『分かってはいるんです。私達が先に考えないといけないことは……』
しずくから告げられた、ソロアイドルという選択肢。それにどう向き合うべきか……一晩考えても、答えは出なかった。
だって、愛さんはみんなで何かをするのが好きだから。
誰かと楽しむのが、好きだから。
確かにきっかけはせっつーのソロリサイタルだったけど、それは"せっつーみたいに1人で立ちたい"からじゃなく、"あのせっつーと一緒にステージに立てたらめっちゃ楽しいんじゃね!?"って思ったからだ。
同好会のみんなと対面して、その予感は確信に変わった。一癖も二癖もあるタレント達。タイプが違いすぎるのが素敵で、バラバラなのが逆にワクワクして!
(あぁ、これ絶対楽しいやつじゃん!楽しくならないはずないじゃん!……そう、思ってたんだけどなぁ)
スクールアイドル同好会の内情は、思っていたよりもかなり複雑だった。
そしてそれ以上に――皆が皆、自立してた。
強弱はあるけど、自分の意見をハッキリと持ってる。
それでいて相手の意見も否定しない。
そのうえで、自分も相手も納得できる形を探そうとする。
そうして前代未聞らしい、ソロアイドルの集団という可能性を見出して……受け入れ始めている。
(みんな、すっごいよね)
自分の事だけ考えてるわけじゃない。
それでいて自分の意見もないがしろにしない。
それが出来てる皆が、純粋に凄いと思ったんだよね。
だって愛さんは、考えてみたら――そういう自分の意見って、実はあんま持ったことが無かったから。
(スポーツにはルールがあるから、それを守ればいい。それに助っ人だから、和を乱さないことを優先してた。だから……押し通したい自分の意志を持ったことも、押し通そうとすることも、してこなかったなって気が付いた)
だから、悩んだ。
愛さんが皆の仲間として全然足りてないんじゃないかって、怖くなった。
正解を導き出せない愛さんに、スクールアイドルになる資格があるのかって、自問自答した。
結局今日の朝になっても分からなかったから……とりあえず練習しよっかなって、そしたら誰かが答えを与えてくれないかなって、外に出たんだ。
たはは、これって逃げだよね?愛さんってばカッコ悪いなぁ。これのどこがヒーローなんだか。
(でも……答えって案外、身近なところにあったんだね)
『私達、色々あって……ようやく今、スタートラインに立ったばかりなんだ。きっとみんながこれからに期待してる。でも……それと同じくらい、不安にもなってると思うの』
『今度は上手くやれるかな、とか。自分のやろうとしてることがちゃんと正しいのかな……とか?』
『うん。そういう不安を表に出さないようにしようとして、強気に振る舞って……でも分かるよね。そういう時の笑い方、ちょっとぎこちないって……でもね?今は同好会のみんなの自然な笑顔、すっごく増えてるんだよ』
『ふふ。誰かさんが同好会の活動を目一杯楽しんでくれたり、率先して練習始めてやる気を引き出してくれたりしてるから……』
『そう!愛ちゃんが同好会に来てくれて良かった!いつも前向きで居てくれるから!愛ちゃんがくれる元気のおかげで、みんな前を向けてるんだよ!』
(その言葉が、純粋に嬉しかった。だから続けられたちょっと弱音っぽいものにも、どうにか応えたいなって思った)
『ふふふ!きっと愛ちゃんはソロでも、こんな風に皆を楽しくさせちゃうんだろうね!……私には、難しいかも』
(『そんなことないっしょ!確かに"楽しさ"に関しちゃ早々後れを取る気はないけど、でも愛さんみたいにホントに楽しむことを目的にするなら……』 そこまで言って、ピカーンって来ちゃったんだよね!)
スクールアイドルの形に正解はない。誰かと同じことをやる必要はないし、同じ目標を見つめる必要もない。
やらなきゃいけない義務もないし、高尚な理由だってなくていい。
無い無い尽くしの暗中模索。だからこそ、目標も正解も、自分で決めたって良い!
愛さんだけでどんなスクールアイドルがやれる?正解ってなに?
ずっと考えてた、それの答えも見えた。フォローしようと思ったら、逆に気づかされちゃった。
"正解がない"が、そのまま正解だった!
ただ「楽しむ」。それだって確かな正解なんだって!
(そんなことで良かった。難しく考えすぎてた)
誰かに楽しんで貰えることが好き。自分が楽しむことが好き。
そんな"楽しい"を、みんなと分かち合えるスクールアイドル!
それができたら、愛さんは未知なる道に、駆け出してイケる!"未知"だけに!
それが愛さんの正解!目指すべき未来!これでようやく胸張って、皆と一緒のスタートラインに立てる!
次の"一歩"のための準備が整ったって、そう確信できた!"苦心"したよ、まったくもう……あはは!なんつって!
(あぁ……もう我慢できないやっ!)
沸き立った心のまま走りだし、そして行き着いた公園には、お目当ての通りに沢山の人がいた。
ここならじゅーぶん!愛さんのライブはこんな風に皆がいてこそ!今ならそう断言できる!
難しい悩みは、もうあの場所に置いてきたっ!
(くぅぅぅぅう……っ!――アガってきたぁっ!)
皆と、一緒……
愛さんのステージは、1人じゃないっ!
応援してくれる皆も!
同好会の皆も!
ソロだろうと強引に!
みんな巻き込んで楽しんでやるっ!
それではみなさま、ご一緒に!手と手を合わせてお出迎えくださいっ!
――楽しいの天才! スクールアイドル宮下愛の、日の出の時だぁっ!
*********
いぇぇぇぇえぃっ!!愛さぁぁぁぁぁっん!!
あーやっべー超楽しー!これが同好会入って1週間程度の子の初パフォーマンスってマジですか?伸びしろしか感じねぇ!
周りにいたちっちゃい子達も"もー1回!"ってアンコールねだってるよ。あの子達はあの子達で将来有望だな?もちろん子供だけじゃない。親御さんも、通りすがりのおばーちゃんも、公園で談笑してた他校のJKも、みんなそろって拍手喝采だ。
みーんなが楽しめる、みーんなで楽しむライブ……ふふっ!これがどこまで広がっていくのか見当もつかねーや!
いやもうね、せつ菜ちゃんとの問答は本当に無駄じゃなかった。
思い返せば歩夢ちゃんの時も、かすみちゃんの時も、せつ菜ちゃんの時も。ちゃんと終わってくれるのかドキドキしてて、100%パフォーマンスに集中できていなかった気がする。いや、目が釘付けにはなってたけどさ。気負わずに観劇するって、なんて気持ちいいんだろう。
すべてを自分の意のままに出来るだなんて、土台無理な話。そんな器はワタシにゃ無い。
自分がやった事の責任は取るって腹決めてるなら、もっと気楽に構えてもいいんだ。開き直りと言われようと、そんな考え方もアリなんだと、教えて貰った。
幸い、1人は応援してくれる人が居るみたいだしね。
よぉし、愛ちゃんとせつ菜ちゃんに元気貰った!これで次からもっと頑張れる!
正直何が待ってるかもうよくわかんないけど!今まで通りてんやわんやしながら何とか乗り切ってやるわ!うん!
「へへっ!あー気持ちよかったっ!」
「お疲れ、愛ちゃん!格好良かったよ!」
子供たちのアンコールに応えきった愛ちゃんを、エマさんが出迎える。
ちなみにあれこれ考えてる間に、侑も"原作"どおりに感嘆の言葉を放ってた。「私、みんなのステージも見て見たい!1人だけど、1人1人だからこそ色んな事ができるかも!」ってやつね。うんうん、"原作"どおりってのはやっぱ安心するよ。そのトキメキのままにSIFまで突っ走って行ってくだせぇ。
「エマっち、ありがとねっ!」
「なにもしてないよ?」
「そんな事ないよ!……歩夢も、サーンキュっ!」
「わぁっ!」
「きゃあっ!も、もう愛ちゃんってば。私、今ヘトヘトだから抱き着かないでよぉ」
あーいいねいいね。愛ちゃんに抱き着かれるエマさんと歩夢ちゃんとか目の保養でしかない。
あのパフォーマンスを見てほぼ疑いは無くなってたけど、やっぱりちゃんと問題も解決されてくれてるみたいだ。
あいエマが現場で見れなかった事は残念だけど、今これを見れたことで元は取れてる。こういう原作にないイチャイチャを見たかったんですよワタシゃ。愛ちゃんもエマさんもいい笑顔じゃないか。歩夢ちゃんはなんか息絶え絶えだけどそれでもやっぱ嬉しそうだし、果林さんはなんか向こうの木の陰で意味深にこっちの様子を伺ってるし……
…………
…………
(うん!ダメだわ!流石に気が付かなかったことにすんのは無理!)
なんで!?"原作4話"の愛ちゃんのお悩み解決に歩夢ちゃん絡んでなかったよね!?果林さんってこの場面に居なかったよね!?
なんだよ!なにがあったの!?ねぇ!!??なんかあったなら見たかったんだけど!!!???
……って違うわぁっ!!知らないうちにまた"原作"にない事が起こってるぅ!!しかも今回は詳細が全然分からねぇ!なんなんだよもぉぉ!?今日くらいはただただ余韻に浸らせてくれたって良かったじゃんかよぉ!
――……まぁでも!あいエマの間に挟まらなかったのは偉いよね!……とりえあずそれだけは自分を褒めてあげるよちくしょーっ!
*********
「愛ちゃん、歩夢となんかあったの?」
「ん?まぁ歩夢とっていうか、エマっちと歩夢に教えられた、的な?あとカリンにも!」
「エマさんに、歩夢に……果林さん?」
「うん!……あ、そう言えばさっき、どっかにカリンいなかった?」
「え?いや、見なかったけど……?」
「そっかぁ。なんかその辺の木陰に居た気がしたんだけどなぁ」
騒ぎが大きくなり過ぎた公園から離れ、学園へと揃って向かう道中の事。
侑から問いかけられた愛は、あちらこちらへと視線を彷徨わせるが、探し人は見あたらなかった。
「それで、教えられたって?」
「カリンには発破かれられた。エマっちと歩夢には……」
「果林さん?愛ちゃん、果林さんを探してるの?」
「ん?歩夢、知ってんの?」
「私は知らないけど、さっきアノ子が見かけたって言ってたよ。もうどこかに行っちゃったらしいけど」
「……そっか、やっぱ居たんだ。そういや、そのアノ子はどこ?」
「もともとの用事に戻るって」
「うーん、なんか避けられてる?愛さん悲しー」
「そんな事ないでしょ。来週皆でギャルメイクしてたら寄ってくるんじゃない?」
「それもそっか!」
「ふふ、でもやっぱり愛ちゃんは凄いね!ちょっとした弱気なんて、すぐ吹き飛ばしちゃうんだから……それに、もっと色々頑張りたいなって気力も沸いてきたよ」
「え?」
「なんだなんだ嬉しい事言ってくれんじゃん!よぉし、そんじゃあこの後の練習も、テンアゲでいっくぞーっ!」
「わっ」「わぁっ!」「えっ!?な、何ですか!?」
そう鼓舞しつつ、右腕に侑を、左腕に歩夢とせつ菜をまとめて抱え、愛は学園への歩みを速めた。その笑顔には、もはや一片の曇りもない。
ヒーローは試練を乗り越えるたびに強くなる。今日の一幕は、確かに宮下愛をまた一つ成長させた。そのオレンジの光は眩いばかりだ。
――虹ヶ咲の太陽。彼女がファンからそう呼ばれる日も、そう遠くはないだろう。
(…………)
……そう。
(……はてさて。しっかしなーんかちょいちょい気になっちゃうなぁ。けっこーみんな色々抱えてる感じがするんだよね?)
(こういうのって何処まで突っ込むべきか悩みどころだよねぇ。絡まれたくないことだってあるだろうし)
(とはいえ、もうみんなが好きになっちゃってる愛さんとしては……ま、おいおい考えて行きますか)
(まったく。退屈しなさそうだ、この同好会は!……不謹慎な物言いは"ふっ、禁止!"……なんつって?)
ねじれ、拗れていく運命に立ち向かうには、ただ一人の力はあまりにも小さい。
それでも。されども。
ただ一人が新たな希望を指し示す。そうやって紡がれた歴史も、確かにあるのだ。
これにて4章完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。