さて。歩夢ちゃんにプレゼントを渡して部屋に帰ってきたは良いけど……思ったより時間余ったな。
(よし。侑も多少調子が戻ったっぽいし、明日以降に向けてちょっと次の"5話"の予習しとこう)
……行き当たりばったりのアホが珍しいことしてるって?今までもしてたんですーぅ!ちゃんと活かせなかっただけですーぅ!……じゃあ今やったって意味ないだろって?やんないよりやった方が良いに決まってんでしょうが!ここ乗り越えたら後は暫く安定するだろうし!
だって"5話"!同好会最後の一人である"朝香果林"が加入する、ある意味節目の"5話"なんだから!
――何時ぞや撮影した、上原歩夢の自己紹介動画。にわかに注目を集め始めたそれに触発され、他の同好会メンバーも負けじとアピール動画を作り始めた。
"見てくれた人の心をポカポカと温かくしたい"。そんな願いを抱きつつも自身のアピールの方向性に一際迷うエマ・ヴェルデは、朝香果林の紹介により、服飾同好会に手……ならぬ衣装を借りて撮影に臨もうとする。
かねてより手助けをしてくれていた果林。彼女も実はスクールアイドルに興味を示しているのではないか。節々からその気配を感じたエマは彼女を同好会に誘うが――しかし、それは拒絶にも似た言葉で断られてしまう。
スクールアイドルを夢見て単身日本へと留学してきたエマ・ヴェルデ。不慣れな環境に戸惑う彼女を最初に支え、今では親友となった朝香果林。そんな大切な、一番温かくしたい、一番近くにいる相手の心が、分からない。
悩みから撮影にも身が入らないエマ。その足を再び動かすトリガーとなったのは、果林から押し付けられたスクールアイドルの雑誌、そこから零れ落ちた願いの欠片だった――
(……なーんつって!けどやっぱこの回のエマかり、つよつよやで……)
エマさん回でありながら、果林さんの心情に踏み込む異色の回。それだけ二人の結びつきが強いってことでもあるし、人と心を通わせることを特に重要視するエマさんならではの描かれ方だとも言える。エマさんがアンケート用紙見た後、同好会に誘いなおすより先に一緒に遊びに行くところが一番好きですワタシ。
で、だ。その"5話"においてワタシが絡みそうな事は……あるような、ないような。
ベッドに乗ってスワンストレッチをしながら、昔のアレコレを記憶から引っ張り出す。
(まずワタシと、果林さんの関係性の有無だけど……これは、ある)
"1話"がスタートしてから今日にいたるまで直接話してはいないけれど、果林さんとワタシは、普通に面識がある。その起こりはもちろん去年。同好会の前身としてエマさん、彼方さんと活動をしていた時だ。
お二人と活動を始めて程なく。屋上であれこれしていると、果林さんが偶にふらっと顔を見せに来るようになった。スクールアイドルとして活動するわけではなかったけれど、近況を話したり、気まぐれに柔軟の仕方を教えてくれたり。ワタシが心折れてドロップアウトしてからの事は分からないけど、少なくともそれまでは、ゆるゆるとしたお付き合いを続けさせていただいていたのである。
まぁワタシはあんま話に加わらずに……というか意図的にちょっと離れて上級生'sの絡みに悶えていたんだけど。どの組み合わせでも絵になってねぇ……ご飯が美味しかった……
とまぁそんな感じなので、細くはあれど果林さんとの紐づきがある。向こうが忘れてくれてれば良いんだけど……まぁ流石に期待薄だろうなぁ。
(で、そんなワタシが"5話"の邪魔になる可能性があるか、だけど……これは分からん)
次いで"下向きの犬"の体勢に移りつつ、想定を次のフェーズに進める。
"5話"を無粋かつ無理やり一言でまとめるなら、"クールな女性としての見栄を張る果林さんをエマさんが解きほぐすお話"だ。
世の女の子達の憧れであるスタイリッシュな自分と、普通の女子高生としてエマさん達とはしゃぎたい自分。求められる前者を優先し、後者の願いを押し殺していた果林さん。それをエマさんがどうにかするってお話である。
ワタシが何かを歪ませるとしたら、果林さんのこの辺の事情に絡むかどうか、になってくると思うんだけど……これがもう全然分からない。なんせ本当にまだ一言も会話してないから。
"2話"で歩夢ちゃんと話してるシーンはちゃんと回収した。でも当然隠れてたワタシは直接話してない。
"3話"では、湾岸の壁越しに声を聴いた。ここでも隠れてたワタシは、もちろん直接話してない。
"4話"でトレーニングをしているところが、果林さんと最接近した場面だろう。でも果林さんは途中参加だったし、柔軟が終わったらサッサと帰っちゃった。この前の愛ちゃんライブでチラ見したのが最後だろう、その後、今日にいたるまでは顔も見ていない。
"4話"でせめてちょっとでも会話出来てれば"5話"のとっかかりに出来たかもしれないのに……悔やまれるぜ。いや"4話"は"4話"であっぷあっぷしてたからマトモなやり取りできたか怪しいけどさ。思い返すと何というか、お互いのムーブのせいですれ違いまくってる感じもする。
(でもこんなに都合よくすれ違うなんて……あれ?もしかしてワンチャン、避けられてる説ある?)
だ、だとしたらちょっとまずいか……?ワタシがなんか気に喰わなくて意図的に避けてるんだとしたら、エマさんの説得の邪魔になるか……!?もしそうだとしたら、ワタシが邪魔だと思われる原因ってなんだ!?
(……我ながら心当たりがあり過ぎて分かんねぇ!)
思考のリセットも兼ねて、ライオンのポーズに移行する。
まぁ一番あり得るとしたら……エマさんとの仲直り……の事、かな?
手前が勝手に沈んで悲しませてた相手とよくもまぁのうのうと復縁出来ているな……とか。
うわぁぐうの音も出ねぇ!ごもっとも過ぎる!
もしワタシも歩夢ちゃんやついでに侑が昔ヒドい事してきてたヤツと仲直りしたとか言ってきたらぜってー疑うもん!その相手の事なんかぜんっぜん信用しないもん!
ヤベェこれじゃないの原因!?すっごいこれな気がしてきた!怪しすぎでしょワタシ!なんだコイツ!?
……あ。いやでも……ただ、なぁ。
(これだったら、なんも心配なくない?)
首を傾げる代わりに、大きな猫のポーズへと体勢を変えた。
今回達成されるべき必達目標、それは"果林さんの同好会入り"だ。
もしこの怪しさ全開のアホを果林さんが警戒しているとしよう。
それでエマさんに対して何らかの苦言を抱えていたりするとしよう。
……それで?果林さんの同好会入りが遠のくか?ならんくない?
だってワタシは同好会メンバーじゃないし。ワタシが気に入らなかったとしても同好会には居ないし。"間接的に同好会に関与してる奴がいるから入りません"って、そんなつまんない性格じゃないでしょ果林さん。それこそワタシじゃあるまいし。どっちかというなら入った後に"アナタ気に喰わないのよ"って面と向かって言ってくるタイプでしょ……あ、ちょっと興奮する……
(……じゃなくて。とにかく)
最後にプランクへと移行しながら、思考の詰めに入る。
もしワタシを"叩き潰したい課題"としてしか思ってないなら、それは果林さんの同好会入りの障害にはなり得ない。そもそも同好会メンバーじゃないんだから。
それに、そういうのは目をそらさずに対処していくのが果林さんだ。問題は先延ばしせずに叩き潰す派の人だもの。むしろ面と向かってケリつけに来てくれるんじゃない?……いや、ホントに来られたら無条件降伏するけどさ。苦手なことはむしろ後回しする質みたいだけどさ。
とにかく、つまり。もしワタシの影響が、ワタシへの嫌悪感を生むだけにとどまっているのであれば。
"5話"は要所のタイミングで顔さえ見せなきゃ――何とかなるんじゃないだろうか?……なると良いなぁ。
(……よし、慢心終わり)
"ベッドで寝っ転がっても出来るずぼらストレッチ"も終わり。べしゃり、とベッドに潰れる。
さっきのはあくまで推察の一つでしかない。
果林さんがワタシに対して別の感情を抱いているかもしれないし、なんとも思っていないかもしれない。
仮に一つの可能性をどうにか対処できそうだからと言って、そこで油断しちゃダメなのだ。いつかも考えたかもしれないが、アホでも学ぶときは学ぶのである。痛みを伴ったのなら尚更に。
今度の"5話"、一層気を引き締めて臨もうじゃないの。しっかり隠れる場所の下調べしたうえでね。今回行く場所多いからね。
(……ま。できれば嫌われてたくはないけれど)
ワタシみたいなのでもなんだかんだ今日まで続けられるようなストレッチを教えてくれたその人に、ちゃんとお礼も言いたいし。