ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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8-⑥

 

 

 

 ……あと少し階段を上がれば、そこにはステージが待っている。

 モデルとしてではなく、スクールアイドルとしての朝香果林を待つステージが。

 

 

 『このフェスに来てる方は、みんながスクールアイドルに興味がある訳ではありません。いわば、アウェーのようなものです』

 『それでもスクールアイドルの魅力を知ってもらいたい……私は、1人でそこに立ち向かうあなたを尊敬しているんです』

 

 

 ……まったく。その程度の言葉で自分があそこまでどうしようもなくなるなんて、思わなかった。

 今回は同好会が試されるライブになる。だから、本気でそれに立ち向かえるメンバーを選ぶべき。同好会の皆にそんな偉そうなことを言っておいて、恥ずかしいったらない。姫乃ちゃんにしてやられるところだったわ。

 本人としては軽い牽制のつもりだったのかもしれない。けれど皆の励ましがなければ、ここまで来る勇気も貰えなかった。私って、こんなに憶病だったのね。

 

 

 

 目を閉じて深呼吸しながら、今日までの事を思い返す。

 

 このフェスへ誰が出るのかを、他のメンバーと全力で競ったこと。

 僅差で私が勝利し、このフェスのために衣装や曲を、皆で作り上げたこと。

 そしてついさっき、皆に送り出されたこと。

 

 2週間足らずの短い時間だったけれど、濃密だった。今まで経験したことが無かった刺激を、たくさんもらった。あの時エマに自分を誤魔化さなくてよかった……今なら本当に、心からそう思える。

 特にあのMV勝負は、滾らされた。最終結果は私が勝ちを拾ったとは言え、誰が残ってもおかしくなかった。テーマに助けられたところもある。次にもっとちゃんと競う機会があったら、今回の結果はまったく参考にならないでしょうね。

 

 

 

 まるで私に手本を見せるように、先陣を切ってきたエマ。

 競う気満々なのを欠片も隠さず、画面越しに挑戦状をたたきつけてきた愛。

 まったくブレずに自分の欲求に正直に、自分の思うスクールアイドルらしさを詰め込んできたかすみちゃん。

 そして……競うのが苦手でも、自分の練度がまだ低い事を承知でも、それでも私に応えようといま持ち得る全力をつぎ込んできた、歩夢。

 どれも本当に素晴らしかった。ちょっとでも油断したら負ける、そう確信した。

 

 

 

 だから……安心したわ。

 せつ菜を虜に出来るまで、動画は上げない。その自分の判断は間違っていなかったって。

 

 スクールアイドルとして皆の一歩先を行くせつ菜。そんな彼女を唸らせることができたのなら、自分の出来に自信が持てると思ったから。

 仮に納得のいく出来にならなかったなら、投稿もしない。プラクティスとはいえ最高の動画を作り上げるのが、今回の流れの発端を作った者の責任であり、私の土俵に乗ってくれた皆への礼儀だと考えたから。

 

 結局動画が完成したのはリミットギリギリになっちゃったし、手伝いたがってウズウズしてたせつ菜には悪いことしちゃったけど……おかげで胸を張れる勝負が出来た。負けていたとしても、悔いは残らないと断言できるほどに。

 

 いずれ。せつ菜や今回参加してなかった皆とも、また競えたら……っていうのは、高望みかしらね。

 けれど、そういう機会が訪れた時のためにも。ここで虹ヶ咲の名を貶めるわけにはいかない。

 

 

 

 このステージ――絶対に成功させて見せる。

 仲間だけど、ライバル。

 ライバルだけど、仲間。

 そんな皆の未来を、私が照らす。

 地図にない道に"一歩"踏み出して、切り拓く。

 

 

 

 本当の私は脆く、弱い。

 けれどそんな私を受け止めてくれた人たちがいる。

 

 白と黒。YesとNo。

 そんな風に単純じゃない道を、それでも選んで今ここにいる。

 

 誰にだって。私自身にだって。それを後悔させたりなんか、してたまるもんですか!

 

 

 

 虜にしてあげるわ。この会場の3000人を。私のこと以外は何も考えられない程に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ、思うがままに! 心のままに!

 

 朝香果林を、感じなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー……火照った……

 

 ヤッバいね、果林さんのパフォーマンスは……顔熱くなっちゃうよ……

 なんかもうね、色気が迸ってる。観客みんなトリコにしてあげる……っていうか、トリコになっていいのよ?って言われてた気がするよ。なっちゃうよ、あんなの……

 

 

 良いのかなぁ。今回ワタシなんにもしてないけどこんなに楽しんじゃって。ワタシが何もしないのが一番良いパターンなのはそうなんだけど……彼方さんやしずくちゃんの時にバタバタしてたせいでちょっと拍子抜け感が……

 いや、ダメだな。そんな事考えちゃ。なんか自分を特別だと勘違いしてる、悪い傾向だわ。"原作"介入なんてしないのがベスト!これが正常!果林さん、勝ってくれてありがとうございます!

 

 

 まぁ一応、ほんっとーにちょっとだけ手伝ったけどね。歩夢ちゃんしずくちゃんペアの動画編集の触りだけ。あの2人はその辺不慣れだったけど、次からはもう手伝いも要らないだろう。教え子が優秀で何よりです。

 いつぞや言った通りになった。ワタシのヘルプなんて必要ない。ワタシなんかの浅くて乏しい経験なんかじゃ、もう皆の力にはなれない。頼もしすぎるぜ、まったくもう。

 

 

 

 ……侑、見てる?この熱気渦巻く会場を。

 聴いてる?ハウリングするほどの歓声を。

 感じてる?……心から湧き立つ、トキメキを。

 

 

 始まるよ。待ち望んでた、侑自身の物語が。

 

 

 ……頑張れ。

 それっきゃ言えないけど、でも、本気でそう願ってるから。

 

 

 

 ――けどあれだね!今回はむしろ間が多かったけど、多すぎて逆に迷って挟まれなかったね!それで良いんだけど!

 

 色んなCP、マジご馳走様です!美味しかったーっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……素晴らしいステージでした (本当に!ステキ過ぎました!) 」

「ありがとう。少しは私達の評価も改まったかしら?」

「少し?……それどころじゃありません (もう爆上がりに決まってるじゃないですか!) 」

「なら良かった。推薦してくれた貴女達の面目は保てたようね」

「悔しさすらありますよ……果林さんが見つけられてしまって (これでファンが増えるのは間違いないし……気軽に会えなくなっちゃうかも……) 」

「ふふ、それはご愁傷様」

「本当に (本当に!!) 」

 

 

 ステージ裏から降りた果林と、出番を控える姫乃が顔を合わせている。

 二人の会話はどこかズレていたけれど、それを指摘してくれる第三者は居ない。

 はた目には違和感なく、互いへの想いを伝えあっていた。

 

 

「でも、私たちも負けません!しっかり見ててください……ね?」

「えぇ。間近で貴女をこの目に焼き付けさせてもらうわ」

「はぅっ!?」

「え?」

「ふ……ふふ……!それでこそ、(私の推しの)果林さんです……!」

「そ、そう……」

 

 

 目の前で崩れ落ちかけた他校の先輩スクールアイドルに、果林は一瞬手を差し伸べかけて……止めた。

 直ぐに持ち直したその瞳に、確かに自分とチームメイトへの信頼を宿していたから。

 彼女は未だ、自分が気遣えるような相手じゃない。心配する事自体が失礼。それは敬意とも呼べるものだった。

 ……もし姫乃に触りでもしようものなら、もうステージに立てなくなっていたかもしれないので、そういう意味でも正解である。

 

 

「……あぁ、そうだ。終わったら、遥ちゃん達と一緒に打ち上げをしない?」

「……へ」

「せっかく3校で同じフェスに出たんだもの。お互いの健闘を讃え合うのも悪くないでしょう?貴女達の出番はこれからだけど……まぁ、大丈夫でしょう?」

「…………」

「……ふふ、なんて。意地悪言っちゃっ……」

「やりましょう!!えぇ、是非やりましょう!!お誘いありがとうございます!!じゃあ行ってきますね!!」

「え……あ、えぇ……頑張って、ね……?」

「はいっ!!美咲さん!美咲さーんっ!!やったりますよーぅ!!」

 

 

 果林にとっては、出演前に少し脅かしてくれたことへの意趣返し。"心配しない"ことで多少緊張感を与えてみようか、そう思っただけだった。

 しかしどうやら、姫乃にとっては逆効果だったようで。実に張り切った様子で、他メンバーが待つところへ駆け去っていく。

 それをあっけに取られて見送った果林は……

 

 

「ふ……ふふっ!」

 

 

 思わず、吹き出した。

 

 

 

(ふふふっ!あーぁ、ほんと、スクールアイドルになる子は誰も一筋縄じゃ行かないわね。この私が振り回されっぱなしじゃない)

 

(エマも、愛も、かすみちゃんも、改めて凄かった。スクールアイドルとしてお手本にしたいくらいに。それに……歩夢。あの子は、未成熟故の可能性に満ちている。もう一つ、なにかの切欠があれば……大きく花開く。そんな予感がする)

 

(そして……侑。スクールアイドルじゃないけれど、私達に寄り添ってくれるあの子にも。今日のライブで何かが届けられたのなら、良いんだけど)

 

(……あぁ、あとはついでに、アノ子にも。そういえば前に散々言いたい放題言ってくれたお礼、まだしてないものね。求められなきゃ何もしないとエマには言ったけど、いつまでも借りっぱなしは性に合わないし……さて、どうしてくれようかしら?)

 

 

 

 運命の悪戯を、その実力と、集った光が真っ向からねじ伏せた。自覚こそなくとも。

 機嫌よく控室へと足を進める彼女の歩みを止められるものは、もう無いだろう――……とは、断言できない。

 

 

 煌々と強まる光に混じる、異色。

 それは決して消え去ってはいない。

 そして色彩が増すほどに、その違和は鮮明となる。鈍く、光を遮る。

 

 

 結末へと向かう虹の道は、まだ架かり切ってはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(すごい……ほんとうにすごいよ、果林さん。こんな大きな会場で、あんなに堂々として……すっごく、トキメいちゃった。かすみちゃんも、立たせてあげたかったな)

 

(この会場も、なんてすごいんだろう。いろんなパフォーマンスをする人がいて、それをいろんな人が楽しんでる。誰が何をしなきゃいけないって縛られないで、想い想いに歌ってる。いろんな色が混じり合って……でも、それが楽しくて、綺麗で)

 

(……まるで、ニジガクのみんなみたいな)

 

 

 

(……あ)

 

(それ、良いかもしれない)

 

(かすみちゃんだけじゃなくて、みんなが……虹ヶ咲以外の学校のスクールアイドルすら、自由に夢を描ける場所)

 

(そんなステージが、作れたら……)

 

(……なんて。それこそ夢見がちかな。そんなことを、何でもない私が言い出したって……)

 

 

 

(…………)

 

(でも……それが実現出来たら、素敵だろうな。すっごくトキメキに溢れた場所になるに違いない、だろうな)

 

(……それに)

 

(そんなことを成し遂げられたら、私も自信が持てるかもしれない。なりたいと思い始めた、作曲への道へ進む自信を)

 

 

 

 

(……歩夢の横に、並ぶ自信を)

 

 

 

 

(…………)

 

(……なんて、ね)

 

(なんてね、だよね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(果林さん……素敵だなぁ……観てくれた人みんなを魅了するんだって、果林さんの宣言が聴こえるみたい。心が震えて仕方ない……あの時の、最初のせつ菜ちゃんのステージみたい)

 

(ううん、果林さんだけじゃない。エマさん、愛ちゃん、かすみちゃんのMVは、どれもそうだった。彼方さんのも、璃奈ちゃんのも、しずくちゃんのも、そうだった。これが私のやりたいことなんだ……そんな想いが、真っ直ぐ伝わってくるような、パフォーマンスだった)

 

 

 

(…………私、まだまだだなぁ)

 

(しずくちゃんのおかげで、私にしては"見れる"MVにはなってくれた。でも、それはしずくちゃんの手腕がほとんど。私はただ、必死に歌って踊ってただけ)

 

(みんなみたいに、伝えたい想いなんて……無かった。それを思い知らされちゃった)

 

 

 

(……でも、こんな私を、応援してくれる人がいるんだよね)

 

(侑ちゃんや、アノ子だけじゃなくて……今日子ちゃん達みたいにスクールアイドルとしての私を応援してくれる人達が、居るんだよね)

 

 

 

(……私は、みんなに何をしてあげられるのかな)

 

(私は、どうすれば……応援してくれるみんなの期待に、応えられるのかな)

 

(同好会のみんなと胸を張って、並べるのかな)

 

(侑ちゃんと一緒に見るのに相応しい夢って……)

 

 

 

 

(……私の今の夢って……なんなんだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

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