「……ハルちゃん追っかけてくる!しずく、カナちゃん頼んだ!」
「わ、私も行く!侑ちゃんは2人をお願い!」
「え!?う、うん。分かった!」
呆けていたのは数瞬だった。
愛ちゃん、そして歩夢ちゃんが遥ちゃんを追って駆けていく。
とはいえ、このベンチスペースの外は人通りが多いショッピングモールの敷地内。遥ちゃんを見つけられるかは微妙なところかもしれない。もう少し人手が必要だ。
「……ワタシも行くわ。とりあえず見つけたら教えるね」
「お願いします。私は……こちらに居ますね」
「ん。ほんじゃ」
そう言ってワタシも、その場を一回離れて……そんで、コソコソともう一度戻ってきた。近くのいい感じの茂みにそのまま潜む。歩夢ちゃん達が戻ってきても、そうそう見つからないくらいには気配を殺して。
なんで遥ちゃん探しに行かないんだって?まぁ……不確定要素がこっちの方が多いから、かな。
遥ちゃんの反応は"7話"どおりのもの。つまり抱いてる不満や現状は"原作"と相違ないと思われる。
対するこちらも、彼方さん自身のスタンスには"原作"との大きな違いはない。でも取り巻いてる状況に差がある……しずくちゃんと、せつ菜ちゃんだ。
しずくちゃんは一人でここまで彼方さんに寄り添ってる。せつ菜ちゃんは遥ちゃんの爆発の遠因になった。こっちの状況の方が、把握しとかないとマズそうな感じがする。向こうが遥ちゃんの退部をより後押ししたりしなきゃだけど……ってするわけないか……
ちなみにウソついて離れたのは、せつ菜ちゃんをこの場に残すため。ワタシが行けば分担が半々になるからね。人数比率的に、立候補すればせつ菜ちゃんは残ると踏んだ……彼方さんもせつ菜ちゃんも、お互いに言いたいこと、あるだろうしね。
「……すみません、彼方さん。出過ぎたことを言ってしまいました」
口火を切ったのはせつ菜ちゃんだった。
その口調は、申し訳なさに満ちている。流石にあそこまで遥ちゃんが思いつめているとは想定していなかったんだろう。
それを分かっているからか、その元気もないからか。彼方さんは責めもせずベンチに座りなおし、ゆるゆると頭を左右に揺らすばかりだった。
しずくちゃんはベンチから立たずに寄り添って、心配そうに彼方さんの背中をさすっている。責任を、自分も感じちゃってるのかな。
「ううん。せつ菜ちゃんはなんにも悪くないよぉ。言ってたこと、全部本当だもんねぇ。でも、あーんなに"いかにも大事!"みたいに言ってくれなくても良かったんだぜ?」
「大事ですよ。私にとっては。同好会の皆さんにとっても」
「そうだよ、彼方さん。みんな彼方さんの事情を尊重してはいたけど、やっぱりどうにか出来ないかなって思ってたんだから。まさか妹さんが東雲学院の遥ちゃんだとまでは想像してなかったけど……」
……ん?あれ?"事情を尊重してた"?
なんか変な口ぶりだな。その言い方だと、まるで今日より前に彼方さんの疲弊の理由を聴いてたみたいな……
「あはは……ん~……まぁ、そっか。そうだよねぇ。みんな良い子だもん、心配しちゃうよねぇ。まったく、果林ちゃんがむやみに追及なんてしてくれなきゃ良かったのに……」
……ワタシの!知らないところで!もうカミングアウトしてたっぽい!
果林さんか!果林さんだな!?あのマッサージで彼方さんの状態を察して……そんで皆のいる前で問いただしたのか!
「言ったら心配されると分かってたから隠してたんでしょう?つまり、後ろめたさがあったんでしょう?自覚してるのに、何で改めようとしないんですか。後輩に膝枕借りてる場合じゃないですよ」
「あう。しずくちゃんの正論がクリティカルヒットするぅ」
「……もしかして。しずくちゃん、今日偶然彼方さんに出会ったわけじゃないの?彼方さんを心配して……」
「えっ!?い、いえ流石にそれは偶然です!休日の彼方さんの予定も聞いていなかったですし、本当に行き当たっただけですよ。ええ、目を血走らせながらフラフラと歩かれていたので見過ごせなかっただけです」
「うぅ……面目ない……でもみんな、傷心中の彼方ちゃんに容赦なくないかい……?」
「だって明らかに彼方さんが悪いんだもん」
「後輩の愛がない」
「愛さんは遥ちゃんに向かっていきましたからね」
「愛ちゃん、かむばっくひあー……」
彼方さんが自分を蔑ろにする発言をしたからか、気を使っていた皆がこぞって思っていたことをぶちまけ始めた。
なんか結構みんな不満を抱えてたらしい……いや、当たり前か。
同好会の仲間があんな風でも気にしない、そんな薄情な連中じゃないもん、皆は。ワタシですら、そうなんだから。
「……彼方さん」
「なんだよう、侑ちゃん」
「彼方さんは、遥ちゃんに夢を追って欲しいから、幸せを守りたいから頑張ってたんだよね?」
「うん、そうだよぉ」
「でも自分もスクールアイドル、やりたいんだよね?」
「……そうだねぇ。果林ちゃんにも、白状させられちゃった通り」
ベンチに座る彼方さんと視線を合わせるようにしゃがみこんだ侑は、彼方さんの手を取って問いかけ始めた。
彼方さんの今の気持ちを、整理させるように。自分たちが間違えないよう、ちゃんと理解するために。
「同好会が再開してから、ずっと楽しくて。やりたい事がどんどん増えていって、それを一緒に目指す仲間がいるのが、すごく幸せで。みんなとの同好会は、もう、大事な、失いたくない場所なんだ……ですよね?」
「なんでそんなに細かく覚えてるのかなぁ、この生徒会長さんは」
「妹さんが不自由なく活動できるようにしたい、でも自分もスクールアイドルとして活動したい。だから無理してでも頑張るんだって、そうおっしゃってましたよね」
「ホントに細かく覚えすぎじゃなぁい……?」
「ついこの間、聞いたお話ですよ?そうそう忘れるわけないじゃないですか」
「そうですね。そして、それはワガママではあるけど、自分に正直で、自分にウソをついてるよりよっぽど良い。エマさんがそうおっしゃったこともあって……あの時は彼方さんのご意思を、尊重させてもらったんです」
せつ菜ちゃんとしずくちゃんが、それに追随する。
……それ、あれだな?本来"原作"で遥ちゃんと虹ヶ咲で口論した翌日に話してた内容だな?そっかぁ……そのフェーズももう通過済みだったのかぁ……
「そう、あの時は……でも、もう違います。遥さんとお会いして、確信しました。お二人は似た者姉妹なんだな、って」
「……似た者姉妹?」
「私も同意見です。お互いがお互いを想いあってる。遥ちゃんも、彼方さんの幸せを守りたいんですよ。彼方さんは今、そんな遥さんの想いを無下にしているんじゃないですか?」
「……でも遥ちゃんは、彼方ちゃんの妹なんだよ?彼方ちゃんが守らないと……」
しずくちゃんの意見に、けれど彼方さんは納得しない。
姉は妹を守るべき。だってお姉ちゃんだから。
理屈なんてどうでもいい。幼少から育み続けたその思いは、誰に言われても揺らぐ事はない。
「彼方さん。その姉としての責任感はご立派ですし、尊敬したいです。でも、妹だって姉を守りたいと思うんですよ?」
「しずくちゃん、一人っ子じゃん」
「……虹ヶ咲での、彼方さんの妹です」
「え?」
「なんでもありません!一般論で!一般論でそう思うのは自然です!大体私達は妹さんがもっと年下だと思ってたんですよ!?遥さん、もう立派な高校生じゃないですか!」
「お、おう」
……我慢しろ。我慢しろワタシ……
今シリアスなシーンなんだよ……ふいに思わぬモノ頂いたからって悶えんなよ……!
「……彼方さん。遥ちゃんはもう、守ってもらうだけの人じゃないと思う」
「……侑ちゃん」
「だって、そうじゃなきゃ、お姉さんの事を助けたいって、あんなに真剣にならないよ!自分の夢を捨ててまで、なんて!……彼方さん。彼方さんは、遥ちゃんのことをもっと考えて……ううん。遥ちゃんの想いを、真摯に受け止めてあげてほしい。何が大切で、それを守るためにどうするのが一番いいのか……きっと今なら、今までと違う答えが導き出せるんじゃないかな?」
ほら!侑が良いこと言ってる!ちゃんと"原作"っぽいこと言ってる!
彼方さんも考え込んでる!効いてるから!侑の手を握り返しちゃってたりするから!
……ええい!落ち着けワタシ!
「…………まったく、お節介さんたちがいっぱいで困っちゃうぜ」
そう言って顔を上げた彼方さんの様子は、まだ万全とは言い難い。
けれど、さっきまでの今にも泣きそうだった瞳からは潤みが抜け、しっかりと見開かれていた。
「何となく、分かったような気がするよ。遥ちゃんにちゃんと伝えなきゃ」
「何となくじゃダメです。ちゃんと考えてください」
「ふふ、はぁい……うん、そうだね。みんな……彼方ちゃんの企みに、付き合ってくれるかい?」
「「「 はい、もちろん!! 」」」
せつ菜ちゃんからの厳しいお言葉にもめげず告げられた"お願い"に、3人は即座に良を返した。
彼方さんが何を考えているか、それは分からない。けれど"原作"通りであれば……うん。きっと遠からず、ハッピーエンドを迎えることだろう。
暫くの後、遥ちゃんを連れたって歩夢ちゃんと愛ちゃんも戻ってきた。
遥ちゃんの表情はまだ少し暗かったけど、飛び出していった頃よりは明らかに良くなってる。二人がケアしたんだろうなっていうのは分かるけど……流石に同時進行じゃ、向こうの事は分かんないしなぁ……ともあれ、ラストシーンへのフラグはすべて揃ったと見て良いんじゃないだろうか。
いや、うん、まぁ……思う所は色々あるにはあるんだけど……
……まぁ、うん。ともかく。
なんとか、なれーっ!