ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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3-⑦

 

 

「ら……ラブライブになんて、出なくても良い……?」

 

 

 この人は、上原歩夢さんは、何を言っているんだろう。

 

 全スクールアイドルの、夢の舞台であるラブライブを、目指さない?

 

 なんだ、それは。

 そんな選択肢、あるわけがない。

 だってスクールアイドルである以上、目標にしないわけがない。

 そこにいる人だって、それだけは捨てられてなかったのに。

 

 "自己紹介動画しか上げていないような人が、知ったようなことを"。

 一瞬沸き上がったそんな悪態をかみ殺して、あくまで表面上は丁寧に、彼女を諭す。

 

 

「……上原さんは始めたてだから、そんな事が言えるんです。続けていくうちに、否が応でも分かっていくでしょう。周囲の人やファンからそれを望まれることに。それに応えたいと思うことに。スクールアイドルと、応援してくれるファン。そのすべての目標なんです、ラブライブは!」

「私はせつ菜ちゃんに望んでないよ?」

「だからっ!それはまだスクールアイドルの事を、上原さんが分かってないだけで……!」

「分かってないと、スクールアイドルを好きになっちゃ、ダメなのかな?」

「は……はぁ!?そんなの……!……?」

 

 

 "そんなの当たり前ですっ!"

 そう言おうとして……口が止まった。

 

 ……当たり前?

 それは本当に……当たり前なの?

 

 

 

 

 

「侑ちゃんは、私と一緒に夢を見てくれるって約束してくれた。まだ曖昧だけど、スクールアイドルとしての、私の夢を」

 

 

 隣にいる人の手を握る。

 

 

「その子は、私のファンで居てくれるって言ってくれた。何があっても、って」

 

 

 少し離れたところにいるその人に、微笑みかける。

 

 

「かすみちゃんは、皆が自分の一番を探せる同好会にしたいって決意してた。そのやり方も、皆で一緒に探して行きたいって。すっごくカッコよく……ううん、可愛く言い切ってた」

 

 

 そしてもう一度、真っ直ぐに私に、向き直ってくる。

 

 

「私は……せつ菜ちゃんのステージを見て、スクールアイドルになりたいって、そう思った。ラブライブを目指す姿じゃなくて……思う存分、自分のやりたいことを表現してるせつ菜ちゃんに、心を奪われたの」

 

 

 ――どくり、と。

 その眼差しに、胸が、震えた。

 

 

「確かにせつ菜ちゃんの言うとおり、始めたてで何も分かってない新人の、無責任な言葉なのかもしれない。でも、私がこの数日でときめいた理由に、ラブライブは関係なかった。ラブライブがスクールアイドルの一つの到達点なんだっていうのは分かる……でも。それを目指すかどうか。自分のやりたい事と合ってるかどうか。それは選ぶものであって、絶対に目指さなきゃいけないものじゃ、ないんじゃないかな……だから」

 

 

 柔らかく、一見儚げで、頼りなさそうで。

 でも、何故か力強い芯を感じる。

 そんな笑顔とともに。

 

 

 

 

 

私はラブライブは目指さない。でも、スクールアイドルは、やってみたい。私のやりたい事を見つけるために!

 

 

 上原歩夢さんは、私に堂々と宣言した。

 

 

 

 

 

「……せつ菜ちゃんは、そんな私を許してくれる?」

 

 

 一転して不安そうに問いかけてくる様子に、"ズルい"という感情が浮かんでくる。

 あんなに格好良く宣言しておいて、今度は庇護欲をそそってくるなんて、欲張りにもほどがある。

 

 

(……見てみたい)

 

 

 スクールアイドルとして歩夢さんがどんな道を歩むのか、もっと見てみたい。

 そう、思わされてしまった。

 

 

 

 

 

「……歩夢が言いたい事、言ってくれたよ。結局私も、せつ菜ちゃんが幸せになれないのが嫌なだけなんだ」

 

 

 最初の悲壮感が嘘のように爽やかに、侑さんが再び語りかけてきた。

 

 

「歩夢がスクールアイドルとして言うなら、私はファンの一人として言うね――私は、ラブライブみたいなステージじゃなくても良いんだ。せつ菜ちゃんの歌が聞ければ、それで良いんだ。スクールアイドルがいて、ファンがいて。それだけじゃあ、ダメなのかな?」

 

 

 それは、スクールアイドルの根源。

 何かを語りたい人がいる。

 それを聞いてくれる人がいる。

 それだけで、スクールアイドルは容易く成り立つ。

 

 大層なお題目なんか要らない。壮大な目標は必須じゃない。

 何者でもない普通の子供だって特別になれる、そのきっかけと可能性をくれるもの。

 

 それが、スクールアイドル。私の好きな、スクールアイドルだ。

 ……なんで、忘れてしまってたんだろう。

 

 

「どうして……こんな私に……」

「そんなの……」

 

そんなの!せつ菜ちゃんが好きだからに決まってるじゃない!

 

「っ!?」

 

 

 もはや敗北宣言にも等しい私の呟きに大きく応えたのは……さっきまでガラス戸の向こうにいた、エマさんだった。

 

 

「あの一回のライブだけで、こんなにせつ菜ちゃんを好きになってくれる人が増えたんだよ?そんなに凄いせつ菜ちゃんの歌を、このまま聞けなくなるなんて、私嫌だよ!せつ菜ちゃんに、もっともっと凄いパフォーマンスを見せて欲しい!」

 

 

 それに続くように。バタバタと、足音が響いてくる。

 

 

「盗み聞きしちゃってすみません、せつ菜先輩!でも……嫌なのは私も同じです!もっと私も頑張ります、直ぐには難しいかもしれないけど、ちゃんと自分のやりたい事を伝えるように。一緒に話して行けるように……だから、私にもう一度チャンスをください!お願いします!」

 

 

 生真面目なしずくさんが、そういって頭を下げてくる。

 

 

「便乗しちゃうけど、彼方ちゃんもおんなじぃ……せつ菜ちゃん。彼方ちゃん達に必要だったのは、こうやって怖がらずに話し合うことだったんだよぉ。ちゃんと先輩として取り持ってあげられなくてごめんねぇ。彼方ちゃんも、もっと頑張るから。大好きなせつ菜ちゃんと、これからも同好会、やっていきたいなぁ……だめ?」

 

 

 出会った頃のようにほんわかとした彼方さんが、しずくさんの肩に手をかけながら、おねだりしてくる。

 

 

「ラブライブはまだ先ですし、今決めなくても良いじゃないですか。それまでにもっと違う事を思いつくかもしれないじゃないですか。っていうか、一緒に探しましょうよ!同好会辞めちゃったら、それもできなくなっちゃいますよ!新同好会の部長として、かすみん'sと一緒に!」

 

 

 喧嘩別れのようになってしまったはずのかすみさんが……堂々と言い放ってくる。

 

 

「え?かすみちゃんが部長なの?」

「そうですよエマさん!かすみん部長です!」

「一気に不安になる事言わないでよ」

「ちょ、しず子そこまで言う!?」

「いえーい、かすみん'sでーす」

「彼方先輩、そこ本気にしないでください!冗談ですからぁっ!?」

「……皆さん……」

 

 

 わいわいと、ガヤガヤと。

 久しく感じていなかった喧騒に、視界が歪んでくる。いつしか、身体が前のめりになっていた。今すぐその場に駆け寄りたい、心がそう求めているように。

 ……ふいに、その輪から外れたあの人が気になり目を向けた。その人は、肩をすくめてこう言った。

 

 

「……まだ同好会に入りたいって子も来るかもしれないじゃん。その子に自分って前例もあるんだって教えてあげる意味でも、頑張ってみたら?」

「……あはは」

 

 

 まったく。優しくない。

 もう皆が優しくしてくれるんだからワタシは良いでしょ?と言わんばかりに。

 でも……なんとなく、この人からかけられる言葉は、それくらい適当な方が心地良い気がした。

 

 

「……期待されるのは、嫌いじゃありません。ですが……本当に良いんですか?」

 

 

 念を押すように、問いかける。

 全員の視線が集まってくる。

 

 

「私の本当の我儘を……大好きを貫いても、良いんですか?」

 

 

 ある人は微笑み。

 ある人は呆れ。

 ある人はそっぽを向いて。

 それでも、誰も否定しなかった。

 

 

「ふふ、もちろん!せつ菜ちゃんが素敵になる分、私も素敵になろうって……負けたくないって、頑張れるから!」

 

 

 そして、みっともない顔をしただろう私に。

 とてもとても素敵な笑顔で、歩夢さんが応えてくれた。

 気持ちがいいくらいの、ダメ押しだった。

 

 

「……あは」

 

 

 もう、耐えきれない。

 

 

「……そんな事言って、良いんですか?本気にしちゃいますよ?」

「え?う、うん……」

「おー!宣戦布告だね、歩夢ちゃん!私も負けないよっ!」

「えっ?宣戦……えっ!?」

「かすみんに対してもしてくれましたもんねぇ。歩夢先輩ってば好戦的なんだからー」

「違うよ!?してないよ!?」

「……そういうのもアリ……?」

「しずくちゃん?何か言った?」

「っ!な、なんでもないですよ侑先輩っ!」

「うふふふふ、賑やかになってきたねぇ。これからが楽しみだねぇ?あ、もちろん彼方ちゃんもどんとこいだよぉ?」

 

「くふっ……あははははっ!」

 

 

 わちゃわちゃとあまりにも姦しい皆さんを前に、遠慮なく笑う。

 

 ……バックドラフト。一度抑制された火が、空気の流入によってより激しく燃え上がる現象。ふいに、それを思い浮かべた。

 今の私は、まさしくそれだ。心が滾って仕方ない。

 こんなに熱くさせて、どうしようっていうんだろう。

 

 

「……凄い人ですね。歩夢さんも、皆さんも」

 

 

 三つ編みを解く。メガネを外す。

 

 今の私は一度辞めた身だ。だから、ここから追いかけ直す。

 もう一度、足を踏み出す――新たな"一歩"を、刻みなおす。

 

 

「もう、どうなっても知りませんよ!」

 

 

 今度こそ、私が私らしくいられる気がする……ううん、絶対そういられる。

 言い訳ばかりの日々はもうお終い。

 なりたい自分をもう!我慢しない!

 覚悟してください?ぼーっとしてたらすぐに追い越しちゃいますからねっ!

 

 

「これは――これがっ!始まりの歌ですっ!!」

 

 

 そう言ってぐぃっと歩夢さんに突き出したこぶしを、高らかに空に掲げた。

 

 

 ――さぁ行きますよ!

 私らしく!

 どこまでも、格好良くっ!

 

 

 

 

 

 正真正銘スクールアイドル! 優木せつ菜、ここに再臨ですっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ノリと勢いでやっちゃったぁ!あっはははーもうどうしよー!?

 

 

 

 

 ……いやぁ、うん。間近で見るパフォーマンスは凄かったよ?特等席で見れたことに感涙するかと思ったよ?こっそりスマホで撮ってた動画は多分後でいっぱい見直すよ?実は歩夢ちゃんのもかすみちゃんのも撮ってたけど。

 

 感極まった侑がせつ菜ちゃんに抱き着いて、それを歩夢ちゃんがさりげなく引き剥がして。

 同好会所属の皆が、笑いあいながらせつ菜ちゃんを囲んでいる。

 この最後の場面だけ見れば、"原作"通りでワタシが望んだものなんだけど……

 

 

(いや、これこの先マジでどーなんのかなー……)

 

 

 ワタシの半年前の迂闊な行動に気を割いたせいで、侑が一人でせつ菜ちゃんを説得できなかった。

 勢いでクライマックスシーンにワタシが出しゃばっちゃった。

 しかもその代わりに侑の名言を歩夢ちゃんが言い放っちゃった。

 最後の説得なんて勢ぞろいしちゃったよ。

 

 

 ……"原作"と比べてせつ菜ちゃんから皆への好感度の割合、変わっちゃってますよねぇ??

 侑への好感度が皆に分散してるの気のせいじゃないですよねー??

 

 

 ワタシはしょせん部外者だからそんなでもないだろうけどさー?

 特に歩夢ちゃんへの比重が重くなってないかなー?

 突き出したこぶしも侑にじゃなくて歩夢ちゃんに向けてたもんなー?

 

 

 いやこれ……これさぁ……大丈夫かなー……?

 場合によっちゃ侑とせつ菜ちゃんの絡みを増やしに行かなきゃダメ?追加介入じゃん。

 ぴえん。まぢどぅしょ。

 

 

(……うん。もうやっちゃったもんは仕方ねーや)

 

 

 明日の自分に任せよう。うん。そして明日の自分よ、過去の自分を恨んでくれ。

 ようやっと明日休みだしね、ちゃんと休息とってね皆、うん……そんじゃあ、そーっと……

 

 

「さてさてぇ、そこの"そろそろお暇しよっと"なぁんて思ってそうな人ぉ?」

「ぅえっ……」

「お久しぶりだねぇ……エマちゃんとはたぁっぷりお話したみたいだしぃ。彼方ちゃんにも当然付き合ってくれるんだよねぇ?ねー?」

「あ……あっははぁ……」

 

 

 はい。ダメですた。

 絡みつかれました。気持ちいいです。

 

 

「……かすみさん。そういえば、あの人って誰?」

「失礼な人」

「何も情報が更新されないんだけど……」

 

 

 そんな1年組の会話をしり目に、ずるずると引きずられていく。

 ついでにエマさんにも腕を掴まれる。逃げられねぇ。

 ワタシの試練は、どうやらもうちょっと続くようだ。

 

 

 

 ……あ゛ーっ!ゆうせつの間に……とか言ってる場合じゃねぇなぁ、ホント!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、見つかる前に退散しないとですね!」

「ものすごい歓声だったね!」

「歩夢ちゃんも今後こうなるんだねぇ」

「なる……のかなぁ。なれるのかなぁ……」

「今後の努力次第としか言いようがないですね!もちろん私も微力ながらお力添えさせていただきますとも!」

 

 

 眼鏡の奥に潜ませていた瞳を爛々と瞬かせて、力強く答える。

 枷が外れた彼女の迫力に、侑と歩夢は緩む頬を抑えられない。

 彼女たちが憧れた優木せつ菜。それにようやく出会えたのだから。

 

 

「ところで、あの人は同好会には入らないと?」

「うん。ずっとそう言ってる……アイツを入れたい?」

「いいえ。無理強いするつもりはありません。ただ……そうなってくると、お礼をする機会を得るのが難しそうだなぁ、と」

「えー?お礼?要らないでしょ。アイツ別にそういうの気にしないよ?」

「そういうわけにはいきません!私の独り相撲だったとはいえ、こうして吹っ切れたのはあの人のおかげでもあるのですから!」

「ふふ、あの子はせつ菜ちゃんがスクールアイドル活動をしてくれてたら、それで満足だと思うよ?ほら、"スクールアイドル続けて"って言ってたじゃない」

「ですが……うーん……それで良いんでしょうか……?」

「それが一番のお礼なんだよ」

「むぅ……」

 

 

 律儀な彼女を挟むように、屋上を後にする。

 中庭には、まだ彼女がもたらした熱気が渦巻いている。

 その寒暖差が生み出したかのように、びゅおう、と。もう一度強く風が吹き抜けた。

 その心地よさに、思わずせつ菜は眼を細めた。

 

 

(……とりあえず今は、それでよしとしよう)

 

 

(けれど、他に出来ることがないかは問い続けよう)

 

 

(誰がなんと言おうと、本人が後悔していようと、私はあの動画に勇気を貰ったんだから)

 

 

(それをあの人が認められないなら……その時は……)

 

 

 世界のゆがみは止まらない。

 どれだけ取り繕おうと、一度生まれた綻びは隠しきれない。

 いわんやその異物が穴を広げ続けるのであれば、なおさらだ。

 

 その穴は、虹の光すらも吸い込むのか。はたまた、光が逆に満たすのか。

 この先の未来は優木せつ菜という彩光が加わってもなお、不透明だった。

 

 




これにて3章完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。
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