結論から言おう。ワタシは第一関門を突破した。
「どしたの歩夢ちゃん。随分眠そうじゃん?」
「あ、あはは……ちょっと夜更かししちゃって」
「ふぅん?なんだなんだ、盛り上がってたなら混ぜてくれても良かったのに」
「……何を想像してるのかわからないけど、たぶん違うからね?」
「それはどうかな。いつも適当なのはともかく、案外今回は当たってるかも知れないよ?」
「いつも適当なのを否定しようよ」
「あはは。まぁ気が向いたら教えてねー」
「……うん」
もう心の中で突き上げるコブシが止まんなかったね。対面に対戦相手がいたらフルボッコにしてたよ。
少なくとも歩夢ちゃんは"原作"どおりに夜更かししてくれた。あの流れでスクールアイドルに関係ない事に集中できるハズはない。そして歩夢ちゃんは潜在的に"スクールアイドルになりたがっている"。
いやぁもうこれ勝ったでしょ。風呂入ってきていい?
「ふわぁぁぁぁあ……おふぁよ。2人とも早いよー」
「おはよ、侑ちゃん」
「はよ。なんだなんだ、侑も夜更かし?」
「私も?」
「歩夢ちゃんも大あくびしてた」
「大!?大きくはなかったでしょ!?」
「いやいや、あんな歯列をばっちり眺められるくらいに口開けといて何言ってんの」
「……歯列を眺めるって……」
「あはは、今日も気持ち悪いなー」
「そっちは気持ちいーことでもしてたの?2人とも揃って夜遅くまで。やーらしー」
「行こっか、侑ちゃん」
「そだねー」
「ごめん。ごめんて」
置いてけぼりにされそうなところを着ているパーカーのフードをバサバサさせながら追いついて、取り止めのない事を話しながら学園行きのバス停へと向かう。
ワタシ達の日常会話はだいたいこんな感じだ。
侑が話題を振って、ワタシが適当な事を言って、歩夢ちゃんが話をまとめる。誰かが止めなきゃズルズルといつまでも話してるし、ワタシや歩夢ちゃんがネタを出す事もある。
たまに意識して仲間外れになりに行くのがポイントだ。そうする事で歩夢ちゃんと侑の2人だけで通じ合う事が多くなるんだ。キズナが深まるんだ。
まぁたまに侑が乗っかって来て2人して呆れられる事があるけど。
ちなみに"原作"だと歩夢ちゃんと侑がベランダでおはようの挨拶してたけど、アレもやってる。お熱いねぇ。
ワタシは"やる事あるから早めに起きて先に下に行ってる"と言ってこのイベントからは退散してるから、マンション前で合流するのがいつもの流れだ。
……やる事なんてあるのかって?
……いやぁ、下から眺める2人もいいものですね。
「あ、ラッキー。今日一番後ろ空いてる」
「よっしゃ行こ行こ」
「もう、押さないでよぉ」
こうやってバスなんかで座席に座る時のポジションも重要だ。
基本はワタシが窓際に行かないようにして、2人をサンドする。
普段からこうしておけば1人だけ座席移動したり、隣に座った別の誰かと話し始めたりできるからね。フットワークの軽いポジション取りってわけよ。
ちなみに窓際に座る確率は侑の方が高い。嗜好が子供っぽいから行きたがるんだよな。そして歩夢ちゃんはウキウキする侑を見て微笑ましそうにする。ワタシはそんな2人を見てニチャニチャする。
いやぁ至福眼福役得だね!こういう日常シーンのさりげない萌えを逃しちゃ勿体ねぇよなぁ。勿体ねぇよ。
「う……ふぁぁぁぁぁ……」
「もう、また侑ちゃん欠伸?授業、大丈夫?」
「えへへ……ダメかも」
「ちぇっ、侑が別クラスじゃなきゃなぁ。今日一緒だったら面白いものが見れたかも知れないのに」
「なんでさ。別に居眠りしてる子なんて普段から他にもいるのに」
「今日は数Bがあるでしょうよ。鬼センの」
鬼センとはそのまんま文字のごとく、鬼のように厳しい普通科の数学担当教師のあだ名である。彼女の前で居眠りでもしようものなら、とんでもない量の課題が飛んでくると評判だ。
その事実を思い出した途端、気が抜けていた侑は顔色を一気に青ざめさせて、しょぼしょぼとコチラに体ごと向き直ってきた。
「…………歩夢ぅ…………」
「無理だよ……むしろ今日は私も危ないし……こっちのクラスも数Bあるし……」
「歩夢ちゃんはワタシが助けるから大丈夫。侑は安心して叱られな」
私と歩夢ちゃんは同クラである。助けることなど造作もない。ワタシが潰れなきゃだけど。
「私も助けてよ!?数分おきにメッセ飛ばして!」
「えー?さすがに手間すぎて嫌」
「塩すぎる!いつも思うけど歩夢と扱いが違いすぎるんだよ!」
「え?歩夢ちゃんと同じ扱いして欲しいの?」
「え?不気味だからお断りします」
「おいコラ」
「もう、2人はいつもそんなんだね……ほら、この飴あげるから頑張って?バレちゃダメだよ?」
「……歩夢ぅぅぅぅうっ!」
「きゃっ……もぅ、侑ちゃんってばぁ」
一喜一憂に忙しい侑と、その侑に抱きつかれてほにゃんとしている歩夢ちゃん。ぽわぽわと花が飛んでいるのが見えるようだ。ワタシ?ワタシは気配消して佇んでるよ。なんなら拳一個分さり気なく離れてるよ。そしてじっとり眺めてるよ。
いやぁ……良いものですねぇ。お礼に侑には気が向いたらメッセしてあげましょう。ふぉっふぉっふぉ。
……結局2人ともここではスクールアイドルには言及せず、か。
"原作"通りではあるけど……さて、放課後どうなるかな?
*********
「ね!私、ちょっと寄りたいところがあるんだけど……良い?」
――第二関門、突破である!
"原作"どおりに侑がそう言い出した時、ワタシは心の中で勝鬨を上げていた。
ここまでの流れでワタシが侑に干渉できる場面はなかった。しどころがなかったと言ってもいい。だって侑はワタシの昔の失敗知らないし、変に煽ったらどうなるか分かんなかったし。
だからこそ、侑が自発的にスクールアイドルにのめり込んでくれるのを願うしか無かったんだけど……ただ待つのって怖ぁ!?不安すぎてどうにかなるかと思った!ワタシぜってーギャンブル向いてないわ!一生やんねー!
「んー……同好会の部室ってどこにあるんだろ?」
「……どこだろうね?」
「そういや結局侑ってば居眠りしなかったん?」
「してないよ!バッチリ目ぇ覚めてた!逆になんかやる気漲っちゃってさぁ!いやーあの優木せつ菜ちゃんって子の曲のおかげ!時間が経つほど元気になってきたよ!」
「ふーん」
「……そうなんだ」
そうして自分の適性を一つ把握したワタシは、こうして部室を探す2人の後ろにくっついて、けれど少し離れた距離でぼんやりとその姿を眺めていた。
……悩んだ。悩んだんだよ。この道中に付き合うか。
適当な理由付けて離れて、成り行きに任せた方が良いんじゃないかなとも思ったんだよ。っていうか最初はそうしようとしたんだよ。
でも、結局しばらくは付き合う事にした――いやだってさ、歩夢ちゃんがさ、すっごい複雑そーな目で見てくるんだもん。
「……やっぱまだ悩んでる最中だよなぁ、あの感じ」
たぶんだけど、歩夢ちゃんの中ではまだ踏ん切りがついてないんだ。
本当に一歩踏み出そうとしたのは、この日の侑との買い物の時なんだろう。
スクールアイドルに関わる事を諦めかけた侑を、諦めさせまいとした。
それが歩夢ちゃんの最後のきっかけだ。
それまでは歩夢ちゃんは、悩み続けるんだろう。
将来への不安。自分への自信のなさ。未経験の世界へ飛び込む恐怖。それら全てを、噛み締めて。
そしてどうやらワタシもいまだ、その懸念事項の一つらしい。そんな視線を感じる。侑に誘われたのを断って"やっぱりまだ蟠りが……"なんて思われたらお終いだ。歩夢ちゃんの心労が一つ増えてしまう。
失敗したなぁ……別れるなら侑に誘われる前にどっか行かなきゃいけなかったんだ。
あー……ダメだなぁ。やっぱ創作物の主人公みたいにゃ上手くいかねーわ。
「なんか都合よく別行動のきっかけになりそうなイベント起きないかなー……」
なお。ワタシの望む着地点は、"離れすぎない位置でスクールアイドル同好会に関わる"だ。
実は原作通りに進めるなら、とっとと2人に嫌われるのが一番早いんじゃないかと思ってる。
そしたらワタシの事なんか気にしないで、2人でしっぽり仲を深めてくれる事だろう。
でも、これをやったら"間近で萌えを体感する"というワタシの大目標の達成が著しく困難になる。本末転倒だ。
それに……そりゃ"原作"をリスペクトしてるとはいえ、さ。今この場にいる自分を蔑ろにしても構わないかって言うと……ねぇ。
そこまでの決意はまだ、ワタシにゃない、かな。うん。
……とは言え?
どーやったらここから歩夢ちゃんがワタシ抜きで"侑と2人でスクールアイドルを始めたい"って展開に持っていけるか全然思いついてないんだけど?結局思いつきませんでしたけど?
いやどーすっかなー!?
「おーい、戻ってこーい」
「……ん?」
そんな風に悩んでたら、侑からの掛け声に引き戻された。
「ん?なに?」
「なに?じゃなくて。行くよ?」
「へ?どこに?」
「同好会の場所、分かったんだよ。さっき親切な人に教えて貰えたんだ。気づいたら変なとこにいるんだもん、探しちゃったよ。ほら、行こ?」
「え」
あ……
あ……
"あいりな"見逃したぁぁぁぁあ!?
「あ……あぁ……」
……うっそーん。愛ちゃんや璃奈ちゃんとのファーストコンタクト見逃した?ついでに流しそうめん同好会も?えー……?
「もーどうしたの。ゴーゴー!」
そうして手を取られ引き摺られるままのワタシはゾンビの如し。いや、全部のイベントに絡む必要はないんだけどさ……むしろしない方がいいんだけどさ……それはそれとして新たなCPとの出会いを見逃したってのがさ……
はぁ……テンサゲぇ……
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