ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

66 / 87
9-③

 

 

 

 

 

「はーっ……ご馳走様でしたー……」

「うん、やっぱり合宿の時も思ってたけど歩夢の料理はサイコーだね!毎日食べたくなっちゃうよ!」

「っ!も、もー……侑ちゃんってばー……」

「ご馳走様でした……」

「え、なんで2回言ったの?」

 

 

 良いものを馳走されてお礼の一つも言わないで居られるか。礼の心は忘れちゃいかんのだ。

 歩夢ちゃんはそのまま空いたお皿をもって台所に戻って食器を洗い始めてしまった。何から何まで申し訳ねぇ……でも家事してる歩夢ちゃんマジキッチンのエンジェル……

 

 

「……落ち着いたとこで、本題に入っていい?」

「んー?本題?」

「そう。今日来たの、アナタに伝えようと思ってたことがあったからなんだよ」

「伝えることー?」

「やることにしたんだ」

「なにをー?」

―― スクールアイドルフェスティバルを

「ぶ」

 

 

 すっぱり色んな事を忘れてのほほんとお茶を啜りながら歩夢ちゃんのエプロン姿に見惚れてたワタシは、侑のその報告にガタン、と椅子を鳴らしつつ、吹き出しかけた。

 

 

「けほっ……え?なに?ニジガクのライブ?やんの?」

「ニジガクだけじゃない。藤黄や、東雲。スクールアイドルが自分たちのやりたいことを、やれる場所。スクールアイドル好きが、思う存分に楽しめる場所。そんなお祭りみたいなライブを、やりたいんだ」

「あー……?そんなフェスライブが開催されるって?」

「開催される、じゃない。開催するんだよ。私達で」

 

 

 言葉は荒げず、されども強く。侑はまっすぐワタシを見つめてくる。

 

 

「えっと……ちょっと待って。ちょっと理解する時間ちょうだい」

「うん」

 

 

 背後に響くかしゃり、かしゃりという洗い物の音を聴きながら、眉間を抑えるように顔を隠す。

 

 

「つまり……その合同フェスみたいなやつを、虹ヶ咲主体でやるって事?」

「そういう事」

「……なんつーか……スケールでかくね?単独1stライブもやってないのに。つかそっちが先じゃないの?」

「う。そ、それはその通りなんだけど……でも……」

 

 

 ワタシのもっともな指摘に、侑は少したじろいで……けれど。

 

 

 

 

 

「やりたいなって……そう思っちゃったんだ」

 

 

 変な言い訳をする事もなく。自分に正直に、そう言った。

 

 

 

 

 

「……そっか。思っちゃったか」

 

 

 思えたんだね……侑。

 やりたいと思えることに、自分で巡り会えたんだね。

 ……ははっ。

 

 

「歩夢ちゃん達は賛成したって事でいいん?」

「……うん。みんな乗り気になってくれたよ」

「そか。じゃあワタシが言うことはなんもねーや」

 

 

 顔から手を離して、侑に微笑みかける。

 

 スクールアイドルフェスティバルの企画が動き出した。"原作"どおりに。

 それは嬉しい。

 でもそれ以上に……侑が自分のやりたい事を見つけられた。それが、嬉しい。

 それも、そんな大舞台を、だ。

 

 

「頑張りなよ。しこたま大変だろうけど」

 

 

 まったく、ホント凄いや。我が幼馴染は、どっちも、ね。

 

 

 

 

 

「うん。だから手伝って?

「うん……ん?」

 

 

 あれ?なんか流れで頷いちゃったけど、いまこいつサラッとなに言った?

 

 

 

 

 

「よーし言質取った。んじゃ歩夢、帰ろっかー」

「まだ洗い物終わってないよー」

「コイツに任せとけばいいよー」

「待て待て待て待て待てーい」

 

 

 テーブルから身を乗り出して、椅子から立ち上がろうとする侑の腕をガシッ!っと掴む。

 逮捕した相手はニコニコと笑うばかり。こんにゃろう、その顔写真に撮って歩夢ちゃんに渡してやろうか……って違う。今それは良い!

 

 

「は?ワタシ?手伝い?なんで!?」

「これまでも手伝ってくれたじゃん」

「流石に規模が違いすぎるわ!」

「歩夢の初ステージを盛り上げたくないの?」

「それ言ったらワタシが何でもかんでも動くと思ってんだろ!」

「動くでしょ」

「動くけどさぁ!」

 

 

 一瞬で論破され頭を掻きむしるワタシを見て、ニコニコが更に深まる。もはやニヤニヤだ。ぶん殴りたい。こんのぉ……その殺し文句は卑怯だろうがよぉ……!

 

 

「……具体的に何しろってのさ」

「まだ決まってない。というか何から始めるかも、まだ未定」

「人に助力求めるならもーちょっとなんか決めてから来ない!?」

「本当ならそれが筋だよね……でも、アナタには先に話しときたかったんだ。だから今、来たの」

 

 

 あまりの無計画さに重ねようとした文句は、さっきまでの真剣さを取り戻した声に押しつぶされた。

 

 

 

 

 

「あんな動画作るくらいスクールアイドルが好きなアナタだもん。同好会には頑なに入らないけど、スクールアイドルが今でも好きで、私達をずっと手伝ってくれてたアナタだもん。だから、最初に伝えておきたかったんだよ。絶対に、アナタも楽しめるフェスティバルにしたいから!アナタとも一緒に作りたいから!だから……一緒にやって!」

 

 

 

 

 

 掴んだ腕を握り返される。

 僅かな震えが、伝わってくる。

 

 そこに込められているのは、期待か、不安か。はたまた決意か。

 それを伺い知ることは、出来なかったけれど。

 その手と瞳に込められた祈りは、確かに嘘とは思えなくて。

 

 

 

 

 

「……はー……」

 

 

 結局ワタシは。降参しちゃいました、とさ。

 ちょっろ。

 

 

 

 

 

「あーもう、分かった分かった。手伝う手伝う。ただ、代表は侑なんでしょ?ヘタったり不甲斐ないことしたら蹴飛ばすかんね」

「……ありゃりゃ、大変だ」

「高2の夏休み費やすんだもん。寧ろ優しいと思え」

「見返りはいっぱいあるでしょ?……でも、ありがと」

「んー」

 

 

 安心したようにヘラリと笑う侑に、椅子に座り直しながらぶーすかと文句を垂れる。少なくとも、表面上は。あんまりチョーシに乗られても困るかんね。ふん。

 

 

「まったく。動画とかまた古い話を持ち出してまで……もっと他にあったろ、新しい説得の材料くらい……」

「……古い?なんで?」

 

 

 キョトン、とした様子にイラっとする。こいつ、意外とそういうしらばっくれ方も出来たのか。

 

 

「なんだよ、去年は十分古いだろ」

「去年?今朝でしょ?」

「……ん?え?今朝?」

 

 

 嚙み合わない会話に、ワタシもキョトン、とする。

 え?動画って去年ワタシがエマさん彼方さんと撮ったMVの事じゃないの?

 

 

「このショート動画作ったの、アナタでしょ?」

 

 

 そう言いながら差し出された画面に映っていたのは、紛れもなくワタシの動画だった。

 今朝アップしたばっかりの。歩夢ちゃん紹介動画だった。

 

 

 

 

 

 ……………………ほぎゃーっ!?

 

 

 

 

 

「…………な、なんのことデスカ…………?」

「いやいや、気付くって。声は変えてるけど、話し方のトーンとかリズム、完全にアナタじゃん」

「そ……そんなに……?」

「少なくとも、幼馴染としてはすぐ分かる」

 

 

 うっそでしょオイ……!カンペキな調声だと思ってたのに……!誰かにバラすつもりなんて一切無かったのに……! 

 

 

「それに、こーんなにアツいブログまで書いちゃってて、ねぇ?こっちの文体ももろにアナタじゃん」

 

 

 あーっ!?確かにブログに貼ったな!?動画サイトのURL!そんで動画サイトにもブログへのリンク貼ったなぁ!?どっちかバレたらそりゃ芋づる式だわなぁ!ははーっ!あああああっ!

 

 

「あ、そういやかすみちゃんから伝言預かってるよ。"かきゅーてき速やかにかすみんのも作ってください。部長命令です"、だって」

「いや部員じゃねーもんワタシ!いやまぁ、おいおいみんなの分も作る気ではいたけど…………待って?バレてんの?他の人にも?」

「そりゃ見つけたの合宿終了の直前だし。共有するよね」

「アバーッ!!」

「みんな帰ってからブログもじっくり読むってさ」

「公開処刑じゃん!次会った時どんな顔すりゃ良いのよ!」

「笑えば良いと思うよ」

「笑えるかぁ!」

 

 

 あーあー!もう次あった時どんな顔して会えば良いんだよぉ!ブログ色々書いちゃってんだぞ!身バレなんてしないと思って!世の中の隠し事ってのはこういうちょっとしたきっかけで暴かれていくんですねぇ!うぎゃーっ!

 

 

「まぁまぁ。代わりに私の隠し事も教えるからさ。機嫌直してよ」

「あぁん!?隠し事ぉ!?」

 

 

 なんだよ!半端な内容だったら今のワタシは止まんねぇぞ!?

 

 

 

 

 

「私 ―― 音楽をやりたいって、そう思ってる

 

 

「……は?」

 

 

 ……いや。

 いや。これは、止まるわ。

 

 

 

 

 

「おかしいよね。こんな今さら。もう高校2年生だっていうのに。笑っていいよ?」

「……笑うかよ……」

 

 

 笑えるかよ。

 何にも先の事考えてないちゃらんぽらんなワタシが。

 確かに自分のやりたい事を見つけたあんたを、笑う資格なんてあるもんか。

 

 ……いや。そうじゃない。いまワタシの言葉を詰まらせてる直接的な理由は、それじゃない……!

 

 

「ほら、この前言ってくれたじゃん。"隠し事されると悲しい。隠しても良いけど話す時はワタシ達に先に話して欲しい"って」

「……言った……なぁ……」

「だから、話したの。ほんとはもっと自信ついてからが良かったけど……今打ち明けちゃった方が、逃げ場も無くなるかなって」

「そっ……かぁ……」

 

 

 おまっ……この話よぉ……”11話”の最後……"例のあれ"からようやく明かされるはずじゃないんかよぉ……っ!?なんで今、ワタシなんかに話してんだよ!?せめて歩夢ちゃんに……!

 

 

「ふふ、流石にアナタも驚いてるね」

「そりゃ驚く……って、え?」

「え?」

「なんで歩夢ちゃんは驚いてないの?」

「だって、さっき聞いたから」

「What's?」

 

 

 食器洗いから戻ってきた歩夢ちゃんの言葉に、更に驚愕する。

 ……歩夢ちゃんも既に知ってらっしゃる……だと……!?

 

 

「さっき、ここに来るまでの道中でね……そういえば。一昨日、せつ菜ちゃんにも話したの?」

「一昨日?」

「音楽室の方から、一緒に出て来たでしょ?」

「あぁ、無断でピアノ弾いてたのがバレた時の……ううん、話してないよ。"夢を見つけたら教えてほしい、応援するから"とは言って貰えたけど、まだ伝えてない。歩夢達が最初」

「……そっか……」

 

 

 せつ菜ちゃんとのやりとりの顛末も……!解きほぐされた……!今、目の前で……!

 

 

「……とりあえず……そこは褒めてやる……!」

「え?どれ?」

 

 

 そうして絞り出した言葉は、我ながら苦渋に満ちていた。

 

 "11話"からの肝になる勘違いが……全部解消されちゃった……!

 友人として見るなら喜ばしいけど……今後の展開が、また読めなくなった……!

 

 そして……なにより……

 

 

 

 

 

 "例のシーン"っ!もう起こらないね、この状況じゃ!

 覗く覗かないの悩み、無くなったね!イベントごと無くなっちゃったもんね!

 あっははははは!

 

 

 

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!

「えっ!?なに!?」

「どうでもいいこと考えてる時の叫びだね、これ」

 

 

 

 

 み゛ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。