ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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10-③

 

 

 

 

 

 

 侑も歩夢ちゃんも、基本的には真面目さんである。

 そしてちゃらんぽらんではあるけれど、ワタシもこれでやる事はやる質である。

 

 何が言いたいかというと……気まずくなっていようが何だろうが、仕事はこなすってことである。

 

 

 結局あの後、特に二人の間でも話は進展しなかったらしい。お互いの距離感は何も変わっていなかった。

 ただし侑の様子も、歩夢ちゃんの雰囲気も、あの夜ほどの不自然さは醸し出されていない。お互いに課せられた役割をキチンとこなし、フェスティバル開催に向けて着々と、順調に、事を進めている。ワタシもこうして、一人空き教室で会場利用申請やらステージ演出が利用要項に反していないかのチェックやらをしているのだ……歩夢ちゃんはともかく、侑も案外取り繕うのが上手いじゃん。

 

 ただ……どうやら"原作"どおり、歩夢ちゃんのステージ構成に関する進捗は思わしくないらしい。今日子ちゃん達が持ってきてくれている案にも、曖昧な回答をするに留まっているようだ。スクールアイドルフェスティバルの当日まで、あと少しだっていうのに。

 この後の展開が"原作"どおりなら、今日子ちゃんが侑にその事実を打ち明けて解決に向かうんだけど……今の本心ブラックボックス状態な侑に、それが望めるとは思えない。

 

 

 ……ほんと、どうすればいいのかな。

 

 

「……あの」

「ぱおぅっ!?」

「っ!?」

 

 

 うわ変な声出た!な、なに?だれ?……って。

 

 

「し……栞子ちゃん?」

「す、すみません、驚かせてしまって……」

「あ……あぁ~……いや、ワタシもぼーっとしてたから……」

 

 

 お互いに謝りながら、どうにか取り繕う。

 どうやら仕事に没頭していて、栞子ちゃんが入ってくるのにも気が付いていなかったらしい。ううん、ちょっと恥ずかしい。

 

 

「えっと、その。それで、なんかワタシに用事?」

「……少し、相談させていただきたいことがありまして。いま、お時間よろしいでしょうか?」

「相談?良いけど……あ、椅子座る?」

「いえ、そこまで時間を頂戴するつもりは無いので」

「そ、そっか……」

 

 

 勧めた椅子を断られ、所在の無くなった手を誤魔化すようにプラプラと振る。

 現時点でのワタシと栞子ちゃんの関係は、いいとこ"友達の友達"だ。面と向かって話すにはちょっと遠い距離だろう。それでも相談相手にワタシを選んだって事は……まぁ……

 

 

「相談というのは……歩夢さんのこと、です」

「…………」

 

 

 ……だよなぁ。そうだよなぁ。 

 

 

「先日の決起会の後から、歩夢さんはずっと何かに悩まれている。そして、侑さんも。状況からして、お二人の間で何らかの問題が発生したことはまず間違いないでしょう。今はどちらもはた目には何の問題もなく活動されているように見えます。けれど、現状が長引けば長引くほど、見える形で支障が出てくる可能性は大きいと言わざるを得ません……特に、スクールアイドルフェスティバルでのステージを控えている、歩夢さんは」

「……なるほど?栞子ちゃんは、その何かを解決したいんだ」

「はい。けれど、私はノープランで人と向き合うのは得意とは言えず……なので、もう一人の幼馴染であるアナタなら何かご存じないかと、こうして伺った次第です」

 

 

 ……栞子ちゃんは、すっげーなぁ。ちゃんと歩夢ちゃん達の事に気づいて、自己分析もバッチリで、そのうえで躊躇いなく動けるんだから。

 ワタシじゃなくて栞子ちゃんが"原作"知識持ってたら……きっと今みたいなことにはならかったんだろうなぁ…… 

 

 

「……あの?」

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと黄昏てた。そんで、歩夢ちゃんと侑が不調になってる原因だよね?」

「……はい」

「期待に沿えなくて心苦しいんだけど、ワタシも分かってないんだな。これが」

「……そう、ですか」

「あ、一応言っとくけど栞子ちゃんに言いたくないとかじゃないよ。ホントにまったく皆目見当がついてないってだけだから……ほんとに、分からないんだよ」

「…………」

「ごめんねぇ、頼りになんなくて。これでよく親友だなんて名乗れるよね。厚顔無恥にも程があるったら」

 

 

 あっはっは……自分で言ってて、情けない。

 

 

「……そんな……」

「うん?」

「そんなことは……ないと、思います」

 

 

 ……?なにが?

 

 

「親友だろうと、幼馴染だろうと……分からない事は、あります。お互い、違う人間なんですから。それが、当たり前です」

 

 

 そう言う栞子ちゃんの表情は、どこか自嘲めいて……そこで、ワタシは自分の発言の愚かさに、また気が付いた。栞子ちゃんは、"原作"で無二の親友であり幼馴染の事を、捉えかねていた。それが悩みの一つだった。ワタシはそれを知りながら、想起させるような物言いをしてしまったのだ。

 ……ったく。何やってんだワタシは。この状況で栞子ちゃんまで曇っちゃったら、マジで収拾付かなくなる。ワタシが栞子ちゃんを救えるはずもなし、ただ不安を煽るだけ煽ってハイお終いとか質悪すぎるでしょ。

 

 

「……あー……えっと……」

 

 

 何とかいい感じに場を締める言葉を探していたけれど、どうにも見つからない。役立たず極まれりだ。

 それでも、なんとか。どうにか。せめて、同好会の誰かに、彼女を預けられれば……

 

 

 

 

 

「そぉだねぇ。とっても近くに居ると思ってるはずのお相手の事が分からないって、もどかしいよねぇ」

「「……え?」」

 

 

 

 

 

 お互いに気力を失ってしまっていた、ワタシと栞子ちゃん。

 そのいたたまれない空気に"するり"と滑り込んできたのは。

 

 

「やっほぉ。お邪魔しまぁす」

 

 

 虹ヶ咲の眠り姫。スクールアイドル同好会、その前身を作った一人……彼方さんだった。

 

 

 

 

 

「ゴメンねぇ。内緒話、こっそり聴いちゃって。いや、通りかかったのはぐーぜんなんだけどぉ」

「い……いえ……」

 

 

 戸惑うワタシ達に構わず、飄々と近づいてくる。ふわり、ふわりと、柔らかな髪が夢のように教室を漂っていた。

 

 

「栞子ちゃん。栞子ちゃんは、歩夢ちゃんに元気になって欲しいんだ?」

「……はい、そうです。私は、歩夢さんがスクールアイドルとして見つける答えを知りたい。だから、歩夢さんには憂いなくフェスティバルに望んで欲しい……」

「おっとぉ?仲の良い先輩だって理由だけかと思ってたら……何やら含みがあるようで」

「幻滅されましたか?打算的だ、と」

「うんにゃあ?打算だろうとなんだろうと、やらない善よりやる偽善だよぉ。親愛の情も偽りってわけじゃないだろうしねぇ」

「……私は……」

「一緒にフェスティバルの準備してる時の楽しそーな顔見てたら、ただ利用してるだけなんて思えないって……ふむ、じゃあそんな良い子な栞子ちゃんには、悪ぅい大人のやり方ってやつを教えてあげよう」

「……え?」

 

 

 ワタシと栞子ちゃんの間あたりで立ち止まり、机に軽く腰を預けた彼方さんは、それはそれは柔らかい笑みを浮かべて。

 

 

「歩夢ちゃんにもっと負担、かけちゃいなよ?」

「…………は、はぁっ!?」

 

 

 なんか、変な事を言い出した。

 

 

「ちょ、彼方さん何言って……!」

「歩夢ちゃんは抱え込むタイプ。しかもその抱えられる量が結構多いと見た。だから周囲に漏れ出てるとしても、まだ自分の中に本音を押し込められちゃってるんだよ。でも、その限界は遠くない。つまり……あとちょっと何か入れたら、ぶわぁっ!って溢れちゃうんじゃないかなぁ?」

 

 

 ……その分析は正しい。

 歩夢ちゃんの心のキャパシティは広いけど、ここ最近のストレスの量は半端じゃない。だから"原作"のように、あと少しで爆発しちゃう可能性は大いにある。

 

 ……あるからこそ慎重になってたのに!彼方さんは、それを寧ろさせようとしてる!?

 

 

「歩夢ちゃんは真摯な言葉に真剣に向き合ってくれる子。どれだけ本調子じゃなくてもね。栞子ちゃんが"まっすぐ"本心を伝えれば、それを絶対に受け止める。その果てに自分が限界を迎えちゃう、としても」

「彼方さん!」

「仲良しの栞子ちゃんがその自分のワガママを押し付ける決意があれば……歩夢ちゃんの本音も、こぼれ落ちてくれるかもねぇ?」

 

 

 ワタシの制止の声など意に介さず、栞子ちゃんに囁くように告げる。

 しっとりと染み入るようなそれを受けた栞子ちゃんは、少し顔を俯けた後……間を置かずに、"キッ!"とした表情を見せた。

 

 

「え!?しっ、栞子ちゃ……」

「……ごめんなさい。言い訳はしません。乱暴なやり方だとも理解しています。けれど……それでも私には、今ここで立ち止まる選択肢は選べない……!」

「ま、待っ」

「失礼します!」

「あ……っ」

 

 

 教室を飛び出していく栞子ちゃんを、呆然と見送る。

 止める間もなかった。たった少しのやり取りで、栞子ちゃんは傷つく決意までしてしまった。うだうだと悩み続けているワタシが、めっぽう惨めに思えるほどの速さで。

 

 

「…………彼方さん……なんで……あんな、強引なやり方を……」

「怖がりの誰かさんが、足を止めちゃってたから……かなぁ。誰かを大切に思う気持ちは、とっても尊い。でも、それで相手に遠慮して踏み込めなくなっちゃ、本末転倒だよ?彼方ちゃんは、よぉく知ってるのさ」

 

 

 非難の声を向けたワタシだけれど、彼方さんはまるで調子を崩さない。寧ろ諭すように言い募ってくる。

 彼方さんのそれは、自分の経験談からくる言葉。遥ちゃんとのすれ違いを見ていたくせに、同じ過ちをするんじゃない、という叱咤の言葉。

 

 

 

 

 

「アナタは、何がしたいの?何を望んでるの?」

 

 

 何がしたいのかも、何を望んでるのかも、今はまだ分からない。

 

 

「それは……今ここに立ち止まってて、手に入るものなのかなぁ?」

 

 

 けれど……少なくとも、目の前に侑も歩夢ちゃんも居なきゃ何も変えられないのは、確かだった。

 

 

 

 

 

「……行って、きます。とりあえず、ですけど……」

「うん。いってらっしゃーい」

 

 

 そう言って、あてもなく教室から一歩外へと、踏み出した。

 押し出してくれた彼方さんの手は小さくて。けれど、とても暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ようやくちょっとは先輩らしいこと、出来たかなぁ?頑張るんだよ、若人たちよ……さてさて。じゃ、彼方ちゃんはこの残された仕事を頑張るとしますかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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