えぇ~……?
……いや。でも。
なんでだろう。
なんで私は、「それは無理でしょ」とは思ってないんだろう。
なんで……「歩夢ちゃんなら大丈夫だ」って、そう思い始めちゃってるんだろう?
「……ごめん、歩夢」
「え?」
「私に、先にやらせてくれないかな?」
自分の心に浮かんだ戸惑いに答えを見つけられていないうちに、侑がようやっと名乗りをあげたことで、その思考はいったん中断させられた。
あー……これは、あれかな?侑が踏み出せなかった一歩を、また歩夢ちゃんに後押ししてもらったって形になる……のか?いや、流石に邪推か……でもマジでなんで言い淀んだんだよ……ビビったよもう……なんなんだよ……
「…………」
「お願い」
「……皆さん、どうですか?」
「……うん。分かった。侑ちゃんに任せてみるよ……お願いね?」
結局"優木せつ菜"とは、侑が話す事になったらしい。そこにいたみんなが歩き去っていく気配がする……うん、誰の気配も無くなったな。
(……はぁ。でもまぁまぁ、一応これで"原作"通り、かな)
侑の煮え切らなさがどうにも気になるけど……うーん、なんなんだろう……あいつ、こういう場面はめっぽう得意なはずなんだけどな……喧嘩とかしてるところをとりなすの、めっちゃうまかったもんなぁ。基本的に怒ったりしないでペース崩さずに会話し続けるから、怒ってる側もだんだんクールダウンしていくんだよね。まぁ今回の説得シーンには適用されないだろうけど。
(……はーぁ)
もう一つため息をついてから、果林さん達がもたれかかっていた塀の裏から立ち上がる。そろそろ学校前に行ってスタンバっておこう。流石に屋上は隠れる所なさすぎて見つかるだろうから、下から見上げりゃいいやね。今回は今まで以上に見つかりたくない理由もあるし。
さって……侑、上手くやってくれよぉ。重ね重ね人任せで申し訳ないけどさ。
「…………え?」
「…………え?」
……そうして振り返った、その先で。もう去っていったと思っていた人が一人、呆然と口を開けていた。
しゃがみ込んで地面に置いてあったカバンの持ち手を握っている……なるほど?忘れたカバンを取りに戻ってきたって感じ?
(……あーぁ、油断しちゃったなぁ……)
ヒトって予想外のパニックに陥るとここまで集中力が途切れるんだね。今まさに、痛感した。
……まさか。見つかりたくない相手うちの1人に、こんな形で見つかっちゃうなんて。
「……ずっとそこにいたの?」
「……まぁ、ちょっと前から」
「……そっか。じゃあ聴いてたんだ」
「……ごめんなさい」
「ううん。いいよ――
無礼を働いていたワタシを責めるでもなく、ほんわかと笑う姿は、記憶の中の彼女と変わりなくて。
あぁ、やっぱりこの人好きだなぁ、という気持ちと。
対面したくなかったなぁ、という悔恨が、津波のように押し寄せてくる。
この沿岸も洗い流されそうだ。
「ねぇ。ちょっとお話できない?」
「……はい」
その誘いを断る選択肢は、到底選べず。
変な顔をしながら頷いたワタシに、彼女はまた笑いかけてくれた。
「ありがとぉ!ふふ、話したい事、いっぱいあるんだぁ♪」
その人は――緑の
かつて目の前から逃げ出したワタシなんかに、昔と変わらず微笑んでくれた。