ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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10-④

 

 

 

 

 彼方さんに追い立てられるように空き教室から飛び出してはみたものの、5分もしないうちにワタシの足取りはトボトボとしたものに変わっていた。

 だって、行く当てがない。行く当て無き子だ。

 何かしなきゃいけない、しないといけないと思った。でも、"何を"?それが見つかってない事には変わりなかったから。かっこわる。

 

 

「……あれ?こんなところでどうしたんですかぁ?」

「……かすみちゃん」

「私もいるよー」

「エマさんも……いや気づいてましたけど……」

 

 

 廊下に点在するいくつかのベンチスペース。その一つに腰掛けたエマさんとかすみちゃんにエンカウントした。

 "原作2期"で同じユニットになる二人だけど、案外ふたりきりで居ることを見かける機会は多くない。いつもなら……こんなシチュエーションも、美味しく思えるんだけどなぁ。

 

 

「……なんで2人が一緒に?」

「ただの休憩中ですよぅ」

「はもはも」

「……エマさんはそのコッペパン、どっから持ってきたんですか……?」

「かすみちゃんから貰ったんだ。アナタも食べる?」

「いや……ワタシは……」

「まぁまぁ、そう言わずに。ほら座って座って!」

「あっちょっ」

「はい、どーぞ」

 

 

 促されるままに座り、断る間もなくコッペパンがちぎって渡される。

 ……そういやお昼食べてなかったっけ。せっかくだし、これだけ貰おうかな。

 

 

「……いただきます……うぷっ!?」

 

 

 な、なんだこれ。チーズとバターとハチミツの量が尋常じゃない。美味しいよ?美味しいけど、これは背徳の味だ。こんなカロリー爆弾食べてたらお腹周りが大変なことになりかねない。

 ……まさか……それが狙いか、かすみちゃん……?エマさんをプクプクにしてしまおうと……!

 

 

「……な、なんですか?かすみんが何か企んでるとでも!?」

「語るに落ちてる」

「カタールになんて落ちてないですよ!?」

「かすみちゃんの場合マジなのか冗談なのか分かんないよ」

「うんうん、ちょっと元気になった?やっぱり美味しいものを食べると気が晴れるよねぇ」

「いや、これは元気になったっつーか……まぁ、でも……はい。ありがとうございます」

 

 

 心配してくれる二人に申し訳なさを感じつつ、素直にお礼を言う。

 ちょっと頭がクリアになった気がする。糖分は正義だ。

 

 

「かすみん達のことより!そっちこそ、なんでこんなところをフラフラ歩いてたんですか?仕事が煮詰まりました?」

「煮詰まった……うん、そうかも……仕事じゃないけど」

「仕事じゃない?じゃあなんです?」

「……人生?」

「煮詰まるほど濃厚な生き方してるんですか?」

「アタリ強くない?いや薄味な人生ではあるけどさぁ」

「……侑ちゃんと、歩夢ちゃんとのこと?」

 

 

 エマさんのその問いに、沈黙で応える。この短いやり取りでそれが出てきちゃうって事は、もう全く隠せてないも同義だ。

 はは、おいおい侑よ。しっかり皆の負担になっちゃってるぞ、ワタシら。どーすんだよ。

 

 

「あー……最近ちょっと微妙な雰囲気してますもんねぇ……」

「……気が付いてたの?」

「そりゃまぁ……歩夢先輩、明らかに元気無くしてましたし……」

「このコッペパンも、歩夢ちゃんへの差し入れの試作品だもんね」

「え?」

「ちょっ、エマ先輩!?」

 

 

 あ、そうなの?純粋な好意で作ったやつだったの?た、確かに歩夢ちゃんはかなり甘いの大好きだけど……マジで冤罪だった。口にしなくて良かった。ゴメンねかすみん……

 

 

「……てか、歩夢ちゃん?」

「……なんですか!かすみんが歩夢先輩の心配しちゃ変ですか!?」

「変じゃないけど……かすみちゃんなら、侑の方を元気づけようとするんじゃないかとは思ったかな」

「……確かに侑先輩は大切なファンで、歩夢先輩から奪っちゃいたいとは思ってますけど」

「思ってるんかい」

「でも」

 

 

 いつかみたいに足をプラプラさせながら、唇をとがらせて。

 そっぽを向いて、吐き捨てるように。

 

 

「……歩夢先輩は、大切なライバルですから。初めて負けたくないって、この人より可愛くなりたいって、そう思った人ですから。だから……そんな人が立ち止まっちゃってると、張り合いないんですよぅ」

 

 

 歩夢ちゃんへの混じりけない想いを口に出すかすみちゃんは。

 控えめに言って、凄く可愛かった。

 

 

「……そっか」

「ってゆーか!アナタが何とかしてくれてたなら、こんな風に気にしなくて済んだんですけどー!?なんでこんな状況いつまでも放置してるんですかっ!」

「ぐぅ」

「もう、かすみちゃん。言いすぎだよ?」

「いや……正論っすよ。だから、こうして出てきたんすけど……今更ながら……」

「……そっか。そうなんだ」

「……はい。ただ彼方さんに尻を蹴られたのはいいんすけど……何していいやら、何にも考えがまとまんなくて……」

 

 

 エマさんとかすみちゃんのおかげで気は晴れて来たけれど、現状は何も変わらない。何時ぞやのように、目の前に選択肢でも現れてくれたら……なんて、益体のない事まで考えちゃう。

 

 

「彼方ちゃん……そっか、彼方ちゃんも……」

「侑先輩か歩夢先輩には、話を聞いてみたんですか?」

「聞いた。3人で居る時に」

「結果は……聞くまでもないですよね」

「うん。何にも話してくんなかった。ははっ……やっぱワタシじゃ、役者不足って事なんだろーね……え?」

 

 

 そんな泣き言を漏らしていたワタシの手が、ぎゅっと握られる。

 両手でワタシのその手を包んだエマさんが、まっすぐ、見つめてきた。

 

 

「ねぇ……もう一回、聴いてみたら?」

「もう一回?でも……ワタシはもう、拒絶されたんですよ?」

「それでも、アナタは自分がどうにかしたいんでしょ?」

「…………」

「頑なな相手の心を、無理にでも開いてもらうための方法ってね?自分が傷つくことを、覚悟して。迷惑だって思われたって、嫌われたって。真剣な気持ちを、正面からぶつける。それしかないんだよ」

 

 

 その言葉でふいに思い浮かんだのは。

 

 せつ菜ちゃんや果林さんの時の、エマさんで。

 "原作"で見た、しずくちゃんの時の、かすみちゃんの姿。

 

 上手く行くなんて保証もなくて、もっと拗れちゃう可能性もあって。

 それでも勇気をもって立ち向かった、想い焦がれてしまう姿だった。

 

 

「……それで失敗したら……侑や歩夢ちゃん達と、今までみたいに居られなくなったら……その時は、私が居るよ。それこそ"役者不足"かもしれないけど、アナタを癒してあげられるまで、傍にいるよ」

「……」

「だから……」

 

 

 ……はー……

 まったく、エマさんは優しくて、厳しいんだから。

 まったく、まったくもう。

 そんなん言われたら……ワタシに"頑張る"以外の選択肢は残らないんだって。

 

 

「……ほらほら。時間ないんだから早く行ってくださいよぅ。アナタが失敗したらかすみんが颯爽とカバーしてあげますから」

「……かすみちゃん……」

「……しず子の時の歩夢先輩だって、嫌われることを覚悟してお節介焼こうとしてたじゃないですか。かすみんはそれに負けたくなくて頑張りました……アナタは、かすみんに良いとこ持ってかれて平気なんですかぁ?」

「……うん。それは悔しいから……行ってきます」

 

 

 煽りというには拙過ぎたけれど、その言葉に込められた優しさは、確かで。

 まったく、かすみちゃんもなんだかんだ部長の器だよ。まったくもう。

 

 そんな二人に手を振って駆け出した。

 まだ何も見つかっていないのに、何故か駆ける足は、少し軽くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良かったんですか?エマ先輩、どう間に入ろうか考えてるって言ってたのに、あんな風に発破かけちゃって」

「うん。3()()が迷いあってるから入り方を決めかねてたけど、アノ子が動こうとしてるなら、これが一番いいかなって。彼方ちゃんが先にお節介を焼いちゃったみたいだけど」

「エマ先輩がそれを言いますぅ?」

「私はもうお節介は躊躇わないって決めてるから、私はいいの!」

「理屈でもなんでもない、ただの身勝手!?」

「ふふっ!……そういえば、そう決めたのもアノ子が切っ掛けだったなぁ」

「……そうなんですか?」

「うん。それに……そうしようとした切っ掛けは、歩夢ちゃんだった。歩夢ちゃんに、"一歩"を踏み出す勇気を貰ったの。だからせつ菜ちゃんの時も、果林ちゃんの時も、私は動けたんだ」

「…………」

「だからこれは、お節介でもあるし……恩返しでも、あるかな」

 

 

「……まぁ、かすみんも……そうかもですね……」

「もちろん、侑ちゃんにもいーっぱい助けて貰ってる。だから手助けしないなんて選択肢は無いけどね!」

「…………そうですね。スクールアイドルフェスティバルは、侑先輩の夢でもあるんですから!」

 

 

「よぉし!私達もあとちょっと、頑張ろうね!……はもっ。うーん、やっぱりこのコッペパン、おいしー!」

「でしょーぉ!?」

 

 

 

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