6-①
「ふーっ!楽しみ過ぎますっ!」
「あはは。せつ菜ちゃんってば、今日ずっとそんな調子だね」
「だって!歩夢さん!私、夢だったんですよ!こんな風に誰かと一緒にスクールアイドルのライブに行くの!一緒に盛り上がるの!本当に、夢だったんですよ……っ!」
「そっか。じゃあ目いっぱい楽しまないとだね」
「はいっ!」
「次のために私もコールのやり方とか、もっと覚えないとなぁ」
「……え?次?」
「あ、そうだね。気が早いよね。今はこのライブに集中しないと失礼だもん。次にどの学校のライブに行くかは、終わってから相談しよ!」
「…………っ!はいっ!」
歩夢ちゃんの言葉に、せつ菜ちゃんが満面の笑みを浮かべる。
今この瞬間だけじゃない。この先も付き合ってくれるんだ。まだまだ夢は終わらないんだ。
それが自分の大好きを抑圧していたせつ菜ちゃんにとってどれだけ嬉しい事なのか、歩夢ちゃんは分かってるんだろうか?
まったく、侑だけじゃなくて歩夢ちゃんも大概ヒトたらしだよ。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「ほらゆぅゆ、水飲みなー?」
「あ、ありがと……んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ!沁みるぅっ!あっちこっち移動したのもあるけど、ライブ観るのもこんなに体力使うんだね……」
「そりゃあんだけぶんぶんライト振ったりぴょんぴょん飛び跳ねたりしてたらなぁ」
「愛ちゃんだって同じくらいはしゃいでたのに……体力の差、痛感しちゃうよ」
「ん?なんならゆぅゆも筋トレする?だいたいどの辺の筋肉使うか分かったからメニュー組めるよ?一緒に体力もつくよー」
「ライブ観るための筋トレ!?いやぁ、そこまでは……」
「……筋トレくらい、
「ぶほっ……!ちょ、ちょっと今やめて愛ちゃん……!腹筋辛い……!あはははは……!」
その隣では、特級ヒトたらしが愛ちゃんに弄られまくって息絶え絶えになっていた。歩夢ちゃんでもこの侑にたらされたりはしないだろう。でもあれだけ笑ってたら腹筋だけはそこそこついてそうだ。こんど触ってみよ。
「ふふっ!侑さんも楽しんでますね!」
「あ、あはは……まぁ、今日は良いかな……?あんまり周りの人に迷惑にならなきゃ、だけど……」
「ん。確かにそりゃそーだ。いくら賑やかでもそういうとこは気をつけないとね。ほらゆぅゆ、ちょっと抑えなー」
「だ……誰のせいだと……」
「愛さんのせいかい?そう、
「ぶっはぁっ!」
「愛ちゃんっ!」
「あははははっ!ゆ、侑さん弱い……っ!」
……このグループ騒がしいな、おい。
1年生の皆はまだ中学から上がりたてってなところもあって、手探りで"わいきゃい"してる。
3年生の先輩達は騒ぎもするけどなんだかんだ落ち着いててオトナな遊び方をしてる。
2年生は……うるせぇ。
この子ら、自分の好みじゃなくても"やりたくない"ってスルーしないんだよ。せつ菜ちゃんのオタク趣味、愛ちゃんのパリピ趣味、歩夢ちゃんの少女趣味、侑のミーハー趣味。何だろうと誘われたらとりあえず一回経験してみる。溢れる好奇心、高いポテンシャル、ハジケまくるパッション。それらの赴くままにあっちこっちに首突っ込んでは楽しみつくす。エネルギッシュなんだよな、とにかく。
ついでに言うなら一般常識から逸脱しない優等生ばっかだから問題なんてまず起こさない。もし盛り上がり過ぎても基本的に歩夢ちゃんがブレーキ役になる。歩夢ちゃんがアレな時は他の誰かが代わりになる。属性バラバラなのになぜか纏まってるこの2年生グループは、不思議で面白い。
……つーかせつ菜ちゃんも愛ちゃんも十分ヒトたらしだな?なんなの?カリスマ集団なの?
「もう……アナタも、ありがとうね?連れてきてくれて」
「ん?うん……いやぁ、なんのなんの。楽しんでくれてるならプランナー冥利に尽きるってもんよ」
「……なんかあんまノってなくない?どうしたん?」
「え?……そう、かなー?」
「あの、ごめんなさい。はしゃぎすぎましたか……?」
「いやいや、ライブではしゃがないでどうすんの」
今日の予定はワタシが企画したスクールアイドルライブツアー。この休日に予定されていたいくつかのスクールアイドルのライブ、それらすべてに参加しちゃおうっていうもの。何時ぞや歩夢ちゃんにした約束を果たしたのよ。そして、このショッピングモールがその最後の会場ってわけ。
有名な学校の催しだけあって、狭い観客スペースはもう満員。あれだけうるさかった皆も場になじんでしまうくらいには騒がしい。だから目一杯はしゃいで良いのよ?限度はあるけどね。
「やー……実はその、ちょっと今日のために張り切って夜遅くまで予習してたせいで……眠い」
「……何やってんの?」
「うっさい。侑には言われたくない。つーわけで、ちょっとボーッとしてきたの。始まったら限界越えるから気にしないで?いっちゃん騒ぐから」
「それは超えて良い限界なの……?」
「むしろ超えないともったいない……ふわぁ」
そう言って一つ欠伸をする。眠れなかったんは本当だしね。その上でもう数か所移動してるんだ。普通に疲れたよ、ワタシゃ。
「よし。ゆぅゆも超えよっか、限界。残った体力絞り出せー」
「よ……よぉーしっ……!」
「む、無理はしないでくださいね……?」
『――お待たせいたしました!それではこれより、ミニライブをスタート致しますっ!』
そして。そうこうしているうちに、本日の大トリが姿を現した。
『えっと……皆さん、こんにちは!』
観客の熱狂を持って向かい入れられたその子達は、新人らしき数人を除いてまるで物怖じしていない。
名門スクールアイドルクラブ。ラブライブでも結果を残したことがあるという実績が、自信となって満ち溢れている。アレばかりは経験を積み上げたがゆえに身に付いたもの。虹ヶ咲じゃあ、まだせつ菜ちゃんくらいしか体現できないかも。
『本日はお越しくださってありがとうございます!短い時間ですが、楽しんで貰えるよう頑張りますっ!』
けれど、その新人さんも負けてはいない。
最初こそ戸惑っていたけれど、持ち直してしっかり挨拶を決めている。目指していたグループの一員になれたからには、全力でやり切る。そんな気概を感じるのは気のせいじゃないだろう。
うん。やっぱワタシ、虹ヶ咲の皆のソロも好きだけど、こういうグループならではの熱さや関係性も好きだなぁ。
『それでは……』
『ん?あ、言い忘れてる。あれ言ってない。学校名』
『……あっ。そうでした!』
そのウッカリで笑いを誘ったその子は、少し恥ずかしそうにはにかみながら、改めてマイクを持ち直した。
高く結わえたツインテールが揺れる。人好きのする笑顔が煌めく。
侑も、歩夢ちゃんも、せつ菜ちゃんも、愛ちゃんも、周りの他の観客さんも。まだかまだかと前のめりになっている。
……その中でワタシだけが、うつろな笑みを浮かべている。
『――私達、東雲学院 をよろしくお願いしますっ!』
お辞儀から顔を上げた彼女―― 近江遥ちゃん は、そう堂々と宣言した。
巻き上がる熱気が重くて、仕方なかった。
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……眠った時に夢を見るのは、過去に経験した記憶の整理をしているからだと言われている。
日々の体験や思い出が脳内で整理される、その過程でたまたま映像として成り立ったものなのだ、と。
諸説あるうちの一説。けれど、なるほど、と思い至る事もある。
ワタシは大人に近づくにつれ、夢を見る機会がめっきり減った。
正確には、現実のような夢しか見なくなった。
突拍子もなく、けれど朝起きた時に語りたくなるような面白おかしい夢は、子供の頃に比べてとんと見なくなったのだ。
きっとそれは、現実にこなれてしまったから。
未知は不思議で、無知は宝で。
目に映るもの全てが新鮮に思えた無邪気な子供じゃあ、無くなったから。
何もかもに理屈をつけて納得した小賢しい大人のつまらない記憶。
そんなものを整理したところで、ファンタジーなどそうそう生まれるはずもない。
……つまり。今でも「夢を見るのが好きだ」と言う彼女の記憶は、そりゃもう色鮮やかなんだろう。
他人からはどれだけ辛く見えようと、日々を全力で楽しんでいる。
楽しい思い出をいっぱい詰め込んでいるからこそ、夢の世界が遊園地になる。
そしてそんなふわふわな心が、誰かの錆びついた現実をも受け止める。
こねくり回して、ほぐしてほどいて、面白おかしいアートに変えてしまうんだ。
ありのままに、ワガママに、我がままに。
すべてを楽しむ、お姫様。
その振る舞いに臣下は苦言も呈すけど。
結局最後は、笑って許してしまうのさ。
――だから。 どうか、いつまでも安らかに。
あなたの夢が、きらめきに溢れ続けますように。
にじちず発売記念に続きました。
今章もよろしくお願いいたします。