ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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4-⑤

 

 

「……そういや、同好会の方はどうなの?」

「どう、とは?」

「ソロでやってくって話。今どんな感じなのかなーって」

 

 

 目的の公園までは、たぶんもうあと100mも無いだろう。最後の話題として、少しだけ気になっていたことを口に出した。例の愛ちゃんの悩みの発端となった場面には居合わせてた。でもその後は練習に参加してないから、どんな状態になってるか知らないんだよね。侑や歩夢ちゃんから、ちょっとは聞いてるけど。

 

 

「えぇ。皆さんも各々、色々考えて始めていますよ……戸惑いもありつつ、ですが」

「んー……なんか不満アリ?」

「あるのは不満というか……不安、でしょうね」

「……不安」

「グループではなく、ソロアイドルの集団。はっきり言ってスクールアイドルとして異質です。何から始めて、どう進めていくべきか、正解も前例もない。今更足踏みするつもりはありませんが……暗中模索となることに、皆さん不安を抱かざるとはいかないようです」

「まぁ……そりゃそうだよねぇ。先のことが分かんないのは、怖いや」

 

 

 彼方さんを担いだまま打ち明けられた、せつ菜ちゃんのその告白に、遠い目をして中空を見つめた。とても他人事じゃあないからだ。ワタシとしても。

 

 

(もうどういうルート選べば"原作"通りになってくれるか、わっかんねーもん)

 

 

 どんどん"原作"からズレていく。その実感がヒタヒタと身を浸していく。

 かろうじて大筋は保たれてるけど、細かい違いは幾つも幾つも。夜を迎えるたびにその違いを数えて、朝起きた時に今日はどうなるんだろうって身を震わせる。自分がやらかしてしまった所業に、追い詰められていく。

 

 進めば良いのか、止まればいいのか。何をどうすれば、あの煌めく未来に導けるのか。これが本当に正解なのか、答え合わせをさせてくれないか。そんなことばっかだ、最近考えるのは。

 "3話"が始まる前なんて、付かず離れず同好会を見守ろう、って考えてたのにさ。このありさまだよ。これまでの覚悟やらなんやらはなんだったんじゃ。もはや同好会から距離置くのすら正しいのかどうか分かんない。

 はーぁ……ため息、増えたなぁ。

 

 

「…………」

「ん?なにさ」

「意外でした。アナタはそういったものを怖がる性質ではないと思っていたので」

「……?なんで?」

「かつて部員集めに苦戦していた彼方さん達を手助けしていたでしょうに。あれも暗中模索だったのでは?」

「……あぁ、まぁ手探りだったのはそうだけど……あの時は怖くは無かった。考えなしだったから」

「考えなし?」

「そ。未来のことなんかなーんにも考えずに目の前のことに集中してただけ……つまり、逆。あの失敗で懲りたから、不明瞭な未来が怖くなったんだよ」

「……なるほど」

 

 

 肩を竦めながらそう応える。完全に本当ってワケじゃないけど、嘘でもない。

 あの時なんにも考えてなかったのは本当。でも怖くなり始めたのは最近です。

 以前までなら未来が不確定だって、気にしなかったんだろうけど、ね。

 

 

「……まぁ、未来が分かったら分かったで怖いけど」

「創作物では割と良くある能力ですし、欲しいという人も多そうですが……ちなみに、なぜ?」

「だってさ、例えばその未来がめちゃくちゃ良いものだったとするじゃん?それを自分の行いで変えちゃうかもしれないって考えたら怖くない?」

「ふむ……確かに。マンガでは悪い未来の回避を描くことが多いですが、良い未来なら変えたくないと思うのも自然ですね」

「でしょー?それが自分以外の人にとっても良い未来なら余計にね……なのに、どんどん知ってる未来とズレてったらさぁ。いやもぅどうしよーってなるよねぇ」

 

 

 よりよい未来を知っている。虹色の可能性を知っている。

 そこに辿り着けなくなるのが、ただただ怖くてたまらない。なのに、足踏みも許されない。選択と決断の連続だ。踏み出した後に、恐る恐る足跡見てブルってるんだよ。

 あぁ、もう。器じゃないって自覚するよね。小者も良いとこですよ。

 

 

「……随分気持ちの入った話ぶりですね?本当に未来が見えてるんですか?」

「……ソウダヨー?侑は季節を操作する能力があるらしいからね。ワタシは未来を見る能力があるんダヨー」

「はぁ」

 

 

 まさか本当にそれに類する事が出来てるとは思うまいせつ菜ちゃんは、明らかに信じてない風に適当な相槌を打ってきた。まぁせつ菜ちゃんはバラしても案外受け入れちゃったりするかもだけど、万が一にも病院コースは勘弁願いたいからね。ワタシの孤独な戦いは続くのさ。

 ……なんていうか、ワタシ、今も暗中模索してんね。はっはー皆とお揃いだ嬉しいね。

 

 

「せつ菜ちゃんも危なかったンダヨー?同好会に戻らないかと思って焦ったヨー」

「……まぁ、我ながら中々強情でしたからね。どなたかお一人でも欠けていたら、説得に応じなかったかもしれません」

「……え?マジで?」

「そのパターンの未来は見えなかったんですか?」

「い、一パターンしか見えないタイプだから……」

「設定の練りが甘いですねぇ」

 

 

 へへ、ダメだしされちゃったぜ。

 ……いやいや待て待て。流石にちょっと聞き流しづらいこと言ってない?

 

 

「そ、そこまでの危機だった?」

「そうですね……えぇ。あの時の自分の精神状態と意固地さを鑑みると……かすみさん達に受け入れて貰えなかったら、アナタに許して貰えなかったら、侑さんにファンとしての想いを聞かされなかったら。歩夢さんに、スクールアイドルへの想いを思い出させて貰えていなかったら……今、ここには居ないかもしれませんね」

 

 

 嘘だろオイ。いやまぁワタシが変な事してなきゃそもそも問題なんてなかったんだろうけど……

 

 いや、でも。

 本人がいうなら、言うのなら。

 その可能性が。

 そんな、台無しになる可能性が、少しでもあったのか。

 

 

(…………だったら)

 

 

 それを産んでしまったワタシは。

 ワタシは、やっぱり。

 また未来に影響出ちゃったとしても。

 それでも、トコトン嫌われて、キッパリ別れちゃった方が……そうした、方が……

 

 

「ですから」

 

 

 そうして。

 新たな悔恨の渦に飲み込まれかけていたワタシは。

 

 

「もしアナタが本来の未来にない何かを頑張ってくれたというのなら――それはひとつの正解だったんですよ。少なくとも私にとっては、ですけどね」

 

 

 続けられたその言葉に、引っ張りあげられた。

 

 

「……いや、別にその、ワタシがなんかやったわけじゃ……」

「もう、分かっていますよ。私だって冗談くらいは解します。"もし"ですってば」

「……"もし"」

「そう、"もし"誰かが何かをしてくれて、今の私が居るのなら、私はその人に感謝します」

「…………」

「今以上の最良の未来はあったのかもしれません。けれどもし仮にそれを教えられたって、考えは変えないと誓いましょう。まぁ、悪意を持たれていたのであれば別ですが」

「……なんで」

 

 

 思わず素のトーンで聴き返したワタシに、せつ菜ちゃんは逆に演技がかったような、けれど確固たる自分を持った人しか出せない声音で、続ける。

 

 

「そもそも未来を知っているからと言って、その人が頑張らないといけない理由はないでしょう?その人に未来を守らなくちゃいけない責任なんてないでしょう?なのに頑張って、何とかしようとしてくれたんでしょう?」

「…………」

「だったら、それを労う人が一人くらいは居たって良いんじゃあないでしょうか」

「……自分勝手な想いでも?自己満足からの行動でも?」

「人がやる事は究極的にはすべて自己満足ですよ。それを相手が感謝するかしないか、それだけの事です。逆もしかりですが」

「そ、そんなシビアなこと言う?」

「良かれと思ってやった事がすべて逆効果だった私が言うんですよ?説得力しかないでしょう?」

「言い方ァ!」

「とにもかくにも――"もし"。アナタが未来を知って、それを守りたいと思って何かをしてくれたのなら。今がアナタの納得のいく状態ではなかったとしても。それでいい結果になったと思っている人もいる。そう割り切っちゃえばいいんですよ……失敗ばかりだった私の所業を、無駄じゃなかったって言ってくれる人だって、いるらしいですから」

 

 

 せつ菜ちゃんは、そんな感じに。生徒会長らしくもなく、軽口をたたくように締めくくった。これも生徒からの支持を集める人心掌握術の一つなんだろうか。そんな捻くれたことを考えながら……けれど、ワタシは、まんまとそれに載せられてしまっていた。単純だから。

 

 

(…………)

 

 

 ……未来を……"原作"をそのままなぞる事は、もう出来ない。少なくともありのままとはいかない。

 

 関わるべきか、関わらざるべきか。

 そのどちらかだけを選ぶ事は、もう難しい。

 関わっても関わらなくても、ただ悪化するだけだって事もある。

 

 

(でも……うん)

 

 

 悔やんだって、時は止まらず進むんだから。

 俯いてたら、進む先だって見通せない。

 それにどうやらワタシのやったこと、悪い事ばっかりでもなかったみたいだから。

 変わっても良かったこと、あったみたいだから。

 

 

(だから)

 

 

 唇噛んで、お腹に願いを、胸に祈りを抱え込んで。

 力込めて、一歩踏み出すように、頑張ろう。

 

 

 同好会みんなのために、なってくれますようにって。

 

 どうかあの煌めく未来に、どうにかこうにか繋がってくれますようにって。

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、ワタシの推し活ライフを彩ってくれますようにって!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せつ菜ちゃん、ありがとう!」

「あ、はい。どういたしまして……なんでしょう。お礼を言われているのにこの湧き上がってきた釈然としない気持ちは……?」

 

 

 うん、そうだね!ちょっと沈んで忘れかけてた!ダメなとこばっか見てて気が滅入ってた!ワタシがやりたい事は変わらない!

 

 歩夢ちゃんと侑の、ひいては同好会みんなのイチャイチャをこの目に焼き付ける事!!その至上命題を果たすためにワタシは悩んでるんだ!!

 

 それさえ忘れなきゃ大丈夫!改めて心に刻んだ!

 

 ちょっと本編に絡んじゃったからなんだ!

 完璧なんてワタシにゃ無理だと自覚しろ!

 結果的に大筋変わらずみんなハッピーだったら良いんじゃい!

 

 

 

 ビバ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会ぃぃぃぃいっ!!

 

 

 

 

「ぃぃいよしっ!」

「何がですか!?」

「色んな事!」

「訳がわかりません!」

 

「……彼方ちゃんを忘れて楽しそうじゃないか」

 

「「……はっ!?」」

 

 

 急に耳に飛び込んできた声に、二人して飛び上がった。やっべぇ、本気でちょっと忘れてた……

 

 

「うん、良きかな良きかな。すっかり打ち解けてるみたいで安心したぜ」

「いつから起きてたんですか!?」

「いつからだろーねぇ?あ、もう降ろしてくれて大丈夫だよぉ。ありがとねぇ」

「あ、はい」

 

 

 ぐいぐいと身体を伸ばす彼方さんに、せつ菜ちゃんとちょっと縮こまる。

 よくよく考えたら無理な体勢で運んでたわ、寝てる隣でうるさいわ、けっこー嫌なことしてたなワタシ達……いや、ね?うん。これも選択の一つって……ね?成功もあったら失敗もあって当然っていう、ね?

 ……ごめんなさい!

 

 

「うーん……よし、しゃっきりさん。ほら、そろそろ急がないと待ち合わせに遅れるよぉ?」

 

 

 あ、良かった!あんまり気にしてなさそう!結果オーライ!

 

 

「……あ!そ、それはマズイです!行きましょう!」

「あ、んじゃワタシはここで……」

「いーからいーから。せっかくだから挨拶くらいはしてこーよ。その時間くらいはあるでしょぉ?ね?」

「……ん、まぁ……じゃあ挨拶だけ?」

「およ?思ったより素直だねぇ。何かいいことでもあったのかぁい?」

「……ありましたよ。えぇ」

「ふふ。そうかいそうかい」

 

 

 そう言って、にまり、と笑う彼方さん。

 ……これ、本当に聴いてなかったのかな?聴いてたとしてもワタシの事情が分かるワケないとは思うけど……でも彼方さんだしなぁ。なーんか、なんか。何か汲み取られてる気もしなくないなぁ……

 

 

「お二人とも!ほら、早く!ダッシュですよー!」

「え、ダッシュ!?」

「いっくぜぇ?だーっしゅ♪」

「いやそんないきなり……え!?なんで彼方さんそんな早いんですか!?せつ菜ちゃんはともかく……あ、待って!待ってー!」

 

 

 ……そうして集まった公園には、すでにみんなが集まり始めていた。

 居ないはずのワタシが居ることに驚くみんなだったけど、程なく更なる驚愕に目を見開く事になるだろう。あのあまりにもエネルギッシュなスーパーウルトラオレンジが、もうすぐそこまで来てるんだから。

 

 

 うん、まぁ……イレギュラーにはなっちゃったけど、今日のこの選択も、良しと思うようにしよう。結果的にワタシが一切邪魔しなくて済んだ事には変わりないし。

 ようやく一人のモブになれたって感じがするよ。これまでになく、心置きなく感激できそうだ。

 

 

 そして待つこと、僅か数秒。待ち望んだあの人が、公園に飛び込んできた。

 戸惑う人々の隙間を駆け抜け、みどりの広場の真ん中へと陣取りに行く。

 その間に後ろから追いかけて来たエマさんも合流した。

 

 掴みはOK。準備は万端。オーディエンスは十二分。後は思い切り――ぶちかますのみ。

 

 

(さぁ。やっちゃってよ愛ちゃん)

 

 

 お楽しみは、これからだ!

 

 

 

 

 

(……って、あれ?)

 

 

 なんで歩夢ちゃんがエマさんの後から現れんの?

 

 

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