ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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5-⑤

 ワタシ史上(ある意味)最大の危機を乗り越えた翌日の放課後、流石に同好会部室への訪問を躊躇したワタシは、図書室のフリースペースでタブレットを立てテコテコとワイヤレスキーボードを叩いていた。侑や歩夢ちゃんと過ごす時間が減ったため、その暇を潰すように手遊びに書き始めた、お勧めのスクールアイドルを紹介するブログ記事の執筆である。もちろん第1回は歩夢ちゃんでしたとも。

 

 まぁ暇ったって同好会みんなのデバガメしてるからそこまで時間空いてるわけじゃないけどね。それにスクールアイドルのブログなんてごまんとあるから、投稿数も頻度も少ないワタシのそれの閲覧数なんてスズメの涙も良いところ。ぶっちゃけ宣伝効果なんて全然無い。

 

 

(それでも、スクールアイドルに楽しませてもらってる1人として、ちょっとでも恩返しが出来るのなら…………なーんて!)

 

 

 そこまで高尚な事は思ってませぇん!ぶっちゃけ歩夢ちゃん達可愛かろ?って自慢したいだけでぇす!間近で応援出来てるワタシが羨ましかろ??ん??

 

 ちなみに、実はワタシはこれで結構筆が早い。別の趣味で割と慣れてるから。まぁそっちは流石に学校の図書館でやるつもりはないけど……

 

 

「……あら。あまり似合わないところに居るわね」

「……あれ、果林さん?」

 

 

 と、そんな風にぽけっとしてたら後ろから不意に声を掛けられた。それも、まさかまさかの果林さんとは……

 心構えをしていたおかげか、久しぶりかつ唐突な"ちゃんとした対面"ではあったけれど、思った以上に平静な返事が出来た。ただ図書室似合わないのはどっちかといえば果林さんじゃなかろうか?解せぬ。

 しかし良かった、珍しく空いてて。もし周りに誰かいて果林さん親衛隊に見つかりでもしたら面倒な事になってたろうから。

 

 

「今日は食堂行かないんすか?朝香果林リザーブシートが寂しがってそうっすね」

「変わらないわね、その妙に変なことを知ってるところ。誰から聴いたの?」

「誰って、まぁ色々と」

「秘密主義ね。まぁいいけれど」

 

 

 なんでここに居るんだ、と暗に聞いたらなんか誤魔化された。お返しじゃないけどこっちのデータソースもなんとなく伏せてみる。つってもそんな大した事じゃないけどね。ホントに色々あるだけだよ、手段が。

 ちなみに朝香果林リザーブシートとは、食堂の窓際の定位置のことである。偶に放課後に果林さんが出没すると評判の、新参ファンにもお勧めのエンカウントスポットだ。

 

 しかし果林さんがここに居るってことは、今日は"5話"後半の当日じゃないんだろう。エマさんのコスプレイベントとラストシーンまではノンストップで発生するはずだから。それはちょっと安心した。エマさんのコスプレ見逃したりしたら1週間は立ち直れない自信があるし。

 

 

「あ。改めて、お久しぶりっす」

「何よ、いきなり」

「いや、そういやちゃんと挨拶してなかったなって」

「別に構わないのに。そこまで礼を尽くすほどの付き合いはなかったでしょう、私達」

「ぅぐ」

 

 

 ニュートラルコミュニケーションに移行しようとしたら、大剣でバッサリ切られた。っらぃ。

 いやまぁね?果林さんにとっちゃワタシなんぞエマさん彼方さんのオマケに過ぎないしね?実際ストレッチ教わったくらいでロクな交流ないしね?例の嫌われてる疑惑もあるしね?仕方ないけどね?……っらぃ。

 

 

「……言葉が過ぎたわ。ごめんなさい。久しぶりね?」

「ぁい……」

 

 

 うふふ……撤回してもらっちゃったぜ……見てられないくらい情け無い顔してたんだろうなぁ、きっと……

 

 

「本当にごめんなさい。ちょっと気が荒れててね、八つ当たりみたいに……また今度、お詫びさせて頂戴」

「いや、そこまでは良いっすよ……なんかあったんすか?」

「…………」

「あーいや、無理に聞く気は無いっす!大丈夫っすよ!」

「……そうしてくれると助かるわ」

 

 

 は、弾まねぇ……あれかな。昨日の愛ちゃん彼方さんとの問答が尾を引いてるのかな。後から思い返せば、あれはどちらも"5話"時点の果林さんに刺さるものだった。仮に"原作"知識がなかったとしても、あの様子見てたら"ん?"って思えるくらいには。だから、エマさんとの衝突を待たずに考え込むのは、分かる。

 ……うん。まぁ分かるんだけど、ね。なんかもうここまであからさまに本調子じゃない果林さんなんて初めて見るから……なんていうかその、困る。

 

 

「……ねぇ。少し聴いてもいいかしら?」

「え?あ、はい。なんなりと」

 

 

 その言葉に、思わず居住まいを正す。遂にワタシの立ち振る舞いについて叱られるんだろうか。めっちゃ怖いけど、"5話"が始まる前に済ませられるなら重畳とも考えられる。覚悟はしてきたんだ……謹んで、聴かせて頂きます。

 

 

「アナタ、スクールアイドル同好会には入ってないのよね?」

「そうっすね」

「入るつもりも、ないのよね?」

「へい」

「なのに、しょっちゅう同好会の部室に行ってるのよね?」

「まぁ、はい……とは言っても新同好会が出来てからですし、そもそもまだ出来立てみたいなもんだと思いますけどね」

「あの子たち……歩夢と侑に会いに行ってるのよね?」

「概ねそんな感じ……っすね」

「随分と楽しそうね」

「おかげさまで……」

「そう、よね……アナタは十分、楽しいのよね……」

 

 

(……あれ?)

 

 

 そうして果林さんは、そこで止まってしまった。

 ぼうっと、どこを見てるのか分からない、胡乱な表情で。

 

 

「……その、終わりっすか?」

「……そうね。ありがとう」

 

 

 おずおずとワタシから促しても、どこか心あらずで。

 

 

「……なんだったんすか?」

「……気にしないで。ちょっと参考にしたかっただけだから」

「参考?」

「えぇ……まぁ、有益だったわ。そういう関わり方もあるのよね、って」

 

 

 いつまでたっても、目も合わせない。

 

 

「はぁ……ワタシの関わり方……っすか」

「そうね」

 

 

 その、なんというか。

 

 

「……あの、果林さん」

「……なぁに?」

 

 

 なんか、その……"なんというか"な果林さんに……ワタシは。

 

 

「……ちょっと怒られそうなこと、言って良いっすかね」

「……まぁ、さっきの私の失礼があるし、それとチャラにしてくれるならいいわよ」

「ありがとうございます……えっと……あー……そのー……」

「何よ。言うと決めたならキッパリ言い切りなさい」

「……怒らないっすか?」

「限度を超えないなら」

「う、うーん……」

「……あぁもう、怒らない。怒らないわよ。それでいいんでしょう?我慢は毒よ。ほら、サッサと白状しなさい」

「……じゃあその、言いますけど……」

 

 

 情けなく、何度も念押ししたうえで……ワタシは。

 

 

 

 

 

――果林さん、昔よりカッコ悪くなりました?

 

 

 我慢できずに、そう口に出してしまった。

 

 

 

 

 

「……は?」

「いや、美人度は紛れもなくアップしてますよ?見惚れるばかりっす。まさしくカリスマ読モここにあり!10人が10人振り向くこと間違いなしっす!……なんすけど……さっきから歯切れが悪すぎるっていうか……なんかウジウジしてるっていうか……」

 

 

 流石にその言葉は聞き流せなかったのか半目になって見降してくる果林さんに、しどろもどろになりながらも向き合う。

 いつもなら速攻で謝ってただろうけど……今はまったく、そんなつもりにすらならなかった。

 

 

「果林さんが一番カッコいいのって、不敵に笑ってる時だと思うんすよね、ワタシ。彼方さんにコピーダンス出来ないだろって煽られた時とか、エマさんが過激な果林さんファンに詰め寄られてるのを助けた時とか。そういう"遮るヤツは蹴り飛ばしてやる!"って言わんばかりに前向いてる場面が、一等カッコいいって痺れてたんすよ」

 

 

 クールに見えて負けず嫌い。オトナだけれど好戦的。せつ菜ちゃんが猛る赤い炎なら、果林さんは静かに煌る青い焔。その秘めたアツさが果林さんの魅力なんだと、"原作"を知る前からそう思ってた。

 なのに。

 

 

「……待ちなさい。彼方の時はともかく、エマの時はアナタその場に居た?」

「居ましたよ」

「そう……だったかしら……」

 

 

 居ましたよ。扉の向こうに。というかそれは良いんだよ。

 

 

 

 

 

「ともかく……なのに今の果林さんからは、そのカッコ良さを感じないっす。ワタシと話してんのになんかずっとそっぽ向いてるし。そりゃあ気を抜くオフタイムだってあるでしょうけど、基本果林さんって後輩の前じゃカッコつけだったじゃないですか」

 

 

 言いたくなるでしょ。なっても仕方ないでしょ。こんなん。

 朝香果林とあろうものが何してんだ!?って。

 

 

「……アナタが私に幻想を抱くのは勝手だけれど、私だって、人並みに悩んだりはするのよ。あいにくね」

「いや、それはそうだと思うんすけど、そこじゃなくて」

「え?」

 

 

 原作でも"5話"や"9話"で果林さんは悩んでた。でもそれは、立ち向かう大きすぎる壁を乗り越えるための悩みだ。さっきのワタシへの質問は、それとはまったく違う。だからワタシは口をつぐめなかった。

 

 

 

 

 

「詳しいことは分かんないっすけど……()()()()()()()()っぽいのが、カッコ悪いって話ですよ。それも後輩ダシにして。いいんすか?それで」

 

 

 ワタシみたいな半端者のことなんぞを参考にしようとしてるなんて。

 "やらない理由探ししてる朝香果林"――なんて、解釈違いにも程があったから。

 

 

 

 

 

「……アッサリ逃げ出したアナタが言うと、説得力が違うわね」

「……やはーっ、まったくその通りすね」

 

 

 もうそれを指摘されちゃうとなんも言えない。逃げて逃げてでこの有様なワタシがどの口でって話です。

 

 

「1の失言に対して10倍返ししてくるとは思わなかったわ」

「あ、あはは……」

 

 

 それでも言わずには居られなかった。

 果林さんはワタシを嫌いかも知れないけど、ワタシは果林さんが好きなんだ。

 あの頃、エマさんや彼方さんと一線引きながらも結構な頻度で様子を見にきてくれてた、面倒見の良いこの人が。文句言いながらあらゆる事に妥協しなかったこの人が。カッコ良過ぎて仕方なかったから。

 逃げまくってるワタシだからこそ――ワタシなんぞを果林さんに参考にして欲しくないって、そう思っちゃったんだよ。

 

 

「でも、怒らないって約束はしちゃったし……貴重なご意見として受け止めておくわ。それじゃあね」

 

 

 その言葉を残して、果林さんは去っていった。カツリ、カツリとローファーがリノリウムの床を鳴らす音は、多少なりともさっきより力が込められているように感じた……やっぱ怒ったかな?怒ったよね、そりゃあ……たはは。

 

 あーぁ、こりゃますます、しばらく部室には行かない方が良さそうだ。ワタシのせいで今後の展開の邪魔になったら目も当てられない。

 それでもどうにか例のコスプレイベントだけは目に焼き付けたい。歩夢ちゃんに"PV改めて撮るなら教えて!"ってお願いしとこうかなぁ。外での撮影ならなんとか覗けそうだし……とりあえずメッセしとこ。

 

 

(……はぁ。ホント上手く出来ないなぁ、ワタシは)

 

 

 それでも。さっきの果林さんへの言葉だけは、撤回するつもりは無いけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 そうしてしばらく。しょんぼりと1人寂しく記事を書いていたら、練習の休憩時間に入ってメッセに気がついたのか、歩夢ちゃんから返信があった。どれどれ?

 

 

 

 『PVかぁ

   自己紹介とは別にそういうのも必要なんだね

   やる事がいっぱい』

 

「地道な宣伝は欠かせないかんね。第三者の目が必要ならいつでも協力するよ!っと」

 

 

 『アナタが見たいだけでしょ』

 

「へへ、そうとも言う……っと」

 

 

 『そういえばエマさんがさっき部室を飛び出して行ったんだけど、何か知らない?』

 

「……?なにそれ?知らないよ、っと」

 

 

 『そっか

   本から落ちた何かの紙を見たとたん、いきなり出て行っちゃったから』

 

「……本?なんの?」

 

 

 『スクールアイドル特集の雑誌だね

   なんだったんだろ、何かの応募用紙かな?』

 

「……ふーん。なんだろねー……」

 

 

 

 

 

 ……スクールアイドル特集の雑誌?

 ……そこから落ちた何かの紙?

 ……それを見たエマさんが部室を飛び出してった?

 

 

 …………ほーん…………

 

 

 

 

 

 "5話"終盤の展開じゃんよそれぇっ!?なんでぇっ!?

 

 

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