ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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1-⑥

 

 

「……ねぇ、生徒会長の言ってた事、本当なの?」

 

 

 生徒会長に適当な返事をして、無言で歩いた、しばらく後。

 "原作"だとラクレットチーズはちみつコッペパンを食べてた辺りで、意を決したように侑がワタシにそう問いかけてきた。

 

 あれめちゃくちゃ美味しそうだったよね。カロリーバカみたいに高そうだけど。カロリーは正義にして悪。その二つは相反するものではなく同居するものなのだ。

 

 ……いや、うん。現実逃避してる場合じゃないか。

 

 

「まぁ……うん。ほんと」

 

 

 正直に返す。

 

 割と人間性は死んでるワタシでも、幼馴染に嘘つきたくないって気持ちはあるんだよ。隠し事はするけどね。

 

 

「……あの」

「…………」

「……っ」

 

 

 何か口を挟もうとした歩夢ちゃんを、侑に見えないように視線で制す。

 

 ここで歩夢ちゃんがワタシをフォローしたり多少でも事情を知ってたりしたら、侑の不信が加速しかねない。仲間はずれってやーやーじゃん?

 

 だから、ごめん。ちょっと語らせてね。

 需要なんて誰にもないだろうけどさ。

 

 

「やー……ごめんね?今まで黙っててさ」

「……なんで黙ってたの?」

「その前に言い訳していい?」

「それが既に言い訳っぽいんだけど」

「まぁそりゃそうなんだけどさ、お願い!」

「……とりあえず言ってみてよ」

 

 

 おーおー?ぶんむくれちゃって。せっかくの人気者のお顔が台無しだぜ?

 ……ま、内緒事の質が違うもんなぁ。しゃーない。

 

 

「ワタシは別に"スクールアイドル"にも"同好会"にも、"優木せつ菜"ちゃんにも、含むところは全然ない。それに夢中になってる侑のことを馬鹿にするつもりもないし、昨日のライブは感動すらしてたよ。それだけは信じてほしい」

「……絶対に、嘘じゃない?」

「嘘じゃない。歩夢ちゃんに誓うよ」

「……なら、いい」

「……いつも言ってるけど、私に誓って意味あるの?」

 

「「 意味しかないよ 」」

 

「……まぁ、いいけど」

 

 

 ため息をつく歩夢ちゃんだけど、これは侑とワタシの不文律だ。まごころ溢れる歩夢ちゃんの心を悲しみに染めることはあってはならない。絶対不変の、ワタシたちの誓約なのだ。

 

 

「……じゃあ、なんで黙って……ううん。そもそも去年、何をしてたの?」

「会長が言ってた通りだよ。スクールアイドル同好会を作ろうとしてた。途中で挫折したけどね」

「どうして?」

「やろうとした理由?上手くいかなかった理由?」

「どっちもだよ」

「根掘り葉掘りじゃん。過去の恥なんだけどなぁ……」

「黙ってたことに負い目があるなら、ワタシたちに誠意を見せてよ」

「負い目はそんなに無いけど、仰せのままに」

 

 

肩にかけた鞄を抱えなおして、過去の失敗を詳らかにする覚悟を決める。

あー……恥ずかし。

 

 

「去年の秋くらいに、ちょっと学園生活に彩りが欲しくなってさ。あっちこっちの同好会を見て回ってたんだ……そんな時に、ある人達に出会ったの。部室等の屋上で、ステップ踏んでる2人にね」

「ステップ?」

「そう。明らかに誰かに見せるのを意識したダンスだった」

「……それって、もしかして」

「うん――スクールアイドルになりたいって、そう思ってた、2人だった」

 

 

 つ、と。目を閉じる。

 今でも思い出せる。

 

 強烈な萌えの予感に誘われて開いた扉の先で、やたら色っぽい2人が辿々しくステップを刻んでいた姿を。何がとは言わないけどめっちゃ弾んでた。めちゃくちゃ目の保養になった。

 

 ……シリアスするならし続けろって言われるかもしれないけど、本当なんだからしょうがないじゃん。いいじゃん、口には出してないんだからさ。

 

 

「色々端折るけど、まぁワタシはそれに協力する事にしたんだよ。やってくれそうな人を誘ったり、衣装作るの手伝ったり……ね」

 

 

 同好会が5人いないと成立しないのを知ってたのはそれが理由。半年くらい前に目指してたんだから、それくらいはね。

 

 

「……広報とかいろいろやったよ。ただニジガクって、やりたい事はもうやってる人が多くてさ。別にワタシも顔が広いわけじゃなかったし、どうしても人が集まんなかった……だから、MV作ったんだよ。その2人と、ワタシで、他のスクールアイドルのコピーのやつを、さ。それ見てくれた人のなかに、やっても良いって思ってくれる人がいるんじゃ無いかって」

 

 

 そこで侑は、眼を見開いた。

 

 

「……え?は!?や、やってたの!?スクールアイドル!」

「……その一瞬だけは、そうだったのかもね」

 

 

 楽しかったなぁ。

 2人とも相手のこと汲み取るのが上手で、全然ダメダメだったワタシを隅々までフォローしてくれた。

 ワタシはワタシで、そんな2人に応えたくて、ワタシなりに頑張った。拙いなりにMVも色々工夫したなぁ。

 あの時だけは。ワタシもCP厨の変態じゃなくて。まともで純粋な高校生の1人に、なれていたのかもしれない。

 

 

「……じ、じゃあ……それでも人が集まらなかったから、止めちゃったの?」

「それもある。でも、1番の理由じゃない」

「……それは?」

「……言わないとダメ?」

「……えっと」

「ごめんごめん。言うって約束したもんね……言うさ」

 

 

 あぁ。

 

 

「――全然しっくり来なかったから」

 

 

 あぁ。本当に恥ずかしい。

 

 

「……………………は?」

「出来上がったMVを動画サイトにアップした後にさ、ホーム画面覗いてみたんだよ。どれだけ再生されたかとか気になるじゃん?まぁ案の定全然回ってなくてさ。何が悪かったんだろーって、改めて動画を見直してみて……」

 

 

 ……ははっ。

 

 

「ビックリしたよ。ワタシがそこに居るのが違和感でしかねーの」

 

 

 ほんと、動画あげる前に気づけっつーの。

 

 

「2人と一緒に踊ってる自分をみて"コイツ何やってるんだろ"って思った。歌ってる声を聞いても何も感じなかった。理屈じゃなくて本能で、ワタシにはスクールアイドルの適性が無いんだなって、自覚した。そんな所で、ようやくね」

「…………」

「上手いとか下手とか、技術的な話じゃ無いんだ。いや下手は下手だったけど、始めたて相応の下手さだった。ただただ……絶望的に"合ってない"。やっちゃダメだったんだって、そう思っちゃったんだよ。ワタシがね」

「なんで……」

「さぁ……分かんない」

 

 

 ほんと、なんなんだろう。

 あの2人と、ワタシは、なにが違ったんだろう。

 

 

「でも2人は、すっごい"らしかった"。2人の邪魔しちゃったって後悔した。2人だけだったら絶対もっと色んな人に評価してもらえてたはずだって、申し訳なさでいっぱいになった」

 

 

 情けない。

 

 

「そんで……続けるのも、関わるのも、やめた方がいいって……逃げちゃった」

 

 

 情けない。

 

 

「ワタシは、スクールアイドルの神様には、愛されてなかった」

 

 

 情けないったりゃ、ありゃしない。

 

 

「先輩2人はめちゃくちゃフォローしてくれたし、引き留めてもくれたよ。でも……自分勝手なワタシは、惨めすぎて、居た堪れなくてさ。ひたすら謝って……辞めた。逃げた。それが、ワタシの昔話だよ。つまんなかったっしょ?」

「……なんで、今まで話してくれなかったの?」

「スクールアイドルとして上手くいったら驚かせてやろうって思ってたから。同好会作るのに人数合わせみたいに誘うのが嫌だったから。上手くいかなかったのが恥ずかしすぎたから……そんなとこ」

 

 

 あー……ヤバい。

 なんか大っぴらに暴露しすぎてメンタルが無敵の人みたいになってる。ちょっと悟り開いてるかも。

 

 

「……そっ、か」

「で、今日話さなかったのは。スクールアイドルに対して、変な先入観を抱いて欲しくなかったら」

「……へ?」

「ワタシさ、スクールアイドルは今でも大好きなんだよ」

 

 

 会長はたぶん、あのMVを見たんだろうな。よく見つけたもんだ。

 消したい、消させてくれってどんだけ頼んでも拒否するんだもん。あの2人。

 けらりと、笑う。

 

 

「なんていうかな。スクールアイドルを汚しちゃった、みたいな罪悪感があるから自分が関わるのは避けてるだけで……スクールアイドルの楽しさとか、凄さとか。そういうのを教えてくれた2人も、スクールアイドル自体も、めちゃくちゃ好きだしリスペクトしてんの。最終的にはこうなっちゃったとはいえ、半年前にスクールアイドルに関わってたあの期間は超充実してたって、胸張って言える。でもさ、こういうのって全部ノイズじゃね?侑に……歩夢ちゃんにとってはね」

「は……はぁ?」

「ワタシが過去にあぁだったから、こうだったから。そんなの抜きに、ぜーんぶイチからフラットにスクールアイドルに関わって欲しかったんだよ」

 

 

 せっかく見つけたかけた自分だけのまっさらなトキメキの地図に、他人の足跡なんか最初に描いたら勿体なさすぎるでしょ……なんつって。臭すぎるから言わないけどさ。

 

 

「…………」

 

 

 侑は口ごもって、二の句が継げなくなっている。

 ……喋りすぎたか。すぎだよね、どう考えても。

 

 

「だからワタシは、もう何も言わない。バレたからここまでは話しちゃったけど、ケジメをつけた身として、これ以上は口を開かない――だから」

 

 

 それ以上の問答を拒否して、背を向ける。

 

 

「ワタシの事は頭の隅っこにでも蹴り出して、自分で決めなよ。やりたい事も、やりたくない事も。そんで決めたら、教えてね。内緒にしたらワタシと同類だぞ?」

「ちょっ……」

「じゃ、先帰るわ。まったねー」

 

 

 なっさけないワタシはそう言い捨てて、家路に着いた。また、逃げ出した。

 夕陽を浴びて伸びるワタシの影は、実に黒々としていて不気味だった。

 こんなに汚い影もそうそうないだろうなって。そう思った。

 

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