「PV見ました!すっっっっっごく可愛くて、一発でファンになっちゃいました!リアルで見るともっと可愛い……応援してます!」
「わぁ……直接感想貰ったの、初めて……ありがとう!」
「はぅぅっ!」
今日子ちゃんが歩夢ちゃんのファンサを浴びて悶えてる。なかなかどうして見る目がある。まだPVくらいしか出しておらず、愛ちゃんみたいに別の目立つ実績があるわけでも無いのに歩夢ちゃんを見出すとは……この子逸材かもしれない。
……いやそんな現実逃避してる場合じゃねぇのよさ……
「そうそうあれ!天王寺さんのPVのキャラ、可愛かったよー!」
「動きも面白いし!あれ、自分で作ったの?」
「うん……一応……」
「すっごーい!」
色葉ちゃん、浅希ちゃんに褒められた璃奈ちゃんの表情は、やはり変わってない。確かに一見だと、つまらなさそうに見えてしまうかもしれない。
まだワタシにゃその辺の機微は正確には読み取れないけれど、側で愛ちゃんが微笑んでいる。ならば璃奈ちゃんも、決して悪い気持ちでいるわけじゃ無いんだろう。
ちなみにワタシは、ファンとスクールアイドルの語らいの邪魔にならないように、侑と一緒に壁の花になってる……うるせぇ。誰がぺんぺん草じゃ。ぺんぺん草だって花咲くんだぞ。舐めんな。
「皆さん、もしかしてライブの下見に来たんですか?」
「うん。実はそれも兼ねてる!」
……へ?そうだったの?ワタシ知らなかったんだけど?
「ウチのカナちゃんの妹さんがいる東雲学院がここでやったって聞いてね。遊びがてら見に来たんだよ。行くのはこれからだけど」
声には出さずに驚いて、隣の侑に視線を送る。返される頷き。この軽さは……別に言わなくても良いやって思ってたパターンだな。良いけどさ。
んー……これも因果が逆転したのかな。"原作"だと"6話"で東雲の名前が初めて出て、"7話"で言及される流れだった気がするけど。
「わぁ!そうなんだ!決まったら告知してくださいね!私達、次のライブが待ちきれなくて!」
「ここでやってくれるんだったら、すごく楽しみ!」
「そんなに楽しみに……してくれてるんだね……」
あ。
やべ。そんなこと考えてたら話進んじゃってた。この流れは完全に……!
「……私、やる」
「え?」
「私、ここでライブ、やる!」
「えぇっ!」
あーんっ!パネーな!ニジガクのスクールアイドルはよぉー!
即決即断即行動!貴重な青春、無駄遣いしないんだからさー!
ちくしょー……ワタシも腹くくるっきゃねーか!
流石に今回は見守るだけって決断はムリだと覚悟はしてた!
ちょっと挟まらせてもらうかんね……!
作戦その1……『できれば璃奈ちゃんのライブの日程をずらす』、だ!
璃奈ちゃんのライブ自体を止めるつもりはない。しずくちゃんが悩む期間とずれて欲しいだけ。
桜坂Xデーは、恐らく直近2週間のどこか。その期間、璃奈ちゃんが自分のライブの準備にかかりきりになりさえしなければ……何とかなる……きっと!
「り……ピンキーちゃん?」
「うん?」
「……ぴんきー?」
「あ、うん。気にしないで?」
浅希ちゃんから不思議そうな声をかけられるけど、とりあえずスルーする。
いや、だって璃奈ちゃん、このあだ名じゃないとワタシの呼びかけに反応してくれなくなっちゃったんだもん。こんな事ならもっとちゃんと考えて付けたかったよ。
「ここでやりたい?もう決めた?もうちょっと別の会場も見てみて良いと思うけど」
「ううん。勢いで言っちゃったけど、ここの設備は実は前から知ってる。私との相性もいいと思う。だから、ここでやりたい」
「そ、そっか……」
別会場を調べるのに時間をかけてもらおう案、却下!
くっ……そうだよね!ジョイポリスなんて璃奈ちゃんのためにあるようなテクノステージだしね!めっちゃ似合うし見たいわね!自己分析ができてて何よりです!
じゃ、じゃあ次……!
「ほんじゃ、いつにするの?」
「それは、流石にステージの空きを聞いてみないと」
「まぁ、そりゃそうか……じゃあワタシが今から聞いてくるよ」
「え?今から?」
「うん」
驚く愛ちゃんに、軽く頷く。
自分でも性急すぎる気がするけど、ここは強引に行かせてもらう。
「ライブステージって予約争奪戦だかんね。やりたいんだったら早めに調べとかないと。皆はステージでも見に行っててよ。ワタシは事務センターに行ってくっから」
「……随分やる気だね?」
「ピンキーちゃんのが伝播したのかもね?ま、部外者だけどそれくらいはさせてよ」
訝しげな侑にみんなから預かっていた飲み物を渡して、足早にその場を離れる。向かう先はもちろん事務センター……インフォメーションだ。
狙いは、会場の空きスケジュールを誤魔化す事。もっというなら、直近は空いてないとウソをつく事。
これでライブ日程を3週間後くらいにセットさせられれば……!
「……って、あれ?事務センターってどこだろ?」
「インフォメーション、たぶんこっちだよ?」
「あ、どうも……って歩夢ちゃん!?な、なんで?」
ナンデ!?歩夢チャンナンデ!?
「私も興味あったし。今後こういうことするかもしれないから、参考にさせてもらいたいなって」
「さ……参考にするほど、こなれちゃいませんが……てか初めてだし……」
「ふふ、ならお揃いだね?一緒にがんばろ?」
そう言って先立って歩き出す。身体を動かすゲームしたってのに汗とかじゃなくてなんか良い香りするのはなんなんだろうね?生物として負けてる気がする。勝つつもりもないけど。
……じゃなくて!これじゃ予約状況誤魔化したりなんて出来っこねーじゃんよ!その優しさは今は仕舞っといて欲しかったよもぉぉぉぉぉっ!
「……ふふっ」
「……?なんかご機嫌?」
「うん、まぁね」
「……あぁ、そんなにあの子……今日子ちゃんに褒めてもらえたのが嬉しかったの?」
「うん。それだけじゃないけど、それも凄く。頑張ったことを誰かが見てくれて、応援してくれるのって……こんなに嬉しいんだね」
心なしフワフワした足取りの歩夢ちゃんは、ワタシの当てずっぽうに頷いた。
そっか……そんなに歩夢ちゃん、嬉しかったのか。
……ったく。これからが怖いや。色んな意味で
「はは、世の高校生がスクールアイドルやる理由を実感した?」
「その一端は、かな?」
「それはそうと、感想言われたの初めてじゃなくない?ワタシも言ってるのに、酷いんだー」
「アナタを数にカウントしたら、他の子に不公平でしょ?色んな意味で」
「ちぇーっ」
ふーん!良いもんね!ワタシは歩夢ちゃんのファン1号だしー!最初ですしー!
……え?侑?あいつは0号とかじゃない?
「……えへへ。でも、アナタのエールもちゃんと届いてるよ。いつも応援してくれて……ありがとう」
「…………ぐふっ」
「えぇっ!?なんでぇ!?」
ふ、ふふ……分からんようだな、歩夢ちゃんは……
推しからの過剰供給を受けると一般人はこうなるのさ……今日子ちゃんみたいにね……!胸が動悸で痛すぎるぜ……!
「ち、ちなみに……ご機嫌な別の理由って……?」
「う、うん。色々あるけど……一つは、璃奈ちゃんがライブをしたいって言ってくれたこと、かな」
「璃奈ちゃん?」
「うん。璃奈ちゃんから前に聞いてたの。どんなことをしたいかって。そしたらね?"愛さんみたいにみんなとツナガリたい"って、そう言ってたんだ……でも、ライブをする自信はまだ無い、ともね」
「……へぇ」
「そんな璃奈ちゃんが、ちょっと勢い任せだったとはいえライブをやるって宣言したのが、なんだか嬉しくって。私、今璃奈ちゃんを凄く応援したくなってるの」
「……なるほど、ね」
彼方さんが第一号になっちゃったとはいえ、純粋に自分がやりたいからやろうとするライブは、やっぱり初めて。それを初期メンバーや、別分野で実績のある愛ちゃんや果林さんじゃなく、璃奈ちゃんが言ってくれた。言うなれば、歩夢ちゃんに一番立場が近い子が。だからこそ、より嬉しいのかな。
まぁ璃奈ちゃんが可愛い妹分だってのもあるだろうけど。よっ!妹王!
「もう一つは……アナタ」
「……へ?」
……ワタシ?
「アナタがこうやって、自分から璃奈ちゃんの助けになってくれようとしたから。私達に、近づいてきてくれたから……なんて、ね?」
「……いや……いや、これは……そんな大したもんじゃ……」
「ふふ、うん。そうだね……あ、インフォメーションあそこじゃない?早く行こ?」
そう言ってテコテコと足を進める歩夢ちゃんの後ろで、私は先ほどとは別の意味で胸を押さえていた。
ざ……
罪悪感……えっぐぅ……