「エマさん、編集終わったよ」
「ありがとう、璃奈ちゃん!やっぱりこういうのは璃奈ちゃんがサイキョーだね!」
「璃奈ちゃんボード『テレテレ』……もしやるなら、もっと派手に出来るけど……」
「嬉しいけど、流石にそこまではズルっぽいからね。今回はこれくらいで行くよ」
「わかった」
エマさんの抑止の声に、キーボードに伸びかけていた手を止める。自分の技術を褒められるのは、嬉しい。喜んで貰えるのは、もっと嬉しい。でもやりすぎは、時に為にならない。エマさんが今の状態で満足してくれてるなら、それで良い。
もしやるなら、エマさんの服装から背景まで、盛りに盛ってたけど。
「でも、こんなにすぐに作って良かったの?もっと練習する時間はあったのに」
「前から練習に使ってた曲だしね。それに同じ練習動画を上げるなら、先に上げた方がマンネリにならないかなーと思って。もしかしたら逆効果になっちゃうかもだけど……みんなが様子を伺ってるなら、間を取って私が先陣を切る!先手必勝だよ!」
「エマさんのそのバイタリティ、好き。見習いたい」
「うふふ、お互い羨ましいところばっかりだね」
思慮深いけど大胆で、博愛だけど主張もする。
スクールアイドルを夢見て海を渡ってきたエマさんの力強さは、伊達じゃない。その器の大きさがあるから、あれだけ人に優しくなれるのかもしれない。私はそんなエマさんを、尊敬してる。
「それに……果林ちゃんのモチベーションがこれでもっと上がってくれたらなって、ちょっと思ってるし」
「果林さん?」
「うん。果林ちゃん、凄く向上心があるのに今までみんなの手助けしてくれてばっかりだったでしょ?今回が初めてなんだよ、全力で自分のことにチャレンジするの。だから私も"やる気だよーっ!"ってところを見せるんだ!果林ちゃんがもっとやり甲斐を持てるように!私も果林ちゃんと、真っ向から勝負するからねって!」
……少しはにかんだエマさんを見れば、どれだけ果林さんが大切なのか、誰でも思い知ることができるだろう。
ただ隣で支えるだけじゃなく、相対して奮起させる。目の前に立ちふさがる壁になる。果林さんの性格とやる気のあげ方を熟知してないと、そうしてもツナガリが傷つかないって信じてないと、できないこと。
羨ましい。私も、こんな風に人を想えるようになりたいな。
「もちろん、私の再生数が一番多かったら私がダイバーフェスに出るけどね!」
「なるほど」
うん。そこで譲らないのもエマさんだね。
動画だって全力だったし。
……ただお互い遠慮しあうだけじゃなくて、譲り合うだけじゃなくて。そうしなくても仲良くなれるし、切磋琢磨できる。
エマさんは先陣を切ることで、それを示したいのかもしれない。果林さんの想いは間違ってないって、伝えたいのかもしれない。
ふと、そう思った。
「じゃあ私達は一旦休憩!お菓子があるから、一緒にお茶しよ?」
「うん、する。璃奈ちゃんボード『癒し』」
まぁそれはそれとして。早く終わったということは、それだけエマさんと触れ合える時間が増えたということ。普段みんなに取り合いされてるエマさんのお膝を、存分に一人占めしよう。
ふふん、役得。後でかすみちゃんに思いっきり自慢してあげよう。
**********
「歩夢さん。私、実は歩夢さんのプロデュース案を考えてきたんです。参考になるかは分かりませんが、聞いていただけますか……?」
「プロデュース案!?そこまでしてくれたの!?嬉しい……聞かせて聞かせて!」
「……!はい!ズバリコンセプトは"プリンセス"です!」
「……え?お姫様?」
人気の少ない渡り廊下の近く。おずおずと話を切り出した私は、歩夢さんの快諾にホッと胸を撫で下ろしながら、一晩考えていた演出案を語る為に息を吸った。
「実は前から歩夢さんのそういう一面が気になってたんです。ピンクが似合いそうな雰囲気はもちろんですが、何よりその内面に。穏やかな雰囲気、献身性、庇護欲をそそりつつもその中にある芯の強さ!これはもう女の子が一度は憧れるお姫様そのものじゃないかと!この前ぐうぜんニジガクの後輩らしい子が怪我した手を手当されてるところをお見かけしましたが、それがどれだけ絵になっていた事か!是非プリンセスやってみませんかと打診したくてこのところ機会を伺ってたくらいです!というわけで、やってみませんか!?衣装は私が演劇部に掛け合ってどうにか借りてきますから!実はちょっと冒頭に入れてみるセリフも考えてたりとか――」
「…………」
「……あ。す、すみません!つい無遠慮に……!」
あぁ……やっちゃった!そう恥じて、居てもたってもいられず頭を伏せた。
うぅ、この前のステージから自制が利かなくなってる……自覚はしてたのに、遂にやっちゃったぁ……ほら、歩夢さんが目を丸くしてる。やっぱりこういう自分の妄想を話すの、控えた方が……
「ふふ。しずくちゃん、なんだか活き活きするようになったね?」
「へ?」
「うん。優等生なしずくちゃんも好きだけど、そうやって夢中になってお話してくれるしずくちゃんも、私は好きだなぁ」
「ど……どうも……」
そんな風に自己嫌悪に陥ってたら……歩夢さんは丸くなってた目を細め、フワリ、と微笑みかけてきた。
その声音には私を慰めるようなものはまったく無い。ただ純粋に、心のまま思っていることを話している。何故だろう、それが疑いなく信じられた。
「あと提案もありがとう。そこまで褒められるほどじゃない……とは思うけど、そう評価してくれてる事は凄く嬉しいよ。ただ、ごめんね?最初はあんまり派手じゃなくて、オーソドックスに行きたいなぁ……なんて……」
「……あ。そ、そうですね。確かに初めてのMVでやる事じゃ無かったです……」
「ふふ、でもいつかやってみたいな。その時はまた協力してね?」
逆にポカン、としてしまっていた私は、その言葉に自分を恥じて、正気に戻る。
夢中になり過ぎてた。独りよがりな提案をしちゃってたな……反省しなきゃ。歩夢さんの事を第一に考えて、歩夢さんの魅力を最大限引き出せるように、ちゃんと考えよう!暴走は控えて!
「……初めて……初めてかぁ……」
「……それを撮るのが侑先輩じゃなく、私ですみません」
「……え?ち、違うよ!?そんな事思ってないよ!頼りにしてるから!?それに前のPVはかすみちゃんが撮ってくれたからぁ!」
「ふふ、分かってますよ」
これはもう、略奪的なアレでは。
……ってだから!こういうのは控えようって思ったばっかりでしょ!
もう!歩夢さんが空想し甲斐があり過ぎるから!もう!
「……でも、しずくちゃんは凄いなぁ。私と1ヶ月も年が違わないのに、こんなに色々提案出来て、自分の意見もしっかり持ってて……」
ふいに歩夢さんが呟いたその声に、私は自分の顔が微妙に変なことになっていないか気になった。
1ヶ月が誕生日も離れてないのに?……それは私のセリフだ。
歩夢さんは、到底1か月でこうはなれないと思うほどに、気遣いと優しさに満ちている。さっきまでの会話でだって、私を否定するようなことは一切言わなかった。自分の考えとは合わなかったのに。
可愛い物好きで、ファンシーで、ともすれば幼く見えることもある。
なのに私の目には、いつだって自分よりも少し大人な人に、映ってる。
なんでだろう。まさしく"女の子の憧れのヒロイン"みたい、なんだよね。歩夢さんって。
だから私は……思わず演劇の参考にならないかって、眼で追っちゃうんだから。
まぁ侑先輩の事に関しては、時々その限りじゃないけど。それもまた良し……じゃなくて!
「勝負とかは、正直苦手だけど……真剣な果林さんに、私も応えたいから。出来る限り、がんばるね!」
「……はいっ!私も精いっぱい協力させていただきます!」
大きく頭を振って邪念を追い出し、そう宣言する。
歩夢さんの魅力たっぷりのMV……きっと作り上げて見せますとも!
……でもそのうち、私主体の演出でも撮らせてくださいね!約束しましたからね!?