「はい、かすみちゃん!音源とMV、用意できたよ!」
「ありがとーございます!侑先輩!」
しばらくそれぞれのペアに分かれて活動する事になった放課後、私達は同好会再結成前にかすみちゃんと特訓した公園に来ていた。
そんなに時間は経ってないのはずなのに、もう懐かしいや。それだけ濃厚な時間を過ごしてたんだなぁ、私達。とはいえあの時いた歩夢も、アイツも、今は居ないけど……
ってダメダメ。今はかすみちゃんのサポートに集中!あれだけ私に手伝って欲しいって言ってくれたんだもん。期待を裏切らないように頑張らないと!
「昔のスクールアイドルの曲のカバーを、プラクティス風に……要は私たちが勝負してるって、見る人に分からないようにするんだよね」
「あくまでかすみん達の内輪の勝負なのに、変な流れで"再生数競争"になっちゃっても嫌ですからね。応援してくれてる皆さんに、変にギスギスしたりして欲しくないですもん。少なくとも、今回は……さ、早速準備して練習始めちゃいましょう!」
「了解!かすみちゃんはみっちり練習するの?」
「はい!かすみんともなれば一発撮りでも自信はありありですけど、せっかく曲をお借りするならちゃんと練習したいですからね!」
「なるほどー」
(なんせ今回はゲリラ的に動画を上げる方針!最初に他の誰かが宣伝してくれるほど、見つけられやすくなるって寸法です!それにその方が侑先輩とながーく一緒に居られますしね!普段は歩夢先輩と一緒に居る機会が多くてなかなか二人きりになれない分、今がアピールチャンス!先にUPする理由が無いですよぉ!)
「くふふふふっ……!」
「ん?なにか言った?」
「いえ?なんにも?」
かすみちゃんが何か言ってた気がしたけど、ダンスチェック用の録画スマホをセットしようとしていて聞き取れなった。
まぁ本人がなんにもって言ってるし、気のせいだったんだろう。きっと。
「ふふ、でもやっぱりかすみちゃんはスクールアイドルに対して真面目だねー」
「えへへー!侑先輩に褒められちゃいました!もっともーっと応援してくれても良いんですよっ!」
「K・A・S・U・M・I・N!! イケイケかすみん!ゴーゴーかすみん!今日もとっても可愛いYO!」
「ふーっ!!アガってきましたーっ!!」
応援すればするほど気力が充実していく。目に見えてハッスルしてくれるんだから、応援のし甲斐がものすごい。
ちょっとお調子者なところもあるけど、好きな事にはとても真摯で真っすぐ。
この動画は、かすみちゃんのそんなところも伝えるようなものにしたい。ファンが増えてくれるのも勿論嬉しいけど、今応援してくれてるファンの人にも、是非見て欲しいから。
「ところで、今回のショートMVの方向性とか決めてたりするの?」
「方向性?もちろん可愛い全開で行きますよ!かすみん風にアレンジさせてもらいます!」
「あぁ、やっぱりそういう感じで行くんだね」
使用楽曲はくじで決めて、全員で統一している。かなり昔のスクールアイドルの曲だ。
ただクール系の歌だから、かすみちゃんのスタンスとはちょっと合わない。
だからどうするのかなーと思ってたら……そこはかすみちゃん、まったくブレてなかった。
「当然ですよぅ!侑先輩は別路線の方が良いと思ってました?」
「あぁ、ゴメン。ちゃんとした意見があったわけじゃないんだ。かすみちゃんはかすみちゃんだなって感心しただけだから」
「どういう意味です?……まぁコラボとか?ユニットとか?そういう場合ならかすみんも合わせたりするかもですけど……」
そういってかすみちゃんは、"にひひ"と歯を見せながら。
「世界一可愛いスクールアイドル!かすみんが目指すものは、これっきゃないですから!」
かつて教えてくれた、昔から変わらないその目標を、改めて宣言した。
……うん。やっぱりかすみちゃんは凄いや。こんなに力強く、自分の夢を叩きつけられるんだから。こんなにハッキリ純粋に自分の理想を語られたら、応援したくなるに決まってるじゃん!
「……ふふ、そっか!よし、じゃあ皆をびっくりさせるくらい可愛いの、撮ろうね!」
「はいっ!よろしくお願いしまーすっ!」
そう宣言して、私達は動画を見ながら研究を始めた。
歩夢や皆には悪いけど……全力でかすみちゃんをお手伝いするからね!
**********
「よっ、とっ、ほっ……ここでターンっ!っで、キメっ!」
「おぉ~!さすが愛ちゃん、もう振り付けカンペキじゃ~ん」
「ありがと、カナちゃん!"トレース"するだけなら"ちょれーっす"!なんつって!」
「あはは。実際やられちゃうと、ぐうの音も出ないや」
「それこそ、なんてね!実際は振り付け少ないから覚えやすかっただけだよー」
燦々と照り付ける太陽の下で踊っていた愛ちゃんが、涼を求めて日陰へとやってきた。
私達が選んだ練習場所は屋上。おひさまが近い分、暑さもひとしおな気がするよぉ……場所選び間違ったかな?
この太陽の申し子さんといえど、過信は大敵。用意していたクーラータオルを当ててあげると、"ひゃーっ!"と甲高い声をあげていた。
「ところで、カナちゃんから見てどう?どっか意識した方が良いとことかあるかな?」
「おやおや。彼方ちゃんに意見を聴くのかい?そんなことしなくても、愛ちゃんなら自分で気づけるんじゃない?」
「そんな意地悪言わないでよー!カナちゃんの事、頼りにしてるんだからー!」
「……うん?そうなのぉ?」
「なんで意外そうなの!?寧ろ今回のサブパートナーがカナちゃんで一番頼り甲斐あるまで思ってたんだけど!?」
ほとばしる才能を見せつけてくれた愛ちゃんにちょっとした揶揄も込めて返したら、意外や意外、そんな言葉を返してきた。
うーん……別に自分を卑下してるとかじゃなくて、客観的に見て基礎スペックは愛ちゃんの方が上なんだよねぇ。運動神経もそうだし、謙遜してたけどダンスを覚えるのもやっぱり早いし。
今回みたいな練習期間が短くて、おまけに借り物の曲を使うって条件なら、愛ちゃんの方が良いパフォーマンスを出来ると思うんだけど……
「カナちゃんがどう思ってるか分からないけど、愛さん、カナちゃんやエマっちが去年上げてた動画見てスッゲー!ってなってるんだからね!あの頃からもう自分の強みを見つけてスタイルを確立させてて、そっから今年度まで磨き続けて!で、最近もあんな素敵なステージやっちゃったじゃん!スクールアイドルの先輩として、ちょーリスペクトしてんの!」
「……ちょー?」
「ちょー!」
……そっか。そうなんだ。そんな風に思ってくれてたんだ。
なんか……嬉しいじゃん。あの充電期間の事も、認めてくれてるみたいで。無駄なんてなかったって、言ってくれてるみたいで。
「それにさ、カリンがあんだけ闘志むき出しにしてたら……なんか愛さんも当てられちゃってさ。同じ後発参加組だし、ちょっとライバル視?的な?ただでさえカッコよくて尊敬してる相手がそんな風に思ってくれてると……さ!」
「ほぉ~……ん」
「だから、今めっちゃヤル気マンマン!カリンを良く知ってるカナちゃんの力借りて、カリンを唸らせる動画にしたいの!だから……お願い!アドバイスしてーっ!」
「……ふふん。そうかいそうかい。彼方ちゃんも捨てたもんじゃないねぇ。お世辞でも嬉しいよ~」
「お世辞じゃないのに~!」
まったく、愛ちゃんは本当に罪深いねぇ。
人のココロをくすぐるのも、自分も助けたいって思わせるのも上手なんだから。慕われる才能にも溢れてるなんて、末恐ろしや。神様ってやつは不公平にもほどがある。彼方ちゃんとしたことが、こ~んなに絆されちゃってるよ。
「そうだねぇ……強いて言うなら、もっとカメラへの目線を安定させた方が良いかもね。ほら、動きが大きいから、時々視線がぶれてるでしょ?」
「お、ホントだ!」
「愛ちゃんは"みんなと一緒に盛り上がるスクールアイドル"を目指すんでしょぉ?だからね、こういう撮影でもカメラの向こうに誰かがいるのを意識してみるのが良いと思うよ~」
「なるほど~!分かった!やってみる!」
そう言って愛ちゃんは、再び日向へと駆け出していった。構えたスマホ越しにでも、その輝く笑顔が眩しいったらない。夏の太陽も形無しである。
は~あ……なんかやる気出てきちゃった。
サポートじゃなくて、彼方ちゃんも参戦すれば良かったぜ。