ブラボー!ぶらぁぁぁぼぉぉぉぉお!
いやー良かった!良いステージだった!感動した!
こうしてじっくり腰据えて観るライブもやっぱ良いもんだね!ライブじゃないけど!侑とかに一緒に行こうって誘われたときは一瞬断ろうか迷ったけど来てよかった!
聞こえるかい、この万雷の拍手が!しずくちゃんがヒロインにふさわしくないと思っている人など誰一人としていない!そう確信できるね、ワタシは!
一つ前の席で懸命に手を打っている璃奈ちゃんの2週間前のライブもサイッコーだった。
奇抜な見た目からは想像できない程の可愛さといじらしさに満ちたステージは見る者すべてを魅了した。
あのオリジナルキャラクターのグッズは無いのかって問い合わせが来たくらいらしいからね!もうこんなの大成功っしょ!
はー……しっかし一時はどうなる事かと思ったけど、どうにか終わってくれてよかった……
かすみちゃんによるしずくちゃんへの特攻が戦果を挙げたことは、歩夢ちゃんと連れ立って戻ってきた部室で肩の荷が下りたように果林さん達と話しているしずくちゃんを見て、確信できた。まぁあの状態なら勝ち確だと思ってたからただの答え合わせでしかなかったけど。
ワタシがした手伝いは結局それきりだったけど、その数日後――璃奈ちゃんライブの前日に、例の璃奈ちゃん引きこもり事件はちゃんと起きたらしい。愛ちゃんと侑が特に活躍したし、しずくちゃんもちゃんといたとか。流石にそこに参列するのは気が引けたから、これも伝聞でしかないけどね。
見たいは見たかったけど……流石にタワマンにゃ忍び込めなかったからな……
ま!代わりにその後の2週間で発生したイベントには結構デバガメ出来たからヨシ!
はんぺんにライブの報告する"あいりな"とか!
しずくちゃんの特訓に付き合う"しずりな"とか!
なんかしれっと打ち上げデートしてた"かすりな"とか!
……なんか璃奈ちゃん多かったな!?
ともあれ。色々と介入こそしちゃったけど、これでミッションコンプリート。
こんなズレは今回だけにしてもらいたいもんだよ、ホント。ちょうどこれで順番も戻って、残すソロ回は"9話"だけになったんだ。このまま"原作"ルートに戻ってくれ……頼むよ頼むよ……
……ふと、もう一度前を見る。
涙目になりながら、ずっと拍手を送ってるかすみちゃん。
隣の愛ちゃんと一緒に、どこか楽しげに感想を語り合う璃奈ちゃん。
……ホント。良かったよ。
――"原作"には挟まらざるをえなかったけど、"しずかす"と"あいりな"の中も深まったみたいでさぁ!
*********
「じずこぉぉぉぉぉ……よがっだよぉぉぉぉぉ……」
「もう、終わって1時間は経つのにまだ泣いてるの?」
「だっでぇぇぇぇぇ……」
「……ふふ、ありがとう。そこまで感動して貰えるなんて、役者冥利に尽きるよ」
「でも、本当に凄かった。泣けない自分が恨めしい。璃奈ちゃんボード『さめざめ』」
「改めて便利だね、そのスケッチブック……」
「最近カオを描く速度も上がった。着々とこなれてる。璃奈ちゃんボード『えっへん!』」
「璃奈さんのスキルがどんどんマルチになっていく……」
出番が終わったその日の夕方。講堂外に集ったかすみと璃奈が、本日の主役を労っている。
気を使わないようにと配慮されたのだろうか、ここに居るのは1年生だけ。故に3人は気兼ねなく、充実感に浸っていた。
「はぁーあ……でもこれで人前でライブしてないのはかすみんだけかー……」
「確かに。ゴメンね?抜け駆けしちゃって」
「ごめんね?かすみさんに先んじちゃって」
「ふーん!良いもんいいもん!かすみんはもーっと大きなステージでやるんだもん!」
「大きいステージだと、かすみちゃんが見えなくて困っちゃう。小さいステージでやって?」
「りな子に小っちゃいとか言われたくないんだけどぉ!?っていうかこのオーラで大きく見えるから大丈夫ですぅ!」
3人寄れば姦しい。それに若さが加われば尚更に。
わいきゃいとはしゃぐ彼女らからは、数日前までの憂いなどカケラも感じ取れなかった。
「……そういえば、ちょっと気になってたんだけど」
「へ?何?」
「かすみさん、なんであの時、走って戻ってきたの?」
「あの時?」
「ほら、私を口説いた時」
「くどっ!?」
「……口説かれたの?」
「口説かれたの」
「口説いてないっ!そんなことしてない!」
「そんな……あんなに情熱的に"桜坂しずくが大好きだからっ!"って言い放ってくれたのに……アレは嘘だったの!?」
「嘘……じゃないけど……今言わなくても良いじゃん!意趣返し!?」
「璃奈ちゃんボード『ひゅーひゅー』」
「そこ!煽らないっ!」
ナチュラルな、しかし明らかに演技だと分かる態度をとるしずく。
スケッチブックを繰り、思う存分に感情を表現する璃奈。
揶揄われているかすみは反射的に慌ててしまうが、けれどそんな2人の様子に、内心で胸を撫で下ろしていた。それは確かに2人が壁を乗り越えた証左だったから。
「うふふ……で?実際、どうして?外に行ってる時に誰かに降板の話を聞いたの?」
「ん?ううん、それは外に出る前に噂で聞いてた」
「あれ?そうなんだ。てっきりそれで衝動的に来たものだと思ってたのに。じゃあ、何で?」
「……あの。これ、私が聴いて良い話?」
「へ?」
「イチャイチャするなら、どこかに行ってるけど……空気読むよ?」
「あ、大丈夫。イチャイチャはするかもしれないけど」
「じゃあいい」
「何も!良くない!」
それはそれとして、しっかり反応はするのだが。
「じゃあ、かすみちゃんは別の事があったから戻ってきたんだ」
「別っていうか……歩夢先輩に発破かけられたからだよ……ついでにアノ人にも」
「……発破?」
「しず子の状況が、あの時引き留めて貰ったかすみんと一緒じゃんって気が付いたから……」
「あの時……?」
「……やっぱ内緒!ちょっと恥ずかしいから!」
それは、まだ2人には話してないこと。自分のリスタートの記憶。
少し恥ずかしくて、もうちょっと秘密にしていたくて。
結局かすみは、それを秘することにした。
「えーっ!なんで!曝け出そうよ、私みたいに!」
「いーやーでーすー!」
「なーんーでーっ!」
「やっぱりイチャイチャしてる。璃奈ちゃんボード『ニヨニヨ』」
「「してないっ!」」
「きゃーっ」
逃げるかすみに、追うしずく。それを揶揄い巻き込まれる璃奈。
本人達は真剣でも、側から見ればただただ微笑ましい。
巣立ったばかりの若鳥達の囀りが響く世界は、清々しさに満ちていた。
(…………)
(…………)
その心のままに。
(あのライブを通して、みんなとツナガれた。浅希ちゃん達と、仲良くなれた。本当に嬉しい。やって良かった)
(まさか私に同級生の友達が出来るなんて……そう言ったらかすみちゃん、"かすみんは友達じゃなかったの!?"って怒ったんだよね。うん、あれは失礼だった。反省しないと)
(でも、ただの失言でもない。かすみちゃんは友達だけど、それ以上だと思ってたから。みんなのおかげで、キズナでツナガル ーー "仲間" だって、思えるようになったから)
(……私のことを"ピンキー"と呼ぶあの人は……どっちかな?)
(……こんなに気楽になれたのはいつ以来だろう。こんなに景色が明るく見えるのは、どれだけぶりだろう。あぁ……心が、軽い)
(本当の自分を認めてくれる人がいる、ただそれだけでこんなに強くなれるんだ。私も……誰かのそんな人になれたら、いいな)
(でも、その前にお詫びとお礼をしないとね。色んな人に迷惑かけてかけちゃったし、心配してもらっちゃったから。2人以外にも、演劇部にも、同好会にも……歩夢さんや、アノ人も、手助けしてくれたみたいだし)
(……なんでかな。そんなに話した事はないのに、アノ人が妙に気になるんだよね……うん。その理由もいつか、分かるといいな)
仮面を外し、そして新たに付け直した少女達。
手に入れた宝物に夢中な彼女らは、自らの定めが歪められたとは到底気づかない。
筋書きのない現実の幕は、まだ降りない。
カーテンコールには、果たして誰が並ぶことだろう。