ちょい。
ちょいちょいちょい。
待った待った待った。
いや誰にお願いしてるか分かんないけどちょっと待った。
「え?なに?"原作"にワタシっていねーの?」
最初は偶然かと思ってた。印象に残るシーンだけ思い出してて、なおかつワタシがその輪に混ざってないだけかと思ってた。
けど違うわ。重要なシーンどころか1カットたりともワタシいねーわ。とりあえず1期13話まで脳内で3倍速してみたけどいなかったわ。っていうかよくよく考えたら『優木せつ菜』のライブも2人で見てんじゃん。最初も最初からワタシ影も形もいねーじゃん。
いや、それでもワンチャン、物語上つまんないキャラを描写してないだけって可能性もなくはないよ?別に自分がそんな特別な人間だとは露ほども思ってないし。寧ろワタシに尺使うくらいなら"ゆうぽむ増やしてください"って自分から言うし。
けど "メイン級2人の同学年" で "クラスが歩夢ちゃんと一緒" で "家が横並びの幼馴染" だぞ!?
一切話題にすら上がらないわけないっしょ!?
家族の話が出ないのよりあり得ないよ!?
ついでに言うなら絶対ストーリーに絡むだろう過去持ってるんだけどぉ!?
「マジかよ……ワタシは存在しないオリキャラだったのか……」
ヤバい。ヤバすぎる。
"ワタシという存在が居てもあの物語が成り立つ"と思ってたから楽観視してたのに、ワタシが"原作"に居ないキャラだとすると事情が変わってくる。
ボタンを一つ掛け間違えるどころじゃない。ワタシって無駄なボタンが増えちゃってる。留め方によってはぐっちゃぐちゃで目も当てられなくなる可能性すらある。
いや。ワタシがホントーにスクールアイドルに何の関係もない一般ピーポーなら別にいいんだよ。
適当に興味ないフリして2人きりに仕向けりゃいいだけの話だ。初手で"ワタシはそんなに興味ないや。行っといでよ"って言えばいいんだから。例え幼馴染だろうと趣味嗜好の違いはあるんだし、別の友達付き合いもある。幼馴染だけが関係性の全てってワケじゃないんだから。
それに2人が興味を持った一因には、"現状への漠然とした不満"を共有していたから、というのもある。今の2人もそれを抱えている一方、テキトーで軽いワタシは少なくともそれを見せていない。全然無いわけじゃないけどさ。
だから2人だけでスクールアイドル同好会に入ろうとする展開は、全然無理なく成り立つのだ。
副会長や色葉ちゃん達のように手伝い要員として参加すれば、過不足なくワタシの希望は達成されるだろう……いや、本当に入る前には相談はしてくれると思うけどね?流石にそれくらいはね?
「あー……もう……」
そのスムーズな流れを阻害する可能性がある、もう一つの要因が存在する。してしまう。
今から約半年前に、ワタシはとある
少なくともその当時に"原作"をインストールされていれば、絶対にやらなかったことを。
「スクールアイドルに確執があって、しかもそれを幼馴染の片方にだけ知られてる、とかさぁ」
いや。いやダメでしょ。真面目に考えないとダメでしょこれ。
――だって。
だってあの物語の中では、歩夢ちゃんも侑も、すっごく楽しそうだったんだ。
普通の高校生としてマンネリな日々をただ過ごしてる2人が、あんなにキラキラした目で活き活きしてた。
迷って悩んですれ違って、でもそれを自分達で乗り越えて、めちゃくちゃ素敵に煌めいてた。
この現実が、あんなに綺麗に物語通り進むとは限らない。
もっとぐちゃぐちゃになって、めちゃくちゃ傷つくかもしれない。
取り返しのつかない別れが待ち受けてしまっている、かもしれない。
「……でもさ」
ワタシって異物の存在がその可能性すら摘み取るのは違うでしょ。
チャレンジしてダメだったなら仕方ないけど、きっかけ奪っちゃうのは全然話が違うでしょ。
"原作"通りに行かなかったとしても、正直それはワタシの責任じゃあない。現実がワタシ以外に誰も知らないストーリー通りにならなかったからと言って、誰に責められるわけでもない。幸いな事に一歩踏み出した先にGameOverが待ってるバイオレンスでアポカリプスな世界観じゃないんだし。
……でも。ワタシは彼女たちの煌めく未来の可能性を知っちゃった。
それを惜しいと思っちゃった。
見てみたいし、彼女たちに見て欲しいと思っちゃったんだよ。
あのトキメく素敵な未来をさ。
……だから。
「……うん。よし、決めた」
改めて、決めた。
ワタシは、この現実をあの"物語"に寄せてみせる。
ワタシという異物が彼女たちに悪影響を及ぼさないように、けれどもストーリーを踏み外すことがないように。
せめて、彼女たちが自分たちで、自分の決めた道へ一歩踏み出すその時まで。
厄ネタでしかないワタシの存在を、どうにかこうにか扱い切ってみせる!
――そしてあわよくば!その過程でイチャイチャを思う存分眺めるんだ!!
……我慢できなかったね!!うん!!でもモチベーションって大事だよね!!
いやぁ、だってワタシの第一目的ってやっぱこれだもん。
人間、芯をぶらしちゃ最後まで持ちませんって。こんぐらい欲にまみれてた方がやる気出るんだって。うん。
2人が大切なのとこの欲望は思いっきり関連してるし。うん、寧ろ健全けんぜん。2人のために頑張んないとね。それがワタシのためでもあるってだけだからね。うん。
「さぁて、そうと決まれば……うん?」
決意を新たにしたところで、部屋着のポケットに入れていたスマホが音を鳴らした。
取り出して画面を見てみると……そこには、片方の幼馴染からの、呼び出しのメッセージ。
『気分悪そうだったけど、大丈夫?ちょっと話せない?』
「……さっそく来ちゃったかぁ」
その少し後に響く、カラカラという音。聞きなれた、彼女がベランダへと続くリビングのガラス戸を開ける音だ。
お誘いをした時にワタシが出ていかなかったことってないもんな。ワタシが無視するかもしれないなんて欠片も思っちゃいないのかもしれない。
……なんてね。あの子は自分が少しでも待たせたくないだけだ。呼んだ側が待たせるようなことをしないためだ。もしワタシが断ったら、その時はその時で戻っていくだけだろう。まったく、健気な子だね。
本音を言うなら、今だけはもうちょっと準備する時間が欲しかったけど……
「……まぁ、しゃーないか」
可愛げのない猫が"りょ"と親指を立てたスタンプを送ってから、自室を出て窓へと向かう。
ぶっちゃけ"1期1話"が一番鬼門なんだ。そこさえ乗り越えればきっと2人は自分たちで何とかしてくれる。
歩夢ちゃんも、侑も、自分の事は自分で決める。人任せにしないで、自分の未来を選んでいく。
だからワタシは手は貸すんじゃなく――邪魔をしない事に、全力を注ごう。
この"1期1話"を――今日と明日を、乗り切ろう。
ベランダから見える空は、いつしか陽が落ちて夕闇に陰り始めていた。
ワタシの進む一歩先は、いきなりお先が暗そうだけど。
「"勇気 胸に 未来へ踏み出そう"……なんてね」
「あ、来た」
「やほ、さっきぶり」
ベランダの仕切り越しに掛け合う気安い挨拶に、自然とへにゃりと頬が緩む。
右側頭部にまとめられたお団子髪を揺らす彼女。
離れていても何故か鼻をくすぐってくる良い香り。
未来のスクールアイドル。
超王道ヒロインこと上原歩夢が、そこに待っていた。
最初のみ2話分投稿します。
ここまでオリキャラばかりで失礼しました。次からちゃんと毎回原作キャラが登場する予定です。