4-①
ヒーローだって、人間だ。
それはズラしの多い最近の創作に限った話ではなく、むしろ古典からのお約束。
無数の民草を導く為政者も。
絶望的な外敵に立ち向かう守護者も。
絶対の運命に抗う反逆者も。
迷える心をあまねく救う聖者も。
全てを
強さの中に、弱さが時折り垣間見えるもの。
強者の弱音。
けれど、それがヒーロー達の魅力を損なうかと言われれば、そうでもない。
だって、そんな姿を目の当たりにした時、キミはこう言うじゃんか。
"がんばれ"って。"負けるな"って。
その期待と声援をパワーに変えて、ヒーローは立ち上がるんだから。
ヒーローがヒーロー足る条件は、完全無欠であることじゃない。
どんな困難に直面したって、ひどく打ちのめされたって、また立ち上がる。
自分の意思を貫き通す、その不屈と不退転の精神こそが、人をヒーローへと押し上げる。
そしてそんなヒーローが、この虹ヶ咲にも居る。
彼女も最初から強かった訳じゃない。
迷い戸惑う事もある。
力足りずに嘆く事も、きっとある。
それでも決して俯かず。
道に悩んで沈んでたって、答えを見つけてまた昇り。
ワタシ達に愛を燦々と降らせ注いで、笑顔をもたらしてくれるんだ。
そんな太陽のような彼女だもの。
どこまでだって、応援し"たいよう"!そう思っちゃっても仕方ないでしょう?
――ふふ、なんつって!
*********
「むぎゃ」
「うーん、結構早く終わりそうな感じ?」
「先に来た彼方さん達が凄く頑張ってくれてたみたいだからね。私達も働かないと」
「そうだね!」
せつ菜ちゃんとの和解を果たし、激動の一週間を終えたその次の月曜日。
さぁ活動スタートだ!――とは、残念ながらあいならなかった。
"部活動申請のための事務処理が完了していません"
遅々として進まない部長(仮)の筆をなんとか動かさせ、ようやく書類が受理され、新たな部室をあてがわれたところで、その日は終わってしまったのだ。
つまりは今日は、その次の日。火曜日である。
長らく空室だったという部室の片付けを、手分けして進めているところであーる。
そういや"2話"で経過観察中にも関わらず部室が無くなってた件だけど、あれも校則通りだったみたい。
経過観察中とはいえ廃部した部の部室は回収されるんだって。昔は部室もそのままにしてたんだけど、なんか制度を悪用した輩がいたとかでその辺はシビアになったらしい。ワンダーフォーゲル部のプレートは向こうの人が嬉しさで先走っちゃったとかなんとか。
どれだけ気合いが入ってても、ルールはルール、守るべきもの。秩序を守るのは一人一人の心構えなのだ……ヘンタイのお前がいうな?いやほら、ワタシも一線は超えてないし。
ともあれ、結局元々の部室は処理速度の差でワンダーフォーゲル部にあてがわれ、代わりに人数も多いからとこちらの大きめの部屋を充てられたんだって。まぁより広い部屋貰えたし、同好会にとっちゃ結果オーライだったんじゃない?まだ人増えるしね。
「ぎゅう……」
「ふんふんふんふーん♪ふんふふーふんふんふんふーんふんふふーん♪」
「楽しそうだね、侑ちゃん」
「そりゃ楽しみだよ!やっとスクールアイドル同好会が本格始動するんだから!ここまで長かったなぁ……」
「大袈裟だなぁ。まだ1週間くらいしか経ってないのに」
「体感3ヶ月くらいは経ってるよ!」
「ホントにそんなに経ってたら夏休み終わっちゃうよ」
鼻歌を響かせながらハタキを踊らせる侑。それに苦笑しながらテーブルを拭く歩夢ちゃん。他のみんなは追加の掃除用具や足りない椅子を取りに行っている。
"原作"の役割とは違うみたいだけど、まぁ流石にこれくらいの差異は許容範囲内だろう。 ゆうぽむなんてなんぼあってもいいですからね。
「じゃあダメだ。歩夢の水着を見ずに夏は終わらせられない」
「季節を止める力があるの……?」
「あるよ。言ってなかったっけ?」
「初耳だぁ。じゃあ寧ろ夏は早く終わらせてよ。私、暑いの苦手だし」
「えー?嫌だなー」
ふむふむ。"侑ちゃんの水着姿を他の人が見る機会は少ない方がいいし……"なんて心の声が聞こえるね。
いやぁ、オタクイヤーは都合が良いなぁ!
「み゛ぃ」
「水着ならいつでも着てあげるから」
「え?ホント?ホントに?言質取ったよ?よーしそんじゃ私頑張っちゃおうかなー!」
「……やっぱり無しで」
「なんでー!?」
どうやら羞恥心が上回ったらしい。まぁ水辺でもないのに水着を一方的に見せるってなんかいかがわしいもんな。是非ともその場に潜みたい。
「でも虹ヶ咲って改めて凄いね。この規模の部室がいっぱいあるなんて」
「部活動とは無縁だったから知らなかったねぇ。設備もバッチリだし」
「常設のロッカーやエアコンがあって、PCはないけど端子も完備。他にも机にソファに……」
「そりゃみんな同好会になりたがるわけだよ。知ってたら私も作ってたかもしれない」
「何の同好会?」
「え?うーん……歩夢の手作りお弁当同好会とか?」
「もう、侑ちゃんったらー」
「ホンキなのにぃ、あははー」
そう言って小突き合う2人。かすみちゃんあたりがここにいたら引き攣り笑いしてそうだ。コイツらたまに信じられないくらい甘ったるいイチャイチャするんだよね……ごちそうさまです。
「ぐぇ……」
「……ん?ねぇ歩夢、このコルクボード、最初からあった?」
「え?うーん、ちょっと分からないかな。最初の部屋の状態を知らないから……何か気になるの?」
「何も貼ってないじゃん?これ。なのに何かを刺した跡とかもないんだよ」
「新品ってこと?」
「たぶん。先に来た誰かが持ち込んだのかな?」
「そうじゃない?……結構大きいね」
侑が指し示したコルクボード。飾り気のないそれにはまだ一つも掲示物がない。それどころか留める用のピンすらない。無い無い尽くし。まっさらだ。
「……ふふ」
「侑ちゃん?」
「うん。1週間でこれだけ濃かったら、この大きさでもすぐいっぱいになっちゃいそうだなって」
「……そうだね」
「どんなトキメキが待ってるのかなぁ……ワクワクして仕方ないや」
「…………」
ウキウキする侑、それに比べて神妙な顔をしている歩夢ちゃん。その心中は窺い知れない。"原作"のネタバレを知っている身としては、思い当たる点がない訳じゃ無いけれど。
……まぁ今、それを活用してフォローする必要なんて全くないだろう。やるつもりも、無いけれど。
「ねぇ、歩夢。明日写真持ってこよっか?」
「え?」
ほらみれ。
「旧同好会のみんなはみんなで撮った写真を貼るだろうからさ、第二陣の私達の写真も貼らせてもらおうよ。再スタートの記念にさ!」
「……ふふ!うん、そうだね!」
あいつ、本当にグッドコミュニケーション逃さねぇのよ。歩夢ちゃんの笑顔の花を咲かせることにかけちゃ一流なのよ。萎らせるのも一流だけど。
あーあー花飛ばしちゃって。なんか良い匂いまで漂ってきたんだけど。これ歩夢ちゃんの香りか?歩夢ちゃんの気分で効果範囲広がんの?
まったく。これだから ゆうぽむの間には入りたくねぇんだよなぁ! ご馳走様でぇす!
「足りなかったお掃除用具、持ってきましたよー」
と、そんな一幕を挟んだところでかすみちゃんが帰ってきた。タイミング良すぎじゃない?もしかして外で砂糖吐いてた?
「あ。ありがとう、かすみちゃん!まだ椅子とか足りなそうだから今度は私が探してくるね?」
「はーい……っていうか」
「うん?」
「あの人はいつまで遊んでるんですかぁ?居るならちゃっちゃと働いて欲しいんですけどぉ」
あらま。吐かれたのは砂糖ではなく毒だったか。
とにかくそこでようやく水を向けられた……水を向けて貰えたワタシは、抗議の声を上げた。
「遊んでねーやい。助けれ」
「……すやぁ」
上に乗っかる彼方さんに、心持ち恨めしげな気持ちを込めながら。
はっはっは。彼方さんと床の間に挟まっちまってるぜってね!
うるせぇ!!
新シリーズが発表されたので続きました。
第2部開始のイメージとなります今章も、どうぞよろしくお願いいたします。