「スクールアイドル同好会は、本日をもって廃部となりました」
「「えぇっ!?」」
「あら、マジで?」
そう告げられて驚く侑と歩夢ちゃん。ワタシも控えめに驚いとく。
対面するは、生徒会長"中川菜々"。その正体は今をときめく超新星スクールアイドル"優木せつ菜"、その人である。
メガネに三つ編みだけで分からなくなるもんかね?と思ってたけど、こうして対面してみるといやはや、これがなかなか侮れない。
長いストレートの髪ってそれだけでかなり印象に残るんだよね。んで一方、こうして会長モードの時に印象に残るのは眼鏡だろう。
目立つポイントがずらされてると、いざ探そうとするときにピントが合わなくなる。そこまで意図して迷彩してたのなら、大したもんだよ。
……"原作"キャラに会ったのにテンション低め?そりゃそうだよ。
ワタシは会長の正体を知っちゃってるわけだけど、この時点じゃ知りようハズもない。そもそもリアルじゃ面識ないし。
そんなワタシが迂闊に変な事言わないように自制してんだよ。意識して興味なさげにしてんの。言わせんなよ恥ずかしい。
あとはまぁ……この3人って2人ずつならともかく、3人一緒だとCP脳的にちょっとドロっとするのが、ね……2人の幼馴染としての親愛度とかもあってね?うん……
嫌いじゃないのよ?もちろん。うん。
「…………」
「……ん?どうかした?」
「いえ、なんでも」
そんな風にちょっと輪から離れていたら、なんか会長から意味深な視線を向けられた。眼鏡の奥の瞳がモヤモヤしてるような。
……なんだろ?なんかしたっけ。本当に初対面だと思うんだけど。
「…………」
「…………」
……な、なんか変な間が出来ちゃったな……
……あ、そういえば"原作"でちょっと気になってた事があったんだ。聴いてみよ。そんくらいなら良いでしょ、多分。
「ねぇ会長さん。同好会の廃部理由って具体的に聞いてもいい?」
「廃部の理由?……何故ですか?」
「いや、なんとなく。守秘義務があるとかならいいけど」
「……いえ、特に隠し立てするようなことではありませんし、複雑な事でもないですよ。同好会が成立する人数――5人を下回ったことで、学園の運営方針に則り廃部となった。それだけです。優木せつ菜さんの退部により」
「そ、その退部ってなんで!?昨日は、あんなに……!」
「……さすがにそこまでは……個人の事情なので。ともかくそれが受理された事で、同好会の人数は4人に。これが廃部の理由です。納得いただけましたか?」
悲鳴を上げるように食いつき、そして与えられた無慈悲な回答に落ち込む侑は歩夢ちゃんに任せよう。
……で、ワタシは……うーん。知りたかったことはそれじゃないんだよなーどうすっかなー?
「……まだ何か引っかかっているようですね」
あ、察せられちゃった。
……まぁいいや。言っちゃえ。
「いや、大したことじゃないんだけど……ちょっと早すぎない?」
「早い?」
「廃部の判断が。人数が4人になっちゃったのは承知したけどさ、そんなに直ぐ廃部になるもんなの?昨日はライブやってたじゃん。ってことは昨日だか今日だかに退部したんでしょ?人数補充する猶予期間とかないの?」
"原作"において、会長は廃部の理由を明確には語っていない。
とはいえ同好会を結成できる人数が5人だというのであれば、廃部の理由も人数が原因だろうとは大方予想がつく。そしてそれは間違っていなかった。
ただ、いくら何でも急すぎねーかなぁってのがワタシの疑問だ。
だってそんな即日無くなっちゃうなんてさ。そこまで厳格にやらなくたって良くないかい?
「ありますよ。猶予期間は」
「え?あるの?」
「あります」
あるんかい。
「じゃ、なんでもう部室のプレートを……」
「一時預かりです。そういうルールなので。2週間の間に5人以上に部員が増え、再申請が通れば、再度同好会としての活動を認められます。プレートも元に戻しますよ」
「なーんだ。問答無用で部室取り上げに来たわけじゃないのかぁ」
「どんな暴君ですか……?生徒側にも様々な事情がありますから、それを考慮するのは当然の措置です」
ほーん。そういう事情だったのか。いや、これが"原作"と同じ理由だったのかは分かんないけど、少なくとも違和感は無いかな。
いやぁ、ちょっと気になってたんだよね。この辺"原作"じゃ詳細が省かれてたから。
あースッキリした。ワタシ、設定厨のケもあんのかね?
「……あなた方は、優木さんのライブを観て、ここに?」
「ん?まぁそんな感じ」
あれ、このシーンってまだ会話あったっけ……いや、ワタシが引き伸ばしたから増えちゃったのか。
……しまった。だいぶウカツった?しかもなんか会長の矛先が微妙にワタシに向いてるし。メインキャラじゃ無いんだけどワタシ。いいのかこれ。だ、大丈夫かな。
「つまり、同好会にご用事が?」
「まぁ、噂の優木氏に会いたいなってね。主にそっちの子がね。残念ながら遅かったみたいだけど」
「……スクールアイドル同好会に……スクールアイドルに、なろうと?」
ん!?こ、これもしかして予想以上にピンチ!?
ここでその可能性を示唆されたら侑がその気になって簡単に同好会が復活しちゃうんじゃ……そうなると歩夢ちゃんとのあのシーンが……!
「いや、そこまでハッキリとは……」
ぃよーし良く言ったぞ侑!いや良く言ってないぞ!
そっか、提示された可能性が"スクールアイドルになるか?"だから侑の琴線には触れてないんだ!侑はスクールアイドルになりたいわけじゃないしね!"部員になるのか?"だったら危なかったかも!
「……あなたも?」
「わ、私も、そういうつもりじゃ……」
これは……保留!
歩夢ちゃんは今現時点じゃまだスクールアイドルになる決意は出来てない!ギリギリセーフ!と思いたい!
まだ"原作"ルートに影響はない……!
「あなたもですか?」
「そーね。ワタシは付き添いだし」
「……そう、ですか」
全員に聞き終えた後、生徒会長はなんか心なしかしょんぼりしてた。
んー……?もしかしてワタシ達が入部希望だったんじゃないかって期待してた?あれかな。誰か入ってくれるなら同好会が維持できるのに……って感じ?
……あ。もしかして一人でライブしてた理由ってソレ?"優木せつ菜"としての置き土産?
"私はもうやめるべきだけど、せめて新しい人が同好会に興味を持って入ってくれるように、ライブでアピールしとこう"みたいな?そういうこと?
まぁ分かんなくはない、か……いやでもそうだとしても、旧同好会のメンバーには話しとくべきじゃないかな!?ちょっと突っ走りすぎじゃないかと思うなぁワタシは!
「…………」
「……え、えっと」
目線を外して手首を握り、何かに葛藤しているかのように唇を噛む生徒会長。
う、うーん……流石にちょっと気まずいけど、ここで同好会入りを表明するわけにはいかないから……ごめんね、そろそろ行くね?
この後どうするかって点には答え出てないけどルートからは外れてないし、このまま生徒会長と離れてとりあえず放課後デートのターンに移行してから考えよう……
「……とすれば」
――そんな、目論見は。
「へ?」
「同好会に入られるとすれば。あなたなのではと思ったのですが」
そんな甘っちょろい目論見は、続いた生徒会長の言葉に、脆くも崩れ去ることになる。
「……へ?」
「え?」
「っ!?」
一瞬油断して呆けたワタシ。
話の流れについていけない侑。
何かに勘づいた、歩夢ちゃん。
その3人を後目に、どこか余裕のない表情と、落胆を湛えた会長が。
決定的にルートを逸れてしまうかもしれない一言を、言い放った。
「だってあなたは、去年の暮れに……
スクールアイドル同好会を作ろうとしていたメンバーの、お一人ですよね?」
侑と、歩夢ちゃんの前でずっと隠していたその事実を、解き放ってしまった。