「……流石ね、エマ。"みんなを癒すスクールアイドル"……借り物の歌でも、自分を良く表現出来ているわ」
「えぇ!楽曲がクール系ですからお題としては正直エマさんとの相性は良くないのですが……お見事です!」
「せつ菜から見ても、そうなの?」
「もちろんエマさんを低評価しているわけでは無いですが、"誰かのココロをポカポカにしたい"というコンセプトは、スマイル属性寄りと言いますか……クールな曲とは、やっぱりちょっと合わないですからね。逆に言えば、それでもこれだけ自分のカラーを出せる。エマさんのポテンシャルの高さを改めて実感しました!」
「ふふ、なるほどね。参考になるわ」
虹ヶ咲学園のダンススタジオ。
果林さんと私はトレーニングの休憩がてら、他の皆さんの様子をチェックする事にした。
まず目に入ったのは、既に動画をアップしていたエマさんのもの。
朗らかな笑顔に、大きな体躯を活かした見栄えのいいダンス。そして何より動きながらもまったくブレない、その美しい声。
多少の相性の差なんて物ともしない、スクールアイドルを長年愛してきたエマさんの努力がうかがえる、素晴らしいMVだった。
これをプラクティス動画として出すのは、ちょっと詐欺では?そう思ってしまう程には。
「次は愛さんのですね!……って、凄いダイナミック……」
「……まったく、この習得速度でこの練度。嫉妬しちゃうわね。太陽みたいに眩しいったらないわ」
「見てるだけで楽しくなっちゃいますね……私、愛さんの笑顔、好きなんですよねぇ」
「あら、お熱いこと」
「はい!自分が心から笑えば相手も笑う。笑うから楽しい。それを実現してる大好きな笑顔です!……実は2年生組で練習する時、ちょっと真似してみたことがあるんですが……何故かこんな風にはなってくれないんですよね……」
「……"ぺかーっ"って感じよね。あなたのは」
「……ぺかー?」
「ぺかー」
「ぺかー……?」
果林さんの表現の意味を考えながら、改めて手元のスマホに目を落とす。
愛さんは、どうやらエマさんからさほど間を置かずに投稿していたらしい。
果林さんのおっしゃったとおり、はた目から見てもそのダンスの完成度は凄まじい。エマさんのような積み重ねがあるわけでもなく、一から覚えたはずなのに。流石は虹ヶ咲のヒーロー。圧巻の身体能力と適応力だ。
なによりやっぱり、この輝くような笑顔!同好会活動も大いに照らしてくれているそのスマイルは、動画越しでも全くパワーが衰えないらしい。自然と頬が緩んでくるのが止められない。
惜しむらくはクール系の楽曲と愛さんの爛漫さが、完全にはマッチしてないところだろうか。
もっと経験を積めばその限りじゃないだろうけど……自分らしさに落とし込むそのセンスは、エマさんに一日の長があったのかもしれない。
……二人のMVを見た果林さんのボルテージは、上がっている。瞳の奥が滾っている。言われなくても、分かる。
なんせ私だって、体がうずうずして仕方ないんだから!あぁ、たまらない!
「かすみちゃんのPVは……まだみたいね」
「そうなんですか?じゃあじっくり練習されるつもりなんですね!」
「どうかしら……別の邪念がありそうな気がするけど」
「邪念?ですか?」
「せつ菜には無さそうね」
「んー……そうでもない、ですよ?」
「……あら?あらあら、気になっちゃうじゃない」
「あはは。まぁそれはともかく、かすみさんはスクールアイドルに関しては凄く真剣ですから。きっと素晴らしいものを引っ提げてきます。侮られてるなら、痛い目を見るかもしれませんよ?」
「侮ってないわよ。私は。この同好会の子は誰も、ね」
「ふふ、知ってますよ」
果林さんの追求を苦笑で誤魔化しつつ、かすみさんへと想いを馳せる。
かつて、旧同好会で一番対立した人。そして、同好会の廃部を一番諦めなかった人。それが"スクールアイドルが好きで好きでたまらなかったから"以外の理由であるはずがない。自分の大好きを貫くその姿勢を、私は強く尊敬している。
どこまでもスクールアイドルが好き。
もっと言えば、スクールアイドルをしている自分が好き。
そして何より、スクールアイドルをしている可愛い自分が大好き。
人によっては呆れられるかもしれないけれど、ソロのスクールアイドルとしては、そこまで自分を信じ切れるのはこれ以上ない強みだ。
自分に対する自信と自惚れ。それはファンの前に一人で立つ、支えになってくれる。自分を煌めかせる、一番の衣装になってくれる。
だからかすみさんは、紛れもなく、強くて可愛い。含みなく、そう断言できる。
……まぁ。たまーにちょっと辟易することもあるけど。たまーに。
「……あ!ちょうど歩夢さんもアップされましたよ!!」
「きゃっ……もう、そんなに大きな声をあげなくても聴こえるわよ」
「ご、ごめんなさい……」
思わず上がってしまった声のトーンを抑えて、改めて画面に目を落とす。
……自信と、自惚れ。さっき強みだと言ったそれを、けれどこの人は、今は全く持ち合わせていない。
不安混じりで手足を動かしているのが分かる。歌うことと、踊ることに精いっぱいだ。入りたての頃と比べれば見違えたとはいえ、エマさんや愛さんと比較してしまうと、練度はまだまだ及ばない。
未熟。パフォーマンスだけ見れば、そう評価せざるを得ない。
……なのに。
目が、離せない。
辿々しく、ぎこちなく。けれどそれでも楽しそうに。今こうして踊れることを喜びながら、懸命に。衒いなく。一生懸命に。
それは、彼女のありようそのもののような、MVだった。
今この瞬間の歩夢さんの姿を、目に焼き付けたい。そう思わされてしまった。
……瞬き一つすることを忘れていたと気がついたのは、動画を最後まで見終えてからだった。
「……歩夢さんらしいですね」
「……そうね。あのプルプルしてた子ウサギちゃんが、楽しそうに踊るようになったこと」
「子ウサギ?プルプル?」
「こっちの話よ……まったく。滾らせてくれるわね、みんな」
果林さんはそう言いながら伸びをする。休憩は終わり、そういうことだろう。私も持っていたスマホを録画モードに戻しつつ、椅子から立ち上がった。
……あぁ、サポートでさえなければ。この興奮のまま飛び出して、お三方に感想を伝えに行けただろうに。この衝動のまま、踊り狂い、叫んでいただろうに。
「あの……ところで果林さん?私、本当に撮るだけで良いんですか?」
「えぇ」
「僭越ながら、その、アドバイスとか……」
「要らないわ」
「そ、そうですか……」
抑えるのに苦労したパッションが漏れ出たけれど、果林さんから返ってきたのはとてもつれないお言葉だった。
……そう、サポートといいつつ、私は果林さんを何も手伝ってない。動画を撮って、カメラの向こうの格好いい果林さんにときめいてるだけ。
どんどん魅力的になっている果林さんをただ見ているのは生殺しに等しかった。ただでさえワーカーホリックの気がある自分である。何か!したい!のに!
「勘違いしないでね。何もせつ菜が役に立たないって言ってるわけじゃないのよ。今回お願いしたいことは別にあるの」
「別?それは?」
「教えないわ」
「えぇっ!?それじゃあ結局何も出来ませんよぉっ!」
「教えたら、意味がないのよ」
「は……はぁ……?」
くすり、と笑って、所定の位置に行く。本当に何も説明してくれないらしい。あぁ……モドカシイ……
「良いのよ……しっかり撮っててね?私の事を」
「はぁ……」
せめてこれだけはしっかりしようと、改めてスマホのセット状態を確認した。
そして始まる、果林さんの素敵な、練習の時間……
…………あーっ!もどかしいっ!
私も! やりたいっ!