ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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7-⑥

 

 

「……ねぇ、アナタは聞いた?」

「何を?」

「しずくちゃんのこと……噂が回ってきたの。再オーディションになっちゃった、って」

「……あぁ、うん。聞いた。マジっぽいね」

「そう、なんだ……」

 

 

 学外への買い出しに向かう最中、合流した歩夢ちゃんが切り出してきた話題に、神妙に応えた。

 少し後ろを歩くかすみちゃんが、ぴくり、と震えた気配がする。でも話に加わっては来ない。

 まだ考えが整理できていないんだろう。難しい話、だから。

 

 

「しずくちゃんはなんか言ってたの?てか、どんな様子なの?」

「まだ同好会のみんなには伝わってないから……でも、しずくちゃん自身は今まで以上に頑張って璃奈ちゃんを手伝ってた……ように思う」

「そっか……別のことに打ち込んで切り替えようとしてる、のかねぇ」

 

 

 そこは概ね予想通り、か。

 そこで泣いて喚いて発散できる性格なら、ここまで悩まないのかもだけど。はは、虚しい仮定ですこと。

 

 

「私達に出来ること、なにかあるかな?」

「……どうかな。どうなんだろうね……多分、しずくちゃん自身が自分を好きになれないと……無理なんじゃないかな」

「……え?」

「いや、ごめん。忘れて。変な事言った……」

 

 

 そうしてわざとらしく口を押さえてみる。ついでに顔も背けてみる。いかにも何か知ってますよ、と言わんばかりに。

 

 役者と比べれば拙過ぎるそれだったけど、余裕のない観客を騙すには十分だったようだ。バタバタと駆け寄ってきて、肩にかけられたこの手が証明している。

 

 

 

 

それ、どういう意味ですか?何か知ってるんですか!?

 

 

 ……"原作"においてもかすみちゃんはしずくちゃんの事情の詳細は把握していない。璃奈ちゃんからの僅かな伝聞だけで判断し、行動している。幕間で補完されてた可能性もあるけど、状況からしてその量は多くないだろう。

 

 つまりかすみちゃんは、たったそれだけの根拠でしずくちゃんのために動ける、という事だ。

 

 どこまで心に訴えかけられるか分からないけど、彼方さんから伝え聴いたという体で、しずくちゃんの事情をワタシが伝える。

 

 ラストプランにして、最終手段……『ワタシが璃奈ちゃんの代わりを務める』

 絶対に取りたくなかった方法だけど、もう……これしか思いつかない。

 

 さて……どこまでやれるやら。

 演劇の、時間だ。

 

 

 

「……いや」

「知ってるなら教えてください!」

「あのね」

「隠し事したってタメになりませんよ!」

「だから」

「もしも誤魔化そうってつもりならエマ先輩を召喚しますからね!お説教してもらいますからね!」

クリティカルな脅し止めーや!ちょっと落ち着いて!

 

 

 だーっ!もう!元気がいいなぁ!頼もしいったりゃありゃしねぇ!

 

 

「あぁもう……成り行きで色々聴いたんだけど、そっから勝手に想像したことを思わず口に出しちゃっただけ。無責任で下世話な妄想なの。だから取り下げたの。だから言いたくないの。アンダースタン?」

「下でも上でもどうでもいいので、さっさと吐いてください」

「下?上?」

「……かすみん、アンダーはそういう意味じゃない……」

どうでも!いいので!ちゃっちゃと白状しろぉぉぉぉぉお!

「ちょ、揺ら……揺らさな……!」

「か、かすみちゃん!やりすぎ!やりすぎだから!」

 

 

 おぶぇ……首痛いし気持ち悪い……

 好かれてるとは思ってないけど、いくらなんでもワタシに対して遠慮なさすぎじゃないかね!このかすかすさんは!

 

 

「はぁ……はぁ……そ、そこまで気になるなら……もうしずくちゃんに直接アタックしてくりゃいいじゃん……」

「え……それは、その……だって、突っ込みすぎてウザがられたら嫌だし……」

「なんでそこで腰が引けるかな……エマさんなら突っ込んでるぞ……」

「果林先輩の時の事を言ってるなら、エマ先輩だって確証持てるまで待ってたんでしょ!?同じですぅ!」

「あ、それは知ってるんだ……」

「だから!……かすみんも、欲しいんですよ。突っ込むための、突破口が」

「…………」

「だから……何か知ってるなら、教えてください。お願いします」

 

 

 

 

 さっきまでの勢いから一転、そうして頭を下げてくる……やらなきゃいけないことのためにプライドを無視できるところ、カッコいいよなぁ。ホント。ちょっと怒ってたのに、ちゃんと応えたくなっちゃうじゃんか。

 

 

 

 

「……端的に言うよ。多分、しずくちゃんは怖いんだと思う」

「……はぁ?怖いぃ?」

「彼方さんから聴いた。自分があんまり好きじゃない、そう言ってた事があるんだってさ。そんで演劇部の部長さんが求めてたのは、観るものに自分の心をぶつけるような歌を奏でるヒロイン。最初はキャスティングしたのに、結局期待に満たなかったってことは……」

「……しずくちゃんは、自分の心のままに歌えてない?」

「……仮にそうだとして、なんで……っていうか、何が怖いって考えになるんです?」

 

 

 言葉を選びつつ、告げる。

 その辿々しさが気まずさの表れだと思ってもらえる事を祈るしかない。実際はヘタ踏まないようにビビってるだけだから。

 

 

「部長さんはその理由を直接しずくちゃんに伝えてる。それにしずくちゃんは自分が演じるキャラは隅々まで理解しようとするタイプ、らしい。そのトレース力が、入学したてで役を勝ち取れた理由の一つでもあったとか」

「あ……確かに」

「え?」

 

 

 イッショケンメイに喋ってたら、歩夢ちゃんから思わぬ相槌を受けた。

 えっと……何が確かに、なの?ワタシなに話してたっけ?

 

 

「覚えてる?しずくちゃんが出る演劇をアナタと観に行ったこと。あの後に原作を読んでみたんだけど、しずくちゃんが演じてた子がそのまま文字の上にいるみたいで凄いなって思ったんだ」

「な、なるほど……」

 

 

 その言葉に、かすみちゃんが頷く。ナイスフォローだ。ワタシの言だけだと半信半疑にしかならなかっただろうけど、歩夢ちゃんが保証してくれるなら一気に信に傾いてくれる。信頼度が違うぜ。

 ……なら。ごめんね、歩夢ちゃん。もうちょっと手伝って?

 

 

「じゃあ尚更だ。そんな風に作中人物を再現出来るしずくちゃんが、明確に問題点を指摘されてるのに、それを取り込めない理由はなにか?」

「その子を再現するのを躊躇してる……出来ないんじゃなくて、したくないから?"心を曝け出す"のが嫌だから……怖い、から?」

「ぁ……?で、でも!それはお芝居の話で……!」

「そう。しずくちゃんの拠り所の、お芝居の話」

「っ!」

 

 

 よし……フックは決まった。

 あとはどれだけ、深く刺せるか……?

 

 

「ヒロインに共鳴できない。自分には出来ない役がある。今後もそうやって期待に添えないかもしれない。できない事が増えていく。そんな自分がもっと嫌になる。自分を支えていたものが、無くなりそうで……」

「それが……しず子の、怖いもの?」

「……想像だよ」

 

 

 

 

 そこで、止めた。

 しずくちゃんの心の鍵の根幹は、『嫌われる事が怖い』こと。けれど、流石にそれそのものを言う訳にはいかない。

 そこまで推察できる材料も手元に揃ってない。"原作"通りの悩みかどうかも分からない。伝えても、なんでそんなに知ってるんだって不審がられちゃう。

 

 なにより、しずくちゃんに失礼だ。勝手に想像して、勝手に同情して、いい迷惑でしかない。今の時点でだって大概なのに。

 

 

「そんな……」

 

 

 出来るところまでは、やった。

 これで……どうだ……かすみちゃんが動くに、足りたか……?

 

 

 

 

「……でも、そんなの。そうだとしたら、どうしたら……」

「…………」

 

 

 その足は ―― 動かない。

 動かなかった。

 

 動かせ、なかった。

 

 ……くっそ。やっぱり……ワタシじゃ、ダメか。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 一か八か、"璃奈ちゃん達がそうだったように"……って言い出すか……?

 

 ――でも、ダメだ。それはダメだ。

 手段を選んでる場合じゃないとかそういう話じゃない。根本的にダメなんだ。それじゃ絶対にかすみちゃんの心には届かない。

 

 

 虹ヶ咲の皆の言葉に力があるのは、それが自分の芯から滲み出たものだから。

 拙かろうと幼かろうと、ただ誰かの受け売りじゃあなく、自分で考えて自分が絞り出したものだから。

 そんな心が濃縮されたものだからこそ、受け取る相手の気持ちを揺さぶってきたんだ。

 

 だからワタシが今、「誰かの経験」をそれらしく語ったって、なんの効果もない。

 そう確信できる。

 

 ……はは。ったく、しずくちゃんの事を良くあれこれ言えたもんだね。本心隠しまくってんの、寧ろワタシだし。尚更、伝わる気がしねーや。ここまでの話を納得してくれただけでも奇跡じゃね?

 

 

 あー……もう。やっぱこの辺が限界か……

 

 

 

 

 

「……私」

「え?」

 

 

 拙いエチュードが尻切れ蜻蛉で終わろうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しずくちゃんの所に行ってくる

「……へ?」

 

 

 歩夢ちゃんの真剣な声が、かすみちゃんとワタシの間を ―― 貫いた。

 

 

 

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