"虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会"、その"12話"は……なんて、今更振り返っても意味あるかな……まぁ、いいや。
めちゃくちゃざっくりまとめるなら、"12話"は「歩夢ちゃんと侑のリスタート回」だ。
スクールアイドルとしての活動を通じ、自分の価値観に変化が生まれていた歩夢ちゃん。絶対の人であるはずの侑以外にも大切だと思えるものが、出来てしまっていた。
その自らの変容を恐れた歩夢ちゃんは、侑に寄り添って欲しかった。今までのように。
けれど、その侑も変わり始めていた。自分の夢を見つけて、自分とは違う道を歩みだそうとしていた。
自分が生きて来た世界が、塗り替わっていく。当たり前が、当たり前じゃなくなっていく。
これ以上変わりたくない。変わってしまった先の未来が怖い。
それを恐れた歩夢ちゃんは……スクールアイドルフェスティバルを目前としつつ、前に進む足を、止めてしまう。
歩夢ちゃんは、侑は。果たして再び並んで歩き出すことが出来るのか――
……とまぁ。そんな感じかな。
いやぁ、これ初見の時はめっちゃドキドキしたよね。歩夢ちゃんがどーしてあんな暴走したのかと思ってたら、まさか"自分が変わり始めてる"事に対する不安があったなんて。思わず膝を打っちゃった。正直歩夢ちゃんを知ってる身としては怖かったんだよね。それまで散々歩夢ちゃんが嫉妬全開!みたいな描写されてたもんだからさ。
歩夢ちゃんは確かに重い。グラビティだ。ずっしりしてる。
けれど決して、それを誰かに危害を加えるような形で発露させることはない。
歩夢ちゃんの本質は、相手を思いやる真心にある。
たかだか嫉妬でだれかを傷つけたり縛り付けるなんて、やるはずがないんだから。
せつ菜ちゃんとかへの単なる嫉妬で爆発したんだったら解釈違いでしたよ。
……ストーカーはするだろって?してるけど……別に侑の行動を咎めたり邪魔したりはしてないやん?
ともあれ、そんな気質故に自縄自縛になりかけていた歩夢ちゃんを解放したのは、"原作"においてはせつ菜ちゃんと侑だった。
歩夢ちゃんにとっても始まりの人であるせつ菜ちゃんと、やはりその一番であり続ける侑。その二人の活躍は……いやぁ、感無量だったね。
……だったんだけど、ねぇ……
その要であるはずの侑が暴走するなんて……誰が思うよ……
*********
「あの……侑ちゃん?その、昨日の事……」
「あはは、ごめんごめん!ちょっと疲れてたせいかな、変な事言っちゃった!忘れてくれない?」
「……で、でも……」
「ほら、行こ!」
「え、そ、その……」
「ちょっと待ちぃや」
「……ん?なに?」
「なに?じゃねーよ。目の前で意味深な会話しといて何ヒトのこと放って先行こうとしてんの」
歩夢ちゃんと腕を組んで歩き出そうとする侑の肩を"ガシィッ!"っと掴む。
昨日の衝撃の一幕から一夜明けた、次の日の朝。所はマンションの前。
フェスティバルの準備のためにここ最近はずっと一緒に登校してんのに、そのうちの一人のこと無視してくれてんじゃねーよ。しらっとした視線を向けるな。いくら何でも不自然過ぎるわ。
「あ、思い出した。そういえば昨日なんで電話してきたの?その後メッセとか何にもなかったし」
「ん?あぁゴメン。璃奈ちゃんの動画が出来た解放感で衝動的に電話してた。その後寝落ちしちゃったんだよね」
あの電話の事は、夜の間にそういう言い訳にすることに決めた。
もともと紹介動画は作成し終わっていて、丁度あの会をやっている頃に自動投稿されるようにしていたのだ。部室に潜んでいると思わせないためのアリバイ作りのつもりだったけど、まさかこんな形で役に立つとはね。
……ほんと、先に作り終えてて良かったよ。
もし作れてなきゃ、今のメンタルじゃあ完成出来たかすら怪しいから。
「……人騒がせな……」
「疑問は晴れた?じゃあ何があったかキリキリ白状しろ。さっさと。とっとと」
「別に……何も?ねぇ、歩夢?」
「え……っと……」
「歩夢ちゃんに振んな。侑に訊いてんだけど」
そうやってぴしゃり、と言い放ち、逃げ場を潰す。
仮に顛末を知らなかったとしても、この状況で歩夢ちゃんが"何もなかった"って言ったってなんの説得力もない。誤魔化されてもやらない。
一晩を経て多少落ち着いたとはいえ、今のワタシは全く余裕無いんだ。いつまた侑が、歩夢ちゃんにとんでもないことを言いだすか分からないから。
"原作"知識も幼馴染の経験も、今は当てにならない。少しでもいい、なんでもいいから、現状を把握するための材料を手に入れないといけないんだよ……!
「何も……ないよ」
「……歩夢ちゃん……」
「大丈夫っ!」
それでも健気にフォローしようとする歩夢ちゃんに向けたワタシの顔は、そりゃもう困った表情をしていたことだろう。
けれど、それでも歩夢ちゃんは引かなかった。
滅多に出さない大声を上げて、ワタシと侑の間へ立ちふさがった。
「侑ちゃん、今忘れてって言ってたでしょ?確かにちょっとしたことはあったけど、ちょっとだけ……うん、あの……間違えちゃっただけ、だと、思う……から……」
「…………」
「だから、その……アナタは気にしないで?私も気にしないし……忘れるから……」
「……歩夢ちゃん」
「……お願い」
「…………」
まったく視線が合わない。歩夢ちゃんとも……その後ろにいる、侑とも。
なんだよ。
なんなんだよ、コレ。
挟まらないといけないって思ってんのに。
今まではいくらでも、やろうと思えばできたのに。
なんで今回に限って ―― 除け者にされるんだよ。
……これも自業自得、だって?二人との関係性を希薄にして行ったのはオマエだろう、って?
……ちくしょう、その通りだよ。
「……わぁった。わぁったよ。お邪魔虫は退散しますよー」
「邪魔って、そんな……」
「あぁ、深く捉えないで。今までもワタシがふらっと居なくなることあったっしょ?それとおんなじ。お気になさらず二人の世界に入ってなー……あ。フェスティバルの準備はちゃんと手伝うから、それも心配しなくて良ーよ」
「……っ」
棘のある言葉を投げている自覚はある。けれど明らかに拒絶された今、それを抑えられるほど、ワタシはオトナじゃなかった。
緩やかに伸びてきた歩夢ちゃんの手をやんわりと遮って、一人で歩き出す。この状況で一緒に登校するなんて、誰にとっても息苦しくて仕方ないだろう。もしかしたら二人きりなら、何か会話が生まれるかもしれない。その結果、二人の問題が解決するならそれでいい。別にワタシはワタシが手を差し出すことに拘ってるわけじゃないんだ。"原作"通りとはもう行かなくても、わだかまりが解けてそれらしい結果になってくれたら万々歳。より仲良くなった二人の様子を見て"なんかいい事でもあったのかい?"とでも皮肉気に笑えばそれで済む。先に部室に行って、ワタシがやる事になってた仕事にとりかかろう。なんにも解消してなかったらその時考えればいい。それもいつも通りだ。どうせワタシは行き当たりばったりでしか対応できない。綿密な計画なんて出来たことも守れたこともない。下手の考え休むに似たり。まさにその通り。今ワタシがやれる事とやるべき事を切り分けないと。当座はフェスティバルの準備に集中して――
「……ごめん」
……ごちゃごちゃと考えながら侑の傍を通り過ぎたとき。ぼそりと、そんな言葉が聞こえてきた。
「……なんのこっちゃ、分かんないよ……何にも……」
そんな私のは、きっと誰にも届かずに、風に溶けていった。