ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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6-②

 

 

 ことの始まりは、ワタシのブログに届いた一通のDMだった。

 

 全く伸びないアクセス数にもめげずマイペースに更新していたスクールアイドル紹介サイトのマイページに、開設してから一度もついたことのなかったお知らせマークが点灯していたのだ。

 

 誰かが感想でもくれたのか。はたまた内容に文句でも言われるか。さてはてただの迷惑スパムか。

 期待と不安と達観とがだいたい等分になった心持ちのまま開いたそのメッセージは、しかしそのどれもを裏切り、ワタシに戸惑いと困惑をもたらした。

 

 まさか、近江遥ちゃん……"原作"のキーパーソンでもあった子からの嘆願だなんて、思いもするはずないじゃんか。

 

 

 

 

 虹ヶ咲のスクールアイドルを追いかけているアナタに、お願いがあるんです。不躾なのは重々理解していますが、「近江彼方さん」の普段の様子をもしご存知でしたら、教えていただけないでしょうか?

 

 

 私は、彼女の妹です。東雲学院でスクールアイドルをしている、「近江遥」といいます。

 

 

 このところ、お姉ちゃんの様子が少し変なんです。明らかに疲れが取れてなさそうなのに、大丈夫、大丈夫って繰り返して、ごまかしてばかりなんです。奨学生だから家で遅くまで勉強してるのに、家計を助けようと週5でバイトまでして。お母さんがいない時の家事も全部引き受けて、お弁当まで作ってくれて。そこにさらに、スクールアイドルの練習まで。疲れてないわけも、大丈夫なわけも、ないんです。

 

 

 だから、せめて学校での様子が知りたいんです。お姉ちゃんはスクールアイドル同好会での活動を楽しそうに話しています。早くライブをしたいとも、よく言っています。ただ、私にはその真偽を確かめる術がありません。無理をし過ぎていないかを、知ることは出来ません。

 

 

 お願いします。もしお姉ちゃんのスクールアイドル活動のことを知っていたら教えてほしいんです。詳しいこととまでは言いません。辛そうにしてないかとか、楽しそうにしてるとか、そんな程度でも良いんです。可能な限りお礼もします。虹ヶ咲のスクールアイドルのことを詳しく追っていそうなブログは他に無かったんです。知り合いも虹ヶ咲には居ないんです。私には、他に虹ヶ咲のお姉ちゃんの事を知る伝手が無いんです。

 

 

 どうか、お願いします。私にお姉ちゃんの事を、教えてください。

 

 

 

 

 ……これを読み終わった時、ワタシはしばらく身動きが出来なかった。

 

 あまりにも切実だった。

 どこまでも祈りに溢れていた。

 ただただ純粋に彼方さんを案じる遥ちゃんの気持ちが、0と1のデータを通じて叩きつけられてきた。

 

 

 このブログにはロクなプロフィールを公開してない。適当につけたPNと虹ヶ咲の学生だという真偽不明の情報だけ。それだけだ。

 そんな素性の知れないへっぽこブロガーに、遥ちゃんはノーガードで突っ込んで来た。

 

 ――本名をいきなり名乗る?

 ――身内の情報を告げる?

 ――あげく"可能な限り何でもする"?

 

 

(今思い出しても、正気かよって思っちゃうよね)

 

 

 世の中には"リテラシーなんぞ知らねー!"とばかりにSNSに個人情報公開しまくってる剛の者もいるけど、スクールアイドルにそんな人は一握りだ。

 なんせ、『スクール』アイドル。学校の名を背負うアイドルなのだから。

 

 

 自分の所属学校を明かし、立場と所在を表明し、本名や年齢までプロフィールとして公表する。

 この学校に私はいるんだと、この学校のアイドルなのだと、宣言する。

 それが、スクールアイドルを名乗るものの義務だ。私は公開してなかったけれど。

 ……いやルール違反したわけじゃなくて学校側に同好会として認められてなかったからだからね?逆に学校が認めてないのに名乗っちゃダメなんだよ、スクールアイドルって。

 

 

 スクールアイドルはその義務を通じて責任感を抱き、学校の看板として相応しい立ち振る舞いを心掛ける。

 学校は自身が認めた生徒を様々な火種から守る。

 世間はその覚悟を認めて、敬意とともにリスペクトし、節度をもって応援する。

 

 多数の一般未成年がアイドル活動をするなんて、冷静に考えたらとんでもない文化だ。それが成立してるのは、スクールアイドル・学校・社会全体、それらが自身とお互いを律しているからと言っても過言じゃないと、ワタシは思っている。誰かが大きく踏み出しただけで崩れてしまう、不確かな均衡の上に成り立っている。故に、特に表に立つスクールアイドルは、責任ある振る舞いを心掛けている。過度に秩序を乱すことが無いように。

 

 だからこそ。名門東雲学院のエース候補である遥ちゃんが、こんな危う過ぎるDMを送ってきた……その異常性が際立つ。

 どんな心情でいるのかを、推し量ってしまう。

 彼方さんを心配するその気持ちが、嫌というほど、分かってしまう。

 ワタシだって、ここんとこ、ずっと気にしてるんだから。身内なら、それがどれほど大きいことか。

 

 

 そして――悩んだ。

 このDMへの返答次第で……絶対に"原作"から、なにかが外れてしまうだろうから。

 

 ワタシはこれまで幾度となく原作ブレイクしかねないファクターになってきた。けれど、それはなんだかんだ"原作"開始以前にやらかしていたことが起因だ。それ以降にワタシが能動的に物語に干渉したことは、無い。はず。ワタシの自覚してる範囲では。

 でも、今回のこれは違う。ここからの動き一つで、ワタシが未来を変えてしまう。"原作"に挟まって、ゆがめてしまう。

 

 

(例えば。 "6話"よりも先に"7話"が始まってしまう 、とか)

 

 

 遥ちゃんの望みを叶えて彼方さんの現状を伝えたとしよう。そしたらどうなるか?そんなもの火を見るよりも明らかだ。近江姉妹のすれ違いが発生するに決まってる。そのまま"7話"に突入しちゃう。璃奈ちゃんの出番である、"6話"をすっ飛ばして。

 

 楽観的に考えるのであれば、"6話"と"7話"が逆転してもさほど影響はないのかもしれない。

 それぞれの話のメインとキーパーソンが別々だから、"6話"から"8話"までの順序はそこまで重要じゃない、のかもしれない。

 

 でも、そんなのがなんの保障にもならない事を、ここまでの流れで重々承知している。いくら能天気なワタシでも。

 "原作"通りのメンバーが揃ってたって解決に至らないかもしれない。現実が"原作"通りに動いてくれる確証なんてない。ワタシっていう不穏分子がいるなら尚更だ。

 だからワタシは。"原作"通りに進んで欲しいというスタンスを貫くなら。ここで遥ちゃんのアクションを促すような返答は、しちゃいけない。

 

 ……しちゃ、いけないんだ。

 いけないんだ、けど。

 

 

(これは、チャンスだ……ってことに、気がついちゃった)

 

 

 何度も何度も思った。

 彼方さんを早く救ってくれって。早く"7話"が始まってくれって。

 生活に支障をきたしているあの優しい先輩を、助けてくれって。

 昔みたいに自分の好きなタイミングでお昼寝しちゃう、ゆるふわな眠り姫に戻ってくれって。

 そう、思っていた。

 

 璃奈ちゃんを蔑ろにするつもりは毛頭ない。でも、"6話"と"7話"が入れ替われば。たった1話分ではあるけど、彼方さんはそれだけ早く救われる。ここで手を出さなきゃ、”7話”がいつになるか分からない。

 

 それに。遥ちゃんの、この痛いまでの想いを無視することが本当に正しいのかも――分からない。

 

 

 進む?

 留まる?

 

 

 いつぞや脳裏に浮かんでいた選択肢が、また現れたかのようで。

 その時よりも圧倒的に悩み。

 

 ……その末に、ワタシは。

 

 ワタシは。

 

 

 

 

 

 

 一ブロガーとしてのワタシは、責任を持って近況をお教えできる立場ではありません。でも、同好会のメンバーの方からお聞きになるのであれば、その限りではないと思います。そして、同好会の方とあなたが知り合うキッカケを作ることまでは、出来ます。

 

 もうすぐ、ショッピングモールでのミニライブが予定ありますよね?そちらへ同好会の方の参加を促す。そこまでであれば、可能です。たまたまライブを観に来ていた他校のスクールアイドルに、あなたが声を掛ける。その程度なら、誰にも止められる事は無いでしょう。

 

 ワタシが提案できるのは、そこまでです。いかがされますか?

 

 

 

 

 

 

 自覚的に。

 "原作"ブレイクの道へと、舵を切った。

 

 

 

 

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