8-①
正しいと思った道が間違いだったり。
間違っていると思った道が正しかったり。
途中まで順調だったのに、突然途切れたり。
意地悪く隠されてたり。
まったく、人生の道ってのはどうしてこうも歩きづらいのか。
20年も生きてないおこちゃまですら、そう思う。
選んだ道が正解かどうかを先に知る術はなく。
後から道を選び直すことも簡単じゃない。
どれだけ高性能なナビゲーターを積んでたって確証を得られず。
何も選ばなくたって、どこかには進んでしまう。
そんな道を、後悔なく進む方法は……きっと無い。
自分に絶対の自信を持つ、あの人ですら。
挫折を味わうことも、きっとあるだろう。
後悔は、誰であろうと、避けられない。
―― だけど。あの人はだからと言って、道を選ぶのを止めたりはしない。
あの人は努力を惜しまない。
あの人は最善を諦めない。
徹底的に準備して。
何が起こっても膝をつかない胆力を養って。
それでも後悔したのなら ―― それは自己責任だと割り切って、また先を目指す。
見据えた目標地点に辿り着くために。
胸を張って。時には切り拓いて。
我ここに在りと、踏みしめる。
その道程そのものが、誰に恥じることのない、彼女の礎になる。
……あの人のことだから、道に迷う事もあるんじゃないかって?
心配ご無用。
彼女はもう、標となる光を見つけてるから。
それも、幾つもね。
*********
「ねぇ、ちょっと相談していい?」
「なにさ、侑。いまさら改まって。別に良いけどつまんない事なら聞かないよ」
「歩夢との事なんだけど」
「よしバッチこい。どした?」
「いきなり元気になるじゃん」
「ならいでか。んで、なによ?」
そりゃ元気になるわ。
朝も早よからキッツい日差しで照り付けてくる太陽を恨むのにも飽きた。薄手のパーカーに汗が滲んで不快さが凄い。それを忘れさせてくれるなら何でもいい。それが燃え上がるほどの萌えなら尚良いに決まってる。
ゆうぽむ を寄越せ。早く。
「なんかね、最近ちょっと距離が出来てきた気がするんだよ」
「……距離?誰と?」
「歩夢と」
「誰が?」
「私が」
「……はぁ」
「そんなに気のない返事する?」
そりゃ呆れ声も出るわ。ワタシの期待を返して欲しい。
歩夢ちゃんが?侑と?距離を取ってる?
無い無い無い。あり得ないでしょ。
「あんだけ歩夢ちゃんに慕われといて距離を感じるって……贅沢が過ぎるでしょ……」
「……ん?あぁ、違う違う。そういう事じゃないよ。仲の良さ的な話じゃなくてね。なんていうか……成長度合い?みたいな?」
「成長度合いぃ?」
「うん。歩夢はどんどんスクールアイドルとして素敵になってってるのに、私は全然変われてないなーって」
「……あー……そういうやつ?」
「そういうやつ」
なるほどね。なんとなく理解した。
『スクールアイドル』として芽吹き始めてる歩夢ちゃんと比べて、明確な変化が自分には無いってことね。
互いに何も持ってなかったところからスタートしたのに、片方だけが分かりやすく成長してる。確かにそう考えたら焦るような気持ちも分からんでもない。"原作"の裏で、侑もそんな風に悩んでたのかね?
……ただなぁ。
「ぶっちゃけワタシからしたら、全然そんな風には見えないんだけど」
「え?嘘でしょ?歩夢の成長を感じられないっていうの?そんなわけないでしょ」
こっわ。即否定してくるじゃん。
気温が熱くて沸点近くなってる?ワタシがそうそう歩夢ちゃん下げるようなこと言うわけないでしょーに。落ち着け落ち着け。
「違うって。侑も成長してんじゃないの?って話だよ」
「……へ?私?」
「前より他人のことをよく見るようになって、たくさんサポートができるようになって、スクールアイドルじゃないのに同好会のみんなに頼られてんじゃん。そりゃ成長じゃないの?」
裏方ってなんでこうも軽い評価されがちなんだろうね。
目立つステージを支えてくれる屋台骨が居てくれるからこそ、スクールアイドルは安心して舞台に上がれるのに。
侑よ、あんたも9人ものサポートをちゃんとやってるんだ。そりゃ誇って良い事だよ?
「……そうなの?そんな風に見えてる?」
「うん」
あたぼうよ。これでもちゃんと見てんだよ。
愛ちゃんのダジャレラインナップの審査員してたり(出来てなかったけど)とか。
果林さんのセクシーアピールの実験台になったりとか。
彼方さんのお手製スイーツの飾り付けを手伝ってたりとか。
しずくちゃんに演劇祭の時に手作りチョーカーを渡してたりとか。
エマさんに抱き枕にして貰いながら原っぱでお昼寝してるとことかもな!!
のぉ!!このタラシがよぉ!!良いご身分じゃのう!!
「うーん……そっか……そういう考え方もあるのか……」
「納得されてないご様子」
「まぁ……うん。いや、言って貰えて嬉しいのは確かなんだけどさ」
「何さ。目に見える成果が欲しいっての?」
「そうじゃなくて」
けれど。侑は、ワタシからの珍しいフォローにも晴れきる事は無く。
「私が何も始まってないのは、変わってない……っていうか」
「…………」
「同好会の皆のサポートをするのも、皆がキラキラしてるのを見守るのもすっごく楽しいしやりがいがあるんだけど…… みんなやりたいことがハッキリしてるのに、私はそうじゃない ……からなぁ」
カンカンと照り付ける太陽が浮かぶ空と反するような曇り顔で、そう吐露した。
「……みんながやりたいことを全力でサポートするのも、悪いこっちゃないと思うけど?」
「そうだけどー!そうなんだけどーっ!」
「まったく。絶賛ふつーのJKやってるだけのワタシからしちゃ贅沢な悩みだよ」
「誘っても同好会に入らないのは自分のクセにぃっ!」
「そーそ。だからなんもしてないワタシより、なんかしてるだけ侑の方が偉いって。あんま気負いなさんな」
「……ん?」
……こういうときネタバレを知ってる身は辛い。良い道、教えてあげたくなっちゃうんだもん。
だからこそ敢えてテキトーっぽく、真面目に考えてないように、答える。
侑のそれは、"これから"自分で選択する道だ。ワタシが何かを示唆しちゃいけない。指し示しちゃいけない。知ってても、言うわけにゃあ行かないのよ。
自分の道は、自分で決めなきゃ意味がない。その決断した事実が、道を進み続ける原動力になってくれるから。
「何が将来やりたいのか分かんない。けど何かが夢に繋がるかもしんない。だから目標はハッキリしてないけど色々やってみてる。いーじゃん、それでさ」
「……もしかして、何か知ってる?」
「何かって?」
「いや……」
「なんでもいーけど、内緒ごとがあんならしっかり隠した方が良いし、そこまでじゃないなら早めにワタシらに教えてよ。侑が誰かを手助けすんなら、誰かに侑が手助けされたって良いんだからさ。変に隠されてると悲しーぜ?」
「……去年の事を私達に隠してたヤツがなんか言ってるー……」
「説得力あるっしょ?」
ちゃんと見てんだってば。
たまーに、音楽室行ってるところもさ。
だから……うん。ワタシと違って、侑は止まってなんか無い。それはくっきり、ちゃんと分かってっからさ。そこは安心しなよ。
「……ふふ。うん、そうだね。もうちょっとハッキリしたら……歩夢とアナタには、伝えるよ」
そう言いながら、侑は少しだけ気が晴れたように笑った。
……ん?あ。やべ、要らんこと言ったかもしれない……
これまた ゆうせつ フラグ削っちゃってないかワタシ……?
これで万が一、侑がせつ菜ちゃんより先に歩夢ちゃんとかに今の心境打ち明けるようになっちゃったら、"あのシーン"が発生しなくなっちゃわないかコレ……!?ヤッバ、ちょ、ちょっとその辺何とかしとかないと……!
「そーかい。期待しないで待ってるよー……あ、でもサプライズするつもりなら寧ろ隠しといて?それなら最後でも良いからね?」
「サプライズ?」
「そーそー!もしくは"これなら大丈夫!行ってヨシ!って確証持てるまで内緒にする"場合もね!そういう気持ちもじゅーぶん理解できるからね!」
「……さっきと言ってること、違くない?」
「いや、だってよくよく考えたらさっきの主張、ワタシの首も締めそうだし……」
「は?何なの?まだ何か隠してるの?」
「いいから!とにかく溜めるなら溜めても良いからね!」
「はぁ……はいはい。分かった分かった」
う、うーん……リカバれた?リカバれたかな?びみょい……?
まぁでも侑の夢がハッキリするのは、多分あの夜の時だろうし……その後はスクールアイドルフェスティバルの準備で忙しくて碌に会う時間が無くなって伝えるタイミングが無くなるだろうし……
大丈夫……だと思いたいなー……
「あ。そういえば言ってなかった」
「ん?」
「同好会の活動なんだけど」
「お……おぉ」
……まぁしゃーない。切り替えてこ。遠くの目標よりまずは近くの課題だ。流石に"9話"がごちゃつく要素はもう無いと思うけど、そっちをしっかり見守り切らないとね!!
ほら、教えて教えて!ダイバーフェスに出ることになったんでしょ?今どーいう状況なの!?はーやーくーっ!
「今度みんながそれぞれMV撮って、その再生数でダイバーフェスに出る人を決めるって事になったんだよね」
「…………はい?」
……………………
考えた傍から……
考えた傍から、さぁ……っ!
遂に出た2章の続報にワクワクが止まりません。
今章もよろしくお願いいたします。