ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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5-③

 

「……はい、出来上がり。こんなところでどうかしら」

「ありがとう!……どう?どうかな、みんな?」

「わぁーっ!エマさん可愛い!ギャップが凄い!」

「軽いメイクなのに存在感が果てしないです!」

「北欧女性の体格と顔立ちにギャルメイクがこんなにも合うなんて。このマリアージュは予測不可能だった。エマさん、素敵」

「ぐぬぬぬぬ……せっかくかすみんもバッチリ決めたのに……インパクトで負けてるぅ……!」

 

 

 明くる日の夕方。同好会部室は桃源郷になっていた。

 

 あっちを向けばゆるふわガーリーなギャル夢ちゃんが。

 こっちを向けばちょっと大人めギャル菜ちゃんが。

 そっちを向けばピンクヘアーを大胆にアレンジした天ギャル寺ちゃんが。

 ソファで寝ている彼方さん、それに付き添うしずくちゃん、果ては侑に至るまでギャル化済み。この前話していた、愛ちゃんのギャルメイク体験日だったのだ。同好会がパーリナイ状態である。

 

 ひと際目立つのはアイテムまでガッチリそろえたかすみちゃんだろうか。

 尻尾キーホルダーやらルーズソックスやらベロアパーカーやら、なんだかとてもそれっぽい。なり切り度で言えばトップだろう。

 

 けれどそんなかすみちゃん以上に話題をかっさらっているのは、満場一致でエマさんだった。

 

 

「えへへ♪そんな風に褒められっぱなしだと照れちゃうよー♪」

 

 

 丸くて優しい瞳はより大きくバッチバチに。

 ニコニコと微笑む口元はぷるんとした唇に仕立て色気を醸し。

 癖のある赤毛はそのまま降ろすことで、敢えて個性として活かしている。

 あとは元々の制服をちょこちょこと着崩しただけ――それなのに。あぁそれなのに。

 

 

「……!……っ!」

「侑ちゃんが言葉をなくしてる……!?」

 

 

 ちくしょうこんなん勝てるわけないでしょッ!首筋が眩しいッ!侑とのシンクロ度が上がっちまうってばよ!

 

 

「さっすがカリン!センス抜群バッチグーっ!なんつって!」

「当たり前よ。私を誰だと思ってるの?」

「ひっひひひ!カッコいー!」

 

 

 そしてこのシャングリラを作り出したのは、もちろん愛ちゃん――だけではなかった。どうやらエマさんだけは果林さんが手がけたらしい。果林さんは今をときめく大人気読者モデル。メイクもヘアスタイリングもお手の物。基本志向が違うとはいえ、教えられればギャルメイクだってお茶の子さいさいだろう。

 ……ただ、よく今の段階で果林さんが参加してくれたな……?まだ同好会と距離置いてると思ってたんだけど……

 

 

「……随分と楽しそうね、愛」

「うん?うんっ!へへっ、おかげさまでっ!」

「おかげさま、ねぇ」

「うん、おかげさま!カリンが発破かけてくれたから、色々吹っ切れてこんなに元気!ありがとね♪」

「別にそんなつもりは無かったけれど……まぁ、感謝してくれるというなら貰っておくわ」

「どーぞどーぞ。お納めくださいませー」

 

 

 ギャルメイクされて盛り上がる皆から少し離れて、果林さんと愛ちゃんが話し始めた。どうやら例の"4話"であったことを掘り返しているみたいだけど……結局何があったんだよう。知りたいよぅ……

 

 

「けどカリンはやっぱエマっちの親友ってだけあるね!愛さんでもあそこまでベストマッチに仕上げられたかどうか」

「もう、そんなくすぐったいこと言わないでよ」

「くすぐったい?なんで?褒めて持ち上げられることなんて珍しくないでしょ」

「そっちじゃないわよ。わざわざ口に出すことでもないでしょ。友達だの、親友だのなんて」

「そうかなぁ?愛さんはどんどん言いたいタイプだけど。カリンのことも、もう友達だと思ってるし」

「聴きしに勝る距離の詰め方の速さね。そうやってたらし込まれた子が何人いるのやら」

「100から先は覚えるのが大変だよー」

「覚えてるし、自覚もあるのね……」

 

 

 100人って凄まじいな、おい。千人を超える全校生徒の名前を憶えてるせつ菜ちゃんがあまりにもぶっ飛んでるけど、愛ちゃんは愛ちゃんで大概だ。

 そしてその愛ちゃん基準では、既に果林さんもフレンドらしい。"原作"にはなかった出来事のおかげで仲良くなるのが早まったのかな?……いや、愛ちゃんならそれが無くても速攻で仲良くなってそうだな。だってワタシにすら構ってくれる愛ちゃんだもんなぁ。うんうん。

 

 

「まぁ沈黙は金、雄弁は銀。あるいは以心伝心って言葉もあるし?口に出さない美徳も理解るっちゃ分かるんだけどね。愛さんは伝えたい事はなるべく言葉にしたいし、されたい派かなー」

「ふぅん。随分そこにこだわるのね」

「"人に云う"から"伝える"だしね!本当に言いたい事があるなら、声に出したほうがちゃんと相手も受け取ってくれると思うんだよ。お互いに出した声が結ばれて繋がって、心の奥底のキモチを手繰り寄せられる……みたいな!」

 

 

 ワタシが言ったら間違いなくキモい表現も、愛ちゃんにかかるとあんなに爽やか。言葉って『何を言うか』より『誰が話すか』なとこあるよねー!無常!

 

 

「その持論はご立派だとは思うけれど、あらゆるシチュエーションに万能な手法じゃないわよね。例えば……そうね。相手が話をしたくないって突っぱねてるような時とか。そんな状態で話しかけられたって、向こうにしたら迷惑なだけでしょう?愛先生なら、そういう場合はどうするのかしら。時間が解決してくれるのを待つ?」

「そりゃまぁケースバイケースだし、それが最適解なこともあるだろうけど……場合によっちゃ、愛さんは根気よく話しかけ続けるかもねー」

「……?なぜ?」

「そういう子って、実は話を聞いてほしいって思ってることがあるんだよ。意外とね」

 

 

 愛ちゃんのコミュニケーション術に発展した会話。その中で自分の出した例に対して告げられた答えに、果林さんは一旦口を閉じて、先を促す。

 

 

「もうちょっと正確に言うと、"自分の事を分かって欲しい"、かな?『本当はこうしたいけど、事情があって出来ない。周りはその事情を自分の価値観で解釈して好き勝手なことを言ってくる。もううんざりだから放っておいてくれ』……みたいな?この場合って本質的には"話しかけられること"が嫌なんじゃなくて、"自分の事象と心情を受け入れてくれないこと"が嫌なんだよね」

「…………」

「だからそういう場合は、愛さんはずっと話しかける。相手の拒絶の理由をちゃんと聞いて、そのうえでどうしたら良いのかを真面目に考えたいから。言って貰えなきゃ、動けすらしないかんね」

「……そのしつこさこそを鬱陶しがられているとは思わないの?根本的にそりが合わないって。それで嫌われたらどうするのよ」

「それを反省して、どうやったら仲良くなれるか考える!」

「えぇ……」

 

 

 意地悪めいた事を言った果林さんは、しかし愛ちゃんのまったくメゲないポジティブ宣言に、今度は意図せず言葉を失った。歯を見せる愛ちゃんの笑顔からは、やり込めてやった、というような感情はまったく伺えない。本当に本心で、そう思っているのが、ただただ伝わってきた。

 

 

「理由を教えてくれたのなら、その内容が何であれ"一歩"進んだ事には変わりないっしょ?どうしても仲良くなりたい相手なら、嫌われてるって事実だって大切な情報っしょ?それを踏まえて次どうするかを考える!手痛い(ていたい)一撃貰ったって、停滞(ていたい)から抜け出たなら儲けものっしょ!……へへ、なんつって!」

「……最後のシャレはともかく……貴女が随分と前向きで奇特な性質だっていうのは、よく理解したわ」

「奇特かなぁ。愛さん以外にも居ると思うよ、そういう人。誰かに寄り添ってあげたいって心から思ってる、愛さん以上のお人好しも、ね?」

「…………」

 

 

 最後の言葉に対して、けれど愛ちゃんは返答を聴くことはなかった。"こうなったら……もっと盛ってください、愛先輩!"というかすみちゃんの叫びに応えるため、その場を離れたからだ。

 果林さんは感情の読めない表情でその後姿を見送ったあと、ソファへと向かった。どうやら彼方さんのケアをしずくちゃんから受け持つ気らしい。シビアな性格してるのに面倒見がめっちゃいい人だよね、果林さんって。

 

 けどあれだな。なんか期せずして良いシチュに巡り合えちゃったな。"5話"に向けて気を抜いちゃいけないとは分かってるけど、やっぱこういう"原作"外の美味しいやり取り見ちゃうとテンション上がっちゃうぜ。流石にここで何か食べるわけにも行かないけどごちそうさまです!

 

 

「……侑ちゃん、今日はいつにもまして写真撮るね?」

「え?そう?」

 

 

 そんな風に悦ってたら、侑と歩夢ちゃんの会話が耳に入ってきた。

 

 

「うん。2割くらいは多いかな」

「んー……あ、ホントに2割くらい多い。凄いね、歩夢」

「そうでもないよ。スマホのストレージ容量が気になるし、なんか無意識に数えちゃってるだけだから……でもアノ子に見せてあげるなら、今日の分はそれくらいあっても良いかもね」

「いや、別にそういうつもりは……」

「違うの?」

「……まぁ、珍しくこういう場に吸い寄せられて来ないみたいだし。写真くらいは後で見せてあげよっかなって」

「……ふふ。それなら部室のドア、鍵をかけなくたって良いのに」

「それはかける。写真だけ恵んであげる」

「ふふふ」

 

 

 ……なんだ、侑ってば。口ではあんなこと言っときながら、おこぼれくれる気あったんじゃん。ふん、このツンデレさんめ。今度なにか奢ってやんよ。

 

 

 

 

 

まぁワタシ、今この場にいるんだけどね!部室の段ボールの中に潜んでるんだけどね!

 

 

 

 

 

 いやぁ。いつから"5話"始まるのかなって気になって部室覗きに来てみたら、一人で準備してた愛ちゃんに笑顔で段ボールに押し込められたんだもん。何事かと思ったよ。その後すぐに皆集まってきたから、出るに出られなくなっちゃったし。

 何も説明聞かされなかったけど、これってこの前の侑との会話を覚えてて、侑に締め出されずにワタシも皆のギャル姿を鑑賞できるように考えてくれたんだな。

 あーもう愛ちゃん好き!たまんないね!おかげで超ホクホクですわ!狭いスリットから見える景色だけでも眼福、眼福!

 

 

「んじゃせっかくだから、外でもちょっと写真とろーよ!」

 

 

 ……ん?あれ、愛ちゃん?

 

 

「でも、彼方ちゃんが……」

「行ってきなさいな、エマ。その間くらいは彼方の事を見ててあげるわ」

「果林ちゃん……ありがとう!すぐ戻ってくるからね!」

 

 

 え、あの、愛ちゃん?愛ちゃーん?……あれ、ホントに行ってしまわれました?

 

 …………え!?ワタシどうすりゃいいの!?果林さん居るから出られないんだけど!?置いてけぼり!?

 皆の撮影見れないのも残念だけど、そろそろ色々危ないんですけどぉっ!!ちょっとーっ!?

 

 

 




公式さんありがとう。超かわいいですギャルヶ咲
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