突然だけど、今回の話はワタシにとってはインターバルと言っていい。
もちろん愛ちゃんを蔑ろにしてるわけじゃない。"4話"が好みじゃないってわけでもない。寧ろ好き。ワタシの対応が取りやすく考えることが少ない、そういう意味でのインターバルだ。
だって単純に、今度こそ、本当に、ワタシがなんも絡んでないから。
愛ちゃんは今までスクールアイドルに興味なかった。過去にワタシと会った事もない。もちろん去年のあれこれにもノータッチだ。たぶんワタシ達のMVを見たことすらないだろう。
その上で、解決パートであろう今日この日――ソロ活動に対するお悩みイベントを経て、改めて迎えた休日――ワタシは愛ちゃんと対面するつもりもないからね。
侑や歩夢ちゃんには用事があると宣言済み。愛ちゃんのランニングコースも予習済み。レインボーブリッジの絶対見つからない隠れ場所も点検済み。
過去の因縁はなく、解決パートにもその前後にも絡まない。過去、現在、未来の全てにおいて挟まらない。単純にして明快、どこをとってもワタシが邪魔できる余地がない。
完璧だ。
完璧すぎる。
パーフェクトである。
はっはっはっはっは!
…………だったのになぁ!
「すやぁ……」
なーんでおねむ状態の彼方さん見つけちゃうかなー!?
「あれ……アナタは……」
しかも介抱しようとしてたらせつ菜ちゃんに見つかっちゃうしさー!
「あー……キグウデスネー……」
そっすね!愛ちゃんのランニングコースしか押さえて無かったっすね!
てかせつ菜ちゃん達の道程なんて分かるか!あんなちょっとしか画面に映って無かったのに!ちくしょー!見つからないルートでレインボーブリッジに行こうとしてたのにー!あいエマ見逃し確定だよ!ぬぁーっ!まったくワタシの完璧って言葉ほど信じられない言葉はないなぁ!
……けど流石にこの彼方さん見つけてほっとけるかぁ!そこまで倫理観終わってないッピ!
「……せつ菜ちゃん助かったよ。小柄とは言え流石に人1人をベンチに寝かすのは大変だった」
「いえ、むしろ通り掛かれて良かったです……彼方さん、突然眠る頻度が増えてましたから、こういう事もあるんじゃないかと気になっていたので……」
「……そうなん?」
「はい。授業中などは逆に寝ていないそうなんですが」
「特待生だしね。授業態度でNG貰うわけにゃいかないだろうし」
「お昼寝が好きだと本人も言ってはいるのですが……流石にこの寝方は、その範疇を超えているような気がします。素人判断で決めつける気はありませんが、これは……」
「あー……なんだっけ。ナルコレプシー?」
「……それに近いかと。何かご存知ありませんか?」
「…………」
……あぁもう。心苦しさに押しつぶされそうだ。
ワタシは彼方さんの事情を知っている。みんなを心配させまいと誰にも打ち明けてない彼方さんの心情も知っている。
でも、それらは"原作"からの知識。昔一緒に活動していた頃に見聞きしていた情報からだけじゃ、現状を導き出せない。エマさんすら辿り着けていない真実を、ワタシが語れる道理がない。
エマさん。
璃奈ちゃん。
しずくちゃん。
果林さん。
個人回を残す他のみんなと彼方さんは、日常生活に支障をきたしているという点で大きく異なるのに。
なるべく早く救われるのに、越した事はないのに。
この場でワタシは、彼方さんを救うキッカケを、作れない。
「……うーん……わっかんない……かなー」
こんな役立たずなことしか、ワタシは言えないんだ。
「……そうですか」
彼方さんのふわふわ極まる髪を、そっと撫でる。
この無理矢理なすやぴでギリギリ休息が取れてるんだろうか。そのお髪の艶はまだ失われていない。でも。それもいつまでか。"7話"はいったいいつなんだ。
「……ま、彼方さんはワタシが見てるよ。せつ菜ちゃんは先に行って?待ち合わせあるんでしょ?」
「そうもいきませんよ。生徒会長として見過ごせません。それに用事があるのはアナタもでしょう?」
「まぁそうだけど……だからって2人してここで彼方さんが目を覚ますの待ってても仕方ないじゃん」
「うーん……では、お手数ですが皆さんとの待ち合わせ場所までお付き合い願えますか?皆さんがいれば安心ですし」
「いや、彼方さんが寝てるから行けないって話でしょ?」
「えぇ。なので彼方さんには少し寝苦しさを我慢してもらいましょう」
「ん?」
「よいしょ」
「くぇっ」
「……えっ」
そう言ってせつ菜ちゃんは彼方さんを抱え上げた。
レスキュー隊が人命救助する時のやつだ。肩で抱え上げるやつ。
……え。マジで?すげぇな会長。
そして彼方さんは変な声をあげたけどまだ起きてない。どんだけ眠りが深いんだ。
「これぞファイアーマンキャリー!燃える消防士の得意技です!」
「消防士が燃えてどうすんの。てかなんで出来るの?」
「こんな事もあろうかと習得しておきました!」
「何を想定したら習得しようと思い至るのよ」
「学祭等で要救助者が出た時とかですね!」
「めっちゃ真面目な理由!ごめん!」
「お気になさらず!さぁ行きますよ!お手数ですがフォローお願いします。流石に周囲に気を配りきれないので!」
「アイアイサー……あいさラジャー、かな?」
確かにここから待ち合わせ場所までは遠くない。遠くないけどそこまで運ぶ気なのか……重ね重ねすごいな。その小柄な体になんてパワーを秘めてるんだ。
「……距離はそこまでありませんが……少しだけ、お話ししても?」
「うん?いいけど」
「彼方さんは、昔からこうだったんですか?」
「昔?……あぁ、去年ね」
キョロキョロと前後左右を警戒しながら進んでいくうち、少し探るような声音で投げかけられたせつ菜ちゃんの言葉。それに意外なほど軽い気持ちで返事をした事に、遅れて自分で驚いた。
……そっか。なんだ、もう大丈夫そうじゃん。なんか普通に話せそうじゃん、ワタシ。
「いや、ここまでじゃ無かったよ。もっと普通のお昼寝好きのおねーさんだった。エマさんとの癒しの相乗効果は半端なかったー」
「……ふふ。確かに。お二人とも面倒見が良くて。旧同好会でも、いつも後輩の私たちを気にかけてくれていました」
「そぅそぅ。去年はそんな2人をワタシが独り占めだったんだよ?凄くない?」
「贅沢極まりないですね。是非とも一度、体験してみたいものです」
「言ったらやってくれそうだけどねー」
「かすみさん達にインターセプトされそうですけどね」
そこで、ちらり、と。自らが担ぎ上げている人に視線を送ったあと。
「……私が去年加入していたら。もう少し機会もあったかもしれませんが」
ぽつりと、微かに。
けれどワタシに聞こえるように、そう溢した。
ワタシは意識して、少しだけ不機嫌そうな顔を作った。
「……なんて。もちろんホンキじゃありませんよ?」
「いやぁ、良かった。彼方さん担いでるのに手が出るところだった」
「もうちょっと逡巡してください」
「せつ菜ちゃんが悪い」
「ごめんなさい。えぇ、新生同好会として、アナタを忘れて再スタートを切りますとも」
「忘れてくれるなとも言ってないけど?」
「めんどくさくないですか?」
「ほどほどに構いつつ適度に放っておいて欲しい」
「ワガママですか」
そうしてお互い気負いなく話を流す。過去のことにケジメはついた、それを確かめあったような気がした。どうやらせつ菜ちゃんとワタシ、2人の距離感はこんなところに落ち着くようだ。
侑とも、歩夢ちゃんとも、愛ちゃんとも違う。
傷つけあったが故に生まれた、皮肉を言いあうような。そんな独特の関係性。
なんだか少し気軽で、少し心地よくて、少し面白いなと、そう思った。
本来"原作"に居ないワタシが、得るべきではないものだってことも、自覚しながらだけど……ね。